原作知識というのは、俺が持ちうる中でも最大級と言っていいほどに強力なカードだ。無論過信はできない。俺というイレギュラーがすでに存在する以上、原作との乖離は疑ってしかるべきだ。
しかし、情報というのは凄まじいアドバンテージだ。特にホビホビの実を始めとした初見殺しの能力を、そういったものがあると知れているのはかなり有利と言っていい。
それを忘却などという馬鹿げた理由で失わないように、強化した記憶力を用いて定期的に物語の頭から可能な限り台詞も含めて思い出すようにしている。
能力で言えばホビホビの実、モドモドの実、ウタウタの実など、特に超人系に属する悪魔の実は特殊な効果をもたらすものも多い。ただやはり強力な能力であるがゆえに、その発動には相手に直接触れたり、歌ったりという工程を必要とする。
故に事前にそういう能力が存在すると知れていれば、いくらでも対策はできる。
それに原作を過信はできないが、時期などの指針には出来る。そして、俺というイレギュラーによる原作への影響も、おそらくはそれほど多くはないだろう。
スパンダムというキャラはウォーターセブン編以外では、ほぼ本筋に絡むことのないキャラだったからな。
ただ、懸念といえる点は存在する。それがいま俺の手元にある数年前の新聞……以前も読んだこの新聞には、ダグラス・バレットに関する記事がある。
バスターコールのことは流石に伏せられているが、間違いなくこれは劇場版のスタンピードで描かれた出来事だろう。
だが、こうなると少々困った事態になる。というのも、劇場版というのは基本的にパラレルワールド的な時空であると認識されていたからだ。
スタンピードにしてもそうだ。主人公であるルフィの懸賞金が、ビッグマムとの一件以降の15億となっていることから、時期的にはトットランドからワノ国の間の出来事であるはずだが、そうなると矛盾が多い。
麦わらの一味が全員集合していること、モモの助や錦えもんが居ないこと、時期的にカイドウに捕らえられているはずのキッドが居ることなど挙げればきりがない。
だからパラレルワールドであるというのには、納得できるのだが……問題は俺がいまいるこの世界は、なにを基準とした世界であるかだ。
バレットの存在が必ずしもスタンピードの世界であることを確定させるわけではない。例えば、存在はしていてもインペルダウンから脱走することが無いかもしれないし、仮に脱走してもフェスタと巡り合わなければスタンピードは始まらない。
まぁ、現時点では判断できない以上、警戒しつつも考えすぎない方がいいか……、
「ポチ、コーヒーをくれ」
「はい!」
読んでいた古新聞をしまって、仕事の資料をいくつか眺める。CP5の主官になって数年が経過した。少し前にとある島の王国にて、兵士500人が海賊の人質となり、まだ13歳の諜報員が事件を収めたという話が入ってきた。
これは原作において語られていたロブ・ルッチのエピソード……となれば、いまは原作の17年ほど前か、来年になればフレバンスで珀鉛病が発生し、さらに翌年にはフィッシャータイガーによる聖地マリージョア襲撃事件が起こる。
大きな事件が多いな……。
「隊長、どうぞ」
「ああ」
一口コーヒーを飲む……店で高額で出されても納得してしまうほど美味いコーヒー。う~ん、やっぱりコイツ有能だな。秘書みたいなポジションだが、正直ケチの付け所はほぼ無い。若干思考が単純ではあるが、問題というほどではない。
さて、思考を戻そう。この時期になると少々考えるべきことがある。
それは原作においてのスパンダムの登場、トムとの一件の時期が近いということだった。最終的にトムが処刑されるのは原作より10年前、原作開始時期でいえば8年前なので、まだしばらく時間はあるが……さて、この件はどうしたものか?
原作においてはスパンダムが五老星に直談判をして行動、その上で陰謀……というには雑だが、ともかくスパンダムの暗躍によってトムは処刑されることとなった。
だが、俺はプルトンに興味は無いし、トムに対し思うことも一切ない。というよりはそもそも、トムが執行猶予付きとはいえ罪に問われていること自体がおかしいと思っている。この点に関しては、フランキーと同じ意見である。
海賊王の船を作った罪……頭でも沸いてなければ、こんな馬鹿な罪を大真面目に裁判する意味などないだろう。トムはロジャー海賊団のクルーだったわけでもなく、依頼を受けて船を作っただけの船大工だ。
それが罪というのなら、ロジャーが着ていた服を売った服屋、持っていた武器を作った鍛冶師、ロジャーが食べた食材を作った農家なども根こそぎ罪に問うのだろうか?
まぁ、本当に世界政府はたびたびおかしな行動をとるから理解に苦しむ。
ともかく、俺がスパンダムである以上原作のような出来事は起こりえない……筈なのだが、気になるのはここで歴史の修正力のようなものが存在するかどうかだ。
仮に俺がなにも行動を起こしていないにも関わらず、原作と似たような展開になるのなら、ある程度の修正力のようなものは存在するとみていいだろう。
今後原作知識という強力なカードを使用していく中で、かなり重要な要素となってくる可能性があるので、注意しておきたいものだ。
「……主官、新しい指令書が届きました。特殊指令みたいです」
「特殊指令? なんだ、いったい……」
部下が持って来た書類を受け取る。特殊指令というのは書いて字のごとく通常とは異なる内容の指令だった。封筒を開けて書類を確認すると……そこには一時所属の指示が書かれていた。
要約すると、後の幹部候補である将来有望な諜報員に経験を積ませるため、短期間だがCP5に在籍させていくつかの任務をこなさせるというものだ。
そして、もちろん短期配属される諜報員の名前も記されていた。
『ロブ・ルッチ』
……原作知識というのは強力なカードではある。しかし、当たり前ではあるが、俺の持ちえる知識というのは原作に描かれていた内容に限る。
つまり、当然こういった予想外の事態も起こりえるわけだ。はてさて、どうしたものか……