油断や慢心が愚かかと問われれば、俺はこう答える……分からない、と……。
俺は油断や慢心というのは、いわば心の余裕から生まれ出るものだと考えている。油断や慢心をするということは、それだけその者の心にゆとりがあり、余裕があるのだ。
だが、生憎と俺はそんな余裕のある人間ではない。故に己が油断や慢心をするという行為が想像できない。そんな姿を見たら、自分を殺したくなるかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺は出勤してすぐにあるファイルを確認する。そこにはCP5の構成員すべての名前が記載されていた。
ただ、あくまで名前だけであり、それ以外の情報はない。このファイルはなにかといえば……簡単に言えば、ホビホビの実に対する対策だ。
ホビホビの実は、イカレた性能の悪魔の実である。ワンピースの世界には、一部単体でのパワーバランスがおかしい悪魔の実が存在する。ならば、ソレに対策は必須である。
まず、己がおもちゃに変えられるという部分にはほぼ心配はいらない。そこに直接触れるという工程を挟む必要がある以上……仮に原作におけるシュガーが、手を伸ばし俺の体に触れるまで残り1㎝という位置からスタートしたとしても、手が俺に触れる前に10回は殺せる。
だが、ホビホビの実の真の脅威はそこではない……最大の脅威は、おもちゃにされた人間の記憶が消えるという、信じがたいほどの力だ。
世界中にかつ複数の人間の記憶に及ぶという凄まじい規模の能力だ。だが、対策が一切存在しないというわけではない。
原作においてキュロスの記憶が消えつつも名前が伝わっていたり、銅像が残っていたりと……記憶は消せても、記録は消せない。
これに関しては、まぁ、当然だろう。これで記録まで消せてしまえば、それはもはや過去の改変という神の領域の力だ。
ともかく、記録は消せないという性質上、この俺しか触れていないファイルに『知らない名前』が書かれていたとしたら、俺はそれをホビホビの実の能力の影響とみなす。
俺は、俺の領域を犯されるという行為に凄まじい嫌悪感がある。俺の記憶を消すということは、俺から記憶を盗み出したということに等しい……想像するだけでも腸が煮えくり返る思いだ。
俺は別にドフラミンゴファミリーの行動に思うところはない。ドレスローザの支配でもなんでも、俺に関係のないところであれば好きにやっていればいいと、そう思う。
だが、ホビホビの実が俺に影響を及ぼした時点で、敵対したとみなす。即座に赴きシュガーを含めたドフラミンゴファミリーを皆殺しにするつもりだ。
それで記憶が戻らない場合は、別の能力者による影響と考えられる。その際には、探し出して必ず殺す。俺は俺から理不尽になにかを奪う行為を絶対に許さない。
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軽い組手を終えて、訓練場に倒れ伏すポチにドリンクを投げてやる。
「……ありがとうございます」
「休憩しておけ」
ポチに軽く声をかけてから鍛錬を再開しつつ思考する。ポチは思った以上の拾い物だったが、CP5に関しては、他にめぼしい者はいない。
無能だとは言わない。それなりに優秀な者も多いが、目を引く者はいない。四式使いの男は特に酷い……アレはプライドが高く、自己弁護が達者なタイプであり、なおかつ一度精神的に折れると戻らない。
事実ポチが急激に力を付け始めた当初は、ポチに対抗心を抱くような様子があり、それが向上心に繋がればとも思ったが……どんどん腕を上げるポチの戦いを見て、早々に諦めた様子だった。
CP……それもCP5という立場で、四式が使えるというのもさほど利点にはならない。むしろ、CP9のような暗殺などの荒事も多い部署の方が向いているとは思うが……仮にCP9に行こうものなら、早々に心が折れて辞めることになるだろう。
俺の評価としては表記上スペックとプライドだけが高い無能。いまいち役に立たないが、最低限与えられた仕事ぐらいはこなせるので、適当に似たような連中と組ませて簡単な仕事をやらせている。
「……ポチ」
「はい?」
「まだ、当分先だろうが、いずれ俺は親父から譲られる形でCP9の長官になる。そのつもりで考えておけ」
「はい!!」
ついてこいとは言う必要はない。どうせ、言わなくてもコイツは勝手についてくる。ポチは明確に優秀であると評価できる存在だ。補佐官となってからは手広く貪欲に様々な技術を身に着けており、コイツが居ると居ないとでは仕事の効率が明確に違う。
なにが嬉しいのか、後ろ髪をブンブンと振るポチを見て苦笑する。
「あっ、そうだ。隊長、質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「隊長はあまり鉄塊を使いませんよね?」
「ああ……覚えておけ、避けても受けても変わらないのであれば避けろ。ダメージが無いからと、迂闊に攻撃を受けてやる必要はない。そういう馬鹿はいずれ、予想外の威力の一撃を貰って反撃の起点にされる結末が待っている。鉄塊で受ける方が紙絵で受けるより効率がいい場面では、鉄塊を使えばいい……まぁ、お前の鉄塊なら使わない方がマシだがな」
「ふぐぅ……六王銃、打てないんですよねぇ……」
「練度不足だ。アレは全ての六式の技術を使うからな……だが、まぁ、お前にも決め手になる技はあったほうがいいか……他の武術の技術を応用する嵐脚の派生技をいくつか教えてやる。立って構えろ」
「はい! よろしくお願いします!!」
先ほどまで疲れ切って倒れていたのが嘘のように、ポチは俺の立てという言葉を聞いて即座に起き上がり構える。
コイツへの指導は俺の利益にも繋がる。多少であれば鍛錬の時間を割いて、使ってやってもいいと思える程度には、俺はポチを買っていた。