世界政府三大機関のひとつ、司法の島エニエスロビー。その中央にある司法の塔にあるCP9の持つ部屋のひとつには、CP9メンバーが集合していた。
長官であるスパンダムが居る際は、長官室に集まることが多いが、現在スパンダムは出かけているので別の部屋に集合している状態だった。
室内の空気はピリピリとしており、CP9メンバーのひとりであるフィズが苛立ったように貧乏ゆすりをしていた。表情も険しく、明らかに怒っている様子なのは伝わってきた。
他のメンバーも、チェルシーとルッチを除き険しい表情を浮かべている。
「チッ……チェルシーが始末付けたんなら、間違いはねぇだろうが、イラつくな。その馬鹿どものせいで、長官が任務を完遂出来なかったんだろ?」
フィズが、もといCP9メンバーのほとんどが苛立っている理由は、チェルシーからウォーターセブンでのCP4役人たちの行動を聞いたからだった。
特にフィズはスパンダムを慕っているので、そのスパンダムの足を引っ張ったCP4役人は許せないという気持ちがある。
しかし、すでにチェルシーが制裁は行っているので、それ以上なにかをするわけにもいかないので怒りを向ける先が無くて苛立っていた。
他のメンバーも大なり小なり不快そうな表情を浮かべていたが、その中でルッチだけは楽し気な笑みを浮かべていた。
「……くくく」
「なんじゃルッチ? なにがおかしい?」
「いや、お前らの見当違いの反応が面白くてな」
「あ? なんだと?」
カクの質問に答えたルッチに対し、ジャブラが額に青筋を浮かべるが、ルッチはあくまで楽しそうに口を開く。
「チェルシーも説明が足りないが、お前らも考えが浅い……よく考えてみろ、あの抜け目ない長官がそんな馬鹿どもの動きを予想できないとでも思っているのか?」
「……確かに、言われてみれば長官ならその程度は当たり前のように読んでいたはずだ」
「つまり、あえて泳がせた……と?」
ルッチの説明にブルーノとカリファが納得した様子で頷く。たしかに彼らの知るスパンダムという人物は、その圧倒的な戦闘力だけでなく、抜け目ない深謀巡らせる卓越した頭脳も持つ存在だ。
「そういうことだろ? チェルシー」
「はい。隊長は間違いなくCP4の行動を読んでいました。というより、誘導していました。トムが免罪になれば調査が難しいと焦らせるようなことを言った上で、あえて地道に調査するようにと指示を出していました」
「チャパ……つまり、長官はワザとCP4を暴走させたってことか?」
「だがぁ、なぜぇ~そのようなぁ~ことを~?」
その話を聞いてCP9メンバーの表情は怒りから戸惑いへと変わる。なぜスパンダムはそのような行動をとったのか、そんな疑問に答えるようにルッチが口を開く。
「結果として、焦ったCP4は暴走し明らかな失態……チェルシーの話では、本人たちから主官の指示という言質も取った。そして、長官はいまどこに行っている? CP4本部だろ?」
「ええ、平和的な話し合いをしてくるそうです」
「ははは、それはいい。さぞ、平和的な話し合いになることだろうな。すぐにでも隠居したくなるような……」
心底楽しげに笑うルッチを見て、その言葉を聞いて、他のメンバーも理解した。スパンダムはCP4主官を排除するために、あえてCP4役人の暴走を見逃した。いや、誘導して暴走させたと……。
「人間というのは愚かなもので、味方が居ると思えば態度もデカくなる。現CPの中で長官に反抗的なのはCP2とCP4だろ?」
「ああ、長官もそう言っておったな。長官の父親に恨みがあるとか……」
「だが、おそらくCP4主官は今回の責任を取る形で交代となる。上も長官の反感は買いたくない筈だ。次は、長官に肯定的な人物が据えられるだろう。そうなれば、CP2も孤立状態で果たして今まで通りの態度を取れるかな? 無理だろうな」
そこまで語ったところで、ルッチは立ち上がり部屋に備え付けられている冷蔵庫の中から飲み物を取り出す。任務はないとはいえ待機中なのでノンアルコールではあるが、上機嫌で喉を潤してから話を続けた。
「……長官にとってCP2とCP4の主官は己の利にならない邪魔な存在だ。どこかしらのタイミングで、どちらかを排除する気だったんだろうさ。そうすれば、軽く睨むだけでもう片方も怯えて尻尾を振るからな……そうなればCPは実質全て長官に従う状態となる」
「実質的に長官がCPのトップってわけか……そりゃいいな」
その説明を聞いて、フィズも最初の怒りはどこへ消えたのか、ニヤリと楽し気な笑みを浮かべる。
「ジャブラ、たしか前に言っていただろう? 今回の任務に関して、珍しく長官が考えるような表情を浮かべていたと……」
「ああ、気になることがあるから自分が行くつもりだって……おいおい、ってことはまさか……」
「おそらく指令書が来た時点で、長官はそれを利用してCP4主官を排除するシナリオを組んでいたんだろうさ」
「間違いないと思いますよ。隊長は司法船の襲撃も予想していたみたいですし、本当に全部隊長の掌の上という感じでした……まぁ、それはそれとして隊長の指示に従わなかった奴らは大罪人なので、罰を与えましたけどね」
ルッチの意見にはチェルシーも同感であり、スパンダムは最初からすべての展開を読み切っているように見えた。その類まれなる頭脳から組み上げられた策略には惚れ惚れすると、そう思っている。
ただ、全部スパンダムのシナリオであるとは分かっていても、スパンダムの指示に従わない連中はムカついたのでボコボコにしていたのだが……。
「まったく、我らが長官ながら……恐ろしいのう。あれほど化け物じみた戦闘力がありながら、油断も慢心も一切なく深謀を張り巡らせるとは、恐れ入る」
カクと同じく他のCP9メンバーたちも、自分たちのトップの凄まじさを再認識して感嘆した表情を浮かべていた。なお、一部誤解といえる。
ルッチやチェルシーの読み通り、確かにスパンダムはCP4主官の排除も考えていた。ただ最初からその目的で動いていたわけでは無く、様々なことを検証する中のプランのひとつという程度だった。
とはいえ、原作知識……未来の展開を知った上でアレコレ動いていたスパンダムの思考を読むのは、さすがにルッチやチェルシーをもってしても不可能であり、結果として最初からすべて計算だったと解釈したのだった。
すると少しして、部屋のドアが開きスパンダムが入ってきた。ここは長官室ではなく、現在CP9メンバーは待機中なので、なんらかの伝達があって来たのだろうと、CP9メンバーは即座に起立して整列する。
「報告は二点。一点目は、今回の任務に関しては一時保留となった。それに伴い俺も明日から通常業務に戻る。もう一点は、直接的な関係はないが近々CP4主官が交代となるから、そのつもりで……質問は?」
「CP4主官との平和的な話し合いとやらはどうなったか知りたいな」
「特に問題なく終わったぞ。今回はお互いの連絡の不備もあったということで大きな問題にはしない……ただ、CP4主官は、今回の件で『多大な精神的負荷』を感じたようでな、退職して療養するそうだ。皆もストレスには気を付けろよ」
「くはっ、ははは……なるほど、なるほど、それはさぞ楽しい話し合いだったんだろうな……」
いまの会話だけで、ルッチだけでなく他のメンバーもおおよその理由は察した。おそらくスパンダムは普段抑えている気配を解放した上で話し合いをしたのだろう。
近くにいるだけで押しつぶされそうな異常な重圧、CP9のメンバーですらかなり気合を入れなければキツイ程のプレッシャーを、上へのゴマすりが上手いだけのCP4主官が受ければどうなるか……話が終わるころには、スパンダムへ逆らう気力など根こそぎ無くなってしまっているだろうと容易に想像できた。
まったくもって自分たちの長官は恐ろしく……なにより頼もしいと、CP9メンバーたちはそう感じていた。
CP9メンバー:基本的に狂パンダを慕っているため、CP4役人の行動は不快だった模様。特にフィズやジャブラは、ポチが制裁していなければ制裁に向かっていたと思うレベルで怒っていた。
ルッチ:力だけでなく知も優れた狂パンダのバケモノっぷりを再確認して大変上機嫌。狂パンダの存在もあって、笑っていることが多いので原作よりも他のメンバーへの当たりが穏やかで丸くなっている。
ポチ:忠犬にして狂犬。もちろん狂パンダが先まで読み切っているのは分かっていたが……それと大罪人に関しては別。
スパンダム:狂パンダ。CP4主官と平和的な話し合いをした結果、実質的にCPを手中に収めるぐらいになった。左遷コース無理だろ絶対……。
CP4主官:狂パンダのニコニコプレッシャートークによって精神をボロボロにされた。田舎に帰って畑を継ごうと決意。