入学後2ヶ月でAクラスに来ましたけど何か?【1年生編1学期終了】   作:かりん糖さん

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連続投稿です。
投票に関しては、次話を書く時点で最も多いものを選びます。
今回のお話はストーリーが進展しませんが、とある人物との交流を描いたものです。


24話 後にも先にも

 

 

どんなに悔いても過去は変わらない。どれほど心配したところで未来もどうなるものでもない。いま、現在に最善を尽くすことである。

by松下幸之介

 

 

 

「もしもし?」

 

 

電話口の相手がどこの誰かは分からないが、わざわざ試験中に掛けて来るのだから、何か意味があるはずだ。

もし不審な相手であれば、学校側に報告すれば良い。

 

 

万が一の事もあるので会話を録音しておこう。

 

 

『お久しぶりですね、西門瑠奈さん。』

 

 

この声を私は知っている。

文科省の大臣主催のパーティーで幼い頃出会った官僚の声だ。

 

 

「…高宮真太郎さん、でしたよね?お久しぶりです。」

 

 

『お元気そうで何よりです。』

 

 

「高宮さんは文科省の方ですよね。でしたら今私が重要な試験中である事も御存知のはずです。わざわざ携帯の番号を調べて私に連絡をしてきたのですから、何か理由があるんですよね?」

 

 

『その通りです。実は私は今回の試験の最高責任者として、このクルーズ船に乗船しています。…単刀直入に言いましょう。西門さん、いえ小代さん、少年少女の行方不明事件についてお尋ねしたい事があります。第一会議室までお越しいただけますか?』

 

 

少年少女の行方不明事件とは"中高生行方不明事件"の事だろうか。

今年3月に全国有数の進学校に合格した中学生が行方不明になる事件が発生している。

 

 

しかし私はこの事件について、ニュース程度の事しか知らない。

私がこの事件について役に立てる事は無い。

 

 

だけど、私は行かなければならない気がする。

何故かは分からないけど、何かを見落としている様な気がするんだ。

 

 

どんなに気になっていても、あくまで理性的に振る舞う。

それが私だから。

 

 

「そうですか。私が知っている情報はニュース程度の事のみです。そして今、私達生徒は出歩きが禁止されています。部屋の外に出る訳には行きません。」

 

 

『ルールを尊守するとは、やはりあの方の御息女ですね。よく似ておられる。しかし、教員方がこの時間帯の出歩きを規制した理由は、あなたのプライバシーを尊重するためのものです。ですから、あなたの出歩きは認められています。』

 

 

つまり、出歩きを禁止された理由は、高宮が私と話す時間を作るため。

その間の私の行動を他の生徒に知られて変に目立たないようにするため、という事か。

 

 

ここまで言われては、行く以外の選択は無いな。

 

 

「…分かりました。今すぐ伺います。」

 

 

私は身支度を整え、第一会議室に向かった。

ノックをし、返事が聞こえたので中に入る。

 

 

「失礼します。」

 

 

「小代さん、よく来てくれました。さあ座って。飲み物は紅茶で良かったかな?お茶菓子にメルシェのエクレールを用意したから、良かったら楽しんでくれ。」

 

 

「お気遣いありがとうございます。」

 

 

メルシェとは、世界的に有名なショコラブランドの名前だ。

日本にも複数店舗が存在しており、ここのエクレールは1番人気の商品である。

 

 

中でもフランボワーズのエクレール、キャラメルチョコレートのエクレール、カカオ80%のエクレール、生チョコレートのエクレールが人気で、この4つはバレンタインや日々の贈り物として人気が高い。

 

 

ちなみにエクレールとは、エクレアを指すフランス語の発音の事だ。

つまり日本でいうエクレアの事である。

 

 

今回高宮が用意してくれたのはフランボワーズのエクレールだった。

白いホワイトチョコレートとフランボワーズチョコレートのマーブル模様が可愛らしく、中身はフランボワーズのレアチーズクリームが詰まっており、甘酸っぱくてさっぱりした味わいが特徴だ。

 

 

「とっても美味しいです。ここのエクレールを高校生の間に味わえるなんて、贅沢ですね。」

 

 

「そうだね、高度育成高等学校の敷地内にメルシェは無いし、ネット注文は受け付けていない。お店に行って買うしかないからね。」

 

 

紅茶はアッサムの様だ。

傍に置かれたミルクポットを取り、適量を紅茶に注いでいく。

 

 

アッサムはコクのある味わいや芳醇な香りが特徴的で、ミルクティーにするととても美味しい茶葉である。

そしてチョコレートを使用した焼き菓子との相性が良いため、アッサムにされたのだろう。

 

 

「さて、本題に入らせて貰おうかな。最近、高度育成高等学校前の公園の茂みでブルーシートで覆われ隠された状態で、15歳の少年の遺体が発見された。このニュースは知っているかな?」

 

 

このクルーズが始まる前、Aクラスで無人島試験の計画を立てている間のニュースで聞いた気がする。

確か、被害者の名前は──

 

 

「高野累」

 

 

その名前を聞くだけで少し不安になるのはなんでだろう。

 

 

「君は覚えていないらしいが、彼は牧之原事件で君と共に生還している。そして今回、この近海で名古屋市で行方不明になった九重花子さんが生きた状態で発見された。」

 

 

「…行方不明事件の、有名な進学校に通う生徒さんでしたよね。」

 

 

「その通りだ。彼女は今都内の病院に搬送されたが、発見した時こう言っていたんだ。『ゲームをした』とね。」

 

 

「ゲーム?」

 

 

「牧之原事件後の事情聴取で、君も似たような証言をしているんだ。『デスゲームをした』とね。これが単なる偶然であれば良いが、そうじゃなければ今行方不明になっている多くの生徒達がデスゲームに巻き込まれている可能性がある。」

 

 

何を言っているのだろうか。

デスゲーム?そんな記憶は存在しない。

 

 

デスゲームなんてフィクションの中だけの設定で、現実に行えば逮捕されてしまう。

法に罰せられる。

 

 

そしてそれを行う施設や資金の入手手段、運営には人員も必要だろう。

全ての条件を満たし、バレ無いように行うなんて出来る訳が無い。

 

 

馬鹿げている。

 

 

「馬鹿げているって思うだろう?私もそう思ったよ。だがね、世の中には犯罪組織や犯罪があふれる地域というものが存在する。フィクションの様な事も起こり得るんだよ。」

 

 

「…そうですか。」

 

 

高宮はカップを手に取り紅茶に口をつける。

広い会議室に私達2人だけ、というのは少し落ち着かない。

 

 

「私はね、文科省の人間として数多くの少年少女達に教育を受けて欲しいと考えているんだよ。勉強や運動だけじゃない、今この年代にしか体験出来ないような思い出も作って欲しいと思っているんだ。その中には、君も含まれているからね。」

 

 

「そうですか、お気遣い感謝致します。」

 

 

「正直ね、高野君の件も今多発している行方不明事件に関係しているのではないかと警察は疑っている。そして、何故高野君が狙われたのか…それは彼が事件から生還した人間だからだ。」

 

 

「あなたは、私も狙われると…そう思っているのですか?」

 

 

「その通りだよ。花園の会長も君の事を気にかける様頼まれていてね。私個人としても、亡き西門先輩の御息女である君には健やかに成長して貰いたい。」

 

 

私は中学生の頃、拉致され3週間行方不明になっていたらしい。

そして気づいた時には学校近くの公園の茂みに倒れていたそうだ。

 

 

そしてその横には1人の男子中学生…高野累が倒れていた。

傍らには多くの紙幣が落ちていたそうだが、全て警察に回収されたそうだ。

 

 

事件後私は衰弱しきっており、安静が言い渡された。

自宅療養をしながら、本を読んだり音楽を聞いたりと自由に過ごしていた。

 

 

そして事件から2週間後。

私の精神も落ち着き、学校生活を送れるほどに回復したため、事情聴取が行われた。

 

 

だけどその時には全て忘れていた。

何も私は知らなかった。

 

 

神経科医は、事件のショックで記憶が抜け落ちてしまったのでは無いかと仰られた。

その後精神科に通いながら学校生活を送り、高校に進学した。

 

 

そしてこれが事実であれば、私と高野は事件の事実を唯一知る人物であり、私達を拉致した奴らは私と高野を消したいと考えているはず。

だから高野は死んだ。

 

 

きっとこう言いたいのだろう。

 

 

「…私には記憶がありません。その事件があったという事は、新聞やテレビのニュースで事実なのだと理解しています。しかし、私が巻き込まれたという事はどうも実感出来ないんです。」

 

 

高宮は顎に手を当てながら、柔らかく微笑んだ。

この人は優しすぎる、他人の痛みに敏感すぎる人だ。

 

 

高宮は父の大学の後輩であり、文科省の官庁訪問だけでなく、省庁関係者との人脈を作るためにパーティーに招待する等、サポートを行ったそうだ。

無事文科省の官僚となり、たまに父と仕事の話をしていたな。

 

 

カップの中の紅茶に映る自分は懐かしさ故か、僅かに口角が上がっている様に見えた。

暫くの沈黙の後、彼は袖を捲り時計を確認する。

 

 

「…さて、そろそろお開きにしようか。君の貴重な時間を貰えて良かった。もし事件の事で何か話したい事があれば、今日私が君に掛けた番号へ連絡してくれ。」

 

 

「分かりました。」

 

 

「では、また会おう…いや、待ってくれ。これを渡すのを忘れていたよ。」

 

 

高宮は会議室の扉に手をかけながら、後ろを振り向く。

彼の元へ赴くと、彼は鞄から小さな紙袋を取りだした。

 

 

「これは?」

 

 

「小代家は16歳の誕生日に腕時計をプレゼントする習わしがある。この時計を君に渡すよう、西門会長に頼まれていたのだよ。」

 

 

紙袋の中に視線をやると、四角い水色の箱が入っている。

箱には星座が描かれており、煌びやかな銀色の装飾が施されていた。

 

 

「ありがとうございます。お爺様にお会いする事があれば、感謝をしていたとお伝え下さい。」

 

 

「ああ、必ずお伝えしましょう。では、またどこかでお会いしましょう。何事もなく、青春を謳歌してくださいね。」

 

 

私は高宮に一礼し、その場を去った。

出歩いても良いと言われたので、その言葉の通り船海がよく見える船内の広場へ移動した。

 

 

海を眺めていると遠くに船の姿が見える。

あれは自衛隊で使われている、護衛艦の「たかなみ」型だ。

 

 

なるほど、これは確かに異常だ。

たかが高校のクルーズに護衛のために自衛隊が周囲を囲むだなんて、流石国立というべきか。

 

 

「何をしているんだい?モーントガール」

 

 

波の音と船の機械音だけが存在する海に、晴れやかな声が響く。

 

 

振り返ると、天下の高円寺コンツェルンの跡取り息子である、高円寺六助が立っていた。

彼とは幼少期、そして中学時代に私の家や幼馴染を通して挨拶をした事がある。

 

 

そして彼とは高校に入って初めて会話をした。

彼も私も仲良く雑談なんてタイプでは無いし、そもそも挨拶を交わしただけの関係性だ。

 

 

名前と顔を知っている知り合い、程度の認識である。

話す必要性すらなかった。

 

 

「御機嫌よう、高円寺君。今は出歩き禁止の時間だけど、何をしているの?」

 

 

「ハッハッハ、それは君も同じじゃないか!モーントガール。それに私は直々に教員から呼ばれているのだよ。つまり、私は自由という事だ。」

 

 

呼ばれた、か。

私と同じ様に、プライバシーに配慮しての面談が行われるのかもしれないな。

 

 

「自由?…呼ばれてノコノコそこに向かう時点でそれは強制されているだけだよ。自由とは程遠いと思うよ。」

 

 

「ハッハッハ、面白い冗談じゃないか。しかし、君はここで何をしているんだい?許可を得ずに外を歩けば、君もタダでは済まないだろう。」

 

 

「…許可は貰ってる。少し1人になりたかっただけだよ。」

 

 

「ふむ?しかし君は1人部屋を使用していると耳にしたが?部屋の中にいた方が1人でいれるのでは無いかね?」

 

 

確かに、私の言動は矛盾している。

 

 

「別に、ただの気分転換よ。高円寺君はなぜ呼び出しを受けたの?何か悪い事でもしちゃったの?」

 

 

人の事情に首を突っ込む事は好きでは無い。

むしろ嫌いだ。

 

 

しかし、この状況下で呼び出されるというのも気になる。

私と入れ違いのタイミングでの呼び出しなのだ。

 

 

もしかしたら、彼も行方不明事件についての事情聴取的な事をされるのかもしれないな。

彼の言葉を待ちながら憶測を立てるが、想像はあくまで想像でしかない。

 

 

考えるだけ無駄なのだろう。

 

 

しかし時には想像力を問われる問題に直面する。

絶対に無駄、とは言い切れない。

 

 

何より想像とは心躍る、丁度良い暇つぶしなのだ。

嫌いになるなんて事は無いだろう。

 

 

あれこれと脳内で考え事をしていると、高円寺が近くの椅子に足を組んだ状態で腰かけた。

 

 

「…私は、とある友人について少し話をするんだ。彼は、とても聡明で美的センスに優れていた。美しいものを愛する私は、彼の描く作品を愛していたのだよ。その美しさは、人が作ったものだとは思えない程精巧で、優雅で、艶やかだった。」

 

 

高円寺に友人がいた、なんて話は聞いた事が無い。

勿論、それは原作でもそうだ。

 

 

彼は唯我独尊を行く、多彩無礼なお坊ちゃまというキャラクターだった。

そしてこの世界でも私はそう認識していたし、だからこそ彼について知ろうとは思わなかった。

 

 

「高円寺君にも友達がいたなんてびっくりだよ。」

 

 

「何を言っているのだ?この高円寺コンツェルンの跡取りである私の周りに、人間が居ない訳が無いだろう。」

 

 

話が噛み合わないなぁ。

 

 

「だが、私のベストフレンドはもう会う事は叶わないのだよ。後にも先にも、彼の様な素晴らしい人物に出会う事は無いだろうね…。」

 

 

会えない…か。

仲違いをしている様には見えないし、何か問題が起きてしまっているのだろう。

 

 

彼は私から視線を外し海に顔を向ける。

水平線の向こうを見つめながら、カモメの鳴き声が時折聞こえる。

 

 

「…さて、そろそろ私は行くよ。ガール、君も気を付けたまえ。では、アデュー!!」

 

 

最後にはいつもの彼に戻っていたが、忠告を言う彼は真剣な表情をしていた。

 

 

「…帰ろう。寒くなってきた。」

 

 

自室に戻り、お湯を沸かしてココアを入れた。

冷たい風が吹いていたため、体が冷えてしまった様だ。

 

 

頂き物の紙袋からコンパクトケースを取り出す。

美しい装飾に見惚れてしまうな。

 

 

どうやら開けるには鍵が必要らしい。

紙袋の中を確認すると、透明なケースに金色の月をモチーフにした鍵が入っていた。

 

 

慎重に鍵を取りだし、鍵穴に差す。

くるりと回せばケースが開いた。

 

 

中にはダイヤモンドがあしらわれた星空のように美しい腕時計が入っていた。

ダイヤはそこまで大きくないが、高価なものには違いない。

 

 

学生には不相応であるが、祖父からの贈り物に心が熱くなる。

 

 

「…明日から着けようかな。私の好みドンピシャだし。」

 

 

試しに腕に着けてみるが、着け心地が良く制服にも合わせやすそうだ。

見た目がシンプルなので、綺麗目な洋服であればどんなものにも合うだろう。

 

 

「…卒業したらお爺様にお礼を言わないとね。」





□花園会長
主人公の幼馴染、花園花恋の祖父。
花園グループの会長を務めている。

□西門会長
主人公の祖父であり、父親の実父。
とある企業の会長を務めている。

□亡き西門先輩
主人公の父親であり、高宮の大学時代の先輩。
とある企業の社長を勤めていたが、現在は故人。

今後の展開として欲しいものを選んで下さい。

  • 山内との絡み!(ネタ枠)
  • 綾小路との絡み!(ホワイトルーム)
  • 堀北との絡み!(堀北と主人公)
  • 高円寺との絡み!(家や例の事件)
  • オリジナル試験(体育祭代わり)
  • ひよりとの絡み(移籍について)
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