闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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順調な時ほどトラブルは発生する

 

 

 CP9の司令長官になって数年経ち、朝の長官室に積まれる紙のタワーは2倍ほどに増えたが、毎日定時上がりは問題ないし、休暇もしっかりとれているので、特に気にする必要はない。

 なんなら、仕事量は増えたが処理にも慣れてきたので、以前より早く終わってのんびりできる時間が増えたぐらいだ。

 いまだに定期的に繰り返している肉体改造によって、脳の処理速度や記憶力も強化しているのが大きいだろう。資料室にある資料はほぼ記憶してあるので、わざわざ調べに行く必要が無いのも大きい。

 

 それはそれとして、俺が行っている特殊な肉体改造は、なんとも興味深い結果を及ぼした。検証するのにかなりの年月がかかったが……どうやら肉体改造を行うたびに俺の覇王色の覇気が大きくなっていることが分かった。

 本来覇王色の覇気は生まれもったもので、調整こそできるが鍛えることはできない。本人の成長によってのみ磨かれると原作においてレイリーも語っていた。

 なので、俺も最初は気のせいだと思っていたのだが……細かく何年もかけて検証を続けた結果、肉体改造を行うと確実に大きくなっていることが判明した。

 

 その理由について考えてみたのだが、そもそも最初に鍛錬を行っていた数年の間に俺は己に覇王色の覇気があるとは思っていなかったし、実際それを感じるような機会も無かった。覇王色があることを知ったのは、武者修行の最中だった。

 そして、今になって思ったのだが……実は『最初の時点では覇王色は無かった』のが正解で、武者修行にでるあたりになって覇王色を獲得していたということではないかという仮説を立てた。

 

 本来覇王色の覇気というのは生まれつきの資質だ。後天的に備わるなどということはあり得ない。だが、ここで要因となりえるのが俺の肉体改造について……。

 果たして、細胞すべてを作り変える肉体改造を終えたあとの俺は、行う前と同じ存在と認識すべきだろうか? 細胞単位ですべて変わっているのだ。それはもう、生まれ変わっているといっても過言ではないのではないだろうか?

 

 つまり肉体改造を行うことで、そこまでの俺は一度死に新しい……より強い俺に生まれ変わっていると考えれば、納得できる部分も存在する。

 ワンピースの世界にはブルックがそうであるように魂という概念が存在する。肉体が生まれ変わって……つまり、脳も新しく作り替わっても記憶を維持したままなのは、魂が関係しているのか、それとも元々前世の記憶を持っている俺の魂が特別なのか分からないが、とりあえず魂が要因であるとは思う。

 まぁ、いまの俺が肉体を作り変える前の俺と同じなのか、それとも『記憶を引き継いだだけの別人』なのか、そんな哲学的なところを考える気は無い。俺が俺であると、自身で認識できているなら、その差異は関係ない。

 

 そして、覇気の資質はいったいどこに宿るのか? 魂であるなら変化は無いはずだが、肉体に宿るとすれば、俺の覇王色が大きくなっている理由にも説明が付く。

 最初に鍛錬を始めたばかりの肉体、スパンダムとしての本来の肉体に王たる資質は備わっていなかった。しかし、幾度となく肉体改造を繰り返すうちに、その肉体が王の資質を持つに相応しいものへ変化した結果、覇王色の覇気が宿った……そう考えれば、ずっと覇王色に気付かなかったことにも説明が付く。

 そして現在も定期的により強い肉体へと作り変えており、その度に王の資質は大きくなっているのではないだろうか? それを本人の成長と取るか否かは置いておいて、鍛えられない筈の覇王色を意図して鍛えることも可能ということが分かった。

 ……まぁ、結局のところすべて推測に過ぎない。覇王色が大きくなって困ることは無いし、俺にとっては利点しかないので、必ずしも正しい理論を探る必要はないが……。

 

 そういえば最近の事ではあるが、見聞色の覇気も成長を見せている。以前とは違い無機物の気配を察することができるようになった。

 万物の声を聞くという感覚ではなく、レーダーのようにどこにどういった形のものがあるかというのが探れる感覚とでもいうべきか、これはこれで非常に便利だが、これが肉体改造の影響によるものか覇気を鍛え続けた結果なのかは分からないし、検証のしようがないのが難点だ。

 

 手持無沙汰なせいか、己に対する答えの出ない考察を続けながら新聞を読んでいると、ふとある記事に目が留まった。

 トムズワーカーズによる海列車の全路線開通が目前という記事……もう、そんな時期になったか。海列車はこのエニエスロビーにも通じているので、長官である俺としても今後物資の搬入等のスピードが上がるのでありがたい。

 まぁ、さらに書類仕事は増えそうだが……それはそれとして、ついにこの時期が来たかという認識でもある。

 

「なんじゃ、長官? 面白い記事でもあったか?」

「ああ、いや、これを見て海列車の開通が間もなくということを思い出しただけだ」

「海列車か、アレは凄いのう。発想もさることながら、実現させるのもたいしたものじゃ。わしはそこまで造船技術などに詳しいわけでは無いが、並の腕では不可能というのは分かる」

「そうだな、ウチとしても有益だ。船大工のトムにこのエニエスロビーも繋ぐように言った裁判官のおかげだな……しかし、また書類仕事が増えるな」

 

 部屋に居たカクの言葉に答えながらコーヒーを飲む。最近時間に余裕があるせいか、10時を過ぎたらコーヒーを飲みながら新聞を読むのがすっかり日課になってしまった。

 

「まぁ、最近手持ち無沙汰気味だったからな、多少仕事が増えるのはむしろありがたいが」

「いやいや……なんであのふざけた量の書類があって、手持ち無沙汰なんじゃ……というか、他のCPからの仕事の相談も多いし、もう長官が全CPの実質的なトップじゃろう」

「そうでもないぞ、CPの中にも俺を嫌っている部署はある。CP2とかCP4が代表的だな……まぁ、俺というよりは、俺の親父に恨みがあるみたいだがな」

 

 当たり前だがCPも一枚岩というわけでは無い。最近では他部署と連携して任務にあたる機会も増えて風通しは良くなったように感じるが、それでも未だに断固としてCP9なんかに頼るかというところもある。

 親父はまぁ、権力はそれなりにある分恨みもかなり買っていたからな……。

 

「……俺としては四方の海の支部長辺りが身の丈に合っていると思うんだがな。いっそ左遷でもしてくれないものか……」

「ははは、面白い冗談じゃ。上がることはあっても下がることなんぞないじゃろ」

 

 ……本気でそう思ってるんだがなぁ。まっ、現状でものんびり過ごせてはいるし、問題ないと言えば問題ないが……。

 しかし、得てして、こういう時にこそ面倒な事態というのは巡ってくると、過去の経験がそう告げているような気がした。

 

 そんな俺の下に『古代兵器プルトンの設計図の捜索』という指令が届くのは、それから10日ほど経ってからだった。

 

 

****

 

 

 ある日の夕方……とはいえ、エニエスロビーは夜のない島なので、時計を確認しなければ夕方であることはわからないが……。

 ともかく、そろそろ定時が近い時間帯に、俺は届いた一枚の指令書をじっと眺めていた。そこには、古代兵器プルトンの設計図の捜索に関する指令の詳細が書かれており、言うまでもなくこれは原作におけるスパンダムが行っていたものと同じだ。

 

 ただ、状況はかなり違う。まず、スパンダムである俺はCP5所属ではなくCP9長官であること、このプルトンの設計図の捜索に関して発起人となっているのはCP4主官であることなど、指令を行う際にCP4の役人を複数名同行させる条件など、差異は多い。

 しかし……指令自体に筋は通っているのだ。というのも仮にこのCP4主官を原作におけるスパンダムのポジションであると仮定しよう。そうなると、原作のスパンダムと同じように上、あるいは五老星に己が捜索を行いたいという旨を話したはずだ。

 だが、こうして俺の下に指令が回っている以上、それは通らなかった。

 

 ウォーターセブンはエニエスロビーから近いこともあって、ウチの管轄であることは間違いないので、こうして指令が回ってくること自体は、おかしなことではない。

 なぜ、俺の下に指令が回ってきたのか……CP4主官には原作のスパンダムのように強いコネが無く突っ撥ねられたのか、それとも五老星が俺に対して気を使ったのか……。

 以前のフィズの一件で、五老星から見れば俺は己の縄張りというかテリトリーを大事にしている印象を得ていたとしてもおかしくない。実際は俺には俺の基準があるので、必ずしもテリトリーを侵されたからといって文句を言うわけでは無いのだが、そんなことは五老星には知りようがない。

 以前のようなトラブルを避けるために、こうして俺を尊重する形で指令を回すという判断は頷ける。

 

 CP4の役人を同行させるというのも、CP4主官が諦め切れずに捻じ込んだ形だろう。自分で調べて得た古代兵器の情報だから己で調べたいと考えるのは必然だし、そもそもCP4主官はCP2主官と同様に俺……というよりは親父を嫌っており、俺に対してもいい印象は持っていない。

 そんな相手に手柄を取られるのが嫌で、せめて己の腹心たちを同行させようとした。五老星側としてもCP4主官の気持ちは理解できるし、余計な反感を買わないためその程度の譲歩は受け入れるだろう。俺でもそうする。

 

 ……つまり、こうして俺の手元にある設計図捜索の指令に関しては、経緯も含め納得できるだけの理由は存在する。

 だが、これを歴史の修正力のように感じてしまうのは、俺が原作知識を得ているからだろうか?

 

「……なんだ、長官。さっきから、難しい顔して……厄介な任務なら、俺が行ってやろうか?」

「いや、この任務は少々気になる部分があるから俺が行くつもりだが……」

 

 長官室内に居たジャブラが不思議そうに尋ねてきたので、簡潔に答えつつ思考を巡らせる。そうだな、ひとりだけで考えていても思考が偏る。ある程度第三者的な意見も聞いてみたいところだ。

 

「……ジャブラ、赤ずきんの童話を知っているか?」

「え? なんだ急に……もちろん知ってるが?」

「では、そうだな。赤ずきんの物語に登場するおばあさんが、ある時不意に己の未来を知ったとする。予知能力を得たとか、理由はなんでもいい。そして、そのままでは狼に食べられてしまうことを知ったおばあさんは、食べられるのを避けるために狼が家に来る前に外に出た……しかし、逃げた先の森で偶然、家に向かっていた狼に遭遇してしまった。おばあさんが狼に食われる未来は不変だと思うか?」

「う、うん? よく分からねぇが……まだ遭遇しただけで食われたわけじゃねぇだろ?」

「ほぅ……では、どうする?」

「狼を倒せばいいんじゃねぇか?」

 

 これはこれで面白い視点だ。言われてみればたしかに、狼と遭遇しただけであり、食われるという未来が確定しているわけでは無い。実際に戦って勝てるかどうかは別として、抵抗する余地はあるか……。

 

「……抵抗むなしく、見た未来と同じように食われてしまったら?」

「脱出する方法を考える! 食われるってのが同じでも、結末まで同じとは限らねぇだろうし、試せるだけいろいろやってみりゃいいじゃねぇか」

「……ふ、ふふ、ははは」

「長官?」

「なるほど、興味深い意見だ。過程が同じであっても、たどり着く結末が同じとは限らない。逆に結末が同じであったとしても、その過程まで同じとは限らない……深く考えすぎるのも時として悪癖か……」

 

 これはジャブラに教えられた気分だ。楽観的な考えがいいとも思わないが、深く考えすぎるのもそれはそれで問題だ。

 歴史の修正力なんてものが存在するか否かを証明するすべなどない。証明する方法が無いならば、深く考える意味もない。

 

 そもそも、根本的に俺は原作通りに進んでも進まなくてもどうでもいい。進んでエニエスロビーが崩壊するなら、それはそれで左遷に期待してのんびりすればいいし、そうでないのならいままで通りで問題ない。

 どちらにしても俺には得があるので、どちらに転んだとしても問題ない。なら、ある程度は行き当たりばったりでいいだろう。

 

「……さて、定時だ。上がるとしよう……ジャブラ、俺はこれから軽く飲んで帰るつもりだが、付き合うか?」

「おっ、おごりか?」

「部下を誘っておいて金なんぞ出させるか……」

「さすが長官! よっしゃ! 飲むぞ~!」

「ポチ、店の予約を頼む」

「はい!」

 

 今後の方針を決め、心なしか少し軽い足取りで長官室から出て廊下を歩く。とりあえずは、普通に俺のやり方でプルトンの設計図を真っ当に探る。原作のような陰謀は巡らせない……だがそれでも、トムが原作と同じような道を辿るなら、原作のエニエスロビー編は起こりうると考えて行動しよう。

 ルフィたちに関してはどうするか、俺はロビンにも古代兵器にも思い入れは無いし、どっちでもいいと思っているので、シンプルに行こう。

 

 原作のように進んだ方が俺にとっていいと思えば、手出しはせずに静観しよう。原作を変えたほうが俺にとって都合がいいのなら……俺には先ほどのたとえ話のおばあさんとは違い、狼を殺す力がある。

 エニエスロビーに辿り着く前に、ロケットマンを迎え撃って海の上で全員殺せば、それで終わりだ。

 あくまですべての基準は俺にとってどれだけの利になるか……どちらに転んだとしても、都合のいいように準備をしておけばいい。やはり、時にはシンプルな方がいいな。

 

 そう考え口元に笑みを浮かべつつ、ジャブラに声をかける。

 

「ああ、ジャブラ。好きなだけ飲めばいいが、酔い潰れた場合は覚悟することだ……酔いつぶれた結果、お前にどんな未来が訪れるか、あらかじめ知っておきたいか?」

「い、いや、いい……未来なんて知らねぇ方がいい」

「ふふ、そうか……なら、その未来を知らないままで済むように、己の限界は見定めて飲むことだ」

 

 まずはトムの一件……はてさて、どう転ぶか……楽しみだ。

 

 

 

 




スパンダム:狂パンダ。書類仕事は倍に増えたけど、慣れたおかげで処理スピードは3倍になったので相対的に暇を持て余してる。周囲はもう諦めたような目をしていた。
基本的に軸の部分はブレずに己至上主義……ルフィたちをどうするかは、メリットとデメリット次第。やるなら徹底的にやるので、ロケットマンを破壊して海の上で始末するつもりである。
つまり、麦わらの一味にとっては特定の条件を満たすと、アクアラグナではなくアクアパンダが襲来するイベントが発生する可能性。

カク:長官室は実質的にCP9のたまり場になっているので、手が空いてるやつは大体長官室に集まってくる。狂パンダの左遷されたい宣言をギャグとして受け取った。そりゃ(普段の仕事ぶりを見れば)そうよ(大失態犯しても厳重注意で終わりそう)

ジャブラ:狂パンダの悩みを解決する。ヒロインムーブが止まらない。いい加減、ジャブラがヒロインのタグが必要かもしれない。

ポチ:サシ飲みだと思った? 残念、ポチでした! 基本的にコイツは狂パンダに付き従っているので、「会話に参加していないから居ない?」と思いきや、後方ワンコ面で待機してるだけで普通に居る。ポチは待てができる賢いワンコですから……。

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