写輪眼と斬魄刀貰って白ひげの能力で現代に転生した人   作:パプリカ23

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芦原梅子

 アイドルになりたかった。

 

 両親に頭をさげ、19で夢を抱えて上京して、ひたすら事務所で頑張った。でも芽が出ることは無く、私の最後の舞台は地方の遊園地。観客はおらず、近くにいた人たちも興味なさげにちらっと見るだけで終わった。

 

 諦めきれずにだらだらと10年が経って、馬鹿な私にも自分がアイドルに向かないことは分かっていた。それでも夢を捨てきれず、今度はアイドルを作ろうとした。もう一度両親に頭をさげて頭金を借りて、こつこつ働いて貯めたお金で起業した。

 

 それが5年前。今、私は34になった。

 

 

 

 夜勤が終わったのは、朝の10時を過ぎてからだった。ふらふらの身体で家へと帰り着く。

 

「ふぅー、疲れたぁ・・・あれ?」

 

 リビングに見覚えのない袋が置かれていて、中を見れば食べ物や飲み物が入っていた。隣には小さなメモ書きがある。

 

『夜勤お疲れ様。冷蔵庫にご飯作ってるから、食べるように。あと、肌には気をつけて。やちる』

「あ、相変わらず綺麗な字だなぁ・・・」

 

 丁寧で整った文字を見ながら感嘆する。部屋を見れば、そのままにしていたペットボトル等のゴミが消えていて、彼女が処分してくれたのだろうと思った。

 

「てかあの人、いつもどうやって入ってきてるの・・・」

 

 合鍵を渡していないはずのやちるが、好き勝手に自分の部屋に入れることに疑問を持つ。まあ、どうせ訊いても超能力だよと言って、はぐらかされるため諦めているが。

 

「わ、結構量ある。残り物使ってくれたのかな?」

 

 冷蔵庫にはチャーハンが入っていて、ぐるぐると私のお腹が鳴った。そういえば夜から全然食べてなかったことを思い出す。

 

 紅茶でも淹れようとキッチンに立つと、汚れが落ちてピカピカになったコンロがあった。思わず身をかがめて真横から覗き込む。

 

「か、鏡みたいになってる…掃除のやり方教えてほしいなぁ…」

 

 沸かしたお湯で紅茶を淹れて、チンしたチャーハンのラップをはがす。湯気が立って、香ばしい香りが部屋に充満した。

 

「いただきます…あふっ!美味しい…」

 

 口の中で広がるスパイスの香りが食欲をそそらせる。美味しい料理に舌鼓を打ちながら、紅茶を飲む。

 

 食べながら、私は内葉やちるのことを考えた。

 

 

 

 

 

 面接で初めて顔を合わせたとき、彼女は私達の前に、フードを被ってサングラスとマスクで現れた。普通なら一発アウト即退場の暴挙である。

 

 ただ、どこか気品を感じさせる所作や、スタイルの良さは隠しきれておらず、一種の異様な雰囲気に私たちは包まれていた。

 

「君、面接中はマスクなどを外してもらいたいんだが…」

「…あー、わかりました」

 

 たまらず発言した面接官の言葉に、不服そうに返答してサングラスなどを外していく。現れた素顔に私たちは何も言うことが出来なかった。少なくとも私は、生まれてからの人生で最大の衝撃を受けていたと思う。

 

 やちるはまさに圧倒的だった。モデルや女優とも違う、成るべくして生まれた人。無意識に口からため息が漏れる。

 

「すごい…」

 

 居心地悪そうに座っている彼女を、私たちは暫く黙って見ることしかできなかった。一、二分ほどしてから、ようやく私たちの意識が戻り面接が始まる。いまだに少し前かがみで、動きがおかしい男性陣の代わりに私が質問することに。

 

「では、まずは自己紹介をお願いします」

「内葉やちる。24歳です」

 

 ぴしりと背筋を伸ばした彼女が返事を返す。美しい声質、天性のものだなと羨ましくなる。

 

「弊社を志望した理由をお聞かせ願えますか?」

「会社が駅から近くて面接に行きやすかったからです」

 

 そんな住居選ぶみたいな理由で決めちゃったの?言葉を失い、目が点になる。

 

「……それではVtuberを目指したのは?」

「家から出たくなかったからです」 

 

 こんなナリなので、自嘲するように呟いた一言で彼女の苦労が偲ばれた。なるほど、確かに面倒なのかもしれない。私だったら自慢したくて外を歩き回るかもしれないけれど、一生あの姿だとしたらきついだろう。

 

 だが、Vtuberとしてはこれ以上ない逸材だ。類を見ない声の質、細かい動きに見え隠れする所作の美しさ。彼女の履歴書に書かれた文章は達筆で整っている。何処を取っても一級品の人材。

 

「何かアピールポイントはありますか?」

「あ!ゲーム好きです。何時間でもできます」

 

 待っていたと言わんばかりにアピールしだした彼女を見て、もっと他にアピールすべき点があるでしょ、と内心で突っ込む。

 

「そ、そうですか…歌とかはどうですか?…その、声がとても良いので…」

「あー……」

 

 途端に嫌そうな顔をするやちる。おや、歌は苦手なのかも?

 

「歌、お嫌いですか?」

「嫌いというか…歌うと、その…鳥が寄ってくるので…」

 

 え?…鳥?…出るはずの無い単語が突然アッパーをかましてきて私の脳を揺らした。

 

「…あー……あっ比喩か何かでしょうか…?」

「いや、そうじゃなくて…本当に鳥類が寄ってくるんで……雀とかカラスとか」

 

 なんですかそれは?お姫様か何かなの?どうやったらそんなメルヘンチックな現象を起こせるのか、だんだん面白くなった私は運動能力についても訊いてみる。

 

「運動はどうですか?ライブなどがあればダンス等をしてもらう可能性がありますけど…?」

「まあ、大丈夫です…あんまりやりたくないですが」

 

 自信にあふれた大丈夫の言葉に運動神経も問題なさそうだなと思う。本人の意向を最大限尊重し、ライブなどに出さなかったとしても、まず間違いなく一級品の素材。他社に渡らなくて良かったと心の底から安堵する。

 

「分かりました。採用です!」

「え?…普通そういうのって後から分かるものじゃ…」

「いえいえ、もう決定です。私が社長権限を使ってでも取りますので」

 

 こんな逸材、フリーのままで一秒たりとも外を歩かせるわけにはいかない。さっさと囲ってしまおうと採用する。周りの面接官たちも異論は無いようでうんうんと頷いていた。

 

「…ありがとうございます?」

「ええ、これからよろしくお願いします。あ、最後に何か意気込みとかありますか?」

「え?……うーん……じゃあ、登録者が0人になるまで配信続けます。宜しくお願いします」

「うふふ、よろしくお願いします!」

 

 こうして私の会社は素晴らしい人材を確保した。

 

 

 

 私たちは大手と比べれば小さな会社で、タレントの数も少なかった。本当はチームで売り込みたかったが、資金的な余裕がなかったためやちるを単独でデビューさせることになる。

 

 彼女は「エリー・ニューゲート」と名乗って配信を始める。安っぽい立ち絵しか用意できなかったけれど、それでも彼女の素質が輝いて、少しずつ視聴者を惹きこんでいった。

 

 少しずつ忙しくなる仕事にやりがいを感じていた頃、私はやちるの配信を覗いた。

 

 ソロで20キルは本当にやばい

 撃たれてからカーソル合わせるまで早すぎでしょ

 人力チート備え付けてるから…

 チート使ってないの?

 姐さんホラゲでもこの速度で打ち抜く

 幽霊が見える前に退場していくシュールさはここでしか味わえない

 

 彼女のゲームの上手さは私たちの想像以上だった。恐ろしい程の反射神経と手先の器用さで、たとえ相手がプロだとしてもいい勝負をする。何度かプロ転向の誘いもあった程だったが、何故か彼女は嫌がり断っていた。

 

「おいおいおい!何か閉じ込められたんだけど!?なにこれ!?」

 

 あ、嵌められてる

 ガスハメきたこれ!

 草

 捕まってて草

 もう無理です

 反射神経だけじゃあこのゲーム、勝てないんだよね…

 

 彼女が相手プレイヤーの罠にかかり、小部屋に閉じ込められてダメージを喰らっている。コメントは大いに盛り上がり、凄い勢いで流れていく。

 

「あっはっはっは!!」

 

 雲を晴らすような快活な笑い声が響いて、やちるは楽しそうにゲームをする。視聴者もそんな彼女を見て喜んでいて、既にかなり根強いファン層も居るようであった。

 

 デビューから3か月ほどで、チャンネル登録者数は1万人に届きそうになっていた。彼女の人気が会社全体の追い風になって、業績も上がっていく。全てが順調だと、私は思っていた。

 

 

 

 盤石だと思っていた地盤が、実は張りぼてだったと気が付いたのは、ある流出事件が切っ掛けだった。事件を起こしたのは、当時うちの会社で一番人気の女性配信者。

 

 彼女は会社に内緒でメッセージアプリを利用しており、そこで一部のファンと直接文章をやり取りしていた。

 

 しかし、突如現れたやちるの勢いに焦ったのか、それとも疲れで判断力が鈍っていたのか、彼女はそのアプリに自身の彼氏とのやり取りを誤爆してしまった。

 

 ものの見事に、彼女は大炎上した。しかもその火は会社にまで飛んでくる。何故なら彼氏は彼女のマネージャーだったから。私の知らないところで燃え上がった炎は、私が反応して対処する前に、私の小さな会社を燃やし尽くした。

 

 事件を起こした彼女はマネージャーと共に雲隠れし、社員はみんな辞め、タレント達も別の事務所へ移籍していく。蜘蛛の子を散らすように私の周りから人が離れていった。

 

 

 

 いつの間にか静かになったオフィスを引き払うため、私は一人黙々と作業していた。商品化される予定だったグッズの在庫が段ボールの山になっている。

 

「あぁ…終わっちゃった……楽しい夢だったなぁ……」

 

 適当に取った段ボールから、一番最初にデビューさせた子のタオルが出てきたとき、私は終わりを実感した。不思議と涙は出なくて、ただただ寂寥感だけが心の中にあった。

 

 スーツケースに少なくなった私物を押し込んでいると、ちかちかとスマホが光っているのが見えた。ちらっと見えた内葉の文字に心臓が跳ねる。そういえばやちるとは話していなかった。彼女とも別れなければいけないのか、そう思うとどうしようもなく胸が苦しくなった。

 

 スマホを覗くとメッセージが入っている。

 

『エルデンしたいんだけど、許可取れる?』

 

 私は目を疑う。もしかすると彼女はこの騒動を知らないのかもしれない、慌てて電話を掛ける。

 

「あ!やちるさん!」

「おーなんか大変らしいね。大丈夫だった?」

 

 軽いノリで重い話題を振ってくる彼女に、拍子抜けしてしまう。

 

「え?知ってるんですか?」

「うん、何かみんながコメントでわいわいやってた。全部削除されてたけど」

 

 うちはモデレーター優秀だからね、と自慢げに笑うやちる。事の深刻さを理解できていない様子の彼女に、何とか事情を伝えようとする。

 

「やちるさん。ちょっともう、会社は、その……やちるさんにも迷惑かけて申し訳ないです」

「ん?別にいいよ。それよかエルデンの許可取れない?私のマネージャー辞めちゃってさ」

「………まだ、やるんですか?」

「え?」

「もう、会社ありませんけど…」

「そりゃあね、だって社長、私と約束しただろ?」

 

 登録者が0人になるまで辞めないと、彼女は確かに私と約束した。でもあんなのただの所信表明の口約束で、本気で守る人なんていない。

 

 彼女のチャンネルをPCで見る。チャンネル登録者は300人をきっていた。炎上が彼女にまで広がったせいで、視聴者も激減してしまっている。それでも、彼女に辞める気配は無い。

 

 彼女はただ、淡々と仕事をしていた。

 

「もう会社も…皆も居なくなっちゃって…それでも、私と一緒に仕事してくれますか…?」

「いいよ」

 

 

 ぽたりと涙が一滴零れた。私はまだ、彼女のお陰で夢を見ていられる。

 

 

「ふふふ、有難うございます…あ」

「ん?どうかした?」

 

 元気が出て、私は周りを見渡す余裕ができた。そして気が付く。

 

「その…やちるさん、お願いが……事務所にグッズの不良在庫がありまして…半分くらい貰ってくれませんか…」

「っぷ…あっはっは、いいよ、部屋余ってるから。すぐに取りに行くよ」

「お願いします…」

 

 やちるとの電話を切った後、両親に掛ける。帰る予定だったが、もう少し頑張ってみたくなったと告げる。両親は心配していたが、最終的には背中を押してくれた。マンションを引き払って安いアパートに住み込み、幾つもバイトを入れて借金を返す。大変だったが、辛くは無かった。たまに聴くやちるの声が私を元気づけるのだ。

 

 

 

 

 

「んふふふ…」

 

 綺麗になったお皿を眺めながら、思わず笑う。お腹が一杯で、幸せな気分になった私は、ベッドへ倒れ込む。ベッドはいつもよりふかふかで良い匂いがして、私は深い眠りに落ちていく。

 

 

 

 意識がふっと上がってきて、眠りから覚めた。毎日やりすぎて癖になった登録者チェックを無意識にする。やちるは一時期100人をきるほど人がいなくなったが、今では900人ほどまで取り戻してきていた。2年前の炎上でできた負のイメージが強すぎて伸びは悪いが、それでも着実に増えてきている。

 

 画面を見て、私は最初チャンネルを間違えたのかと思った。一度戻って、もう一度やちるのアカウントを開く。

 

「ぇ……?」

 

 働きすぎて脳みそがいかれたのかもしれない、やちるの登録者数が50万を超えている。

 

「な、なにが………!?」

 

 飛び起きてネットで急いで検索する。幸いにもすぐに原因は突き止めることが出来た。瞼がぴくぴく痙攣して、スマホを持つ手が震えている。

 

「機材…顔バレ…や、やばすぎ…やばすぎるぅ!」

 

 人生最大の恐怖と絶望の中、私は奇声を上げながらやちるへ電話を掛ける。





NAD+様、みかん詰め合わせ様、ベー太様、紅月 雪様、誤字脱字報告ありがとうございます。

特殊タグによるフォント変更を試してみたのですが、どうやら文字欠けになっていたようで、読んで下さった皆様方には申し訳ないです。

今後も表示などでおかしい点ありましたら、ご一報いただけますと幸いです。
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