しかし、
「標的ですらないと言っているのか……では聞け、犯罪者。
僕はお前にやられたヒーローの弟だ。最高に立派な兄さんの弟だ。兄に代わりお前を止めに来た。僕の名前を生涯忘れるな!
___インゲニウム、お前を倒すヒーローの名だ!」
白アーマーの
「そうか……死ね。」
改めてステインVSヒーローの卵の戦いが始まった。
「誰が……!」
「インゲニウム、兄弟か。奴は世間に伝聞させるため……生かした。」
熱い戦いが繰り広げられる……と思ったがすぐに決着がついた。それはそうだ。プロヒーローが勝てないのに、ヒーローの卵が勝てる訳がない。
「お前は弱いな。お前もお前の兄も弱い、偽物だからだ。」
「兄さんは立派なヒーローなんだ、お前が潰していい理由なんてないんだ。僕のヒーローだ……許さない……殺してやる!」
俺がそんなことを考えていると白アーマーは抵抗できずに倒され、肩をナイフで貫かれる。そしてステインはナイフに付着した血を舐めとる。
「まずアイツを助けろよ、己のために力を振るうな。目先の憎しみにとらわれ私欲を満たそうなどヒーローから最も遠い行いだ。だから死ぬんだ。
___じゃあな、正しき社会への供物。」
「黙れ……黙れ!何を言ったってお前は兄を傷つけた犯罪者だ!」
ステインは背負っていた長い刀で止めを刺そうとした、
「……ん?」
「___SMASH!」
が、刃が体を貫く前にいきなり超スピードで現れた何者かに殴り飛ばされた。
「み、緑谷、君……」
「助けに来たよ、飯田くん!」
白アーマーを飯田と呼んだソイツも見覚えのあるヒーローの卵だった。戦った記憶はあるが詳細は忘れたが、確か雄英教師であるプロヒーローが助けに来る前に意識を取り戻して、死んだ女ヒーローを見て泣き叫んでいた奴だ。
「緑谷くん、何故……」
「ワイドショーでやってた。ヒーロー殺しの被害者の6割が人気のない……」
緑谷と飯田が話しながらステインと相対している。この戦いは長くなりそうだと判断して俺は屋上に設置してあるベンチに寝っ転がる。ステインが起こしてくれるだろうと呑気に考えた。
「「今は、」」
「脚が……」
「拳が……」
「「あれば良い……!」
___ドゴーン!
大きな声と派手な衝突音が聞こえた。起き上がり下を見ると緑谷に殴られ、飯田に蹴られてステインが倒されていた。雄英生徒……これまた見覚えのある轟も戦いに加わっていた。
「気絶してんのか?」
轟はステインを凍らせて身動きを封じていた。どうやら三対一で勝利したらしい。雄英生徒は有望な金の卵だと弔も言っていたからステインが弱かったわけではないだろう。
「奇襲して取り返すか。」
このままステインが逮捕されても面白くないので取り戻してから殺すことを決めた。
改めて下の様子を窺う。緑谷ら三人はゴミ箱を漁り紐でステインを拘束した。倒れていたプロヒーローも動けるようになったようだ。
「ネイティブさん、動けますか?」
「ああ、大丈夫になった。」
「あっ、あの……」
「足、怪我してるんだろ?これくらいはさせてくれ。」
「あ、ありがとうございます!」
緑谷、飯田は怪我が酷いようでネイティブと呼ばれたヒーローが緑谷を背負い、
「さすがゴミ置き場、あるもんだな。」
「轟くん!やはり俺が引く。」
「お前腕グチャグチャだろう。俺に任せとけ。」
轟が縄で縛ったステインを運ぶらしい。全員それなりの傷を負ってるので戦いやすそうだ。それよりも、
「すっきりした顔してんな……つまんねえ。」
俺が寝る前に見た飯田は殺気立っていたのに、今は憑き物が落ちたような顔をしている。
「悪かった、プロの俺が完全に足手まといだった。」
「いえ一対一でヒーロー殺しの個性だともう仕方ないと思います。強すぎる……」
「一対一……そういえば俺がヒーロー殺しを見つけた時にもう一人いたんだよな。」
「仲間、ですか?」
「いや、最初は喧嘩かと思ったんだ。薄暗くて見えなかったけど、何か制服みたいな……」
「せ、制服……!?」
「おい、もしかして……」
「「喰種!」」
ネイティブの話に緑谷、轟は警戒したように周囲や上を見る。隙を窺って上から覗いていた俺と目が合った。
「
そう言って下に落ちながら四人まとめて赫子で弾き飛ばし壁に衝突させた。
「グッ……」
「クソッ!」
「もう一人ヴィランがいたのか!」
その隙にステインを回収して遠くに放り投げておいた。さて、このまま逃げるか殺すか。
「逃げる、のは勿体ないな。」
赫子を振り回す。あっちはまともに戦える人間が轟くらいのようだ。氷を避け続ける。
「やっぱ、身体能力高ぇな……燃えろ!」
「熱ッ!」
前回戦った時には見せなかった左側で炎を出して攻撃してくる。
「クソッ___
「___
四人まとめて動けなくさせようと鱗を放ったが轟の大技で防がれた。
「グッ……」
前方に手をかざして氷と炎を同時に出すことで爆発を起こす技らしい。爆風の余波がこっちにも来た。
押される俺を見て緑谷が言う。
「轟くん凄い!」
「確かに前より強いな……んでも仲間庇ってちゃ満足に戦えねえだろ!?」
そう言って飯田目掛けて赫子を伸ばすが、
「飯田くん危ないっ___SMASH!」
「ヴッ、いってえ……」
緑谷に腹を蹴られた。コイツ……前までは攻撃の度に怪我を負ってた癖に。克服したのか。
「君が……Mt.レディを殺したって聞いた。」
「ハァ、それが?」
緑谷は時間稼ぎをしたいのか、警戒体制を取りつつ俺に話しかけてくる。
「何で人を食べるんだ……何でそんな酷いことを平気でできる!?」
「お前らは俺が人間を喰うのを特殊嗜好だとでも思ってんの?」
「え?……」
警察の捜査結果は出ているだろうに当事者の子供には詳細を伝えていないのか。今日のマウスピースは知っている様子だったからプロヒーローと警察のみの情報共有らしい。
「人しか喰えないんだから喰うしかないだろ?人は食べてはいけませんってさぁ、どうやって腹を満たせばいいんだよ。教えてくれよ。」
俺に人を食うなって言うのは死ねと同義だぜ?、と問う。
「嘘だ……そんなこと有り得ない。」
「救いようのない真実だ。ハハッ、世界には化け物も存在するんだよ。また一つ賢くなったなァ?」
「そんな、じゃあどうやって君を……」
緑谷はそれまでの怒りの表情から愕然とした様子に変わった。
「ハッ、
___余計なお世話。」
俺の言葉に緑谷は息を飲んだ。そして攻撃体制を取れなくなっている。
「あ……」
「おい緑谷、どこまで本当かも分かんねえ。ヴィランの言葉に耳を貸すな。」
「でも、"余計なお世話はヒーローの本質"だって………」
「緑谷君!君が誰よりもヒーローなのは分かっている……でも今は全員傷を負っているから逃げるべきだ!僕はさっき学んだんだ。」
「そうだね……ごめん。」
機動力の低下した四人は足の速い俺から逃げられると思っている。
「どーでもいいけど雄英生一人くらい、」
持って帰ったら弔が喜ぶだろうし俺と来て、と言葉が続くはずだった。
「___
「オールマイト!?」
「……チッ」
どこからか現れたオールマイトは地面にパンチを放ち俺と四人の距離を離した。
「あっグラントリノも!
グラントリ…………モガッ」
「新幹線で座ってろっつったろ!」
重症のはずの緑谷は黄色いスーツを来た小さい老人に顔面を蹴られていた。コスチューム着用だからコイツもプロヒーローだろう。動けるヒーローが二人、完全に形成逆転した。
「緑谷、その人は?」
「僕の職場体験の担当ヒーロー、"グラントリノ"。でも何で?」
「とどろ……エンデヴァーにいきなりここへ行けと言われてな。まぁよく分からんがとりあえず無事なら良かった。」
グラントリノと呼ばれたヒーローは緑谷の怪我を注意深く観察しながら言った。今コイツが放ったエンデヴァーという単語。嘘じゃなければNo.2まで近くにいるってことだ。逃げた方がいいか、と考える。
「私はその、緑谷少年が心配になったという訳ではなくてな、あー……パトロールだ!」
「俺が怒らんか不安だっただけだろ。」
「……それでグラントリノと会ったってことですか。」
ヒーロー達が会話している間に遠くに投げていたステインを赫子で連れてきて頭を叩いて起こした。
「ヒーロー沢山いるぞ、起きろー」
「……ハァ……オールマイト……」
こちらも重症なステインは何とか体を起こして、目の前のオールマイトに目を輝かせる。
「さてまた会ったね、喰種よ。そしてヒーロー殺しだね?」
「別に会いたくねえんだよな、俺は。」
「オールマイト、本物……」
弔や先生と違ってNo.1ヒーローには興味がない。ステインの反応を見る限りアイツの中でオールマイトは本物のヒーローであり粛清対象ではないようだ。
「グラントリノ、子供達を連れて避難して下さい。ここは私が……!」
「おい俊……オールマイト、二体一だぞ。心配な訳じゃねえがここは、」
「いえ、あの制服の……彼は警察から要注意人物として伝えられている喰種です。人が多い方が戦い辛い。」
「人質回避か……分かった。いくぞ小僧共。」
無事避難したら戻ってくる、と言ってグラントリノは四人を護衛するように連れて人通りの多い方へ向かっていった。
「オールマイト……気をつけてください!」
「ヒーロー殺しに血を舐められると体が動かなくなります。」
「ヒーロー殺しは骨いくらか折れてると思うんで警戒すべきは喰種の方です。」
「お願いします、No.1。今度こそ子供達は俺が守るので。」
「ああ、ありがとうみんな!」
四人はオールマイトに言葉をかけながら大人しく着いて行った。
「覚悟しろよ、ヴィラン共。
___
「グッ……クソッ」
オールマイトは両腕を広げて回転しながら攻撃することで俺達二人をまとめて倒そうとした。俺は避けられずに胸あたりに威力の強いチョップを食らった。ステインは間一髪避けていたのに苛ついた。
「ハァ……手ぶらで戦いたくねえ相手だな。脳無先輩持って来ればよかった。」
せめてパワーアップした状態で戦いたかった。それをしたところでこのチート野郎に勝てるかは怪しいが。
「___
「体が麻痺する奴だな!?当たらんよっ!」
鱗を放つがオールマイトには軽々避けられる。ついでにステインにも当てようとしたが全て避けられた。
「ハァ……死ね、喰種。」
「チッ、くたばっとけよ。」
ステインは俺にナイフを向けてきた。壁を伝って跳ねながら避ける。
集まったヒーローを殺してもらうために起こしたのだが、オールマイトは粛清対象ではなかったため完全に仇となってしまった。
「仲間割れか……?ヴィランは連携がなってないな。」
「ハッ、
「……仲間じゃない。」
そうだ、そもそも仲間じゃなかったから連携もクソもない。
「だが、こちらとしてはやり易くなったよ。
これで終わりだ___
「……ガッ!」
「グッ!」
超スピードと超パワーの拳が俺とステインに連続で当たった。鳩尾にモロに当たった。
「ゴホッ…………ハァ、やっぱ強えなヒーローは。」
体に力が入らず地面に膝を着いてしまった。横を見たがステインも顔を殴られて壁に衝突していた。
オールマイトはステインを改めて紐で拘束し、更に俺を押さえつける。余裕が出来たのか俺に話しかけてきた。ヒーローは呑気だ。
「喰種、君は……本当に人間しか食べられないのか?」
緑谷と同じ質問をしてくる。そんな重要なことだろうか。
「違う……って言ってほしいの?ハハッ、
___残念ながら真実だ。正真正銘、俺は化け物だ。」
さっきもしたようなやり取りだ。飽きた。
「……どうしてそんな風に不幸を受け入れられる……君はもっと助けを求めても良いはずだ。」
その言葉に砂を噛むような不快感が湧いてくる。
「あー本っ当ムカつくな。他人のテメェが勝手に俺の生を悲劇にすんなよ!」
どいつもこいつも俺に同情してるのか分からないが後ろめたさを感じさせる顔で俺に相対する。毎回、その顔に苛立つ。
「君は、自分を
それは奇しくも先生と同じ言葉だった。
「思わねえな……ハハッ、笑えよヒーロー!
俺が絶望する時は人間になった時だけだ。俺は俺に手を差し伸べるヒーローの腕を喰う。それでヒーローに殺される。それが俺の死に様だ!」
「滅茶苦茶だな……」
オールマイトのその後に続く言葉はなかった。いや、、言えないのだろうか。
No.1に抵抗する気がないのか、今まで黙って壁にもたれかかっていたステインが口を開く。
「何故、ヒーローに殺されたい?」
「
あの時拒否したのにも関わらず無駄に俺を生かした先生への、嫌がらせだ。弔が聞いたらガキの反抗期だと腹を抱えて笑うだろう。
「ハァ……その滅茶苦茶な行動もあるいは一種の信念か……?」
「黙れ、信念で腹が膨れるかよ。」
「どうしたら、君を……」
俺の言葉にオールマイトの押さえつける力が弱まる。その隙に赫子で腕を弾いて抜け出した。
「俺に同情なんて世界一無駄な行為だ。」
それでも尚オールマイトは躊躇う。
同情、という言葉に反応したのかステインが拘束を隠し持っていたナイフで解きながら立ち上がった。
そして、
「なぜだッ!オールマイト!アンタは本物のヒーローの筈なのに何故悪を滅することに戸惑う!?
喰種は救いようのないヴィランだ!」
ダメージが蓄積して喋るのもやっとな筈なのに力を振り絞り激昂した。哀れなその姿に俺は腹を抱えて笑う。
「アハハッ、そもそもが矛盾してんだよ、ステイン!お前が神みたいに崇めるオールマイトが存在してもこの社会は変えられねえんだ。
お前の望みは一生叶わない……可哀想になァ?」
俺の言葉にステインは希望を失ったように俯いた。
目の前にいる二人への不快感がまだ
「もういいよ。死ね、オールマイト!ステインッ!」
鬱陶しい、殺したい。その思いのまま赫子を出した、それはUSJ以来出なかった……ムカデのような大きい赫子だった。脳無を喰べていないのにパワーが上がっている。
そして、何も考えず赫子を振り回し近くの壁ごと破壊する。
「……ッグ、近づけん。」
「先と様相が違う……」
「アハハッ、死ね死ね死ね!二人まとめて俺が喰ってやる!」
オールマイトは何故か動けないステインを後ろに庇いながら鞭のようにしなる俺の赫子を受け流す。そして、
「君の言う通り、同情しているのかもしれない。それでも、君を……倒そう!ヒーローとして!」
これからの全てに責任を持とう、と小声で呟いた。
「 ___
「カハッ……」
オールマイトの渾身のクロスチョップが盾にしたはずの赫子ごと破壊し、俺の首に当たった。
「ハッ……ハァ……」
息がし辛い。さっき殴られたダメージもあり体が痛い。
壁まで追い詰められた俺にオールマイトは言う。どこからか人の足音が聞こえた。
「喰種……私は君を捕まえなければならない。その後、君がどうなろうとも。」
その言葉にグチャグチャに潰れた動物の死体を差し出された時のような気分になった。捕まって飢えて死ぬのだけは嫌だ。
目の前には膝をついたボロボロのステイン、そしてさっき音がした方を見ると物陰からこちらを窺っている飯田が見えた。ヒーローが心配になって戻ってきたんだろう。良いことを思いついた。
「ハハッ、俺は運が良い!」
「なっ……」
俺は二人を赫子を伸ばし、捕まえて締め付けた。奇襲だったからかどちらも簡単に捕らえられた。隠れていた飯田がオールマイトの前に現れる。
「飯田少年!?何で戻ってきて……」
「……すみません。」
「喰種……ハァ、どういうつもりだ。」
赫子で身動きが取れないようにもっと締め付けた。
「……」
「グッ……」
ステインは痛みに強いのか無言だったが、飯田は呻き声を上げた。
「手を出すなよ、ヒーロー?」
「人質か、最悪だね。」
オールマイトは眉根を寄せ呟く。最悪……ヴィランにとっては褒め言葉だが、本当は人質目的ではない。
やりたいことができた。だから、自由にやろう。
「俺に信念なんてねえし、ヒーローは気持ち悪い。」
「何を……」
飯田を赫子から解放して脅すように俺の左手で首を掴んだ。
俺の腹の中でグルグルと渦巻くこの感情は何なのかを考えたんだ。俺が、今まで知らなかったもの。
好きの反対はこんな吐き気を催すぐらい強烈な感情なのか。
「だから、俺は
ステインを赫子で俺の目の前に吊り下げ、首を掴んだままの飯田の手を後ろから支えるように握り赫子をその周りに巻き付ける。赫子の圧力で右腕の骨が軋む。今、俺の腕と飯田の腕はまとまって
「飯田少年!逃げろッ!」
「や、止め……」
「なぁ、ヒーロー?
___ヒーローもヴィランも、混ざれば
一緒に、境界線をグチャグチャにしよう。
そして、赫子が巻きついた俺と飯田の手で目の前のステインの腹を突き破った。
…………誰かの叫び声が聞こえた。