ヒーローは殺しちゃダメだし、重傷負わせたらいけないので不殺で頑張ります~ヴィジランテさん~ 作:犬溶接マン
「ふざけんな!」
「ふざけんなぁあああああ!!」
「ゆるさねえ! ゆるさねえぞ! くそが! 俺の個性が! 俺の手がぁあ!!」
「返せ! 返せ! 殺してやる! 邪魔だ! 出せぇ! こんなちんけな牢屋にいれやがって!!」
「俺を誰だと思ってやがる! 俺はMr.コンプレスだぞ!!」
「離せ! くそが! 畜生が! 個性さえあれば! 殺してやる! てめえらみたいなチンケな奴らが触れていいんじゃねえぞ!」
「おれは!」
「俺が稀代の義賊張間歐児の子孫だって知ってるかぁ!」
「てめえらとは血が違うんだよ! くそが!」
「離せ! 出せ、が、うぁ」
「あ、が!」
「ちくしょぅ」
◆
「Mr.コンプレス。本名
「それが今やただの留置所送りか」
通報から駆けつけたヒーローと共に逮捕したヴィラン。
それが尋問室の中で暴れだし、警官たちによって制圧される映像を痩せた男刑事が見ていた。
「……本当に
「本人はそう証言しております。といってもあの手ですからなあ」
「両手の複雑骨折に、指にかけては粉砕骨折か」
「いっそ切断でもしたほうが救いがあるというんですかねえ。ミンチみたいな状態だったと医者が言っておりましたわ、リハビリをしてもおそらく元のように手を動かすことは出来ないだろう」
「個性・圧縮。どんなものでも手の中に収まるサイズに圧縮出来る、が、その手で掴まなければそれも出来ない。無力化としては一利ある手段だ」
「一応手術とギプス処置はしておりますが、手などを使う個性だと上手く使えなくなることもありますからな」
「肉体連動型の個性だな。とはいえ記録にある圧縮は明らかに現象に分類される……使えなくなるとしたらトラウマか、イップスか」
「……どちらにしろ。このまま無個性のようでいて欲しいですな。強力な個性は拘束し続けるのも一苦労だ」
カメラを操作していた中年の警官はため息を一つ。
「さっさとタルタロスにでも打ち込んで欲しいもんだ」
凶悪な個性を思うがままに振るうヴィラン。
それに対する恐怖は襲われる一般市民同様、個性を使うことも許可されていない警察官にとっても恐怖の対象だ。
ヒーローと違って警官は、個性を剥き出しにする超人たちに、人の技術しか振るうことを許されていない。
異形型と呼ばれる取り外す事が出来ない個性でもなければ、人が人のまま超人と戦わされる。
そんなので勝てやしないから、警察はヒーローが無力化したヴィランを引き取る引き取り係でしかなれないのだ。
正義と自分の力で社会奉仕したいならば警察官ではなく、ヒーローになっている。
才能と個性に恵まれさえすれば。
「個性の喪失か。もしも、一時的なものでなければ――」
映像を見る。
喚き散らしながら、泣きながら、尋問室から数人がかりで。
個性も使われずに連れ出されるコンプレス。
「ただの無個性の
その姿に同情などするつもりはなかったが、憐れみさえ感じる。
「
痩せた刑事の男、塚内直正は無表情の眉をググっと歪めてそう呟いた。
決意を新たにする。
だがそれと同時に見逃せない事実があった。
「個性の無力化……そんなものがありえるのか?」
◆
月は見えなかったはずだった。
だが今は雲が晴れて、むかつくほどに明るい月夜だった。
「ふざけんな!!」
迫 圧紘――Mrコンプレスは理不尽に文句を叫んだ。
砕かれた仮面を抑えて。
止まらない鼻血に溺れながら。
目の前に起こった現象を、認められないと叫んだ。
「閉じ込めたはずだろ! 終わったんだよ! なのにどうして」
バリンと砕ける音がした。
彼の信じる世界が砕ける音だったのかもしれない。
「どうしててめえは出てこれる!?」
圧縮で閉じ込めたはずの怪人が、そこに立っていた。
殴りかかれ、蹴り飛ばされ、肋骨をへし折られながらも、掴んだ怪人の全身。
それを小石大に圧縮して、イッツイリュージョン、大勝利!
そのはずだった。
勝利を確信して、無様に圧縮されたボールを掲げて、嘲笑ってやろうとして。
――そこから飛び出した靴底に顔を蹴り飛ばされた。
ありえないことだった。
こちらの意思で解除しなければ誰も出られない圧縮。
それがコンプレスの異能、誰にも負けない無敵の個性、マッドイリュージョニストの種も仕掛けもないマジック。
歴代の血を、流れる正義の血を圧縮して作り上げた第五世代の【力】
「自由を知るには――」
なのに、その怪人は手を叩き、踵を鳴らした。
「まず不自由を知らないといけない」
SNAP! 両手の指を鳴らして、怪人は陽気に告げた。
「知るかよっ!!」
コンプレスが素早く手を振るう。
投げつけたのは真っ赤な玉、それがバニッシュの眼前で割れる。
溢れ、出血したコンプレス自身の血を圧縮し、解放と共に散らした血煙。
それにドクロめいたヘルメットが塗装されるのを見ながら、コンプレスは手を伸ばした。
(削り取ってやる! 手足を全てもいでダルマにしてやらあああ!!)
圧縮範囲の調整による【圧搾】
防御不能の破壊、極めれば空間すらもいずれその手の中に納めて見せる。
自慢の個性。
「余裕がなくなれば殺しにかかる」
それが弾けて、散った。
「なっ」
(発動しなかった? 違う、確かに手応えは)
思考が中断。
伸ばした手が踏み砕かれた。
「ぁああああああああああああああああああ!!?」
金属が仕込まれているのだろう靴底が、マジシャンの宝である手を踏んで、潰していた。
「つまらねえな」
怪人の靴底に力が入る。
骨が砕ける音がする、激痛が、神経が焼かれているように、絶叫が上がり続ける。
明らかに手が砕けるだけの痛みじゃなかった。
まるで神経まで引き出されるような。
「俺の個性を教えてやろう」
コンコンとヘルメットを叩き、分厚いジャケットの内部ホルダーから怪人が取り出したのは白紙のシールの張られた試験管。
「俺の個性は封印。【お前らの個性を奪って封じる事ができる】」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!?」
不自然に浮かび上がるコンプレスの血を一滴、試験管に入れて、蓋を閉じる。
その様子を絶叫を上げながら見ていた。見せつけられていた。
「お前から世間を自由にしてやろう」
「な゛に゛をぉ!?」
「ようこそ自由へ」
右手、左手、右足、左足、そして胴体。
5つの数字。
人間を象徴する五体、自由の象徴、逸脱した6のない――
「祝福なき不自由を楽しめ、人間らしく」
Mr.コンプレスはこの夜、消滅した。
その個性と共に。
自由になった。
これは呪いと祝福から解放する者の物語。
導入ここまで