入学後2ヶ月でAクラスに来ましたけど何か?【1年生編1学期終了】 作:かりん糖さん
気付かぬうちに原作知識を漏らしてしまう小代ちゃん、そして小代ちゃんに対する不信感がますます強まっていく坂柳sideのお話です。
side:坂柳
私は坂柳有栖と申します。
よくされる質問が"理事長と名字が同じだけどもしかして娘さん?"でお馴染みの坂柳有栖です。
東京都高度育成高等学校の学力試験を主席で通過した天才です。
入学した初日に頂いた10万ポイント。
これを渡された時、先生は私達に対する正当な評価の表れだとお話されていました。
正当な評価という事は、私達が評価を下げればその分来月支給されるポイントに影響を及ぼすということでは無いでしょうか?
そしてポイントで買えないものは無いという点。
この学園でのポイントの価値はかなり高いものだと予測できます。
学校生活から四日目。
学内について調べたところ、監視カメラが多く設置されていました。
それだけでなくコンビニやスーパーには無料の商品が置かれていました。
学食には無料の山菜定食なるものもあります。
初めに説明されたポイントを加味して考えると、このままではまずいことに気づきます。
HRが終わり私が立ち上がろうとした時です。
「皆、少し話を聞いてくれないだろうか。」
スキンヘッド姿で目立っていた真面目そうな生徒が教室の前に立ち演説を始めたのです。
「皆、貴重な時間を奪ってすまない。初日に先生が説明された話を聞いて、俺は思った。」
彼は1度区切ってから口を開きました。
「来月のポイントはいくら支給されるのかと。」
おや、鋭いですね。
1度聞いた話を即座に分析し、可能性を考えられるとはなかなか優秀な方のようです。
「先生は俺達に来月一日にポイントが支給されるとは言っておらず、ポイントは好きに使ってくれて構わないとも仰っていた。本来なら無駄遣いをしすぎないよう咎めるべき立場がそのような発言をしている。」
疑問から入り、周りを惹きつける。
良い構成の演説だと思いますよ、素晴らしいですね。
「この学園は実力主義を謳っている。だからこそ、無闇矢鱈に豪遊等をしてはならない。まず来月支給されるポイントが分からない以上、皆には気をつけて生活を送って欲しいと思っている。」
ぐるりとクラス内を見回すと、全員がこの意見について考えているようです。
しかし少なくとも反論をする生徒はいないようなのでおそらく彼の言う通りに過ごすのでしょう。
さて、このままではクラスの主導権を奪われてしまいかねません。
私も演説を始めましょう。
「彼の意見に同意します。皆さん、初めに先生が話されていたことを覚えていますか?10万ポイントの説明時、先生は私達に対する正当な評価の表れだとおっしゃいました。裏を返せば評価によりポイントは変動するという意味では無いでしょうか?」
空気が変わりましたね。
葛城君の一強から私に興味を示している方々もちらほらいらっしゃるようで何よりです。
「ですから、無駄遣いをしないことに加え、授業や生活態度にも気を遣って頂ければと思います。」
これで何人かは頷いてくれていますね。
ここからが本当の始まりです。
葛城君は優秀ですが、余興としての相手といったところでしょうか。
精々楽しませて頂きましょうか。
それから、3日程たった頃橋本正義君と鬼頭君という身体能力の優れた方が派閥入りを表明してくださいました。
鬼頭君の身体能力は校内でもトップクラス、橋本君は文武両道と能力はバランスよく高いようですね。
私は先天性心疾患を患っており、杖を使いながらでないと移動ができません。
身体能力が低いため、このように高い身体能力を誇る方が近くにいてくれるだけでどれほど助かることか。
そして前からお誘いをしていた神室真澄さん。
男性には頼みにくいことをお願い出来る女子生徒の方に派閥入りをして頂きたかったのですが、身体面を考えると適任なのは彼女くらいですね。
初日にお会いした時は、つまらなさそうに周囲から外れたところで端末を操作されていました。
しかし三日目から彼女の雰囲気は変わったのです。
疲れているように見えましたが、たまに楽しそうに端末を操作しています。
そして周囲に溶け込むほどではありませんが、交流回数が増えたようにみえました。
彼女を早いうちに駒に出来たらと、私に着けばどれほど面白みのある生活を送れるかを説きました。
初めのうちはスルーされましたが、アタックを繰り返すうちに承諾を得ることに成功しました。
一方葛城君は真面目な男子生徒を筆頭に派閥の拡大を進めているようです。
性格も良く、コミュニケーション能力も高いためかなりクラスに馴染んでいるようです。
4時限目の体育を終えて教室で昼食をとった後、お花摘みに出かけたのですがその帰り道のことでした。
「今からサッカーしようぜ!」
「おい待てよ!」
Dクラスの教室の前を通ろうとした時、急に目の前の扉が開き私はびっくりして杖を落としてしまったのです。
扉をこんな勢いよくガシャンッと音がする程に開ける方を初めて見ました。
そして彼らを避けることも出来ず私は彼らにぶつかり尻餅をつきました。
惨めに這いつくばった経験は幼い頃のハイハイくらいでしょう。
彼らは「悪い」と言いながら走り去っていきました───杖を勢いよく蹴り飛ばして。
勿論わざとでは無いのでしょうが、平謝りで走り去って行きました。
人として杖を拾いに行き頭を下げるくらいしてはいかがでしょうか。
私は壁に手を付きなんとか立ち上がることに成功しました。
しかしここからが地獄でした。
壁伝いに遠回りをしながらなんとか蹴り飛ばされた杖の方へ歩いていくと杖は踊り場に落ちていたのです。
階段の手すりにしがみつきまずは1段降りようとしましたが、足は前へ進もうとしません。
普段は基本的にエレベーターを使いますから、階段を使うのは何年ぶりでしょうか。
いえ、階段を使ったと言っても母親にしがみつきながらなんとか3段程の玄関前の段差を降りただけなのです。
そして我が家の段差もスロープに変わりましたので、私は本当に階段を降りた経験が不足しているのです。
しばらく思案していると下から誰かが上ってくる足音がしました。
どうか3階まで上ってきますようにと、神に祈りました。
やがて足音は踊り場まで響き数秒後一人の女子生徒が杖を拾い上げ、私の方を見て微笑みました。
私も微笑み軽く会釈をすると彼女は階段を素早く駆け上がり杖を差し出しました。
『落としたのは貴方だよね?これじゃあまるでシンデレラだ。はいどうぞ。』
感謝を述べると彼女は私の態度を心配して下さいました。
疲れが顔に出るなんて、私としたことがどうかしていたようですね。
いえ、そんなことはどうでもいいのです。
それは些細なことですし、初対面なのにも関わらず心配をしてくださったことはとても嬉しかったのです。
しかし彼女のセリフはおかしかったのです。
『私は小代瑠奈。疲れてるみたいだけどどうしたの?付き人さんもいないみたいだけど。』
"付き人さんもいないみたいだけど"
なぜ付き人同然の橋本君や鬼頭君のことを知っているのでしょうか。
橋本君や鬼頭君は昨日私の派閥へ入ることを表明してくださったのですが、私達はまだ行動を共にしていません。
では彼らが派閥に入ったことを誰かが漏らしたのか?
勿論その可能性はあり得ますが、昨日表明してくれた時周囲に人は居なかったはずです。
彼らと大々的に話し始めたのも今日の昼休みからです。
彼女は校内放送で生徒指導室に呼ばれていた生徒のようですし、知る由もないと思うのですが。
Aクラスにスパイがいるのかと言われても、彼女はかなり普通の生徒のように見えます。
裏もなさそうですし、今も平然とした態度で話されています。
例えスパイがいたとしても昼休みに初めて4人で顔合わせをしたのです。
神室さんでは無いでしょう。
葛城派閥の人間か疑いたくはありませんが、橋本君のどちらかでしょうか。
といっても現状にスパイをする理由がないのでやはり不自然ですし、一体なんのためのスパイなのでしょう。
ひとまず橋本君に情報収集をさせて泳がせつつ、神室さんにも情報収集をお願いしましょう。
いっそ彼女が預言者か透視能力を持っていると言われた方が受け入れることが出来そうですね。
非常に興味深いですが、彼女はどこか異質な気がします。
一体この寒気はなんなのでしょうか。
ホワイトルームの最高傑作、綾小路清隆君に出会った時と似たような、背筋がぞくりとするような感覚がします。
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おまけ(side:神室)
小代が帰ってから坂柳は随分顔色が青くなっているようだった。
こいつは小代と楽しそうに話していたのに帰った途端気が抜けたように椅子に座りこんでしまった。
「一体どうしたんですか?姫さん」
橋本がご機嫌を伺うが坂柳は何かを話そうとしてすぐ辞めてしまう。
そろそろ食堂や図書室に行ってる生徒が帰ってきて騒がしくなるのだろう。
「昨日私の派閥に入ってくれた鬼頭君と橋本君、そして今日加わってくれた神室さん。私達は今日の昼休みに四人全員で初めてお話しましたよね?」
「そうね。それがどうしたの?」
「その通りですね。」
疲れきった顔をしている彼女の背中をさすりながら話を聞く。
橋本も頷きながら肯定し、鬼頭も無言で頷いている。
「この事を知っているのは私達とこの教室にいた中立派の数人、葛城派の町田君くらいでしょうか。先程助けていただいたCクラスの小代瑠奈さん。」
小代がどうしたって言うのよ。
「彼女はこう言いました
──付き人さんもいないみたいだけど とね。」
え、ちょっとそれって…
「なんで俺たちのことを知っているんでしょうか?この事は今は俺らしか知らないはずじゃ。」
普段チャラチャラしてる橋本はもちろん、鬼頭も目を見開き驚いていた。
「いや、正確には中立派数人と町田は気づいているだろうな。」
そして鬼頭は冷静に現状を分析しているようだった。
「たまたまってことはなさそうだし、なんだか不気味ね。」
ひとまずそれっぽいことを適当に言っておくけど、一つ気になっていることがある。
私と初めて会った時、あの日彼女はこう言った。
『貴方には他にも仕事をお願いするかもしれないけど、基本的に坂柳有栖が接触してきたら初めは嫌がりつつも、何度も脅されたり粘られたら坂柳派に着いて欲しい。後は葛城康平に着いても随時情報提供宜しく。』
え、坂柳と葛城のことなんで知ってるの?確かにあの二人はあの日、クラスを引っ張っていくリーダーに立候補したけど、まだ他のクラスは知らないはずじゃ…
あの日、入学してから4日目に坂柳と葛城がクラスのリーダー候補になった。
それを知っているのはAクラスだけのはずだから、他クラスの奴が知っているのは不自然だ。
私は万引きがバレたことで頭がいっぱいだったから、『詮索するな』と言われて考えないようにしていた。
それにアレは、私が美術部に入部した帰り道の事だ。
彼女は突然私に美術部に入部しているかを尋ねてきた。
普通聞くなら何部に所属しているかを尋ねるはずだ。
なのに小代は美術部に入部しているかと聞いた。
その後看板作成の話を出していたから、流れで不自然だとは思わなかった。
でもよくよく冷静になって考えたら、質問の順番をすっ飛ばしていることに気づいた。
万引きを黙ってると話した時も思ったけど、コイツかなりイカレてる気がする。
そういえばあいつは坂柳が話しかけたら初めは嫌がるフリをしつつ、粘られたら坂柳に着けって言ってた。
そして坂柳はあいつの言うようにしつこいほど派閥に入るよう説き伏せてきた。
あいつの想定する未来通りになった訳だけど、これって偶然なの?
「ひとまず彼女について情報を集めたいと思います。お願い出来ますか?神室さん、橋本君。」
「かしこまりました、姫様。」
「ん、わかった。」
橋本は坂柳に一礼して去って言った。
私も同じように返事をして席に着く。
青い顔で坂柳に命令されたけど、これ喜んでいいの?
合法的にあいつと話せるようになったは良いけど、あいつ詮索するなって言ってたし、なんだかちょっと怖いかも。
世の中には知らない方がいいこともあるって言うけど、なんか気づかない方がは平和な生活を送れた気がする。
でもこれはこれで…
───スリリングで楽しいかも。
少しするとクラスメイトが教室に戻ってきて、騒音が加わる。
報告として、小代に簡単なメッセージを送ることにした。
"坂柳派に入ったよ。
昨日、鬼頭隼と橋本正義も坂柳派の幹部として派閥入りしていたみたい。
葛城派は主要メンバーが戸塚弥彦や町田浩二を中心とした真面目な男子生徒が多いかな。
派閥入りをしない中立派もそこそこいる。
中立派の主要人物は矢野小春と石田優介の2人。"
中立派なんて聞かれてないけど一応教えてあげよう。
あんまり情報提供も出来てなかったし、これくらいはしないとね。
こんなとこだろうか。
なるべく必要最低限に抑えたつもりだけど、もたもたしてたら坂柳達にバレそうだな。
坂柳達に怪しまれていることを伝えるべきか迷うな。
まあ今日は様子見して、必要に応じて伝えればいいよね、うん。
私も面倒な相手に捕まっちゃったけど、退屈しなければまあいいか。
そう言えばアイツは報酬といって数万ポイントを渡してきた。
一体、どこにそんなポイントの余裕があると言うのだろう。
10万ポイントを持っていたとしても、ホイホイ渡せる額じゃないはず。
それも入学して4日目だよ。
みんなやりたい放題豪遊してる時に他人に渡せる額だとは思えない。
本当に小代は呆れるくらい、ミステリアスな人だと思うんだけど。