水の都と呼ばれるウォーターセブン。造船業が非常に盛んな島ではあるが、年々の地盤沈下や周辺の島への難解な航路や海賊の影響もあり、一時は島全体が悲観的な空気に包まれていた。
しかし、トムズワーカーズが開通させた海列車により、少しずつではあるが島は活気を取り戻しつつあった。
かつて海賊王ゴールドロジャーの船を作ったとして、死刑を言い渡されるも、海列車の構想を説明して交渉し、開発に必要な10年という期間を執行猶予として勝ち取った船大工のトム。見事裁判での宣言通りに海列車を開通させた彼への判決は、3日後に訪れる司法船の中で決まることになっている。
そんな中廃船島と呼ばれる区画では、船大工トムとその弟子のアイスバーグが造船に勤しみながら言葉を交わしていた。
他の島との交流が難航していることに対し、これでも町は変わらないのかと問うアイスバーグに、トムが笑いながらそれでも人には活気がある。結果はすぐには付いてこないと、そう返答したタイミングで、複数の足音が聞こえてきた。
黒いスーツを着こなし先頭を歩く目の周りと鼻の黒い男、その後方に付き従う黒いスーツの茶髪の小柄な女性と、白いスーツを着た複数の男たち……。
「突然の来訪、失礼。私は……」
それに気付いたトムに、先頭を歩く男性……スパンダムが自己紹介をしようとしたタイミングで、彼らの下に大砲の弾が飛来してきた。
「ス、スパンダムさん……」
「お前たちは離れていろ」
慌てる部下らしき者たちに指示を出したあと、スパンダムは飛来してきた砲弾を素手で掴み、握りつぶして砕いた。
「おう! わりい、祝砲がそっちに飛んじまった!」
あまり悪びれた様子もなく登場したのは、トムのもうひとりの弟子であるカティ・フラム……通称フランキーと呼ばれる人物だった。
「ん~~スーパー! バトルフランキー35号帰還! 海王類を仕留めたぜ!!」
「……あの馬鹿はまた、性懲りもなく」
彼は己が作り出した戦艦バトルフランキー35号によって海王類を仕留めたことを誇るように語り、それを見たアイスバーグは、額に青筋を浮かべハンマーを持ってフランキーの下へ向かった。
そして海王類を仕留めれるほどの兵器を作り出したことを責め、反発するフランキーと喧嘩を始め、それを見たトムが大笑いする。
トムズワーカーズにとってはいつも通りの光景といえる状況に、静かな声が響いた。
「……まぁ、確かにそちらの彼の言う通りだ。人を殺傷しうる兵器なら、最低限見ず知らずの者が使えないようにしておくべきだ」
「「「ッ!?」」」
3人は驚愕した。いつの間にかバトルフランキー35号の目の前に居たスパンダムが、いったいいつどうやってそこに移動したのか、分からなかったからだ。
そんな3人の反応を気にした様子もなく、スパンダムはトムの方を向いて口を開く。
「初めまして、船大工のトムさん。私の名前はスパンダム……見ての通り、世界政府の役人です」
「政府の人間……裁判の件か?」
「いえ、まぁ、それもウチの管轄ではありますが、今回は別件です……船の設計図について、と言えば、お判りいただけますか?」
「っ……」
「出来れば、少し話をさせていただきたいと思いましてね。都合が悪ければ、出直しますが?」
あくまで丁重な口調で語るスパンダムの雰囲気に、対峙するトムだけではなく、アイスバーグやフランキーも息を飲んだ。
トムは話をすることを了承し、ふたりきりで話すとアイスバーグとフランキーを戻らせ、レンガ倉庫にてスパンダムと向かい合う形になった。
スパンダムの方も部下たちは外に待機させ、倉庫の中でトムとふたりで会話を行う。
「……それでは、心当たりはないと?」
「たっはっはっ……ああ、そんなものの設計図は持ってねぇ」
「なるほど、結構。お時間をいただきありがとうございました」
「……うん? もういいのか?」
プルトンの設計図を所持しているかというスパンダムの質問に対し、そんなものは知らないし持ってもいないと返答したトムだが、正直スパンダムが簡単に引き下がるのは予想外だった。
首を傾げるトムの前で、座っていた椅子から立ち上がりドアの方に向かいつつ、スパンダムは静かに告げた。
「別に長く話したとて、返事が変わるわけでもないでしょう? ただ、ひとつだけ、忠告を……私がこうしてここにきているということの意味を、考えておいた方がいい」
「……」
「ああ、そうそう、もしかしたら、それがプルトンとは知らないという可能性もあるので、不審な設計図に心当たりがあれば、ぜひご一報を……失礼します」
そう言って去っていくスパンダムの背を、トムは言いようのない不気味さを感じながら見送った。
****
ウォーターセブンの一角、事前に予約しておいた宿の部屋で椅子に座ると、俺は不満げな表情を浮かべているCP4の役人たちに声をかける。
「それで? なにか気になることでも?」
「なぜ、ああも簡単に引いたのですか!? もっと問い詰めれば……」
「馬鹿か……所持していれば死刑確定の設計図を、持っているかと聞かれて、はい私が持っていますなんて返答する奴が居るとでも思っているのか? アレは単なる探りだ」
「探り?」
ポチが用意してくれたコーヒーを飲みつつ、新聞を読む。どうにもCP4の主官からかなりキツくプルトンの設計図を手に入れるよう言われたみたいで、役人たちの表情には焦りが見える。
急いたところで、どうにかなるものでもないと思うがな……。
「こちらが設計図の存在に気付いていると思わせれば、なにかしらの動きがあるだろう……まぁ、本当に持っているなら、な」
「そんな、悠長な……」
「なら、どうする? 彼は執行猶予中ではあるが、犯罪者ではない。3日後の裁判で免罪がほぼ確定している。俺たちに彼を取り調べる権限はない……いいか、現時点では『プルトンの設計図があるかもしれない』という段階であるのを忘れるな。この段階で、一般人を取り調べることなんて不可能だ。最低限、設計図が存在するという確実な証拠でもないとな……まぁ、その辺りは、地道な調査だろう」
プルトンの設計図はウォーターセブンの職人たちに代々受け継がれているものだ。探せば、記録などがあるかもしれない。
まぁ、もちろん俺は原作知識で設計図が存在することも、それが今夜アイスバーグたちに託されることも知っているが、どうこうする気は無い。
「分かったら地道に聞き込みでもすることだな。強硬調査は設計図の存在が確定してからだ」
「……」
不満げではあったが、反論する余地も無いのか役人たちは退出していく。さて、どう動くか……このままジッと大人しくしているなら、個人的には高評価だ。CP4主官がなにかを言ってきても庇うぐらいはしてやろう。
だが、短絡的な行動をとるというなら……まぁ、もしかしたらCP4の主官が変わることになるかもしれないな。
そう思いながら見聞色で探ってみると、宿を出た役人たちが電伝虫でどこかに連絡を取っているのが分かった。おそらくCP4主官だろうが、さて、どんな手を打ってくるのやら……。
まぁ、しかし結局のところ、トムに関しては遅かれ早かれではあるとは思う。事実として設計図が存在する以上、仮に3日後に免罪を言い渡されたとしても、どこかしらのタイミングで暗殺が濃厚だろう。
原作のアイスバーグのようにガレーラカンパニーを作り上げ、政府が手を出しにくい存在となれるとは思えない。そして、トムが存命であれば、アイスバーグもすぐにガレーラカンパニーを作ることはない。
そうなれば、トムズワーカーズ揃って暗殺というシナリオもあり得るか……そういう意味では、原作のようにならないとトムズワーカーズは詰みと言っていいかもしれないな。
「ポチ」
「はい?」
「しばらくは暇になるだろうし、なにか食べに行くか、この島には特産品も多いみたいだしな」
「はい!」
俺が声をかけて立ち上がると、ポチは尻尾……もとい髪をブンブンと振りながら付いてくる。
「隊長! 隊長! 水水肉が売ってますよ!」
「とろけるような味わいらしいな、いくつか買っていくか……ああ、あと、釣竿を売っている店があれば教えてくれ、午後は釣りでもするとしよう」
「はい! じゃあ、釣った魚は私が調理しますね」
「ああ、頼む」
エニエスロビーからほど近いが、あまり来たことが無かったしな。ポチもはしゃいでいるし、しばらくは散歩して、午後は釣りだな。
明日の朝に書類仕事だけしにエニエスロビーに戻って……まぁ、事態が動くにせよ、動かないにせよ、まだ時間はあるし……とりあえずいまは、観光を楽しむとしよう。
スパンダム:観光中の狂パンダ。原作通りになってもならなくてもいいと思っているため、非常に気楽であり、現在はポチの散歩をしつつ観光を楽しんでいる。
ポチ:狂犬にしてワンコ。隊長とのお出かけで大はしゃぎで、尻尾は音がするぐらい揺れているが、胸は揺れるほどない。CP4の役人たちに関しては、狂パンダの指示なく勝手に行動したら、狂パンダに許可貰って殺そうかなぁとか大真面目に考えている狂犬。
CP4:勝手な行動をとっても、狂パンダは大体許す。狂パンダは許すが……果たして、狂犬の方が許すかな?