まとめ   作:しあさん

2 / 2
賢者の島坑道戦

賢者の島の港にある繁華街――といっても、この島は北端と南端に学校があるだけのド田舎なのでささやかなものなのだが――それでも、グリムにとっては初めての外出。

島中を巡り、港から南北へ伸びるただの地下鉄でさえ「それってスゲーんだゾ!」と目を輝かせて喜んでいた。

 

「ふなぁ~」

 

本来なら胸の高鳴りを抑えきれないはずなのに、エースの腕の中で何度目かの情けない泣き声を上げる。ぼうぼうと燃える耳も心なしか弱火だ。

 

「グリム、静かにしろって」

「だって、だって、こうなるなんて思ってもいなかったんだゾ」

 

窘めたエースでさえいつになく弱気になるのも無理はない。

耳障りな急ブレーキの金属音、衝撃、悲鳴があっという間に3人を襲い、それらが通り過ぎてから早くも30分が経過しようとしている。

ちか、ちかと不安定に明滅する白いLED。次の駅を知らせる掲示板は消え、広告も液晶にノイズが走り、この環境全てが感覚を敏感にさせて乗客の不安を煽った。

 

「……どうしようもない、な」

 

前の車両から戻ってきたデュースが手の甲で額の汗をぬぐい、崩れるように座席につく。

 

「だろーよ」

 

と、エースは当たり前のことだと吐き捨てた。

デュースが意を決して前の車両を見に行かなくとも……この事故が人為的に引き起こされたものじゃないとはわかりきっている。

 

中途半端に食いちぎられた車両――分断された人体の破片と、ガラス片と、電気によって火花を散らすコードか何か。ゆるやかなカーブを描いて先が見えないトンネルから吹き付ける冷たい風。

できるだけ見ないように、感じないように。それなりに修羅場を潜り抜けてきて肝が据わった自称優等生と比べて、自分は随分とちっぽけだ。

 

「ふな…」

「…鳴くなよ…」

 

窓の外はオレンジの灯りが点々と灯っている以外何もないコンクリートの壁。当然だ、ここは地下だから。

――逃げ場のない、地下なのだ。

 

 

 

賢者の島坑道戦

 

 

 

       

 

 

放課後、自主勉強のために開放されている講堂に足を運んだ監督生は、適当な空席を陣取って課題を広げた。

残りの3馬鹿は明日が休みなのをいいことに、遊びに行くとかなんとか言って外出許可証を片手に飛び出して行ってしまったし、久々に訪れたひとりの時間。

それを課題に使うなんて我ながら建設的。

 

「おやおや、監督生さん。その課題……」

「虎の巻は結構です」

「虎の絵巻ならウチにあるぞ?」

「違う、そうじゃない」

 

顔を上げて声の方を見れば胡散臭い笑みをたたえたアズール、リドルからの指摘にきょとんとしたカリムの姿があった。

 

「そう仰らず。隣失礼しますね」

「言いながら座らないでください。絡む相手間違えてますよ」

「オレたちも課題をやりに来たんだ。1年生のなら、オレでも教えられる内容があるぜ!」

「キミも遠慮がないね…」

 

そんなわけであっという間に包囲された監督生。席を立とうにも立てない状況に深いため息が出た。

 

「いつもの3人はどうしたんだ?」

「エースとデュースには外出許可を出したし、グリムまでいないとなると…。十中八九遊びに行っているんだろう」

「そーなんですよね。グリムはともかく、リドル先輩があの2人に外出許可を出すなんて信じられないんですけど」

「流石のリドルさんでも、正式な手続きを踏んだ正規の手段での外出には許さざるを得ませんよ」

「……そうだね」

 

渋々といった様子ではあるが。むぅと腕を組み、やがて口を開く。

 

「最近は真面目に勉強しているようだったし、息抜きは必要だと判断したのだけど…」

「確かに、なーんか妙に大人しいなってのは思ってました」

 

誰よりも厳格なリドルを説得し、納得させ、頷かせるには見える結果を出さなくてはならない。そして一生懸命に取り組んでいるという姿も。

そんなに今日という今日こそ麓に行くという決意が固かったのだろう。

 

「監督生はいいのか?遊びに行かなくて」

「私は…」

 

カリムの何気ない投げかけに監督生が言いよどむ。

 

「うーん、時々熱砂の国だとか、そういうところに連れてってもらってるので」

「へへっ!またそのうち連れてってやるよ!」

「ありがとうございます」

 

遊びたくないわけじゃないが、いまいち興味を惹かれないだけだ。

 

「外…外といえば、最近何かと物騒ですよね」

 

すると、アズールが勝手に監督生の教科書に”P189、特殊な蒸留方法について”と一言書き込んだ付箋を貼りつけながら話題を動かした。「そうなのか?」と首を傾げたカリムの周りでなにかと物騒なのは悲しいかな、いつもの事なのだがそういう意味ではない。

 

「この間なんて輝石の国、水晶の街で暴走した魔法生物による爆発事故があったそうですよ」

 

少し4人の間の空気が冷える。

 

「水晶の街…名前の通り、良質なクリスタルが採れる鉱山がある街だよな」

「そんなところで爆発事故と聞くと、…鉱山で起きた事故なのかい?」

「いえ、精選を行う工場で起きたようで。僕に聞くより、ネットニュースに取り上げられていますし、そちらを見てみるのがよろしいかと」

「あ、ああ、そうだね…。すまない」

 

リドルが引き下がるが、まだ情報を持っていそうなアズールに今度は監督生が問いかけた。

 

「もしかして、その魔法生物って工場の内部から出現したとか…?」

「おや、よくそんなことを思いつきましたね」

「どこから出現したのかとか、魔法機動隊(マジカルフォース)や軍隊が討伐したのかとか、そういう情報が詳しく載っていない場合もあるよな。きっと地元のやつらは不安がるだろうに」

「報道規制というやつだね」

「それで、アズール先輩どうなんです?どうせ知ってるんでしょう?」

 

さっきまで迫られて嫌がっていたのに今度は逆だ。どこか嬉しそうなアズールが眼鏡の反射でスカイブルーを隠し、くいっとブリッジを指で押し上げて何かを言おうとすると――。

 

「…!」

 

4人のスマホに一斉にグループの通知が届いた。

バイブレーション、あるいはけたたましいブブゼラ(ブブゼラはアズールのスマホから鳴った)がポケットや机を振動させ、表示された同じ文面にそれぞれの表情を見せる。

 

「あっ、課題全然進んでない!」

「安心してくれ、ボクたちもだよ」

「ジェイドだなこんなことをしたのは……!」

「噂をすれば影だな!行こうぜ」

 

そして一斉に席を立った。

 

 

 

 

賢者の島の港にある繁華街――といっても、この島は北端と南端に学校があるだけのド田舎なのでささやかなものなのだが――それでも、グリムにとっては初めての外出。

島中を巡り、港から南北へ伸びるただの地下鉄でさえ「それってスゲーんだゾ!」と目を輝かせて喜んでいた。

 

「ふなぁ~」

 

本来なら胸の高鳴りを抑えきれないはずなのに、エースの腕の中で何度目かの情けない泣き声を上げる。ぼうぼうと燃える耳も心なしか弱火だ。

 

「グリム、静かにしろって」

「だって、だって、こうなるなんて思ってもいなかったんだゾ」

 

窘めたエースでさえいつになく弱気になるのも無理はない。

耳障りな急ブレーキの金属音、衝撃、悲鳴があっという間に3人を襲い、それらが通り過ぎてから早くも30分が経過しようとしている。

ちか、ちかと不安定に明滅する白いLED。次の駅を知らせる掲示板は消え、広告も液晶にノイズが走り、この環境全てが感覚を敏感にさせて乗客の不安を煽った。

 

「……どうしようもない、な」

 

前の車両から戻ってきたデュースが手の甲で額の汗をぬぐい、崩れるように座席につく。

 

「だろーよ」

 

と、エースは当たり前のことだと吐き捨てた。

デュースが意を決して前の車両を見に行かなくとも……この事故が人為的に引き起こされたものじゃないとはわかりきっている。

 

中途半端に食いちぎられた車両――分断された人体の破片と、ガラス片と、電気によって火花を散らすコードか何か。ゆるやかなカーブを描いて先が見えないトンネルから吹き付ける冷たい風。

できるだけ見ないように、感じないように。それなりに修羅場を潜り抜けてきて肝が据わった自称優等生と比べて、自分は随分とちっぽけだ。

 

「ふな…」

「…鳴くなよ…」

 

窓の外はオレンジの灯りが点々と灯っている以外何もないコンクリートの壁。当然だ、ここは地下だから。

――逃げ場のない、地下なのだ。

 

「スマホも繋がんねーし…」

「それでも、他の乗客が外にある緊急用の電話で助けを呼んでくれただろ」

「……助けがいつ来るんだよ」

「…それは、わからない」

 

申し訳なさそうに肩を下げるデュース。そんな友人に当たるような態度の自分に苛立って、カニと表現された髪をがしがしと掻いて舌打ちを最後にひとつ。

ふがいなさを吐き出すことで少しでも気分を落ち着けさせたかった。

 

「…オレ様たち、ずっとこのままなのか?」

「そんなわけないだろ。助けを信じて待つんだ」

「子分~……」

 

ちょうど自分たちの席はドアの隣にあり、肘置きがある。そことエースの間に収まったグリムは少しでも安心を得ようと丸まってふなふな鳴いた。

 

「今頃勉強してるんだろうな…監督生」

「子分らしい真面目っぷりなんだゾ…」

「この期に及んで浮かぶのがそれかよ。オレもそれしか浮かばねーけど」

 

”課題を後回しにするのではなく、課題より優先して学びたいことがある”と宣った監督生の、見事な本末転倒っぷりが3人をドン引きさせたことは記憶に新しい。

少し緊張がほぐれた矢先、遠くからホイールが回転しているような轟音が近づいてくるのにグリムが気付いた。

 

「な、なんなんだ!?この音…!」

 

反響する音にすぐ二人も気づいて顔を見合わせる。

 

「これは…マジカルホイール…?違う、もっとデカい」

「もしかして、助けが来たってこと?」

「絶対そうなんだゾ!」

 

食いちぎられた虚空とは反対の方面からだ。

他の乗客たちが次なる異変に怯えて動くこともできない中、3人は音の正体を探ろうと次々に車両をまたぎ、ついに最後部へたどり着いたときに――その正体を見た。

 

「なんだありゃ!」

 

エースが声を上げる。

 

反対車線のレールの上、停止しているのは人型のロボット。

全高は車両とほぼ変わらず4m程度。直線の多いシルエットはずんぐりとしており、背後に取り付けられた二基のバーニアが一際目に入る。塗装の薔薇のような赤さが薄暗いこの場所でも鮮やかだ。

あまりにも唐突かつ、魔法機動隊(マジカルフォース)が運用したとニュースにも取り上げられていない機械兵器にその場に居合わせた車掌ですらあっけに取られていると、頭と動体が一体化した機体の顔の部分にあたるスートブラックのモノアイがついっと動く。

 

『乗客は無事ですか』

「え!?あぁ、はい…」

 

機械から発せられたのはスピーカーを通してくぐもった若い少年の声。腰に下げたレイピアといい、重厚な装甲といい、物々しい見た目にそぐわないそれに車掌が驚きながら返事をする。

 

『わかりました。もうしばらくで賢者の島の魔法機動隊(マジカルフォース)が到着します。それまでどうかこの場を動かないように』

「は、はい!」

 

そして1つ目は次に3人をとらえた。

 

『そこの3人、助けが来るからって気を抜かないように!もっとしゃきっとおしよ!』

 

そんな檄を飛ばすと足のホイールを逆走させ、ぐるりと回って元の道を戻っていく。

 

「…は?」

「なんかえらそーなヤツだったんだゾ」

 

エースとグリムが首をかしげる中、

 

「……」

 

デュースだけは人型の肩に描かれた紋章に気づいていた。

あれは――。

 

 

       

 

 

この路線を含めた一帯の地下鉄では、全ての電車の運行を見合わせるという大事件が現在進行形で起きている。損害賠償はどこへ求めればよいのか。

クロウリーが仮説本部の設営された駅のホームへ降り立てば、モニターから顔を上げた機動隊隊長がはっと姿に気づいた。

 

「お待ちしておりました、ディア・クロウリー殿」

「お邪魔しますよ。早速ですが、状況は?どうやら下手人の姿が見えないようですねぇ」

「ええ。流石、大魔法士ともなれば残留魔力でわかりますか。17時35分発の列車の2両目までを喰らった姿が確認されているのですが……」

 

事件発生当初のカメラ映像を確認すれば、見覚えのある三人組が衝撃に見舞われ、巨大すぎて黒い影としか判断できない何かに食われるギリギリだったことが分かる。

 

「ふむ…。確かこの路線は、南西の廃線区画までつながっていましたよね?そこに逃げ込んだ可能性は?」

「十分にあり得ます。しかし、他にも今は使われていない線路がありますので」

 

現在の映像に切り替えれば、要救助者を発見し救助に当たっている隊員の姿があった。一先ずは安心といったところ。

しかし、廃線と決め打った結果手薄になったここを襲われては元も子もない。

 

「そうですかそうですか」

 

この場におけるクロウリーは、作戦に参加している学園の生徒たちの統率――司令だ。

最終的な決定は賢者の島の魔法機動隊(マジカルフォース)隊長が下す。

 

「さて、どうしたものか…」

 

そんな彼が逡巡していると、電車がホームへ入って来る際に巻き起こる突風にも似た風を纏って、山吹色の機体がトンネルの闇を突き破り現れる。

ぎょっとした周囲と比べて落ち着き払ったクロウリーが近づくのを無視して、飛行形態から蒸気を噴き上げつつ人型へ変形して着地。まだ白く煙ったままなのに、ほとんど間を開けずにガコン!とモノアイのある前面が跳ね上がった。

 

「一帯は探しつくしたが、化け物の姿は見当たらなかった。…チッ、かくれんぼは性に合わねぇ」

「お疲れ様です、キングスカラー君」

 

狭いコックピット内からホームへ悪態をつきながら軽く飛び込んだレオナへ自分的にはねぎらいの声をかけたつもりのクロウリーが鬱陶しいと言わんばかりに睨まれる。しかし気にせず話をつづけた。

 

「ところで、他の寮長たちは?」

「リドルの事ならそこのヤツが知ってんだろ。他は知らねえ」

 

レオナが設置されたベンチにどっかと腰かけ、手の空いた隊員に水を要求する。

運動時と同じく一本に結んだ髪だが、服装はいつもと違う。それを含めて窮屈で仕方がなく、ひと眠りとはいかなくとも膠着状態の現状に休憩を挟みたいらしい。

 

「…これは監督生くんの帰りを待つしかないようですねぇ…」

「アイツを待つより、廃線区画まで直接行った方が早いだろ。どうせそこだ」

 

ペリドットの瞳が一瞥する。見てきたのだとすれば、残りの寮長の行動はだいたい予想がつく。

 

「背後の安全確認は重要でしょう?」

「めんどくせえな」

 

渡されたミネラルウォーターのボトルを遠慮なく開けて一口煽った。

 

これ以上レオナから情報を引き出せそうにない。

クロウリーは監視カメラの映像を映すモニターの横に設置された各機の位置を示すレーダーを見て、「ふむ」と考えを巡らせた後、コツンと杖で硬質な床を叩いた。

通信機のスイッチが入り、

 

「全員へ通達です。今すぐ戻って来てください」

 

機動隊員が止める間もなく言う。

 

 

 

 

線路内にカラフルな機体が計7機並び立つ。そのうちの青い機体だけハッチが閉じたままで、中のパイロットも出てこないのはもはや通常運転だ。

モニターのある場所より少し離れた場所、レオナが座ったままのベンチの周りに集合したナイトレイブンカレッジの生徒たちがそれぞれの報告を終え、学園長の指示を仰ぐ……というより、最初からこのカラスに頭としての力を信じていないので、どうするのかを自主的に話し合っている。

 

「まさか、エースたちが巻き込まれていたなんて……」

 

自分の寮生が間一髪のところで助かっていた事実を知って青い顔のリドルが、あんな檄よりもっとかけるべき言葉があったんじゃないかと片手で肘を抱え、指を口元に宛がって呟いた。

 

「でも無事でよかったな、リドル!監督生!」

「ほんとですよ。人生何が起こるかわかったもんじゃないですね」

 

無機質で圧迫感の強いホームにカリムのからからと開放感のある励ましが響き、監督生が深くうなずいた。

 

「…で、問題は如何に相手を見つけるのかよね。線路図を見たらわかるけど、かなり入り組んでる」

『ヴィル氏の言う通り、ハツラの薔薇の迷路もびっくりの入り組みよう。地下鉄工事は無計画に進められたんでしょうなぁ、いざ運行を始めたら使わない線路が山と出たのが見てわかる』

 

通常の図面では隠されていてわからないが、イデアがどこからか見つけてきた地図では詳細にトンネルのありかが示されている。プリントアウトされたそれへ、「今アタシたちがいるのはここ」とヴィルがペンで印をつけた。

 

「なんて無駄が多いんだ…!工事費だって際限がないわけじゃないでしょう!?」

 

遠回りのルートや明後日の方向に延びていくルート。明らかな無駄にアズールが我慢ならず声を上げる。

 

「そうだな…。どうしてこんなに掘りまくったんだ?」

「賢者の島は辺鄙なところだが、星のツボという地脈の結束点…つまり、魔力の力場の直上にある。魔法石の鉱脈か、はたまた魔法暦に残る大発見か…どちらかを引き当てれば儲けものだったんだろう。当時の権力者にとってはな」

『利権乙』

 

カリムの疑問にレオナが簡単に答え、ぽつりとイデアは言い捨てた。

 

「それで、この無駄なトンネルのどこかに潜んでいる可能性が…っていう話ですよね。まぁ、どう見ても南西にわちゃわちゃ固まってる使われてない区画が怪しいですけど」

 

監督生が指で現在運行している線路より離れた箇所にある一角を丸くなぞる。

 

「嫌な感じがして、アタシがイデアとレオナをつれて見に行った方面よね」

『あーね、ドス黒い魔力の波長で一瞬計器が狂った場所ですな。まぁ、ゲームのセオリー的にはそこ』

「だが、そこ一点に攻め込んで背後がお留守になるのは危ねぇ…。だよな、クロウリー」

 

レオナに急に話題を振られて「あぇ!?そ、そうですね!危険です!」と微塵も聞いていなかった学園長が返事をした。

そんな様子に監督生が肩をすくめ、アズールは眼鏡の位置を直す。

 

「だったら、何人かここの守りを固めて、残りの全員で奥に行くのはどうだ?」

「いい考えだね、カリム。救助者の手当てなどの手伝いもできるだろうし」

「ありがとな!」

『…それだと、もしここで戦闘になったら逆に危ない希ガス。機体の大きさ的に動くのもやっとだし、相手は電車を食いちぎれるほど強大で巨大ですぞ?』

「あ、そっか…」

 

イデアの指摘通り、もし非戦闘員がいる状態で戦いになれば被害は確実。それほどまでに地下鉄の狭いホームは戦いに向かない。

カリムの案に同意したばかりのリドルは眉を吊り上げ、”じゃあ何か代替案があるんですか?”と問い詰めようとすると、監督生が「あの、提案があります」と口を開いた。

 

「まず、救助者の安全の確保。それからここにつながるようなトンネルを魔法障壁とかで封鎖して、廃線までの一本道を作る。そうすれば相手だって簡単にここまで来られないと思うんですよ」

 

リドルがくっと言葉を飲み込む。監督生の提案は、障壁を作るのを機動隊にまかせて出来るだけ大勢で本命を叩くという作戦だ。

しかも、機動隊が展開する魔法障壁はただのお守りじゃない。対魔獣捕縛用魔法障壁を設営するための魔道具は魔法機動隊(マジカルフォース)の常備品だったことを、監督生は知っていた。

 

「機動隊が障壁を作る前に先行班が露払いをします。敵が奥にいるとはいえ、尋常じゃない魔力に惹かれて湧いた連中もいましたし」

 

リドルだけがあの電車に到達した理由は、勿論この付近の確認に人員を割いていたためだが、少なからず魔力に呼応した魔獣が出現し戦闘になったからでもある。

説明しながら監督生が、「ここと、ここ、あとここ…」といった具合に廃線までの最短ルートと重なって、障壁を作るべきトンネルの入り口へ8か所にのぼる印をつけていく。

 

「機動隊による魔法障壁がある程度進んだら…いよいよ本隊が突撃という寸法です。先に本隊が行くと、私たちの魔力に影響を受けた魔獣が狂暴化してしまうかもしれないので」

「ここの安全は重要だけど、アタシたちに降りかかる戦闘による消耗のリスクも避けるべき…。カリムの案を活かしたいい作戦じゃない」

「おお、すげーな監督生!これなら戻ってくるときに迷わないし、オレもいいと思う!」

「迷う前提なんですね、カリムさん…」

 

作戦の説明を終えた監督生はちらりと顔を上げ、天才司令塔と名高いレオナの顔色をうかがう。女性の――特にこういった時における監督生のしたたかさやバネを買っている相手は「好きにやってみろ」と言った。

閉じこもったままのイデアも異論はないらしい。

 

「じゃあこれで行きましょう」

 

そして、所在なさそうにしていたクロウリーに機動隊への協力を頼むように言うと、作戦開始の合図となる救助者の到着を待った。

 

 

       

 

 

「ッ、らぁ!!」

 

レオナのクローが四足歩行の瘦せこけた獣を捕らえてコンクリートへたたきつけ、短い悲鳴を上げたそれに銀のナイフが3本追い打ちをかける。

 

「急に活発になった…。あの子が予想した通り、こっちの動きが読まれているのかしら」

「そう?魔力に反応しているのが現実的かと思われ」

 

ついさっき4か所の封鎖を終えて本隊へ突撃の合図を送ったばかりなのに、あまりにも相手の動きが速い。

ナイフを補充しながらヴィルが言うのに、イデアは周囲の敵性反応をレーダーで確認しながら答える。この近くに反応はないが、ほの暗い奥から風鳴りか咆哮かどちらのものかわからない呻きが聞こえてきた。

 

「どっちでもいいだろそんなの。あと半分やりゃあこっちの仕事は終わりだ、とっととやろうぜ」

 

獲物が完全に動かなくなったのを確認したレオナが爪にこびりついた血を払う。

 

「……そうね」

 

魔獣の血が黒く見えるのは光の加減か、ここ自体色に乏しいため感覚が狂っているのか。あまり美しいとは言えない戦闘の後の惨状に、眩暈にも似た疲れを感じたヴィルはふっとモニターから目を離して息を吐いた。

 

背後のことは心配せず奥へと進む。

魔法障壁を作る機動隊を先導する班に振り分けられたのは、レオナ、ヴィル、イデアの3人。血気盛んな2年と違って3年は、”汗水垂らさず自分の思うように現場を作り出すこと”が重要なもので、この前座扱いには誰も反論しなかった。

 

「……ここか」

 

レオナが立ち止まり、地面を照らしていたライトを横へ伸びるトンネルへ向ける。それが闇に紛れた黒い何かが蠢くのを露わにさせ、身構えた。

――来る。

 

「ヴィル氏!」

「何!?……ッ!!」

 

気付いたイデアが声を上げ、振り返ったヴィルに飛び掛かった影。サルのようなそいつが持つ長い腕に組みかかられて、悲鳴も思わず飲み込んでしまうほど必死に振り払おうと前後左右に動き回ってもがく。

 

「チッ、まだいやがる!」

「あっ、ど、どうしよ」

 

この一体だけじゃない。ヴィルをとらえて味を占めたのか、同じような獣がレオナに飛び掛かろうとして薙ぎ払われた。

自分のせいで注意が逸れたと焦るイデアが魔導ビットでヴィルに張り付く獣を狙うが、不規則に動き回るので定まらない。正直、今の自分のエイムに自信がなかった。下手をすればヴィルに当たってしまう。

 

「くっ」

 

この状況で2人からの手助けがないことは分かり切っていたヴィルの額に汗が滲む。モニターは全てこの醜い獣で埋め尽くされ、機体の上腕にある左右に設置された操作グリップもギリギリと折れそうなぐらいに握りしめて抵抗しているが状況は好転しない。

ホイールがギャリギャリ悲鳴をあげても一向に振り払えず――やがて縺れて仰向けに倒れ込んだ。

 

「おいカイワレ!まずは自分の心配をしろ!!」

「ヒッ、は、ハイ!」

 

地面の砂利と鉄塊が衝突し擦れる嫌な音にイデアがいよいよ撃とうとするも怒鳴られて暗闇へ向き合う。自分を狙っていた獣がレオナのフレイムブラストで燃え尽きていった。

その間にヴィルが自分にのしかかっていた獣とどうにか位置を入れ替えて、抑えつけるようにまたがる。両手のナイフを逆手持ちにし、魔力を込めると機体と同じ紫紺の輝きを放つ。

そして――力の限り振り下ろした。

 

「最悪!」

 

吹きかかった黒い血でなめらかな紫が汚れ、ザクリと肉を断つ感触が生々しく手に残る。全てへの悪態は獣の耳障りな断末魔と被って搔き消えた。

獣はぐったりと動かなくなって、血だまりがじわじわと地面に染みる。

すぐに2人の援護に回らなくては…そう考えても、肩で息をするほどの腹の底からぞわぞわせり上がる命の危機への恐怖に背筋が凍って何も言えない。

 

「おいヴィル、終わったんならこっちを手伝え!」

「…命令しないで、レオナ」

 

べったりと貼りつく前髪を軽く流してから、再びナイフを補充した。

 

イデアのビットが青い光線で2体撃ち抜き黒い飛沫を散らす。獣の血と表現していたその粘質の液体は――誰も口にしなかったが、おそらくはブロットだろう。

ずるずると湧いて出る獣の数も減って、一息ついたときに隣へヴィルが並んだ。普段であればその輝きに圧倒されてしまうが、今はこの鋼鉄の鎧越しなので普通に話すことができる。

 

「さ、さ、さっきは、ごめん」

「別にいい。さっさと片づけてシャワーを浴びたい気分なの」

 

また一体、ナイフによる見事なヘッドショットが決まった。

ヴィルの投げナイフは映画撮影の時に培ったスキルだそうだが、実戦における技の数々は購買のサムから教わったらしいとか。何があったのかはイデアでさえよく知らない。

 

「そ、そそ、そうですか、はい、す、すみません」

「なんで二回も謝るのよ…」

 

それに、話せると言っても普段そんなに顔をあわせない相手と意思疎通ができるわけなかった。

 

「お前ら下がってろ」

 

頃合いを見計らって、低く呟いたレオナの手元に魔力が集中する。

何をしようとしているのか察した2人が巻き込まれないよう後ろに行ったのを見て、獣どもが何も知らずこれ幸いと距離を詰めてくるのに詠唱する口元を吊り上げた。

 

王者の咆哮(キングス・ロアー)!」

 

魔法を纏った黄金の爪痕が獣を切り裂き砂塵に還す。何が起きたのかを理解させることなく、後に残るのは静寂と地下特有の冷たい風のみ。

 

「……終わったようね」

「はぁ、あと3か所…」

 

機動隊と入れ替わるように元の通路へ戻り、障壁を展開するのを見守る。

 

「3か所なら、それぞれ分担してやった方が手間が省けるな」

「レオナ氏はタフだからいいけど、拙者みたいなモヤシにはキツいですぞ」

 

ユニーク魔法を撃ち、その爪であまたの敵を引き裂いてなおこんなことが言えるのは、イデアの言う通り他人と比べて――勿論種族差も踏まえて――レオナがタフだからだ。

だが、イデアの保有する魔力量や戦闘におけるセンスは、搭乗する機体が”高機動型試作機”で扱いが難しいことは想像できることから、簡単に卑下していいものじゃない。

 

「はっ、口先だけはご立派なことで」

「…何?そんな安っぽい挑発効かないけど?」

 

だから鼻で笑い飛ばす。売り言葉に買い言葉。

イデアのスイッチに手が掛けられているのに、この場には唯一仲裁しようとするカリムや監督生はいない。

 

「アタシを危険に晒して、カリムの提案に文句を言って?…中々大層なことしてるじゃない」

 

と、ヴィルが畳みかければ、あんなことがあった手前「そ、それは……」と勢い弱って一歩下がった。

突然驚かされた程度でどうということはなく、ネタにできるだけの余裕はある。…世界的俳優ヴィル・シェーンハイトにそれぐらいのパワーはあってしかるべきだ。

 

「…う、わ、わかったよ!分担して敵を倒す!で、機動隊を誘導する!それでいいんだろ!?」

「最初からやる気出せ」

「全く…」

 

ふと見れば、ちょうど展開が終わったらしい。さらに奥へ進もうと足を向けると――。

 

「あ、高速で接近する反応4つ。……監督生氏たちだね」

 

イデアが言い終わるや否や、黒、赤、白、臙脂の順で鉄の塊が空気を切り裂きながら飛び去っていった。

 

「もうここまで来たの?早いわね」

「乗客にはあの1年どもがいたからな。気合い入ってていいじゃねえか」

「あら、アンタがそんなことを言うなんて珍しい」

「…んだよ」

 

自分たちの役目はほとんど終わったようなものかもしれないが、茶化すようなヴィルの言葉をぶっきらぼうに投げ捨てて地面を蹴った。この先にはまだ魔獣が潜む可能性があるし、言われたことをやらなかったらあの草食動物がうるさい。

変形した機体のスラスターが黄色の噴射炎を吐き出して瞬く間に姿が見えなくなる。

 

「くぅ~~~!!やっぱ直立状態からの変形飛行は男のロマンですな~~wwフヒヒヒwwww」

「何処まで行く気なんだか。遅れないで、イデア」

「あ、あ、ハイ」

 

紫もそれに続き、青が戸惑いながら後を追う。

 

 

 

 

レオナたちと一瞬再会して以降途中で何体か魔獣と遭遇したが全て無視して、この廃線区画で最も広い場所――車庫へとたどり着いた。当然のことながら最近人の手が入った形跡なんてないし、少なくとも5年以上放置されているようだ。

もはや朽ちるに任せるといった具合に風化した廃線内が何故崩壊しないのか――それはつまり、ここに棲んでいるものがいるということ。

 

「でっか……」

 

てらりとした灰色の表皮は見るからにぶよぶよとしていて、黒い血管が浮いている。カリムが思わず声を漏らすほどの巨体が、埃塗れの魔石灯の薄明りにぼんやり映し出されていた。

 

「あの大きさなら、線路内を動くだけでもやっとだろうに…」

「そうですね。今までよく大人しくしてられたなぁ、っていうか最近になって生まれたモノという可能性が高そうだけど…」

「話すのは後にしませんか」

 

アズールがリドルと監督生に呼びかけたのをきっかけに、うぞ、と肉がうねる。嫌悪感を抱くような光景はモニター越しにはゲームの画面のように見えるが…全て現実のもの。

もしこんな化け物を放置すれば、次は何が起きるのか想像もつかない。なんにせよ、ここで討たねば学園どころか島が滅ぶ。

 

のっぺりとした顔を向け、下部がメチメチと開く。見え始めた全貌はミミズか幼虫のようだが大量のかえしのような牙をびっしりと張り巡らせた口腔内はどれでもない。

ない目でこちらを視認した刹那、甲高い女性の悲鳴のような鳴き声を上げた。

 

「っ、レオナ先輩がいなくてよかった!」

「獣人には苦しいだろうね」

 

耳を塞ぎたくなるほどの不快な音に負けじと監督生が腰の小太刀を二本抜きざまホイールで駆け出し、それに続いてリドルが火球で水っぽい皮膚を焼き払った。

ゼリー状の肉が溶けて露になった筋肉を切りつければブロットが飛び散って、素早く動けない巨体が力が働くままにごろりと転がる。

NRCでは見た目が大人しく可愛らしいヤツから命知らずで好戦的なのか――そう言われればそうとしか言いようがないコンビネーションに、アズールは「やれやれ」と肩をすくめた。

 

「よし、支援するぜ!」

 

カリムが掲げたパーツが薙刀へ変形し、4機を温かい光で包み込む。機体のパフォーマンス向上とダメージを低減するバリアだ。

 

「ありがとうございます。では、抜かりなく」

 

アズールが寮服のコートを模した肩の盾状のパーツの裏に手を伸ばすと、金と銀の魔導リボルバーを取り出して構え遠慮なく引き金を引く。実弾ではなく魔導エネルギーの弾が分厚い皮膚を抉って貫き、逃れようと仰け反る相手に距離を詰める。

 

しかし、どうにも手ごたえがない。

最初に異変に気づいたのは、鋭くレイピアで切りつけていたリドルだった。

 

「全員下がって!様子がおかしい」

 

あまりにもこちらが一方的な優勢。ただえさえ鈍い動きが、攻撃によってほとんど動いていないように見えてきているのは――単に弱ってきているからじゃない。

リドルに言われて手を止め、ゆっくりと後ろに下がる。

線路やコンクリートに広がるブロットが風もないのに波紋を生み出し、せり上がった影が倒してきた獣の形へなっていく。

 

「…数が多い…!」

「待ってください」

 

インクの水たまりの数だけ次々と魔獣が生まれる。そんな異様な光景に監督生が刀を握り直したのをアズールが止めた。

 

「…どうやら僕たちに気づいていないようですよ」

 

そのどれもが自分たちに背を向け、動かないブロットの主の方を向いているのだ。

敵性反応を見なければ気配すらせず、まるでそこに存在しないかのよう。やがて大群が操られるようにゆらゆらと前進し始める。

化け物が一番近くに来た獣にあの筒状の口を開き、そして――。

 

「…た…べた」

 

カリムがらしくない細い声で言った。

 

頭から丸呑みにされ、ぐちゃぐちゃと粘液を擦り合わせるような不快な音と分厚い肉を通して籠った悲鳴が外へ漏れ出ているのが、あの中で何が起きているのかを想像させる。細かい牙で鉄だろうが肉だろうが細かくそぎ取られ、消化され、あの体の一部になってしまう……。

自分の身に起こるのも恐ろしいが、もし、犠牲者の中にあの馬鹿トリオがいたら……考えてしまった監督生の腕が震えている。「およしよ」とリドルが小さく窘めたが、その声にも怯えが滲んでいた。

……摂食行動のスピードが速いのか遅いのかわからない。立ちすくむ間に最後の一匹が飲み込まれ、ゴクリと消えていった。

 

「なんて…ことだ…」

 

悍ましい共食いに青ざめた顔のアズールが口元を抑える。

 

そのうちにでっぷりした体がボコボコと沸き立ち、鋭いものが皮を突き破って天井まで伸びていく。

次々と生える黒い蔦はそれだけで巨木の幹ほどはありそうかというのに、何本も絡み合って一つの塊になっていった。その中心が胴体とするなら上には頭らしいものが出来ているし、中間あたりから左右に枝分かれして地面を撫でるのは腕といったところか。

鋭い爪まで持ち、まるで冬虫夏草のように出来上がった怪樹(トレント)が頭を天井にこすりながら、じろりとこちらを見下ろして地響きのような雄叫びをあげた。

 

「サイエンス部に見せたら手を叩いて喜びそうですね?」

「この期に及んでとんでもないことを言うね、監督生。……来るよ!」

 

地面が突き上がって蔦が襲い掛かる。

第一波は二手に分かれて避け、第二波は切り落としたり燃やすことで対処。

 

「動きを封じる!」

 

カリムが手に仕込んだウェイトチェーンで怪樹の左腕を縛り上げた。

ギリギリとしなる腕、思いのほか持っていかれそうな相手の力強さ。ぐっと張った鎖を握り、機体の全重量とローラーの逆回転で踏ん張る。

 

「カリムさんが抑えているうちに!」

「はいっ!」

「言われなくても…!」

 

自分に向かってきた蔦を壁を蹴って避けた監督生が、そのまま走り抜けて距離を詰め小太刀へ持ち替え、力を溜め込む。狙いはカリムが抑え込む腕だ。リドルはそんな彼女の邪魔をする蔦を片っ端から切り払い、焼き焦がす。

 

「くらえ!!」

 

監督生が叫びと共に小太刀を振りかぶって交差した白い剣筋を飛ばす。腕の付け根へ直撃し、腕をもぎ取られた怪樹が唸り声をあげて、相反する力を失ったカリムが後ろに倒れた。

安心するのはまだ早い。

失った腕を形成しようと再び肩から蔦が何本か生え、今度はアズールめがけて迫る。

 

「っ」

 

避け、時に地面に突き刺さったそれを蹴ってスラスターを使って高く飛び上がった。叩き潰すべく振り上げられた残りの片腕をリドルの火炎魔法が防ぐ。

アズールが飛び込んだのは化け物の目の前。銃口を向け、パールグレーの魔法陣が横一列に展開し、エネルギーが収束していく。

 

「穿て!!!」

 

一斉砲火。

爆発音と煙が巻き上がって、綺麗に決まった渾身の技に満足しているのもつかの間――アズールを背後から蔦が貫いた。

 

「アズール!、うわぁっ!!?」

 

カリムが助けようと杖に魔力を込める。しかし、アズールを貫いた蔦がそのまま強かに打ちのめして壁にめり込むほど吹き飛んだ。

 

「2人とも!!」

 

一気に2人も失って動揺しつつも外部の先輩たちへ連絡を取ろうとしたが、ノイズが酷く繋がらない。

リドルが”魔力異常”の文言をウィンドウから見つけた時にはもう遅く、重くのしかかる周囲の魔力が機体を蝕んで上手く動かせなくなっていた。

 

「オレは…大丈夫……だ、だけど…アズールが……!」

「動けるかい、カリム!」

「ダメだー…」

 

機体のあちこちから蒸気が吹きあがり、どのスイッチを押しても動かない。不明瞭な視界でも、いつもないものがモニターを汚しているのがわかる。……血だ。

幸いこの魔力異常で最低限の通話機能だけしか作動しないらしい。二人には黙っておこう。

 

「アズール先輩、アズール先輩!起きてください!!」

 

監督生がなんとかアズールを助けて端に寄せて呼びかける。しかしぐったりしたまま返事はない。

最悪の事態しか浮かばない……。「まさか、」と言いかけて残りは口にしなかった。

 

「監督生…、やるしかないよ」

「…はい、リドル先輩」

 

まだ戦いは続いている。

 

 

       

 

 

『魔…ガガッ…が上昇………ザーッ…発生!?戻っ……い……ぞ!!?』

『学…長……ザリ…今…子たち……繋がっ……!!?』

「あの、通信障害が発生していましてですね!」

『……の五の言っ……か!』

『ちょ……レオ…氏やめ……』

 

ブツン。

ノイズ交じりの通信が3年生の間でも何かしらのトラブルが起きたことを予想させる途切れ方をし、クロウリーは無言でうんともすんとも言わない機器のスイッチを切った。

 

「ふーむ……。まぁ、大丈夫だとは思うのですがねえ」

「なにがだゾーー!!!」

 

類を見ない大ピンチだというのに、なぜか落ち着いた相手へグリムが爪を立てる。

 

「そうです!何なんですかあれは!」

「魔獣ですよ。普通より少しばかり厄介な」

「…で、なんでそんな普通より厄介な魔獣と寮長たちが戦ってるんっすか。しかもあんなロボまで使って」

 

デュースとエースも食って掛かった。

目の前で大事故に遭って精神的に参っている乗客もいる中こんなにも気丈でいられるのは、デュースがあの赤い機体の肩にハーツラビュルの寮章が描かれていたことを言ったからだ。

 

「大丈夫なはずないんだゾ!」

「そうは言ってもですね、グリムくん。こちらからじゃ手の出しようがないんですよ」

「…なんだよそれ、あの魔法機動隊(マジカルフォース)でも手も足も出ないってことっすか!?」

「奥に行ったって言う監督生たちは……そんなやつと……?」

 

役職持ちだけでなく、なにより監督生もあれに関わっているとなれば、なおさらマブとして引き下がるわけにはいかないのだろう。

 

「……わかりました、君たちにはお話しましょう」

 

そんな3人が今回の事故に巻き込まれてしまった以上全くの無関係じゃない。

熱意に負けたクロウリーがとつとつと語りだした。

 

 

 

 

弾かれたレイピアが地面に突き刺さる。

刃こぼれしていても柄に収まった魔法石はまだまだ赤い。なんとか手を伸ばして柄を握ろうとするが、

 

「あ"っ!!」

 

蔦に横薙ぎにされて吹き飛び転がる。

 

「リドル先輩!」

「ボクは…平気だ。なんとかして倒さないと……!」

 

革製のシートに背中を強打し、後頭部がずきずきと痛む。視界もぼやけて監督生が呼ぶ声ですら遠くに聞こえ、さっきの一撃で唇を切ったらしく血の味が乾いた口の中を占めて不愉快だ。何かしらの機関に異常をきたしたらしいランプが明滅するがそれどころじゃない。

 

「ンのやろっ!!」

 

まだ動ける監督生が駆け、打ちのめそうとする蔦に刀を突き立て断ち切る。その間にも別の方向から伸びた蔦が装甲を狙うがぐるりと回転して避けた。

決定的な一打を加えられなくとも、リドルが立て直す時間を稼ぐ。持久戦なんて圧倒的にこちらが不利だと最初からわかっている。

 

「カリム!外との連絡は!」

「…ダメだ」

 

応急処置に使うには高すぎる白い布地のターバンが赤く染まったカリムが短く結果を伝えた。

レイピアを拾い上げ、「そうかい」とリドルは諦めのつかなそうな声色で返す。

 

「きゃッ」

 

とうとう蔦が監督生の足を捕まえ、宙に投げ飛ばして地面にたたきつける。一瞬コックピット内のモニターや照明が消えるほどの衝撃は鉄の塊らしくなく一度地面で跳ねたことからも想像できた。

なんとか立ち上がろうと軋む体を動かして前を向く。だが、そこにあったのは蔦ではなく怪樹の爪。

 

…もうだめだ。

 

いつの間に目の前まで迫ってきていたのか、振り下ろされるそれに目を瞑る。しかし、メキメキと金属にめり込む音がするのに自分には痛みもなかった。

そのかわり、赤い機体が立ちふさがって――。

 

「せ、先輩…?」

「この魔力異常のせいで…こっちはろくに動けやしないんだ…!」

 

爪が貫通した左腕がゴキン!と異音を立てて小さな爆発を起こし黒い煙と火花を散らす。「ぐっ」と機体の揺れに小さく呻くが、ここまで深々と突き刺してくれたのは都合がいい。

 

「はあぁぁっ!!」

 

右手で握りしめたレイピアを思い切り怪物の腕に突き立てた。怪物がたまらずリドルを解こうと振り回すも食らいついて離れない。

さっき打った背中の痛みや眩暈はまだ後を引いて、いよいよ意識が遠ざかりかける。…まだ課題が終わっていないんだ。このボクが課題の未提出なんてルール違反を犯すわけないだろう。

そんなわけで諦めるわけにはいかない。それに、機体の心臓である魔導機関が止まりかけていることは分かっていたから、せめて。

 

「できることなんて、このくらいだろう…!!」

 

今出せる魔力全てを注ぎ込み、薔薇色の奔流が蔦が絡み合ってできた腕をさかのぼっていく。

起爆剤としては十分。全出力を振り切って機体の予備エネルギーが作動し、モニターだけが煌々と明るいコックピット内でリドルは薄く笑って――唱え慣れた炎魔法を囁いた。

 

「リドル先輩!!!!、ッ」

 

耳を劈く爆発音。目の前に落雷が起きたような衝撃に思わず目を閉じる。

次に監督生が目を開けた時広がっていた光景は、あたり一面火炎地獄と化した挙句スプリンクラーが作動し土砂降りの水をばらまいている他、返事を寄越さないアズールと――爆風で転がされたままのリドル。

 

「嘘だろ…なぁ…!」

 

カリムが必死に呼びかけても動かずそのままだ。

 

絶望的なのは、リドルが命を懸けて自爆を仕掛けたというのに相手がまだ生きているという事。

半身が吹き飛び心核の魔法石こそ剥き出しになったが、カリムにちぎられた腕の代わりの蔦がまだ残っている。

 

「ったく…、もう…!」

 

立ち上がって大太刀を握り、下段に構えた。

自分でもなぜ諦めないのか、どうして周りが諦めてくれないのか疑問まで浮かんできて笑える。

 

せめて膝をつくことができないのなら。

せめてこの場に、あと一人いてくれたら。

 

「どこほっつき歩いてんのさ、ツノ太郎…!」

 

 

 

 

 

 

――スラスターの音が、爆発音で遠くなった耳にも聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

カリムがふっと入口を向いたとき――分厚い魔力の壁を切り裂いて、この閉鎖空間に飛び込んできたのは鮮烈なライムグリーンの機体。

宙で人型に変形し、レール上をモノアイが左右に駆け抜けて現状を一瞬で把握した後に緑の落雷が怪樹を打ち据えた。澱んだ魔力と数多の命が凝縮された核にヒビが入り、その上に乗った頭が悲鳴を上げる。

 

攻撃魔法の強烈さに対し優雅に地面に降り立つその気品。

魔力異常に揺るがない莫大な魔力。

 

「……僕を呼んだな?」

 

マレウスのモニターが映すのはただ一人、自分を呼んだ友の姿。

 

「…ふむ、怪我をしているのか。アーシェングロット、ローズハートもあの姿ではもう動けまい」

 

何も言えず立ちすくむばかりの監督生を見て、魔導式とはいえ中身のわからないカラクリを修復することはできないマレウスがぽつぽつと言う。

 

「2人をアジームのそばへ。……帰るときにまとめて送ってやろう」

「ま、まって、ツノ太郎!ほんとに来てくれたのは、ありがたいんだけど、私まだ…」

 

やっと言葉を紡ぎ出す監督生。しかし、モニターの通信ウィンドウに出ている冷涼な瞳に後が続かない。

 

「…その後は下がっているといい」

「……、わかった」

 

言われた通りにリドルとアズールをカリムの隣に運ぶ。アズールの場合は貫通している蔦を無理やり引き抜いたので白い機体に大きな風穴が痛々しい。

 

マレウスはいつも通り静かだが、語気でなんとなくこの戦いに今の今まで呼ばれなかったこと、友が傷ついたことに腹を立てているとわかる。

ぐらつく樹状の敵へ向き合いふわりと体が浮いて、掲げた手で生み出す風魔法に雷の魔力が伴い、少しずつその幅が広がっていく。

 

マレウスほどの魔法士ともなれば、搭乗者の魔力を増幅させ強力な魔法の行使を容易なものにする機体の能力と、内臓された魔法石だけで十分な武器になる。

今の彼ならば――それこそ、天災の一つや二つ引き起こせて当然だろう。

怪物も目の前にいる本物の怪物(・・・・・)へ攻撃の手を緩めていないわけではない。ただ、蔦は全てマレウスを球体に覆う魔法障壁で弾かれ、ならばと包み込み圧し潰そうとしても雷撃に落とされているだけだ。

 

そよ風はやがて大嵐へと変わった。

内側で静電気が雷を引き起こし、外れかけていた天井の設備が巻き込まれて暴れまわる。

 

「……風よ、お前の力で万物を切り裂け」

 

そう告げて、軽くボールでも投げるような仕草で振り下ろされた腕。嵐が蔦を飲み込み、断末魔ですらも全てを巻き込んで粉々に砕く。

心核はとっくに破壊されて無力化したのに微塵も残さないつもりなのだと監督生が気付いたとき、マレウスが腕を横に振り嵐を打ち消した。

そこにはもう散々苦戦させられた樹状の怪物はいない。唯一言えるのは、徹底的に無にされるほどの何かがいた痕跡が残っているとだけ。

 

圧倒的な力を見せつけたあとに――なんでもないように、マレウスが振り返る。

 

「ありがとな、マレウス。助かったぜ」

「礼には及ばない。当然のことをしたまでだからな」

 

カリムに礼を言われてそんなふうに返したが、少し嬉しそうに微笑む。

 

やっと終わったんだ。

 

監督生はその事実を悟ると、ふっと体から力が抜けていくのを感じた。

 

 

       

 

 

「この馬鹿!そんな大怪我をして…!!」

「へへ…」

 

包帯を巻いたカリムが血相を変えて狼狽えるジャミルに対してバツが悪そうに笑う。

 

「とにかく、マレウスが間に合ってよかったな」

「副寮長全員で学園中を探しての。オンボロ寮の庭先で佇んでいたのをルークが見つけてくれたんじゃ」

竜の君(ロア・ドゥ・ドラゴン)のいそうな場所はだいたい把握しているからね」

 

各寮の副寮長まで集まったホームの一角には賑やかな歓談の時間が訪れていた。ここから少し目を外すと機動隊が撤収作業と、救急隊員による乗客の保護という光景が広がる。

 

「いきなり連れてこられて、”鎧を付けろ”と言われた。あとはローズハートたちが知る通りだな」

「あの場に来るまで状況をわかっていなかったんですか…?」

 

マレウスがいまだにピンときていない真顔なのはそういう理由があった。

 

”鎧”というのは機体のことを示し、”魔導式の強化アーマー”という設計コンセプトからきている。変形機構を備えているあたり、もはやそういうロボット兵器と言っても過言ではないが。

 

リドルが頬のばんそうこうを気にしがちにしながら驚き、「そういえば」とトレイが話に割り込む。

 

「リドル、その怪我どうするんだ?エースもデュースもこのことを知ってしまったし、ケイトにも……」

「……そうだね、話さなくちゃいけない」

 

通常、生身であれだけのことをすれば魔力の急激な消費によるブロット中毒やオーバーブロットを引き起こしかねないのだが、安全装置と内蔵された魔法石の許容量が足りたおかげで擦り傷程度で済んだ。

自分たちが戦いに慣れていないのではなく、普通ならば無傷で任務を終えられるはずが今回の事件が特殊すぎた。責任感の強さから、自分を支えてくれる友人を仲間外れにはできないとして今度の茶会で話すことを、トレイに言われて決断する。

 

「……」

「あらレオナ、どうしたの?顔色が悪いけど」

「お前んところの狩人、相変わらずだな…」

「そうね」

 

もう用は終わったと言わんばかりに上着を脱ぎ、ベストのボタンを外す。結局マレウスが助けに来たのなら、自分があれほど焦らなくても良かったという取り越し苦労に嫌気がさしたからだ。「おい!」と今回の出動のギャラをクロウリーと交渉するラギーに呼びかけて、上着を投げ渡した。

 

制服をモチーフにした燕尾服風仕立てのパイロットスーツは、肩に二か所ある魔力運搬用のチューブを接続するアダプタが特徴的で、個人別で機体と紐づいたワンオフもの。その証拠にそれぞれの制服の着こなしをある程度フィードバックしており、戦場においても美しさと学生であることを忘れたくないヴィルの肝いりのデザインだ。

ちなみに、機体の設計者であるイデアが提案したSFチックなスーツは着脱の特殊性から却下されてしまった経緯を持つ。

 

「バイタルスキャン完了。心拍数・呼吸共に問題なし。生命活動に支障はありません。――アズール・アーシェングロットさん、お疲れ様。もう動いて大丈夫だよ!」

「ありがとうございます、オルトさん」

 

機体ごと貫かれたと思われていたアズールは奇跡的にかすり傷で済んだ。とはいえ、脳震盪を起こして気を失っていたこと、割れたモニターの破片でいくつか裂傷を負ったことには違いない。壁際にもたれて座っていたが立ち上がり、軽く腕を回す。

 

「ああ、アズール…!とうとう死んでしまったのかと…うっかり葬儀の相談をフロイドとしてしまうところでしたよ」

「僕が生きていると確信しての行動だな?……まぁ、心配してくれていたのなら感謝しますよ」

 

いつも通りなジェイドとアズールの横を通り抜け、オルトは相変わらず出てこない兄の傍へ寄る。

 

「お疲れ様、兄さん!あとでモニターの映像をもらってもいい?」

『……どうして?』

「兄さんがどんなふうに戦ったのか、どんなにかっこよかったのか、シミュレートしてみたいんだ!」

『ごめんオルト、今回は兄ちゃんあまり活躍できなかった』

「そうなの?……わかった。兄さんが見せたくないなら、それでもいいよ。でも次はきっと見せてね!」

『りょ』

 

仲間たちが誰一人かけずに生きて戻ってこれた喜びが通り過ぎれば、どっと疲れに襲われて肩を落とす。そんな、みんなが楽しそうに話しているうちに立ち去ろうとする一人。

 

「おい子分、どこに行くつもりなんだゾ」

「げっ、グリム!」

「おいおい、オレたちほっぽって帰るつもりだったのかよ?」

「学園長から聞いたぞ、監督生」

 

監督生の足に縋りつくグリム。右肩はエースが、左肩はデュースが捕まえた。振り返るとむすっと機嫌の悪いエースが「どうして言わなかったんだよ」と文句を言う。

 

「いや、その、言ったところで信じてくれなかっただろうし」

「……確かに、…信じないかもしれねーけどさ。何も言わないまんまで明日会えなくなるほうが最悪じゃね」

「ローズハート寮長の事もあったし、生きた心地がしなかったぞ」

「ご、ごめん…」

 

寮長があの人型ロボットに乗って、魔法機動隊(マジカルフォース)や軍隊でも対処しきれない――最近になってニュースで騒ぎになっている事件で見かけるような――魔獣の退治や治安維持に当たっていること。それぞれの家から了承を得て活動していること。副寮長や片腕たちがその裏方を担っていること。彼らの安全上からこれは通常明かされない情報であること。そして、監督生が寮長たちをまとめる役目にあること。

 

クロウリーが話したことが全てとは言えないうえに、監督生はこれからも寮長たちと危険な任務にあたるかもしれない。

親友としては心配なところではあるが、それはそれとして。

 

「オレ様もあのでっけーロボットにのってみたいんだゾ」

「グリムは無理っしょ」

「無理じゃないか?」

「なんでだ!!!」

 

身近な人間が秘密部隊の隊長だなんてロマンがある。

グリムがイデアごとイグニハイド地下へ転送されていく機体を見送って目を輝かせ、二人に総ツッコミを喰らう。

 

「ボクもグリムには難しいと思うよ」

「イデアが言ってたんだが、寮長クラスの魔力がなければ、魔導機関に火を入れることもままならない代物らしいぞ」

 

そこにトレイを連れてリドルがやってきた。

 

「え?じゃあ魔力がない監督生がなんで動かしてるんっすか?」

「それは……」

 

エースの問いに対し、答えようとしたリドルの横で監督生が黙ったまま手のひらの上に赤い炎の玉を作りだしてみせる。ロウソクの火のようなとろりとした赤は何を燃やすわけでもなく、そのうち熱風と余韻を残して空気に掻き消えてしまった。

 

「……彼女には霊力という、魔力とは違う力が備わっているんだ。もちろん、まだ弱々しいけれどね」

「リドル先輩とか、寮長たちと比べるのが間違ってるんですよ。ああいうのを動かすことに長けてるってだけです」

「魔力がイマジネーションの具現化とするなら、霊力は物理的な働きかけ…と言ったところか。言っちゃなんだが、サイエンス部の端くれとしてはまだまだ興味深いよ」

 

闇の鏡の盲点、見逃した監督生の一面。もうすでに調べ尽くされ、彼女の機体の魔導機関には霊力との互換性を追加する機構が備わっているとトレイが付け足す。

3人が一斉に監督生の方を向いた。

 

「監督生!!!!!!」

「オマエどうして黙ってたんだゾ!!!!!」

「えっだって誰も聞かなかったから」

「そういうことは聞かれなくても自己申告しろっつーーの!!!!!!!!」

「ギャアアーーー!!ごめんなさーーい!!!!!」

「待てコラ!!!」

 

今度こそ怒鳴られて、バタバタ階段へ駆けていく。

リドルが「走ったら危ないよ!」と咎めるも、トレイは苦々しく笑うだけで、今日も元気な4人を何も言わずに見守っている。

 

 

 

 

 

賢者の島坑道戦 了


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告