闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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書き溜めはここまでなので、次話は書け次第。

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なんと、ありがたくも鈴鳴屋様よりファンアートをいただきましたので、こちらにて紹介させていただきます。
5話、6話のスパンダムをイメージして描いてくださったそうです。


【挿絵表示】


なんともカッコよくて素晴らしい狂パンダ……原作のスパンダムとは違う強キャラ感が本当に素敵です。
鈴鳴屋様、重ねてありがとうございました。


閑話・三者三様の狂気

 

 

 俺にとって上司とは、いわば世界政府の意思を俺に届けるメッセンジャーのようなものという認識だった。故に有能であるか無能であるか、そんな事にはさほど興味はない。

 政府の指令さえ正しく伝えてくれるのであれば、それで十分……まぁ、無能よりは有能な方がいいのかもしれないが……。

 

 グアンハオで共に修練をしていた者たちより一足早く六式を修めた俺は、世界政府の諜報員として本格的に活動を始めた。

 経験を積ませるという意味合いが強いのだろう、任務地や種類などは多岐にわたった。いくつかの部署に短期所属するのもその一環だ。

 CPの全ての部署にというわけではなく、CP2、CP5、CP8と三つの部署を経たのち、グアンハオで共に修練を行っていた者たちが正規配属されるのと同時にCP9に配属されることがすでに決定されている。

 

 CP2への短期所属が終わり、次はCP5に所属することが決まった際、CP2の主官がどこか苦虫を噛み潰したような表情で告げた。

 

「次に君が所属するCP5の現主官の名はスパンダム……CP9長官のスパンダインの息子でもあり、コネ採用の男だ。個人的に嫌悪感はあるが、ある程度仕事はできるらしい。まぁ、参考程度に聞いておいてくれ」

「……了解」

 

 どうにもCP2主官はそのスパンダム……というよりは、親のスパンダインという男に恨みでもあるようで、ある程度偏見が入っていると思えるような話を一方的に語っていた。

 それだけ恨みがあっても「仕事はできるらしい」と評するあたり、なかなかに優秀な人物なのだろう……心底どうでもよかった。

 多少優秀程度の人間などいくらでも見て来たし、その差異でなにかが変わるとも思えない。俺はただ政府の指令を遂行するだけだ。

 

 

****

 

 

「……ハッ」

 

 ひとつ前に所属していた部署での会話が思わず脳裏に浮かびあがり、意図せず口からは渇いた笑みがこぼれた。

 それを気にした様子もなく俺が持って来た書類を眺めつつ、今後の仕事内容などを説明している男……CP5主官スパンダムを見ながら、俺は頭の中にCP2主官の顔を思い浮かべた。

 

 ……なんだアイツは? 目が腐っているのか? なにをどう見たらコイツを……この、『バケモノ』をコネ採用だなどと評することができるんだ? 

 

 一目見た瞬間分かった。この男は違う、存在そのものの格が違う……例えるなら、そう、天を突くほど巨大な怪物を無理やり人の体に圧縮したかのような、あり得ないほどの存在感。

 コイツが居るだけで、空間が悲鳴を上げているのではないかと錯覚するほどに、異常な力を感じる。圧のようなものは感じないが、それはこの主官が完全に己の力を支配下に置いてコントロールしている証明でもある。

 

 本当に、なんの冗談だコレは? 

 

 なんというか、奇妙な感覚だった。俺の目の前にいる男は、その気になれば容易く世界を滅ぼせると確信できる程のバケモノだ。

 だがそのバケモノが、CP5などという小さな席に行儀よく座っている光景は、なんだか可笑しさも覚えた。

 

「……以上だ。ここまででなにか質問は?」

 

 短期所属に関する説明が終わり、主官が質問は無いかと尋ねてくる。さて、どうしたものか……正直俺はいま、ひどく興味を惹かれている。

 その身に宿る圧倒的な力にもそうだが、それ以上に主官の狂気を宿した目に……。

 

「短期所属に関しての質問はありませんが、私的な質問をお許しいただけますか?」

「ああ……それと、別に敬語じゃなくても構わないぞ、使うべき場面で使ってさえいればな」

「……では、そうさせてもらう」

「それで、質問は?」

 

 敬語が苦手というわけではないが、素の口調で話して構わないのならそれはそれで気が楽だ。

 口調を戻しつつ、続きを促す主官に対して質問を口にする。

 

「……弱いことは罪だと思うか?」

 

 なぜ、急にそんな質問をしたくなったのか、自分でも説明は難しい。ただ、なんだろうか……俺がいままで巡り合った中でも、飛び抜けた強者、いや世界最強と言っていい者の意見を聞いてみたかった。

 そんな質問に対し、主官は悩むことなく淡々とした口調で答える。

 

「立場と状況による」

「というと?」

「例えば、そうだな……ある国に、ひとりの男が居たとしよう。男は代々農家の家で生まれ、農家として生計を立てていたとする。そしてある日その国に大きな戦争が起こり、戦火は男の住む地域まで広がった。迫る戦火に男は代々受け継いだ畑を捨て、涙を流しながら逃げ出した」

 

 そこで、主官は一度言葉を区切り、俺が持って来た書類にハンコを押しながら話を続ける。

 

「……その男の弱さは罪かと問われれば、罪ではない。なぜならその男は元々戦いになど身を置いてはいないし、なにも備えてなどいない。抗えなくて当然だ。無様に逃げていい、己の不幸を嘆いてもいい、神に祈ってもいい、誰か助けてくれと叫んでもかまわない。実際に助かるかは別として、それを行う権利はある。俺もそんな者を見かけ、手が空いていたなら手を差し伸べるぐらいはしてやるさ」

「……」

「では仮に、それがその国の兵士であった場合はどうか? 自ら望んだか否かはさておき、兵士という立場に身を置いたなら戦いは覚悟すべきだし、備えるべきだ。その覚悟や備えが足りなかったからといって、救ってもらって当然だと思うのは甘えだ。まぁ、それでも罪とまでは言わないが……甘えるなとは、思うな」

「なるほど……」

 

 お手本のような正論ではあるが、なぜだろうか? そこには妙な狂気を感じた。いや、なんとなくは分かっている。分かっているからこそ、口元が緩むのを実感していた。

 

「……以前とある国で、兵士500人が海賊の人質になったという事件は?」

「知っている。お前が解決した事件だな」

「アンタは、どう思った?」

 

 あの時、俺は兵士たちの弱さは罪であり悪であると判断し、人質となった兵士500人を皆殺しにした上で任務を遂行した。

 そのことについて様々な言葉が聞こえてきたが、概ねやり過ぎだとか冷酷だとかといったものが多かったように感じられた。

 別にそのことに関してはどうとも思っていないが、この主官はどう思うかを知りたかった。

 

「お前は任務遂行という目的地に向かう途中で、道に転がる石ころを全て綺麗に除去したというだけだろう。過程に対して事前になんらかの指示があったならともかく、そうでないなら目的地までの歩き方は実行者の自由だ」

「……俺が、世界政府の任務という大義名分の下に行う殺しを楽しんでいたとしたら?」

 

 そう、一番聞きたかったのはこれだ。たしかに兵士500人を殺す理由はあったし、その判断が間違いだったとも思っていない。

 だが、それ以上に……楽しかった。磨いた技で、技術で、世界政府という巨大な正義の名の下で行う殺しは、なにものにも代えがたいような甘美な快感をもたらしてくれた。

 もちろん、それが世間的に異常な考えだというのは理解している。普通の相手に話したとて、理解など得られないだろうと……だが、この主官なら……。

 

「仕事を楽しむというのは、いい仕事を行うコツのひとつだ。任務遂行に支障があるならともかく、そうでないなら楽しんで仕事をすることはむしろいいことだろう」

「くはっ……」

 

 ついにこらえきれなくなって、口から笑みがこぼれた。なんて、面白い男だ……弱さは罪ではないと、お手本のような正論を語った口で、兵士500人を当たり前のように道端の石ころと言ってのける。

 

 ああ、分かる。分かるんだ……この男は狂っている。

 

 言ってみれば主官は、誰よりも傲慢だ。この男にとって世界は『己かそれ以外』の二通りしか存在せず、己以外のすべてを見下している。

 主官にとって世界の中心は己であり、それ以外は己にとって有益か否か、それぞれ主官の独自の判断で勝手に決めつけている。

 主官はいますぐにでも世界を滅ぼせる怪物だ。では、なぜそうしていないのか……答えは単純だ。そうする理由がないから、ただそれだけだ。

 逆に言えば、この男は理由さえあれば即座に世界を滅ぼす。それが己のためになると判断した場合は、泣きわめく無辜の民を一切の感情なく皆殺しにし、遺体を踏み砕き、世界を火の海に沈めるだろう。

 

 ああ、本当に、なんて強く恐ろしく――美しいバケモノだ。

 

「……主官、改めてよろしく頼む」

「うん? ああ」

 

 こんなイカレた怪物の傍で過ごせるとは……これからの短期所属が、本当に楽しみになってきた。

 

 

****

 

 

 顔合わせの際に感じた予感の通り、CP5での生活は非常に充実していた。主官は基本的には寛容だ。

 本人があまりにも圧倒的な強者かつ、基本己以外すべてを下に見ていることもあり、部下のミスなどを厳しく咎めることもない。

 傍目に見れば懐の広い人物に見えるだろう……だが、そこには他者には分からない境界が存在し、それを踏み越えた瞬間慈悲は消える。

 

 とある任務での出来事だった。正直いまになっても、なにが主官の逆鱗に触れたのかは分からない。

 

 直接任務に関わりがあったわけではなく、途中で立ち寄った小さな島。そこで漁をしていたであろう漁師が、海賊に殺された。別によくあることだ。特別珍しい出来事でもなく、海賊も小物だった。

 殺した理由などは無くたまたま目障りだったと、その程度のものだろう。あの程度の小物海賊など捨て置いて任務を続行すればいいと、そう思っていた。

 

 だが、その直後……空間が軋むほどの凄まじい重圧を感じ、その次の瞬間海賊はこの世を去った。それこそ、肉片すら残らずに……。

 

 主官の明確な怒りを感じたのは、あの時が初めてであり、同時に俺が他者に対して生まれて初めて恐怖という感情を強く抱いた瞬間だった。

 ただ、恐怖の感情は一瞬だけだ。あまりにも理不尽で圧倒的な主官の力を見て、すぐに恐怖は歓喜の震えへと変わった。

 強いものは美しいとはよく言ったもので、空間に君臨するかのようなその姿は、ただただ見惚れるものだった。

 

 結局主官の怒りの理由はわからなかったが、なにかしら彼には基準となる境界があり、そこを一歩でも踏み越え『敵』と認識した瞬間、怪物は牙をむく。

 逆に言えば、一定の境界を踏み越えず敵とさえ認識されなければ、主官は誰に対してもある程度は寛容だ。まぁ、その基準が主官の中にしか存在しないので、知らずに踏み越えた者に関しては哀れとしか言いようがない。

 

 主官とある程度交流を持つようになって分かったことだが、コレだけ圧倒的な力を持ちながら主官は地位にも金にもほとんど興味がない。

 いや、まったく無いわけではない。しかし、ある程度で満足している。主官曰く「ほどほどの平凡な幸せが一番」だそうで、その話を聞いた時はつい大声で笑ってしまった。

 

 だってそうだろう? 主官はその気になればすぐにでも世界の頂点に立てる力があり、望めば何でも手に入れられると言っていい。

 だというのにそんな理外のバケモノは、巨大な宝石には目もくれず、ワザワザ自分から小さな檻に入り、掌に乗るような小さな宝石を大切にしている。

 なんとも矛盾しているようで……それでいて、どこかスパンダムという一つの個として完璧に完成しているような、そんな感じがして、なんだかそれが面白かった。

 

 

****

 

 

 主官がとてつもない存在なのはそうだが、補佐官であるチェルシーという女もなかなか狂っていた。コイツの狂気は主官よりは分かりやすい。

 それは狂信。チェルシーにとって主官が世界の中心であり絶対の基準だ。主官の言葉はすべて正しく、主官に抗うものは全て間違っていると、心の底からそう思っている狂信者。

 

 チェルシーにも主官にしたのと同じ質問、「弱さは罪か?」という質問をしてみた。するとこの女は一切の迷いなく「弱さは罪ではありませんよ。ただ、それが隊長の邪魔になるなら大罪なので私が殺します」と人好きのする明るい笑顔で言ってのけた。

 一見するとコイツは、人当たりもよく口調も穏やかな心優しい女に見えるだろうが、その実心の中は主官への信仰心であふれかえっており、主官とは方向性が違えど間違いなく狂人だ。それこそ、主官の邪魔になると判断すれば善良な民間人でも躊躇なく惨殺するだろう。

 

 そして、主官には及ばぬものの、コイツも異常なほどに強い。それこそ、例えば海軍の大将クラスとやりあったとして、勝てないまでもそれなりにいい勝負ができるのではないかと思うほどだ。

 話を聞いたところ、かつては俺と同じくグアンハオに居たらしいが見覚えはない。コレだけの実力者なら話に聞いていてもおかしくは無いはずだが、俺よりかなり早く配属されて見かけなかったのかもしれない。

 しかし、そもそも上はなんでこれほどの実力者をCP5に配属した? どう考えてもCP9に即配属、数年の経験の後にCP0でいい気がするが……いろいろと謎の多い女だ。

 まぁ、現在CP5で補佐官を務めているのは、本人が断固として主官の下を離れたがらないかららしいが……。

 

 なにより面白いのは、主官とチェルシーの相性が抜群だったことだ。主官は世界の中心は己と確信しているある意味誰より傲慢で自己中心的な狂人。チェルシーは主官こそが世界中心で神のような存在であると信じ切っている狂人。

 どちらも内面に相当な狂気を孕んでいるが、互いの狂気が奇妙に噛み合っている。

 

 そして、そんなふたりと共に過ごすCP5での日々は、本当に心地が良かった。理由は単純だ。俺もまた狂っているからこそ、ふたりを理解できたし、ふたりも俺の異常性を理解した上で接していた。

 大義名分だ世界のためだと語ったところで、俺は一種の快楽殺人者であり間違いなく狂人だ。

 だからこそ、ここは酷く居心地がよかった。俺も、主官も、チェルシーも三者三様に狂っている。だからこそ、俺も自然体で過ごせた。

 

 

****

 

 

 CP5での日々はあっという間に過ぎていき、気付くと短期所属の期間が終わりに近づいていた。そのことに、言いようのない寂しさを覚えている己に気付いた。

 ここでの日々が充実していたからこそ、またつまらない日々に戻るのはなんとも言えない気分だったが、それが政府の意向である以上従わないという選択肢はない。

 

「そうだ、ルッチ。お前は確か、いずれCP9に所属するのが決まっていたな?」

「うん? ああ、CP8にも短期所属する予定だが、その後はCP9に配属されることになる」

 

 短期所属の終了が迫ったある日、書類仕事をしながら話しかけてきた主官。俺はその言葉の意図が分からず首を傾げながら聞き返した。

 

「そうか……現CP9の長官は、俺の親父だ」

「……どんなやつだ?」

「自己保身は達者で、悪知恵は働く。それ以外は、無能だ」

「……そうか」

 

 正直すこし残念だった。CP9の司令長官が主官の親であるというのはCP2の主官からも聞いて知っていた。ただもしかすると、主官の親というのだから、主官のような存在かと僅かに期待したが、やはりこのレベルのバケモノがそうそう居るわけでは無いか……。

 

「親父の能力に関しては、本題とは関係ない」

「うん?」

「本題は……まだ当分は先だろうが、俺はいずれ親父に譲られる形でCP9の司令長官の座に就くことになるだろう。まぁ、その時はよろしくな」

 

 その言葉に先ほどまでとは一変して、心に歓喜が荒れ狂うのが分かった。口元に笑みが浮かぶのを止められない。

 そうか、いずれ主官がCP9に来るのか……それはいい。その頃にはカクたちも訓練を終えて正式配属されているだろうし、俺たちの上に立つのにこれほど相応しい相手はいない。

 

「ふっ、では、その時を楽しみにさせてもらおう」

 

 しばらく先ということは、数年はかかるのだろうが……いまから楽しみで仕方がない。

 俺はずっと上司などというものは、政府の意思を俺に届けるメッセンジャーのようなものだと認識していた。

 

 だが、俺より強く、俺よりも狂っている相手の下で働くというのは……存外、悪くはない。

 

 




感想で見た狂パンダという表現がとても好き。

スパンダム:狂パンダ、最近CP5の仕事が増えており「これだけの書類を捌いていたのなら、原作のスパンダムはそれなりに優秀だったのかも」と原作スパンダムを見直している。
なお、コイツが無駄に優秀なせいで上から多く仕事を回されているだけである。

ポチ:本名のポーラ・チェルシーを作者も忘れそうになる。かつてはルッチを見て心が折れたが、現在は頭の中は狂パンダ一色なのでまったく気にしていない。
「ルッチ? ああ、お久しぶりです。それより隊長のために、コーヒー周りの設備も一新すべきかもしれませんね。もっと豆の挽き方を細かく調整できるものを……」

ルッチ:狂パンダに対し高評価……ポチに関しては覚えていなかったのだが、これだけの実力者を見たら絶対忘れないだろうし、自分とは時期が違ったのだろうと認識している。なお、「そうか、現CP9長官がさっさと退けばまた主官と働けるのか……」と考えているので、スパンダインは逃げるべき。

CP2主官:スパンダインと過去にいろいろあり、息子のスパンダムを疎ましく思っている。同様にスパンダインに悪い印象をもつふたつほどのCP主官と結託してCP5に嫌がらせで大量の仕事を回すようにした。
しかし、脳も強化しまくってる狂パンダは、平然と片付けて日々定時に上がっているため、正直実務能力は認めている。

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