入学後2ヶ月でAクラスに来ましたけど何か?【1年生編1学期終了】 作:かりん糖さん
当分また更新が滞ってしまうと思いますが、御容赦ください。
ついに主人公が動き出します。
次に堀北会長に暴行映像と盗聴音声のデータを添付したメールを送った。
勿論捨てアドからである。
『南雲雅にバラされたくなければ500万をこのメールアドレスに振り込め。さもなくば、犯罪者の妹というレッテルを堀北鈴音は貼られることになるだろう。そして適当なタイミングで葛城康平と一之瀬帆波の生徒会入りを承認しろ。堀北派の人間として育成し、先輩に臆することなく意見できるよう教育すること。』
堀北会長は意外にもすぐ返信してきた。
ちなみに一之瀬と葛城の生徒会へ入れろという命令は前から考えていたことだ。
一之瀬が南雲により生徒会に入れられ、三学期に秘密をバラされることを防ぐため。
葛城という男は原作でも礼儀正しい優等生だった。
正義感の強い男なので、彼が生徒会にいた方が南雲の邪魔が出来るだろう。
南雲雅という淫行副会長が気に食わないというのもあるが、それ以前にこの学年を掌握されないようにするための対策だ。
綾小路がいる限り大丈夫だと思うが、念には念を。
『お前は何者だ?まあいい、500万振り込むのは構わない。だが振り込んだ場合、二度とこの件に触れるな。』
このメールについては坂上に承認を貰い正式な契約となった。
契約を破った場合、学校を介して1000万を支払うことが条件となった。
こうして匿名のまま会長と取引をし、500万を手にすることが出来た。
そして目標の2000万を貯めることに成功した訳だが、勿論いきなり2000万が消えれば今後の取引きに差支えるため、これ以上のポイントを稼がなくてはならない。
そこで私は葛城康平を百恵を介して紹介してもらうことにした。
百恵には少し前に葛城を紹介するように連絡してある。
彼女は私に懐いているので簡単に葛城をカフェへ呼んでもらうことが出来た。
個室の店へ呼び出すことも考えたが、人目を気にしすぎて坂柳に怪しまれても面倒なので、人の少ない落ち着いたカフェへ呼ぶことにした。
「初めまして、Cクラスの小代瑠奈です。葛城康平君に提案があって今日は呼び出させて貰ったよ。宜しくね。」
挨拶をすると警戒しながらも挨拶を返してくれた。
「Aクラスの葛城康平だ。宜しく頼む。話の前に一つ良いだろうか?」
「何かな?」
たかだか話を聞くだけなのに、随分と慎重な男だ。
用事深い正確なのだろうか。
「君の話はクラスとしての話なのか、個人的な話なのかどちらだ?」
なるほど。
彼は龍園からの提案か、私個人の提案かを確認して、この後の提案について考えたいようだ。
なかなか鋭い男だな。
だがなんで優秀なのに、原作でこの男は龍園の提案に乗ってしまったのだろうか。
「私個人としての提案だよ。クラスは関係なし、葛城君にとっても良い提案だよ。」
葛城は少し間を置いてから提案を聞くことにしたようだ。
「わかった、話を聞こう。」
「まず葛城君に提案したいのは今学期の期末と中間の過去問。これはサンプルで昨年の小テストの英語と日本史と数学の大門1。こっちは解答。これは今回の小テストの大門1の答案と問題。これを見てほしいんだ。」
過去問の取り引き用に作っておいた小テストのサンプルを手渡す。
葛城はページをめくり、過去問を読み始める。
少し時間がかかりそうなので私は葛城に断りを入れて、フルーツティーを頼むことにした。
ついでに葛城君へアイスコーヒーを注文することにする。
飲み物2つが届いてから少しして、葛城君は口を開いた。
「小テストの過去問と今回の小テストはまるっきり同じのようだが、この過去問は本当に昨年のものなのか?」
「年号が書いてあるよね?それが答えだよ。じゃあ特別に2年前の小テストの過去問も見せてあげるよ、はいどうぞ。」
今渡したのは堀北会長に貰った過去問だ。
葛城は問題文を確認して頭を上げた。
「どうやら本物、のようだな。」
「わかって貰えてよかった。さて、本題に入りましょう。」
にこやかに話すと葛城は緊張した面持ちで頷いた。
そこまでかしこまった話では無いのだが、葛城にとってはかなり重要かもしれないな。
「この過去問を貴方に対して4万プライベートポイントで売らせて頂きたいのです。といっても貴方にお渡しするのはコピーだけど。」
葛城は少し考えているようだ。
4万という高額さと過去問の価値が釣り合っていないように思えるのかもしれない。
「俺がこの取引に応じると思うのか?」
少し挑発的な言動だが、葛城が言えば煽り文句には一切聞こえない。
「貴方は取り引きに応じるよ。この学園でポイントで買えないものは無い。入学式の日坂上先生はそうおっしゃっていた。この学園において最も重要なものはなんだと思います?」
「分からないな。」
「情報です。情報といっても様々です。しかしその用途は、ポイントを得るための脅しの手段として、対等な取引のための交換条件として、人々を魅了させる景品になり得るのです。」
投げやりにならず、冷静に対峙してくれる彼が原作で坂柳に敗北したことはとても残念だ。
「確かに取引において情報に勝るものを少ないだろう。だが卑怯なやり方は好ましく無い。勿論この学校で上に行くために必要な事だということも理解しているが。」
これくらい分かりやすく正義感の強い人間がいいだろう。
彼なら、南雲に染ることなく生き残れるはずだ。
「そうでだね。卑怯だとしても、時に意思に反した選択をすることもあるかもしれない。葛城君がこの過去問という情報を派閥のみならず、クラス全体に共有したら葛城君の地位はより強固なものになる。」
この言葉に葛城の肩がぴくりと揺れた。
眉間に皺を寄せ目を細めて私の次の言葉を待っているようだ。
「この過去問は私が他学年の先輩から買ったものです。おまけとして前回の小テストの過去問もつけましょう。それも2年分。これを見せれば信ぴょう性は上がるでしょうね。」
「確かに、過去問があれば俺の派閥が優位になるだろう。だが、坂柳に話していない証拠はなんだ?これで俺がクラスに共有したとして、坂柳が過去問を持っている可能性は無いのか?」
「少なくとも私は坂柳さんにこの情報を渡してない。学校を通して契約を結んだっていい。この話し合いが終わった後、契約書を作成しても構わない。」
「もし小代が嘘をついていたらどうするんだ?」
きっちり詰めてくるな。
「その場合は100万を支払わせてもらう。嘘をつかなければ支払う必要も無い、これで少しは覚悟が伝わったかな?」
葛城は数秒目を瞑り黙った。
そして目を開けて口を開いた。
「わかった。この契約を前向きに検討させてもらう。」
話は終わったとばかりに、葛城はアイスコーヒーの残りに手をつけた。
カランッと音を立てて氷がグラスにあたる。
「葛城君、まだ契約は終わってないよ。契約にはもう一つ約束して欲しいことがある。」
「どういうことだ?」
目を丸くしながら問いかける。
少し可愛いと思ってしまった。
「葛城君、君には生徒会室に行って堀北会長にもう一度生徒会に入れて貰えるよう頼んで欲しい。君がもう一度誠心誠意伝えればきっと生徒会に入れるだろうね。」
「一体どういうことだ?それに悪いが、生徒会入りは断られてしまった。もう一度行ったところで、入れて貰えるとは思えない。」
これについて説明するには堀北会長との関係を明かす他ないのだが、堀北会長との契約に他言禁止とあるため説明が出来ない。
他に理由をでっちあげたとしても、会長との連携が取れるとは思えないし、私の存在がバレることは好ましくない。
「悪いけど理由はないよ。4万円でただ渡すだけでは味気ないと思って、生徒会入りという景品をつけただけなの。生徒会室に向かい、堀北会長に生徒会入りを希望する。それだけで生徒会に入ることが出来る。これは私が保証する。」
意味がわからないと言った様子だが、私の言葉に嘘がないと判断したのか、葛城はこの件について承諾してくれた。
「分かった、今回の件引き受けよう。もし嘘があれば100万ポイントを支払ってもらう。」
「ありがとう。今回の件については誰にも話してはダメだよ、他言無用でよろしく。もし堀北会長に何か言われたとしても、知らぬ存ぜぬを貫いてね。」
葛城は少し考えてから頷いてくれた。
この話を元に契約書を作成し、坂上先生同席の元で契約を交わした。
葛城との話し合いよりはマイルドに、一之瀬とも話し、一之瀬には無料で過去問を譲った。
一之瀬に生徒会入に対する契約書にサインさせ、他言無用でもう一度堀北会長に頼むよう約束させた。
2つ貸しを作ることが出来たので、今後一之瀬率いるBクラスを利用することが出来るだろう。
ついでに南雲雅の女性関係のだらしなさを軽く脅すことに成功した。
捨てアドを作成し、浮気映像を貼り付けるとすぐに要求に応じた。
勿論、堀北会長同様学校を介して契約書を作成して取り引きを行った。
30万プライベートポイントを獲得することに成功した。
50万はとりたかったが、今後やってくる1年生の生徒会希望者を必ず承認させることを誓わせた。
後は契約内容は他言無用といったところだ。
葛城と一之瀬は無事堀北会長の推薦により生徒会入りが果たされた。
堀北会長から、生徒会の現状と生徒会へのお誘いの連絡が届いた。
勿論、丁寧に丁寧にお断りした。
入りたい気持ちを前面に出しつつ断るのはなかなか骨が折れる。
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ふと端末を見るとメッセージが届いていることに気づいた。
『今日の朝葛城がクラス全員に過去問を配り始めた。テスト問題は毎年同じみたい。葛城派が数人増えて、坂柳は少し楽しそう。中立派は動きなし。』
神室から届いたメッセージは予想通りのものだった。
適当に返信をし、待ち合わせ場所へ向かうことにした。
午後6時45分。
待ち合わせ場所のイタリアンカフェ。
高級とまでは行かないが、少し高めの値段設定なので生徒は少なく、教師向けの店だ。
「来てくれてありがとう、桔梗ちゃん。」
「ううん、大丈夫だよ。それより話って何かな?」
にこやかに話すが、どこか警戒しているようだ。
まあそれもそうだろう。
『話があるから必ずモールの近くのイタリアンカフェに来て欲しい。』
こんなメッセージ怪しくないわけが無い。
せめて、美味しいお店を見つけたから一緒に行こうと誘うべきだった。
不信感を募らせてしまったが、どうせ脅すので別に問題ない...と信じている。
話の前に料理を注文すること、にした。
私はカルボナーラのセットメニュー、櫛田はじゃがいもとチキンのグラタンのセットを頼んだ。
「まず、桔梗ちゃんにはこの映像を見て欲しいんだ。」
櫛田のメッセージにブラック櫛田映像を送信する。
櫛田は躊躇わずに映像を見ると、顔が一瞬で青くなった。
人目があるからか、笑顔を装っているがその笑顔が若干引き攣っている。
「えっと、私はどうしたらいいのかな?」
あくまでも内容は語らず、言うことを聞くからバラすなと言っているのだ。
勿論私も話を合わせることにした。
「これからもDクラスで何かあったら私に相談して欲しいんだ。お願いできるかな?桔梗ちゃんの力になりたいんだ。」
「そ、それだけなんだね...わかったよ。」
「後これをクラスの皆に配ってあげて。先輩から貰ったと言って配ってね。」
私が手渡したのは過去問だ。
櫛田の信用を上げれば情報も集めやすいと判断し、承認欲求満たせるようなプレゼントを渡すことにした。
「過去問...うん、有難く使わせてもらうね!」
顔色が少し戻ってきたのでほっとした。
その後は普通の世間話をし、美味しい料理を食べて解散することになった。
万が一を考えて、一通りの多い道を通り、幾つか店にも寄ってから帰宅した。
櫛田の可愛さは異常だ。
強そうな男を護衛として雇っていることも考慮しての行動である。
櫛田を手駒にし、葛城との取り引きで面識を持つことに成功した。
堀北会長と南雲を脅しポイントを手に入れ、一之瀬に恩を売った。
角川リサイクルの商品も充実させることができ、裏メニューである情報取り引きで売り上げを更に伸ばすことが出来た。
手数料は端金だが、塵も積もれば山となる。
綾小路をどうにかすればAクラスで卒業出来るだろう。
Aクラス内での地位を確立させるために必要なのは、私がどの派閥に入りどのポジションを得られるかだ。
坂柳と葛城の対立を維持させるには、どっちかの派閥に入り呼び掛けたとしても淘汰されてしまうだろう。
やはり、中立派として地位を確立させるしかない。
だが表立ってリーダーとなるのは目立ってしまうので却下。
やはり、矢野や石田と親しくなり、中立派の参謀となるのが良さそうだ。
今のところ、テスト勉強を中立派の皆と行っているので、親しさはupしているはずだ。
他クラスという壁がある分これ以上親しくなるのは難しい。
Aクラスへ移動するという優秀さを示すだけじゃ、足りない。
何か手土産を持っていかなくてはならない。
やはり、次のテストで学年トップを狙うしかないだろう。
石田と話してわかったことは、彼は学力が高い生徒を好んでいるということ。
私がトップの成績を叩き出して、6月1日にAクラスへ移動するしか無さそうだ。
そして猛勉強することになるのだった。
Aクラスへ上がる準備は出来たが、ひよりに何も言わない自分を情けなく思う。
ひよりにAクラスへ上がることを伝えないといけないのに、なかなか伝えられずにいた。
結局私はテストが終わってもAクラスへ上がることを言えないでいた。
「どうかしましたか?るーちゃん」
「なんでもないよ、坂上先生に用があるから行ってくる。」
「わかりました。お昼先に食べてますね。」
私は教室を出て職員室に向かった。
「坂上先生、少し宜しいですか?」
職員室で弁当を食べる坂上に話しかける。
「どうしましたか?」
諦めたような表情で私を見つめる坂上は、この後の言葉を知っているように見える。
「ポイントを使ってAクラスへ移動します。」
坂上の瞳が揺れたが、気にしてはいけない。
「2000万ポイントを使う、ということですね?」
「はい。正式に移動する日は6月1日でお願いします。」
「わかりました。放課後手続きをしますので、職員室まで来てください。」
職員室を出ようとする時、周りの視線が私に向かっていることに気づいた。
こんなに早くAクラスへ来た生徒が、かつて居ただろうか。
教室に戻るとひよりが笑顔で話しかけてきた。
絆されてしまったのかもしれない。
ひよりも一緒にAクラスへ行けたらどれだけ良かったことか。
「ひより、いつもありがとね。」
「どうしたんですか?こちらこそありがとうございます。これからも宜しくお願いします。」
私にとって初めてできた対等な友人。
たわいない時間、何かを企むことの無い平和な時間が好きだった。
好きな著者について語り、おすすめの本を語り合い、カフェでのんびりと過ごす。
互いのお弁当のおかずを交換したり、一緒に勉強したり。
今までの人生の中でこんなに楽しいことは無かった。
常に緊張感を持って行動することを求められてきた、今までの人生とはおさらばできた。
だからこそ、残念だった。
親友と敵になることだけが心残りだった。
6月1日。
「おはよう」
Aクラスの教室に足を踏み入れると、全員が私の方を向いた。
「おい、卑劣なCクラス。教室を間違えてるぞ?」
弥彦が吠える。
私は気にもせず席に座った。
私の前には橋本正義が座っていた。
橋本は「マジか...」と驚きを隠せないようだった。
坂柳や葛城も私を見て苦笑いを浮かべていた。
神室や鬼頭も固まっており、石田と矢野も目を丸くして驚いているようだ。
その中で、百恵だけが「おはよう」と返してくれた。
百恵には予めAクラスへ移動することを伝えていたので、そこまで驚かれてはいない。
話した時はそれはそれは驚いていたが、「瑠奈ちゃんならいつかやると思ってた」と話して凄い凄いと褒め称えてくれた。
席に着き荷物をだし終えると、担任である真嶋先生がポスターを抱えて教室にやってきた。
「ではHRを始める。だがその前に新たにAクラスの仲間入りを果たした生徒を紹介する。小代、簡単で構わないので自己紹介を頼めるか?」
真嶋は私の方へ語りかける。
「わかりました。」
席を達1番前へ出ると全員が私に注目をしていた。
少し恥ずかしいが、さっさと終わらせるとしよう。
「初めまして、Cクラスから来ました、小代瑠奈です。趣味は読書です。Aクラスの生徒として貢献できるよう努力します。宜しくお願いします。」
Cクラスのひよりに何も言わずに来てしまったことを後悔はしたが、仕方の無いことだと割り切った。
ここから本当の派閥争いが始まる。