CP9の司令長官に就任して半年が経過した。それなりに順調と言えるだろう。
メンバー全員と顔合わせも終わった。原作には居なかったメンバーも複数いたが、おそらく原作までにCP0に異動したとか、そんな感じではないかと思う。
メンバーとの関係もそれなりに良好だ。ルッチの提案で最初は一通りのメンバーと模擬戦を行ったおかげか、ある程度打ち解けられているとは思っている。
しかし、俺も手加減が上手くなったものだ。ポチを鍛えていたおかげというのもあるのだろうが、うっかり相手を重傷にしたりすることもない。
己の力というのは正確にコントロールできてこそなので、今後も己の強化と共に加減についてもしっかり磨いていくつもりだ。
さて、正直順調ではあったが、そんな時ほど弩級の厄介事が舞い込んでくるというのは、世の常である。現在長官室にいる俺の手には一枚の紙……報告書と呼ぶのも憚られるようなふざけた内容が書かれた紙が握られており、己が苛立っているのを実感できる程には不快感を覚えていた。
そして、それはその内容を知らされたCP9のメンバーも同様……というかこいつら、待機指示の時は好きな場所に居ればいいのに、わざわざ長官室に集まってくるのはなんでだ?
「だから、そんなわけがねぇだろ!!」
「それを俺に言ってどうする! すでに、上が決定している以上どうにもならんだろう!」
そんな俺の目の前ではジャブラとブルーノが言い争いをしている。いや、というよりはジャブラが一方的に食って掛かっている感じだ。
いまのジャブラは傍目に見ても冷静ではなく、苛立ちと焦りで目に見えて感情的になっていた。
その原因は俺の手に持つ紙で、そこには『赤髪海賊団と内通し、手引きした罪によりフィズを投獄した』という旨の内容が書かれていた。
フィズ……そうか、コイツが原作におけるフーズ・フーというわけか。たしかに脱獄して逃げて、顔をマスクで隠すぐらいなのだから、名前も変えるのが必然といえる。
それに気付くのが遅れたのは、フィズに対する護送任務の割り振りは引継ぎ前に親父が行っており、フィズとは出発前に軽く挨拶をした程度の関係でタイミングが悪かった。
またゴムゴムの実に関しては隠しておきたいのか、護送リストの下の方に小さく書かれており、名目も重要品の護送となっていた。
しかし、時期と東の海での任務というのを見た時点で気付くべきだった。
投獄された場所は……インペルダウン? これは、明らかにおかしい。フーズ・フーは確か、投獄され拷問を受けていたが、ニカの話をした看守が始末されたのを見て、我が身も危ないと思って脱獄したはずだ。
しかし、センゴクはインペルダウンは過去金獅子のシキ以外はひとりも脱獄者を出していないと語っていたので、これでは矛盾が生じる。
……政府が脱獄の事実をもみ消した? あるいは、原作では別の刑務所に捕らえられていた? もしくは、政府のエージェントを投獄という恥になりかねない内容を海軍に対して隠していた可能性もあるか……どちらにせよ、俺への報告を偽る理由もないのでインペルダウンに投獄されているのは間違いないのだろう。
……本当に、ふざけた話だ。すでに投獄されてから数日経過しており、直属の上司である俺に対しての報告があまりにも遅い。それだけではなく、報告書に書かれている内通の証拠とやらも、捏造にしてももう少しマシなやり方をしろと思うほど杜撰だ。
そんなことを考えていると、ジャブラがバンッとデスクに勢いよく両手を付き、俺に向かって叫ぶように告げた。
「長官! 信じてくれ!! アイツはたしかに、嫌味ったらしくて腹立つ奴だが……海賊との内通だとか、そんなつまらねぇことをするような奴じゃねぇんだ!」
必死の形相でフーズ・フー……フィズの無実を訴えるジャブラの目には涙すら浮かんでいる。ジャブラはこう見えてかなり情に厚い人物だ。
エニエスロビーから逃げる際には、カリファに上着を貸し、動けないカクを背負ったりしていた。対抗心から普段はなにかと喧嘩腰で接するルッチに対しても、ルフィとの戦いで重傷を負ったルッチの治療費を稼ぐため、大道芸のような真似をして見世物になってでも金を稼いでみせたりと非常に仲間思いなところが見て取れた。
フィズはジャブラと一歳違いであり、CP9に配属された時期が同じだったこともあって関わりが深いのだろう。そういえば、互いに給仕のギャサリンに想いを寄せていて、どちらも振られているという話もあったような……。
そんなジャブラは、目に涙を浮かべながらデスクに叩きつけるように頭を下げる。
「頼む! 長官! なんとか、なんとか……アイツを……助けて、くれねぇか?」
祈るようなその言葉を受け、俺の心に去来するのは……凄まじい怒りだった。ハッキリ言おう、今回の件は本当にふざけている。
フィズは真面目に己に割り振られた任務をこなしていただけであり、赤髪海賊団相手にも果敢に戦い重傷を負った。報告書には赤髪に用済みとして切り捨てられたと書かれていたが、事実と異なるのは明白だ。
「……ちょ、長官?」
ああ、本当に……ふざけた話だ。真面目に生きていた者が突如降りかかった理不尽によって未来を奪われる。フィズは思っているだろう……「どうして俺が?」「俺がなにをした?」「誰か助けてくれ」と……前世の苦い記憶を思い出させてくれる。
もし仮にこれがCP5時代に聞いた話であれば、よそ事として気にも留めなかった。ああ、アイツがフーズ・フーか、くだらない責任の押し付けで優秀な人材を捨てるなんて、世界政府は馬鹿な真似をするもんだと、その程度の感想だっただろう。
だが、いまの俺はCP9司令長官であり、フィズは俺の部下だ。その部下を、俺に一切の事前報告無く、冤罪で投獄したというのは明らかに俺の領分を犯す行為だ。
俺の怒りが伝わったのか、動揺するジャブラやブルーノの前で、俺は椅子から立ち上がって告げる。
「……当たり前だ。こんなふざけた報告を受け入れる気はない。ポチ、五老星に伝達しておけ『いまから行く』と一言だけでいい」
「了解しました」
「ちょ、長官……すまねぇ……恩に着る」
ポチに指示を出し、感極まった様子で頭を下げるジャブラに返答はしないまま背を向け、部屋を出ようとすると、そのタイミングでこれまで静観していたルッチが口を開いた。
「……どうする? 単独でインペルダウンでも落とすか?」
「……相手の出方次第では、な」
「ふふ、それはそれで面白そうだ」
簡潔に答えて部屋を出る。さすがにそうはならないだろうが、場合によっては強制的にフィズを連れ帰ることぐらいはやるつもりだ。
俺の領分においてこんなふざけた話を認める気は無い……俺の領分を犯そうとするなら、それは俺の敵だ。
スパンダム:怒れる狂パンダ。真面目に働いている者が理不尽で未来を奪われるという行為が前世の己を想起させるため、滅茶苦茶怒ってる。それでも、いちおう即インペルダウンに殴り込みかけずに五老星に話を通そうという最低限の理性はあるので、完全に切れているわけではない。
ジャブラ:情に厚い男、なんだかんだで人間味のあるいいキャラで個人的にはかなり好きなキャラ。
「……助けて(同期を)」
「当たり前だ」
という、なんか原作のルフィとナミみたいなやり取りをした……どうやら、ヒロインが誰かは決まったみたいである。
フィズ:原作におけるフーズ・フー……さすがに脱走して本名を名乗ったままではないだろうと思い、オリジナルの名前を用意。ジャブラとは同期で共にギャサリンに想いを寄せる仲。
インペルダウン:フィズの投獄は上の指示で、インペルダウン側に落ち度は無いはずだが、最悪怒れる狂パンダにより壊滅する危機がある今回の不憫枠……。