ヒーローは殺しちゃダメだし、重傷負わせたらいけないので不殺で頑張ります~ヴィジランテさん~ 作:犬溶接マン
「ねぇ、
「違う違う。異能解放戦線じゃないって。あんなのじゃないよ」
「解放してくれるんだって。なにからって? 決まってるよ」
「運命から」
「こんなクソみたいな"個性"なんて捨ててしまいたい」
「毎日毎日自分が腐るぐらいに氷水のバスタブに浸かって、自分が燃える心配なんてしなくていい」
「そんな明日が欲しい」
「そんな」
「当たり前の」
「人間らしさ生き方をしたいんだ」
「やつを許さない」
「都市伝説? 違う、違う! 本当だ!」
「奪われたんだ! 一方的に理不尽に、奪われたんだ! 俺の手足が! 俺の人生が!!」
「俺の個性が奪われた!」
「なんでだよ! なんでだよ! たかだかちょっと万引きしただけじゃねえか!」
「滅茶苦茶困って苦しんでるところに、罵声ぶつけてきたやつを俺たちで叩いただけだ!」
「生きてるじゃねえか! 死んでないだろ?」
「おかしいだろ! やりすぎだよ! なんの権利があって奪うんだ!」
「返してくれ! 俺たちを返してくれ!」
「ようやくツキが回ってきたんだ! これから俺たちで人生のツケを取り返すんだ」
「増やすんだ、増やす、増えろ増えろ!」
「なんでだ! なんで増えない! 奪われた! おかしいだろ!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「誰だよ! あいつになんか俺を裁く権利があるのかよ!! 血も涙もないクソ野郎め!!」
「なにが自由だああああああああああ!! 俺の昨日を返せぇええ!!」
「超人社会」
「人類の約八割が大小あれども個性を宿している、これが今の人類社会だ」
「黎明期においては個性は異能と呼ばれ、人類社会は暗黒のどん底まで叩き落された」
「今の社会はそれからなんとか這い上がり、既存の法律に加えて、ヒーロー制度というルールによって個性強者同士のぶつけあいを行い、自浄作用を行っている」
「法案、ルール、職業倫理、待遇に見合った金銭報酬と優遇措置、そして名誉」
「日本だけでも交番の数よりも少ない事務所で、その数十倍以上のヴィランと潜在的ヴィラン候補に対処させている」
「マスコミ共はヒーローの飽和時代だと言っているが、毎日のように起こる事件や災害、救助に対してヒーローが一度も出動しなかった日などはない」
「人手が足りてないのが現状だ」
「足りているのはヴィランのクズ共だけだ」
「だから殴ってスカッとする相手に困ることはないが……」
「お前も相変わらずだな」
「ああ、わかってるよ。お前じゃないとは知っている、違う? ああ、大人しくしているさ」
「しばらくはな」
「……信じろよ」
ガオン。
圧縮し、削り取り、圧搾する。
どんな壁も、どんな障害も関係ない。
正義に勝てる悪がいないように。正しい道の前にはどんな壁も崩れ落ちる。
「そういうもんだ」
魔法のような気分で壁をくり抜き、警棒を向けてきた個性を使う度胸もない警備員共も手足から重要臓器までを圧縮して削り奪る。
それを成した人影は仮面を着けて、奇術師めいた衣装に身を包んでいた。
Mr.コンプレス。
そう名乗るヴィランであり、その個性の名は圧縮。
閉じ込め、圧縮し、奪い取る。怪盗に相応しい個性。
「まったく、つまらないもんだねえ」
入念な下調べに、的確に警報装置を無効化。
そして用意したルートから侵入し、真正面から抵抗戦力を排除。
血まみれの上半身が詰まった圧縮玉を放り捨てて、あまりの歯ごたえのなさに肩をすくめる。
コンプレスは虚無感めいたものを味わっていた。
殺人の咎? 全然ない。
そこらへんの積み木を蹴り飛ばしたところで、うーん脆いという感想しか抱かないように。
コンプレスはそれに対するストレスを感じていない、どうでもいい。
仕事に歯ごたえが欲しい?そういうわけでもない。
一々ヒーローと戦うのは負けるもしないが、面倒なだけだし、自分だけ命かけて頑張ってますよという面は見るだけで不愉快だ。
だからそういうわけでもない。
だとしたら。
(生きがいが欲しいってか)
――使命感。
ふっと頭に閃いた言葉がそれだった。
信念。野望。信条。そんな感じの単語が頭に浮かんでしっくりくる。
何かしたいものがあるはずだ。
そんな人生探しみたいな言葉と想いが、腹の淵から湧き上がってきて、思わず苦笑が漏れた。
マスク越しにクヒっと笑い、最後のターゲットを蹴り飛ばす。
悲鳴を上げる豚を踏みつけて、圧縮にて捕獲。あっけないものだ。
(世間様はヒーロー殺しで浮かれてやがるが、俺も何かしてえもんだ)
金と名誉による飼い犬にされている負け犬共に、天誅を下すヒーロー殺しの噂をふと思い出す。
(そうだな。コンタクトしてきてるヴィラン連合だったか、それに少しぐらい顔出してみるか。暇つぶしぐらいにはなんだろ)
裏社会のフィクサーから伝わってきたスカウトの話。
それに戻ったら答えて見るかと考えて、証拠隠滅のための発火装置をいれた圧縮玉を取り出そうとして。
「ヘイ。自由かい」
「!?」
振り返る。
ついさっきまで血路を開いてやってきたはずの通路。
そこの豪邸だったはずの屋根は圧縮の穴で開いて、月明かりの下に。
両手を左右に開いた怪人がいた。
「自由かい?」
全身真っ黒のスーツに、金属質の瓦めいた甲冑らしきパーツが人体の急所部位を守るように。
右手のナックルダスターに「1」、左手のナックルダスターに「2」、両足の膝のプロテクターに「3」と「4」
「随分と不自由そうだな」
そして真っ黒なドクロめいたヘルメットとそこから下に見える胸元に「5」という数字が白いペイントで描かれていた。
「なんだおめえ。ヒーローか?」
返答を期待したわけじゃない。
ただ気持ち悪い空気をかき消そうとして出した言葉だった。
それに怪人は意外なほど快活に答えた。
「バニッシュ」
「あ?」
「お前を自由にしてやるよ」
そして。
Mr.コンプレスはこの夜、消滅した。
その個性と共に。
自由になった