轟焦凍の言動にエンデヴァーとオールマイトが動揺している隙に俺は唯一破壊されていないサメ頭の脳無を呼んだ。
「脳無くん、起きて。」
時間が経ったことで再生できたようでピンピンしていた。羽付きの破壊されていない体の一部とステインの心臓を持ってくるよう指示を出した。
「イイ子。」
サメ頭は俺の指示通りに動き、ブチブチッと音を出しながら指定した二つを持ってきた。
「待て、何をする気だッ!」
オールマイトとエンデヴァーは無傷ではないがまだ動けるようで、攻撃体勢を取ったので赫子を見せつけた。
「ハイハイ、ストップ。お前らの可愛い生徒兼息子がグチャグチャになるのを見たくないだろ?」
「どこまでも卑劣……」
赫子を伸ばせば届く距離にいる轟を人質にしてヒーロー二人の動きを止めた。その間、轟はただただ笑っているだけなのが不気味だった。
「まさか……!」
「じゃあ、いただきます。」
そう言って持ってきてもらった羽付き脳無の一部を喰べた。
「エンデヴァー気をつけて、USJの時はアレでパワーアップしてたから!」
「………やはり脳無は敵連合の
これは賭けだ。
USJの時のように暴走したら俺の負け。大人しく誰の手も汚さずに自殺してハッピーエンドを迎えさせてやる。でも、新しい力を制御できたその時は、弔と一緒にもっとグチャグチャにしてやろう。
「平和な未来を掴むのはどっちだろうな?」
そして腕を飲み込んだ。相変わらずクソ不味い。
…………きた。不味くて不味くて不味くて、それで痛い。
痛い痛い痛い痛い
体は再生していくのに背中だけ声が抑えられないくらい痛い。石臼で背中を挽かれているみたいだ。
痛みが治まった。俺の背中を突き破って血と共に生えてきたのは、羽付き脳無のように空を飛べそうなくらい大きな赤い翼だった。
新しい力。そして、
「肉、肉、肉………………………喰べたいけど、我慢。弔くんのとこに帰んないと…………」
制御できる程度の衝動。意識はしっかりしていた。
___俺の、勝ちだ。
「羽……?さっきの脳無のか!」
「クソッ逃げられるぞ!」
俺の羽を見て二人のヒーローは悟った。
「レンくん、カッコいいねェ……!」
「残念だったな、ヒーロー!アハハッ、存外俺は神様に愛されてるのかもな。」
そう言ってこちらを目を輝かせて見ている轟を抱えて飛び上がった。そして、
「脳無、もっと壊せ。」
サメ頭に命じた。ソイツは足からモーター音を響かせながら建物に突っ込んだ。
「オレ、泳グノ得意ッ!」
障害物など存在しないように上半身はクロールの動きをしながら超スピードで進んで壊していく。このままいけば表通りで人間達とぶつかるだろう。オールマイトはすぐさまそっちを追いかける。
「エンデヴァー!私はこっちを!」
エンデヴァーが自由に空を飛べる個性ではないことは知っている。ダメージも相まって追いつかれないだろう。そう判断して轟とステインの心臓を持って逃げる。
「待てっ、喰種!貴様は俺が、」
「じゃあな、エンデヴァー。」
「……焦凍ォォォォ!」
エンデヴァーは動揺しているのかどう考えても轟ではない
「レンくんレンくん、ボロボロでカッコいいねェ。」
空を飛んでBARまで帰ろうとしていると女の声が聞こえた。
「……で、お前誰?」
「トガです!会いたかったよ!」
俺に抱えられたトガと名乗った轟の姿をしたソイツを見ると…………顔がドロッと溶けて女の顔になった。
「どこかで会ったことあるっけ?」
今まで寄ってきた女や食べ損ねた女の顔を思い出すが思い当たる人間がいない。そもそも記憶力には自信がないけど。
「見ちゃったのです、レンくんがカァイイ女の子を食べてるの。それで私………羨ましくなってレンくんと同じになりたくなったんです!だから会いに来ちゃった。」
トガは照れたようにそう言った。俺はよく理解できなかったからへぇ、と適当な相槌を打った。そんな俺の反応を気にした様子もなく、尚も続けて言う。
「こんなに早く会えるなんて、ヒーローに着いていって良かったぁ……」
「何でそこまで?……敵連合に入りたいの?」
「生きにくかったのです!でもレンくんに会ってから生きやすくなりました。
___だから私と一緒に生きてよ、レンくん!」
レンくんがいるなら悪役のトガになります、と元気よく付け加えて言った。
「は……?」
その言葉に衝撃を受けた。一緒に生きて欲しいなんて前世含めて初めて言われた台詞だった。それは人間が紡ぐ愛の言葉よりも俺の脳を痺れさせた。
「…………俺と生きる?」
「そうです、レンくんの隣は息がしやすいのです!」
この子は両親でも祖父母でも無理だった俺と生きるということをしてくれるらしい。やっぱり俺は神様に愛されている。だって今幸せだ。何て恵まれているんだろう。
「そうだね。一緒に生きて楽しいことだけをしよう、トガちゃん!」
「ふふっ、レンくん大好き!チウチウッ」
トガは心底嬉しそうな声と笑顔で俺の鎖骨に噛み付いた。尖った刃を肌に差し込み血を吸い出す。チウチウ〜と嬉しそうに囁いている。
「血、吸いたいの?」
「好きな人の血はチウチウしたいです乙女なのです!……駄目ですか?」
この表情は理解できた。自分が思う楽しいことだけをしてきた恍惚の眼差し。それでいて一人になるのを恐れている顔___俺と同じだ。
「いいよ。何してもいいんだよ、君は。全部好きにしていいよ。」
何にも邪魔されたくない、この幸福を味わっていたい。隠された小さな恐怖心をいいよと繰り返して優しく撫でた。
「レンくん……好き好き好き大好き!好きだよ本当に!一番、特別、愛してるよ_____私の運命!」
「俺も大好きだよ。」
高層ビルの窓ガラスに映った自分の顔はだらしないくらい緩んでいた。自分とは思えないくらい幸福そうな顔だった。
多分、俺たちは今同じ
____悪役で乙女なカァイイ"普通の女の子"になれたら、
「私は
そのままトガに血を吸われながら空中飛行していたがさすがに限界が来た。
「トガちゃん。」
「チウ〜、何ですか?」
「一回ストップ。」
「
俺の止める言葉に反応して、両腕で俺の首に巻き付いて締めてくる。そして頭を横に振って拒否された。
「実は、」
「あれ、なんか……落ちてってません?」
「……もう飛べない。」
「レンくんの馬鹿〜!」
空を飛んでいたはずの俺たちは地面に落下中だ。個性使うための血肉が足りないためせっかく喰ったのに羽が消えてしまった。
そのまま落ちていき、地面ではなく真下に止めてあった大型トラックの荷台に体を打ち付けた。
「ゔっ……
「レンくんがクッションになってくれたので元気です!」
今の体で地面に落ちていたら大分危なかったので良かった。今日はとことん運がいい。
「人が落ちてきたぞ!?」
「怪我したか?……とりあえずヒーロー呼ぶぞ!」
表通りだったので大分目立ってしまった。火災現場付近ではなかったからか近くにはヒーローはいなかった。
距離をとって俺たちを眺める人々を無視して周りを見渡すと、少し離れたビルの隙間に赤い光を見た。太陽のようだった。
「ゲッ、エンデヴァー復活したのか……」
「ヒーロー邪魔です。」
迫ってくるエンデヴァーから逃げるために無人のトラックの運転席に乗り込んだ。もちろんトガは助手席だ。
「よし、トガちゃん。追手から逃げて俺と駆け落ちだ!」
「?…………分からないけど楽しそう!」
とりあえずアクセルを踏んでいれば間違いないだろうと考えてアクセルペダルを踏み続けた。
「運転できるの、カッコイイねェ。」
「いや、初めて。」
そう言った瞬間止まることも曲がることもできない暴走トラックは周囲の人を轢いた。そのまま直進し続ける。
「レンくんの馬鹿〜!」
「アハハッ」
先のことを考えず暴走していたが、空いたトラックの窓から冷気を感じた。
「風が冷たくて気持ちいいです。」
「今日こんな涼しかったっけ?」
「止まれ、喰種!」
聞き覚えのある声と同時に車体に衝撃を感じた。周りを見ると本物の轟焦凍が居た。どうやら後ろのタイヤを片方凍らして破壊されたらしい。
「あ、さっき血をくれた人です!」
「轟くんな、二回……もう三回会ったから友達だよ。」
「あの人ボロボロじゃないからカッコよくないし、カァイクもないのです。」
トガの言葉を聞き流しながらギリギリ出せた普通の赫子で後輪を補いつつ直進をする。
進んだ先に赤い光、エンデヴァーがいた。
「クソしつこいヒーローめ。」
「諦め悪いですね、あのヒーロー。」
それもそのはずだ。先生からオールマイトを越えようとしている唯一のプロヒーローだと聞いている。こういうヒーローは嫌いじゃないしオールマイトよりもずっとカッコいいと思う。だけど、俺達の前に立ちはだかるなら
「お前も、ハンバーグだッ!」
「…………
「分かってる、
エンデヴァーと轟は後ろの逃げ遅れた市民を守るようにその場から動かない。轟焦凍は一瞬で氷の壁を造形し市民達の盾とした。
そして、エンデゥァーは見覚えのある構えをした。攻撃が当たる、
「___
「遅いですよ、レン。」
「は?……おいっ!」
その前にエンデヴァーと俺たちが乗ってるトラックの間に黒霧が出現した。
エンデヴァーの拳に焼かれるか、俺たちが轟親子を轢き殺すか、どちらかのはずだったが俺たちは黒い靄に飲み込まれた。
「ナイス、黒霧!今回は本気で危なかった。」
「ナイスです、モヤモヤな人!」
ワープした先はいつものBARだった。黒霧は器用に俺たち二人をワープさせ、トラックだけ置いてきたらしい。エンデヴァーにぶつかってたら面白いな、見れなかったのが残念だ。
「よぉ、レン。また勝手なことばっかしやがって。」
BARで飲んでいたらしい弔に早速怒られた。
「今回はステインが悪い。」
「ハッ、お前楽しそうにいろいろやってたけどな。」
鼻で笑われた後、離れたビルの屋上で見てたぜ?と言われた。いろいろバレているらしい。
「まぁ、でもヒーロー殺しを始末したとこだけは褒めてやるよ。俺もアイツは嫌いだったんだ。」
「だろ?これ、今度は弔くんへのお土産な。」
そう言って持って帰ってきたステインの心臓を渡そうとした。が、興味ないらしくあっちやれとでも言うように眉根を寄せながら手を振られた。
「んなゴミ持って帰ってくんな。もっと真っ当な成果を上げて帰ってこい。」
要らなかったらしい心臓はBARの棚に置かれてあるマウスピースの生首の隣に置いた。黒霧が飾り付けておいてくれるだろう。
「そーんなこと言ってもNo.1と2だよ?無理無理。俺普通に雑魚だから。」
「それでも殺してこい。」
「パワハラ上司かよ……」
脳無いてギリ逃げれるくらいだから、と付け足した。脳無といえば、と忘れていたことを思い出す。
「あ、そういえば脳無達置いてきちゃった。」
「それなら回収しておきましたよ。」
と、黒霧が言った。全身を破壊された羽付き脳無以外は隙を見て回収できたらしい。壊れたり死んだりしたが再度実験体に活用するようだ。
「弔くん、さっき成果がないって言ってたけど。」
「あ?」
「あるんだよね………じゃーん、トガちゃんです。」
そう言って俺の後ろに隠れていたトガを示す。彼女は元気よく飛び出し弔に挨拶する。
「トガです、トガヒミコ!」
「敵連合に入りたいんだって〜」
「……レンの顔にでも惚れたか?」
「顔だけじゃないです、レンくんの全部が好きなのです!」
その言葉に、弔はコッソリ照れている俺をめざとく見つけて道端のゴミを見るような目を向けてきた。どう考えても仲間に向ける目ではない。
「トガちゃんの個性は凄いよ、きっと弔くんの役に立つ。」
俺の言葉に少し興味を持った様子でやっとこちらに体を向けた。
「私の個性は変身、チウチウした相手の姿になれます!」
「変身した相手の個性も使えるんだよ、強いでしょー」
「何でお前が自慢げなんだよ。」
「個性使えたのはたまたまです、というかあの時が初めて、みたいな?」
てへっと可愛い笑顔で言った。
「レンくんのことをいっぱ〜い想っていたら凄い私になってたのです!」
「よく分かんないけど凄いな、トガちゃん。」
「えへへっ」
「ハァ……」
俺たちの様子に頭痛がするようなポーズで頭を抑えた。
「ここで何がしたい?」
「レンくんをチウチウしたい……正確には〜
___レンくんが食べながら、レンくんを
だから入れてよ、弔くん!」
と、初対面では理解できないであろうことを言った。人間を喰ってる時の俺の血を吸いたいんだろう。弔に説明するのも面倒くさかったのでとりあえず"チウチウは血を吸うこと"だよ、と付け足した。
「意味が分からん、破綻者かよ。」
「会話は成り立つよ。」
「それは最低条件だ。何の自慢にもなんねえんだよ。」
苛ついている弔は吐き出すように言った。
「ただでさえガキは嫌いなんだ。それに加えてイカれた奴その2じゃねえか。ここは託児所でも精神科でもねえんだよ。」
多分、多分だけどイカれた奴その1は俺かもしれない。未だにその評価なことにがっかりしつつ弔の言葉を訂正した。
「残念だけど……弔くんは保育士も医者もなれないと思うよ。特に精神科医なんてかかる側だろ?」
俺の言葉に弔は中指を立てて言う。
「お前、今すぐ殺されたいのか?」
「落ち着いてください、死柄木弔。新しい戦力も早々に失ってしまいましたし、レンが気に入ってるならいいんじゃないですか?」
「ペットがペット連れて来るようなもんだぞ?使えないだろ。」
「それは…………」
「確かに。」
と、弔の言葉に黒霧が言い返せず、俺は納得していた。
しばらく沈黙が続いていたが、黒霧が急にテレビの電源をつけた。
「血を吸う、でしたよね…………もしかしてこれはあなたのことですか?」
そして、「なぜ!?卒業式で血の惨劇」という見出しの録画であろうニュース映像を流した。
『同級生を切りつけ重症を負わせた中学生は逃走を続けており現在もその捜査が続いております。』
アナウンサーが原稿を読み上げている映像から、犯人の同級生や知り合いにインタビューしている映像に切り替わった。
「近所でも評判の笑顔の可愛い子ですよ。優しい普通の女の子でした。」
「ーーさん、いつもニコニコしてて普通に人当たりもよくて、今でも信じられないです。」
「私、見ちゃって。
ーーさん、斎藤君の血を、傷口にストローを刺して吸ってたんです…………恍惚というか、あまりに、あまりに悍ましい顔をしてて、なんというか普通じゃない様相で………」
次はモザイクで隠した一軒家の映像だ。それは、犯人の親へのインタビューだった。
「もう、償いきれないです。頑張ったけど駄目だったんです。」
「あの子は悪魔の子なんです。
まるで、
___ママ、パパ、見てみて。
小鳥さんカァイイねェ。カァイイねェ。
「更に、"連続失血死事件"の容疑者ですね。」
「…………トガちゃん、コレ楽しかった?」
「とっっても楽しかったです。」
「そっか、それは良かった。」
トガは可愛い笑顔を俺に向けた。
「異常者、な。」
テレビには目を向けず音だけで確認していたであろう弔は乾いた笑い声と共に言った。
「普通がたぁくさんでしたね〜。」
確かに、一定のワードで縛り付けられているようなつまらないインタビューだった。
「ねえ、普通って何ですか?」
トガはバーカウンターの椅子に座り弔に質問した。
「俺が分かるわけないだろ。」
「レンくんはどうですか?」
「俺は俺を普通だと思ってる。だから、トガちゃんも普通なんだよ。」
普通に生きてる人間と普通に生きてる化け物だ。
「暴論かよ。」
「まぁでも分かんないなら………そうだ
トガの手を取り、繋いだ。良いことを思いついてしまったので即実行しようとした。が、その前に黒霧に止められた。
「待ってください、レン。先生とはあなたたちの先生のことですか?」
「いや、違うよ?前の高校の先生。」
悪意の先生に聞いてまともな答えが返ってくるとは思わない。ヒーローでもヴィランでもない普通の教師に聞くべきだろう。
「じゃあ外出は控えてください。今日、明日は特にヒーロー達の警戒がMAXになってると思うので。」
「えー別に悪いことしないよ?」
何かしらやらかす問題児みたいじゃんと不貞腐れていたが弔に突っ込まれた。
「いや悪いことはしろよ。」
確かにヴィランなら悪いことはしないといけない。
「じゃあ悪いこともしてくる!」
「行きましょう、レンくん!」
「数日後にしてください。そもそも動く元気ないでしょう?」
そう言っていつもの肉を差し出された。さっきからお腹鳴りっぱなしだったのを見かねたんだろう。個性で消費した分以上に補給した。たくさん用意してくれる気前のいい「先生」は好きだ。
「んぐっ、じゃあ1週間後、先生達に聞きに行こう。そうしたら楽しいことだけして過ごすんだ…………どう?」
「素敵ですっ!」
「弔くんもいいよね、また新しい実習考えてるんでしょ?」
暗に人手が足りないだろ、と聞くと弔は大きなため息をついて言った。
「ハァ………もう何でもいい。」
どうやら許されたようだ。あのニュースと話を聞いて自分と似たものを感じ取ったんだろうな。
「そういえばレンくんの楽しいは何ですか?」
「うーん………………人を生きたまま喰うこと、人をグチャグチャにすること。あとはヒーローを壊すのも楽しかったなぁ。」
ヴィランになって自分を解放して俺がしてきたことの全て。
「へぇ、お前の行動は"楽しい"から始まってるんだな。」
「……そっか、そうだな。」
"嫌い"は理解できたけど長時間続けられる強烈な感情は持ち合わせていない。だから弔ほどの憎しみも、トガのような多くに渡す愛情もない。でも、
楽しいは続く。楽しいから人を生きたまま喰いたい、楽しいから好きなヒーローも嫌いなヒーローも壊したい。楽しいことだけをして世界を悪意で暴き出したい。
「素敵な学校にしようね。」
偽物じゃない、
___ようこそ、ここが
渡我被身子はニィッと人形のように笑った。