よく晴れた日、今日は船大工トムに有罪か免罪かを告げるために司法船がウォーターセブンに来ている。司法船が港に入るのを、ウォーターセブン特有の高い位置にある中央街から見下ろす。
ポケットから棒付きの飴を取り出し、ひとつをポチに放り投げて、もうひとつの包装を破って咥える。CP4から同行してきた役人たちは、朝からコソコソと出かけておりこの場には居ない。
さて、ここで原作の流れをさらっておこう。トムは海列車を完成させた功績により、海賊王の船を作った罪を免罪とされることがほぼ確定していた。つまり、この日免罪を言い渡されるとトムの保留となっていた罪は消え、一般人に戻れるわけだ。
しかし、原作のスパンダムはソレが気に入らなかった。トムがプルトンの設計図を所持していると思っていたからこそ、なんとか容疑者としてトムの取り調べを行いたかった。だが、ここで免罪が決定すればトムは一般人となり、強硬な取り調べなどは行えない。
つまりは手が出しにくくなるわけだ。まぁ、あくまで出しにくいだけなので、やろうと思えば方法なんていくらでもあるのだが……。
ともかく焦った原作のスパンダムは、廃船島に放置されていたフランキーのバトルフランキー号を利用して司法船を襲撃、その襲撃の罪をトムズワーカーズに擦り付けた。
穴だらけの理論ではあるが、実際に使われた船がフランキーが制作したものであり、政府側のスパンダムが糸を引いている以上覆すのは難しく、トムたちの罪はほぼ確定……だが、そこでトムが海列車を作った功績を用いて、司法船襲撃の罪を免罪してほしいと願ったことでアイスバーグとフランキーは解放される。
トムには海賊王の船を作った罪が残り連行されて処刑されることとなったとまぁ、ザックリ言えばそんな流れだ。
まずこの一件には本来原作におけるスパンダム……つまり俺が大きく関わっている。つまり、俺が動かなければ事件は起こりえない筈なのだが、運命とはかくも皮肉なものか、そうはならなさそうだ。
見聞色で感じる気配、廃船島から司法船に向かって動く小型戦艦を眺めながら、俺は静かにポチに問う。
「なぁ、ポチ……俺、あんな指示を出したか?」
「いいえ」
「そうか……ポチ、よく聞け、アイツらが廃船島に戻って船を捨てて逃げたら、全員捕まえて拘束の上で海列車に放り込んでおけ、多少痛めつけてもかまわないが殺さずにな」
「了解」
俺の言葉を聞いて、ポチの目からスッとハイライトが消えた。いや正しくは、俺の指示ではないと返答したあたりから、切れてるような雰囲気はあった。
コイツにとって、俺の邪魔になる行動をとる連中は処刑対象なので、あいつら役人への慈悲は完全に消えただろう。
ポチはそのまま剃で移動しようとしたが、その前に俺が軽く手を上げて止めた。
「……ポチ、念のために言っておくが『四肢がすべて無くても生きている状態』は、多少の範囲に含まない。目を抉ったり耳を切り落としたりもだ……全員身体の欠損なく拘束しておけよ」
「……はい」
……やる気だったなコイツ。俺が釘を刺さなければ、全員ダルマにして傷口焼いた状態で海列車に放り込んでたな。役人どもはCP4主官の命令で動いているだけなのだから、そこまでの目に合わせるのは流石に哀れである。
「では、行ってこい」
「了解!」
さて、どう転ぶかはさておいて、俺は俺で動くとするか……。
****
司法船を襲う小型戦艦の船団。そこから放たれた砲弾が何発か司法船に着弾し、人々が逃げ惑う中……俺は丁度中の裁判所から出てきた裁判長の目の前に着地して、飛んできた砲弾を素手で弾く。
「お、おぉ、スパンダム長官!?」
「たまたま別件で近くにいてな……」
そう告げながら船団に視線を向けると、船団は俺に気付いたのか攻撃を止めて反転して逃げていった。まぁ、さすがに俺に気付いたうえで砲撃を続行する度胸があるなら、もっと強硬にトムの連行を主張しているか……。
「あ、あの船団はいったい……」
「さあな。それで、裁判長、怪我は?」
「私は問題ありません。船の方には何発か当たったみたいですが……」
「そうか。乗船している市民を誘導して港へ、怪我人の確認も忘れるな。浸水の可能性もある。乗組員も一度降りて、司法船の被害状況を確認しておけ。全区画の点検完了までは利用しないように……俺はあの船団が逃げた先を確認してくる」
海兵や下級役員に指示を出したあとで、混乱する市民の間を縫うようにして移動する。その際にチラッと船の状況を見たが、原作よりかなり早いタイミングで捌いたため司法船はほぼ問題ないが、マストに一発当たっていたみたいなので、修理には多少時間がかかるだろう。
怪我人に関しても、逃げる際に数名の市民が怪我をしているようだが、それ以外はほぼ無し……海兵に任せておけばいい。
さて、廃船島の方はどうなったか……。
****
廃船島に辿り着くと、こちらもどうやら原作と同じような展開になったらしい。銛が刺さり倒れ伏すトムと、アイスバーグにバトルフランキー号について厳しく責められ意気消沈しているフランキー……原作で見た通りの展開だ。
ポチは……見聞色で探れば、海列車の付近に居るな。ああ、もう全員捕まえてるのか、さすがに仕事が早いな……両手両足が変な方向に曲がってるやつばかりだが、とりあえず、指示通り四肢の欠損はないみたいだ。アイツらにはあとで詳しい話を聞くとして……とりあえずはこちらだ。
「……忠告は聞き入れてもらえなかったようで、残念だ」
「てめぇ……スパンダッ!!」
「スパンダムだ。さて、市民たちも集まってきた。ここでこれ以上の会話をするのではなく、港に移動するとしよう」
敵意ある目でこちらを見るアイスバーグとフランキー……まぁ、そうだな。コイツ等にしてみれば、俺は敵の親玉で、この一件は全て俺が仕組んだように見えているだろう。
分かっていて傍観したという意味では、俺が仕組んだと言っても過言ではないがな。
そんなことを考えている間に海兵たちが到着したので、三人を拘束する指示を出す。
「……痛みで証言が難しいようなら、鎮痛剤を用意しようか?」
「……はぁ……いらん……やってくれたな……」
「忠告はしたし、考えられるだけの時間も与えたつもりだが……まぁ、いいさ、話は港で聞こう」
拘束されつつ告げるトムに苦笑を返してから歩き出す。とりあえずは、このまま原作の流れで問題なさそうだ。CP4主官にはあとで話をするとしよう。
しかし馬鹿な話だ。あのまま放置して探っておけば、切れ者であるアイスバーグはともかくとして、この時点では危機感の足りないフランキーの方からは、プルトンの設計図に関する発言を引き出せたかもしれないのに……こんな強硬策に出たら、逆効果だと分からないものなのか……。
港に辿り着くと、裁判長が居たので、近づいていくと向こうから声をかけてきた。
「長官、ご苦労様です」
「いや……それで、怪我人と船の被害状況は?」
「市民に軽傷者が数名、乗組員に怪我はありません。船の方は、マストのダメージが大きく、修理には少々時間がかかるかと……」
「そうか。まぁ、ここは造船会社の多い島だ。修理する場所はいくらでもある……とりあえず、あんな一件があった後だ。司法船内の裁判所は使わず、裁判はこの港で行うように」
海兵からの報告を受け、軽く指示を出しつつ裁判長の近くに立つ。すると後方にスッとポチが現れ、俺の近くに来て周囲には聞こえない声で話しかけてきた。
「全て指示通りに」
「ご苦労」
周囲の雰囲気としては、トムズワーカーズが拘束されていることもあって、トムたちが司法船を襲撃したことをほぼ確信しているような雰囲気だった。
いや、まだ容疑者の段階なんだがな……原作でもたびたび思っていたが、ウォーターセブンの市民の民度の低さである……まぁ、ワンピース世界の市民は割と民度低いのばかりだが……。
「まずは海列車の件……見事という他に言葉はない。これから先、このウォーターセブンの発展に深く貢献することだろう。それによって前科ゴールド・ロジャーの海賊船製造の罪は、免罪となることがほぼ確定していたというのに……なぜ罪を重ねた?」
「ふざけんな!?」
裁判長の言葉に強く反発するのは、もちろんフランキーだ。拘束されたままで、憎悪に染まった目でこちらを見ている。
己の船を利用されてトムを傷つけられたことが、許せないと、そういう表情だ。
「司法船の襲撃犯は俺たちじゃねぇ! そこに居るスパンダムって馬鹿野郎だ!!」
「……なにを愚かな。このお方はエニエスロビーのトップで、我らの上司に当たる方だぞ?」
呆れたような裁判長の言葉に、周囲の市民からも笑い声が響く。周囲の市民は不快だな……いっそ覇王色で気絶させたいものだ。
そんなことを考えつつ、俺はフランキーの方を向いて口を開く。
「カティ・フラムだったかな? ひとつ聞こう。仮に君の主張通り俺が犯人だったとして……司法船を襲撃することにいったいどんなメリットがあるのかな?」
「あぁ!? そんなもんお前が――」
「フランキー!!」
「――ぅっ!?」
なにかを言いかけたフランキーだったが、アイスバーグの叫び声を聞いて口をつぐんだ。さすがと称賛しておくべきだろうか……あのまま、フランキーが設計図について口を滑らせてくれれば、それを理由に調査に乗り出せたのだが……上手くはいかないものだ。
なにも言えなくなったフランキーに対し、周囲の市民から「大体あの船はお前が作ったもんじゃないか」と、そんな言葉が飛ぶ。
それに対しフランキーは恩人を傷つけるような船は自分の船ではないと叫び、その瞬間にトムは手錠を引きちぎってフランキーを殴り飛ばした。
突然の凶行に市民が叫んで逃げ出し、海兵たちが銃を構えるが、トムは気にする様子もなく銛を力ずくで引き抜きフランキーに告げる。
どんな船でも作り出すことに善悪はない。たとえ生み出した船が世界を滅ぼそうとも、生みの親だけはそいつを愛さなくてはいけないと……。
「造った船に! 男はドンと胸を張れ!!」
力強く宣言するトムの言葉に周囲が言葉を失う中、トムはアイスバーグとフランキーに「これから起こることに口を出すな」を告げ、鋭い目でこちらを睨んできた。
そして一気に駆け出し、俺に向けて拳を振るう。
「なっ……」
「……海兵は市民の警護に回れ、こちらには必要ない」
トムの拳を片手で受け止めつつ、周囲の海兵に指示を出す。拳を受け止められたことに驚愕しているトムに対し、俺は静かに告げる。
「いいのか? これは、言い逃れができないぞ?」
「ッ!? お前に!! アイツの痛みが分かるか!!」
「分からんな。生憎と俺はアイツとやらではないのでな」
退く気はないようで腕を振り上げ殴りかかってこようとするトムに対し、俺はスッと手を伸ばし、その体に軽くデコピンをする。
「ぐっはぁっ!?」
「「トムさぁん!!」」
アイスバーグとフランキーの叫びが響く中、トムの巨体は数メートル宙を舞って地面に落ちた。
「……あまり暴れるな。殺さないように小さな魚を摘まむのは、力加減に気を使う」
司法船襲撃に関して、トムズワーカーズの面々は容疑者の段階だった。だが、政府の高官である俺に対して殴りかかったことに関しては、言い訳はできない。
まぁ、あのトムの表情を見る限り、もうすでに言い逃れは不可能と見て己が罪を被る決意を固めているのだろうがな。
倒れたトムに対し「やはりアイツは海賊に魂を売った」とか「戦艦を作ってこの機会を待っていた」とか口々に言う市民には正直呆れ果てる。アクアラグナのせいで頭に海水でも入ってるんじゃないのか?
そう思っていると、荒い息を吐きながら起き上がったトムが静かに告げる。
「……裁判長。司法船襲撃の罪を、認める」
「……」
やはりというべきか、原作と同じようにトムは司法船襲撃の罪を認め、海列車を作った功績として今日のことを免罪としてほしいと告げる。
それに対し、そうなれば極刑となる海賊王の船製造の罪が残るぞと告げる裁判長に対し、ロジャーに船を作ったことを誇りに思っていると叫ぶトム……その覚悟を見た裁判長はチラリと俺の方に視線を向ける。
「好きにすればいい。この件の責任者はお前だ」
「分かりました……それでは判決を下す。海賊王ゴールド・ロジャーの海賊船製造の罪により造船技師トム一名をエニエスロビーに連行する。以上だ。弟子ふたりは免罪とし、拘束を解いて解放するように」
結果として、俺が何もせずとも原作通りの展開というわけか……まぁ、それはそれでいいだろう。
「トムに関しては怪我もある。海列車で護送を行う……医者の手配をしておけ」
「はっ!」
「……裁判長、お前は司法船の修理を待って帰還しろ」
「了解しました」
そしてトムを連行して、CP4の主官をアレコレしてこの件は終わり……となればよかったのだが……。
そう思いつつ、海兵のひとりから銃を奪ってこちらに向かってくるフランキーを見る。
「よせっ! フランキー!!」
「トムさんを返せぇぇぇ!!」
原作とは違いトムは麻酔銃を撃たれておらず意識があるため叫ぶが、もちろんフランキーが止まるわけがない。
「……手は出さなくていい」
周囲にそう告げつつ、怒りの形相でこちらに向かって飛び掛かってくるフランキーに対し、親指を軽く弾くように動かす。
指銃・撥をギリギリまで加減したものだ。
「――ッ!?」
「フランキー!!」
「だから、何度も言わせるな……殺さないように手加減するのも大変なんだ」
当たったフランキーはまるで弾かれるように遥か遠方に吹き飛んでいく。まぁ、海列車に轢かれても生きているような頑丈なやつだし、アレで死ぬことはないだろう。
「アレは放っておいていい……トムを連行しろ」
「はっ!」
まぁ、しかし原作と違って海兵100人単位で重軽傷を負わせたわけじゃないから、俺が問題にしなければフランキーが罪に問われることはないだろう。
だからと言って、なにかが変わるわけでもないかもしれないがな……。
****
海列車の一室には、CP4から派遣された役人と追加で呼びよせたであろう役人あわせて10名ほどがおり、一様にボロボロの体で怯え切った顔でこちらを見ていた。
……やったなぁ、ポチ。相当痛めつけたな……俺以上にポチを見る目が完全に絶望した目になっている。まぁ、それでも、俺の指示を守ってちゃんと四肢も繋がってるし目とかも抉られてはないので、ポチにしては加減した方か……。
「さて、見覚えのない者もいるが……確認しておこう」
俺の声を聞いて、全員がビクッと体を動かすが、俺はこれ以上コイツ等になにもする気は無い……そう、コイツ等には……。
「この件の指揮官は俺だ。そして俺はお前たちに地道に調査しろ、強硬調査は設計図の存在が確定してから……そう言ったな? それを無視した上で、さらに政府所有の船である司法船に砲撃……これが、どれほど問題か、分からないほどの馬鹿は、さすがに居ないと思いたいな」
抑えていた気配を解放したことにより、役人たちは生まれたての小鹿のように震える。それを見て、俺は口元に笑みを浮かべた。
俺はそもそも原作通りに話が進んでも、進まなくてもよかった。だが、どちらかといえば……原作に近い展開を望んでいた。
今後の展開が読みやすいというのもひとつだが、せっかくだからいろいろ試してみようと思ったのだ。過程をどこまで変えれば本筋に影響が起こりうるのか、いろいろ試してみたかった。
結果として、俺がロクに指示を出さないどころか、勝手に動くなといったにもかかわらず原作と同じような司法船襲撃は起きた。これはこれで、今後に対して参考になる材料だ。むしろ勝手をやったコイツ等を褒めてやりたいぐらいだ。
そして、次に役割を演じる者が退場した場合の影響も実験してみたいと、そう思ってたんだ。
「……だが、まぁ、安心しろ。俺は、お前たちはそこまで無能な存在ではないと思っている。今回の件に関しても、やりたかったわけじゃないんじゃないか? そう、例えば、どこかから指示を受けて逆らえなかったとか……その辺りに関して、詳しく話を聞きたいものだ」
そう、例えば俺が行動を起こさなかった結果として、原作におけるスパンダムのポジションと言っていい立ち位置に居るCP4主官……『そいつが居なくなったら』……どうなるのだろうか?
そのままCP9に引き継がれる形で、原作通りの潜入任務が来るのか、それともそれ自体が無くなるのか……試してみるのも、いいだろう。
いい加減こちらに非協力的な相手というのも……俺の利にならない相手というのも邪魔なものだ。丁度いい機会だから、排除することにしよう……平和的にな。
さて、それはともかくとして、せっかく好きなようにすると決めたんだ。まだまだ、原作のエニエスロビーまで8年もあるわけだし、いろいろ試してみることにしよう。
とりあえずトムに関しても、もう一手……サイコロを転がしてみることにしよう。
スパンダム:やっぱり狂パンダ。誤解されがちだが、狂パンダの一般人に対するスタンスは、ロビンの時と同じく『己の利が大きかったり、気が向けば助けるが、基本スルー』であり、一般人が理不尽な目に合ってようがなんの興味もない。フィズも部下でなければ助けることは無かった。ただ、前世の死因を想起させる通り魔的殺人に対しては嫌悪感を持っている。
CP4の主官に関しては、この件で消してしまうつもりである(己の利にならない相手に慈悲はない)トムズワーカーズに関しては、今後の展開が読みやすくなるという利点を優先し、原作通りに話が進むのを傍観。他にもいろいろ考えてはいるらしい。
ポチ:狂犬。「そもそも隊長の指揮下にありながら、隊長の指示に逆らっている時点でこの世に存在してはいけない大罪人なわけで、そこを隊長の深い慈悲によって生存が許されているわけなんですか……貴方たち(CP4役人)は、なんで震えているんですか? 違うでしょう? いまは隊長の慈悲に感謝するところでしょう……そんな簡単なことも理解できないんですか? あと何本骨を折れば理解してくれるのか、いい加減に隊長のところに戻りたいので早めにお願いしますね」
CP4役人:ポチにこれでもかというほど痛めつけられた。それでも、狂パンダが忠告したおかげで、かなり加減されていたのだが……完全にトラウマになったもよう。
CP4主官:主官はね……パンダに襲われていなくなっちゃうんだよ……。
トム:フランキーの無念を晴らすため殴りかかったが、相手が悪かった。原作とは違い麻酔とうは使われていないし、怪我も治療されている。
フランキー:殴りかかったら吹っ飛ばされた。しかし、結果的に海兵を大量に怪我させるという結果になっていないので、後を思えば罪が軽減されている?