闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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可能性があっても掴めるとは限らない

 

 

 海列車の発車準備が整い、エニエスロビーに向けての発車を指示したあとで、俺はトムが拘束されている車両に向かった。

 トムは医者によって治療されて体に包帯を巻いており、腕に手枷こそ付いてはいるが椅子に座っている姿を見る限り、大きなダメージはなさそうだ。

 

「傷は痛むか?」

「殺す相手をわざわざ治療とは……何度聞かれても、ワシの返答は変わらんぞ」

「尋問だけが目的ではないさ。このあとエニエスロビーに着いたあとで、お前はもう一度エニエスロビーの裁判所で裁判……まぁ、これは結論ありきの裁判だがな。そのあとで処刑となるわけだが……いちおう、まだ、それを覆せる交渉カードが、あるんじゃないかと思うが?」

「くどい。ワシはそんな設計図は知らんし、持ってもいない」

「……そうか」

 

 まぁ、俺もこれでトムが口を割るとは思っていない。それで喋るようなら、原作のスパンダムは設計図を手に入れられていただろう。

 そもそも、俺はプルトンに興味は無いし、捜索指令自体もCP4主官が居なくなれば消えるかもしれない。

 

「……逃げていいぞ」

「は? なにを――っ」

 

 呟くように告げたあとで、トムの前に手枷の鍵を置いてやる。

 

「俺はお前の尋問を行っている際に偶然手枷の鍵を落としてしまった。そして、本来この車両に配置するはずだった役人は不慮の事故……犬に噛まれて怪我をしたため、残念ながらこの車両に人は配置できていない。もうすでに海列車は発車しているが、魚人なら泳いでウォーターセブンに戻れるだろう。手配される可能性はあるだろうが、名前を変えるなりなんなり、方法はいくらでもある」

「……どういう……つもりだ?」

「さてな? それでは、俺は少し外の空気を吸ってくる……だから、好きにしろ」

 

 俺の思惑が理解できないと言いたげな表情を浮かべるトムに対し、俺は軽く笑みを浮かべてから車両を後にした。

 

 

****

 

 

 海列車の屋根の上に立ち、ポケットから棒付きキャンディを取り出して、包装を破って咥える。そのタイミングで、後方にポチが来たのを感じたので、もうひとつ取り出してポチに渡してやる。

 ポチは包装を破って飴を咥え、好きな味だと分かったのかへにゃと緩んだ笑顔を浮かべたが、すぐに気を取り直してキリッとした表情で立つ。

 ポチは非常にできたやつなので、俺が考え事をしている際には基本的に緊急の用件以外で話しかけてくることはなく待機している。まぁ、俺から話しかけた場合は例外だが……。

 

「……ポチ、お前はプルトンの設計図に関して、どう思う?」

「私ですか? う~ん、隊長はプルトンそのものにはあまり興味がなさそうなので、私も別になんとも……ただ、設計図の方には興味があるみたいな感じがしました」

「さすが、よく見ているな」

 

 ポチの考察は正しい。俺はプルトンそのものには全く興味が無いが、プルトンの設計図に関しては一度見てみたいとは感じていた。

 ただそれは、古代兵器を手にしたいという理由ではなく、単なる好奇心からだった。

 

「妙だと思わないか? プルトンは、伝わっている話では島ひとつを消し飛ばす力を持つ『戦艦』であるということだが、その話が事実なら古代兵器と呼ぶべきなのは、プルトンではなく乗せている兵器の方じゃないか? 船が体当たりして島を消し飛ばすわけでもあるまいに……」

「仮に体当たりするとしたら、どんなサイズなんでしょうね? というか、そんなサイズのものを作ることができるんでしょうか?」

「そう、そこだ。もし仮にこれが、古代にしか存在しない製法で作られた、あるいは現在は存在しない素材を使って作られた再現不可能なオーパーツのような代物であるなら納得できる。だが、設計図が存在し、それをウォーターセブンの職人たちが必死に守り受け継いでいるという話が事実であれば、プルトンは現在の技法及び材料で建造可能ということになる」

 

 もし、製造が不可能であれば頑なに政府に渡したがらない理由もない。渡したところで作れないのであれば、それはただの紙きれだ。

 トムが命を賭しても渡す気が無いという姿勢でいる以上、それを政府が手に入れればプルトンを製造することができると考えているからに他ならないだろう。

 

「だが……プルトンが存在したという空白の100年から現代まで800年。その間に発展してきた造船技術や兵器開発……さらに、ベガパンクは500年先の技術を持つというが……それでもなお開発されておらず、現存する技術と材料で再現可能な超兵器なんてものが、存在し得るのかという疑問はある。だから、一度見てみたいとは思うがな……まぁ、実物は必要ない。あっても邪魔だ」

「隊長は別に古代兵器なんて使わなくても、島ぐらい消せますしね。そういえば、六王覇銃はいまもたまに使われてますが……アレはもう長いこと見てませんね」

「アレはなぁ、六王覇銃に比べて威力のコントロールがな……前の砦もかなり加減してあの威力だから、アレは本当に島ごと消すような指令でもない限り、使うことはないだろう」

「またいつか見たいですね。隊長の……『十二真衝(じゅうにしんしょう)』」

「……そんな任務が来れば、な」

 

 他愛のない話をしつつ海を眺めていると、海列車を動かしている部下のひとりが線路の先にカティ・フラム……フランキーが居ると伝えてきた。

 さすが、頑丈だな。加減したとはいえ撥を受けても原作通り海列車を正面から迎え撃つつもりか……。

 

「隊長、どうしますか?」

「自殺がしたいのなら好きにやらせてやれ……それで死ねるなら、ある意味では幸せだろうしな」

 

 それから数発の砲撃の音の後、人影が宙を舞った。果たして贖罪の思いを抱えたまま、恩人のために戦い死ぬことが幸せか否かは分からないが……強化した視力が遠方に廃船を見つけたので、どうやら原作通りフランキーはサイボーグとなりそうだ。

 しかし、まぁ、本当に……海列車にひかれて吹き飛ばされたあと、己の体を改造できる程の余力があるのだから、大した頑丈さだ。

 

「…‥さて」

「戻りますか?」

「ああ、振ったサイコロの出目を確認してくる」

 

 ポチの言葉にそう答えたあと、俺は海列車の車内へと戻った。

 

 

****

 

 

 トムが居る車両のドアを開けて中に入ると、俺が車両を出た時のままの姿勢でトムは椅子に座っていた。手枷を外した様子もなく、鍵も俺が置いたままの状態だ。

 

「……逃げなかったんだな」

「ああ、お前の考えは分からん。心残りが無いといえば嘘になる。しかし、ワシは自分で選んだ……ならば最後の瞬間まで、ドンと胸を張るだけだ」

「そうか……後悔がないなら結構。しかし……くくく」

「うん?」

「いや、運命とは皮肉なもんだと……そう思っただけだ。それじゃあ、エニエスロビーに着くまではゆっくりしているといい」

 

 首を傾げるトムの前で鍵を回収し、俺は別の車両に移動する。本当に皮肉な話だ。トムは己の誇りを、生き様を貫いた。それは立派なことだろう……だがそのせいで、トムはフランキーを救えなかった。

 逃げ出していれば、海列車にひかれたフランキーを助けることができただろう。

 この車両は先頭から離れていて、汽笛の音もあった。砲撃の音などに気付けなかったのは仕方ないだろう。しかし、もしトムが逃げ出さないまでも窓にかかったカーテンを開けていれば、吹き飛ぶフランキーが見えたかもしれない。窓を少しでも開けていたなら、フランキーの声が聞こえたかもしれない。

 

 そうなれば、また違った未来があったかもしれないが……そうはならなかった。可能性は与えたが掴みとることはできなかった……ならばまぁ、ここから先は俺の好きなようにやらせてもらうとしよう。

 

 別の車両に移った俺は、椅子に座りつつ近くに来たポチに声をかける。

 

「なあポチ? 俺ってそこそこ偉いよな?」

「そこそこどころか、世界政府でもかなり上の方と言っていいと思いますが?」

「そうだな……個人的には高すぎる地位だと思っているが……まぁ、たまには使ってみるか、権力ってやつを……」

「ううん?」

 

 せっかくなのだから、もうひとつサイコロを振ってみることにしよう。このサイコロの目がどう転ぶか分かるのは『8年後』だろうが、それはそれで先の楽しみが増えたと思えばいい。

 

「よく分かりませんけど、隊長が楽しそうならよかったです」

「いろいろ検証してみるのは面白いものだ……まぁ、それはそれとして、観光はなかなか楽しかったな。次はCP9メンバー全員でどこかに出かけるのもいいかもしれないな。一日か二日程度なら上手く調整すれば休みも取れるだろう」

「いいですね。今回釣竿を買いましたし、釣りの出来る場所なんかいいかもしれませんね」

「なるほど、いい考えだ。別に観光地に行く必要もないし、緑豊かな無人島とかでバーベキューと釣りなんてのがいいかもしれないな」

 

 思い付きでの発言だったが、これはこれでなかなか楽しそうだ。任務の調整は割り振っているのは俺なのだから、問題なく調整できる。

 上もまぁ、数日程度なら休みをくれといっても拒否したりはしないだろう。ウチに回ってくる早期対応が求められる任務はほぼ暗殺だし、調整が難しければ俺がまとめてこなしてしまうのも手だ。

 せっかくだし、そういう方向でいろいろ考えてみるか……

 

 

 




スパンダム:狂パンダ。これで原作が変わるならそれはそれでよしということで、トムに選択肢を与えた。ほかにもなにか権力という兵器を使って企んでいる様子。これで後はエニエスロビーに戻ってから、CP4本部に赴いて主官と平和的なオハナシをすれば、ひとまずこの任務は終わり。CP9メンバーでのバーベキューを企画中。ポケットの飴には、いつも必ずいちご味が入っている(ポチの餌)。

ポチ:狂パンダのことなら誰よりも分かってるワンコ。ただ、それでも原作知識を元にしている狂パンダの行動は読めないものも多いが、隊長がいいならそれでOKなのでまったく問題ない。飴はいちご味が好き。

トム:狂パンダの行動がさっぱり分からない。自分を捕まえるためにあんなことまでしたというのに、大して尋問もしてこないし、逃げていいとか言い始めるし……。

フランキー:……コイツ機械になる前から頑丈過ぎでは? 絶対食いしばり持ちだろ。列車と正面衝突しても死なないやつがいる一方、階段から落ちるだけで死ぬ奴もいるという耐久力格差。

砦ちゃん:……まだ上が……あるだと?

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