闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

3 / 85
時代の始まりに蠢く闇

 

 

 生命帰還や気功を用いたバイオフィードバックにより肉体を作り変えることはできた。だが、まだ理想に届いたとは言えないので、あと何回かは同じことをする必要がある。

 だがそれだけでいいというわけではない。土台となる肉体は一番初めに手を加えるべきだが、同時にその肉体を活かす戦闘手段……武器も鍛えていかなければならない。

 そのためにはある程度方向性というか、そういうものはしっかり決めておく必要があるだろう。そこがブレてしまっては、最終的な完成度にも差が出てくる。

 

 今後さらに強くなるということを前提として、最初に考えるべきなのは悪魔の実についてだ。今後悪魔の実を手に入れる機会があった際にそれを食するか否か。

 う~ん、悪魔の実は……正直いらないな。能力の当たり外れもあるし、原作においてルッチはカナヅチは大したデメリットではないと言っていたが、問題はそこではない。

 問題は一定量以上の水に浸かると力が抜けるということと、海楼石という『明確な弱点』ができてしまうことだ。

 

 そしてなにより、正直個人的に悪魔の実には気持ち悪さを感じる。

 俺は少し前に自力で肉体を作り変えた。特殊な能力を得るためではなく、単純にいま以上に強い体に変化させたわけだが……発狂しそうなほど、いや常人なら間違いなく発狂しているほどの痛みや苦しみがあった。

 だが、『本来はそうあるべき』だと思う。いまの体を作り変えるんだぞ? そこには巨大なリスクがあって然るべきだ。

 だというのに、悪魔の実はただ食すだけで、体を変質させたり特殊な能力を身に着けさせたりと、海に嫌われるという、たったそれだけのリスクで通常ではありえない変化……いや、進化をもたらす。

 悪魔という名がしっくりくるような、まさに自然の摂理を冒涜した品と言えるだろう。

 

 まぁ、だが他人が食することを否定したりはしない。実際にどのような能力であっても使いようだし、手っ取り早く強くなれる手段ではある。

 ただ俺個人としては、自分ではない外的要因に好き勝手に体を作り変えられるということに強い嫌悪感を覚えるだけだ。

 というわけで、悪魔の実は無しだ。

 

 次に思い浮かぶのは、覇気……これはハッキリ言って最重要だと思う。というのも、悪魔の実に対してこれ以上ないほど有効な力だからだ。

 ロギア系に対する攻撃手段になるのはもちろんだが、それ以外にも原作のパンクハザードにおいてドフラミンゴが、ローのオペオペの実による切断がヴェルゴに通用しない的な発言をしていた。

 そして、ドフラミンゴとの決戦においてローはドフラミンゴに対して切断の能力を使っていない。あの切断や心臓抜きはホビホビの実並みの一撃必殺級の能力だと思うのだが、なぜ使わなかったのか……強大な覇気は、悪魔の実の特殊な力による影響を防ぐことも出来るのではないかと、そう予想している。

 

 それを抜きにしても覇気は極限まで鍛えるべき力ではある……だが、そう簡単にはいかない。

 というのも、俺は覇気を使えるようになったが、その後鍛錬しても……あまり覇気が強くなったように感じられないのだ。まったく成長しないというわけではないが、それでも肉体の成長に比べてあまりにも遅すぎる。

 原作においてレイリーがルフィに覇気は戦いの中で磨かれる的な発言をしていたし、覇気をより強くするには実戦こそが最も効率がいいのではないかと考えられる。

 なので基礎的な鍛錬はしつつも、覇気を本格的に鍛えるのは実戦を行えるようになってからだ。

 

 悪魔の実、覇気、そのふたつに関する方針はそれでいいとして……問題はここからだ。俺の思い描く戦闘スタイルは、他を隔絶した圧倒的な肉体による格闘戦。

 そのスタイルを活かすうえで六式は相性がいいと思う。覇気の入門編などと揶揄されることもあるが、俺は六式にはもっと上の可能性を感じている。

 

 指銃……原作においては正直、そこまで強いという印象はなく、なんなら普通に殴る方が強そうではあった。だがこの技の神髄は、一点に力を集約することによる貫通力。それこそ、武装硬化ごと貫けるような貫通力があれば、強力な武器になりえるだろう。

 

 剃……これはスピードをさらに上げる方向でいいだろう。あとは、音もなく瞬間移動のように動けるようになればさらにいい。

 

 月歩……海の多いワンピース世界において、この技は極めて重要だ。空を高速で動きまわる。例えば、剃と月歩を組み合わせることができれば、飛べない相手に対しては圧倒的優位で戦えるだろう。

 

 鉄塊……武装硬化の劣化のように認識されがちだが、武装硬化は体の外に纏う鎧で鉄塊は体の内部を硬質化させると思えば、別の力……むしろ、武装硬化と組み合わせて使ってこそ最大の力を発揮できるのではないかと思うので、その方向で鍛えることにしよう。

 

 紙絵……これは、鉄塊よりも攻撃的な防御だと考えている。回避して終わりではなく、最小限の動きで躱しつつカウンターまでをセットとして考えるべきだ。生命帰還と組み合わせることで原作でフクロウが行っていた紙絵・スライムのように本来ならあり得ない回避も可能かもしれない。

 

 嵐脚……六式使いにとってメインウェポンとなるのは、やはり嵐脚だろう。だが、普通の剣程度の威力では意味がない。それこそ鷹の目並の斬撃を足で放ててこそ、必殺となりえる。

 

 そして最後に、六王銃……六式使いの切り札と言っていいが、溜めの動作が長すぎる上に両手打ちでは使い勝手が悪い。瞬時にかつ片手で打てるようにしたいところだ。

 そうすれば、右手と左手の六王銃を同時に打ち込むなんて芸当もできるようになるだろうし、正しく切り札と言っていい威力になるだろう。

 

 バイオフィードバックによって進化した圧倒的な肉体で、極限まで研ぎ澄ました六式を用いて戦う。とりあえずは、その方針で鍛えていこう。

 それ以外にも体運びや基本的な打撃などは、山ほどある資料を見てよさそうなものを取り込んでいく。あとは実戦経験を積める機会も考えておかなければならないだろう。

 

 

 

****

 

 

 

 生まれ変わった……もとい、人間としての範疇を踏み外してから二年。前世の記憶を得てから通算で八年、十五歳となった俺は使い慣れた地下訓練場の清掃を行っていた。

 ここと資料室には基本的に使用人を入れることはなく、清掃も含めて俺がひとりで行っている。というか、うちの屋敷は広さの割に使用人が少ない。

 理由は言わずもがな諜報組織の高官の家だからだ。雇う相手には細心の注意を払わなくてはならないし、保身が第一の親父がそこを徹底しないわけもない。

 俺自身が基本的に身の回りのことは自分でやりたがることもあり、使用人の多くは親父に付いており、俺は比較的に自由にやらせてもらっているので、いろいろやりやすくて助かっている。

 

 清掃を終えた地下訓練場を眺めてみる。しっかりと掃除はしていたつもりだったが、それでも床はすっかり赤黒く変色してしまった。

 よくもまぁこんなになるまで、文字通り血反吐をまき散らしながらふざけた鍛錬をしたものだと思う。

 

 実際、自分でも狂ってると思うし……実際に最初の肉体改造以来、どことなく歪んでしまった自覚もある。

 しかし、なんとも矛盾したものだ。ほどほどの幸せとほどほどの充実感……平凡な幸せを願うわりには、文字通り血反吐を吐きながら圧倒的な力を求める。

 怠惰を求めて勤勉に行き着くとはよく言ったものだと思う。

 

 だが十分すぎるほど成果はあった。何度かのバイオフィードバックによる肉体改造……床を変色させるぐらい何度も血をまき散らして破壊と創造を繰り返した結果、思い描いていた理想の肉体に辿り着くことができた。

 六式に関しても、目標としていたものは大体達成した。ただ、やはり覇気の成長はイマイチなので、そこは今後の課題と言えるだろう。

 だが、成果は上々……六式を修めたものは超人と呼ばれるらしいが、その領域はすでに遥かに飛び越え、いまの俺の肉体は『バケモノ』と表現するのが適切なレベルだ。

 まぁ、人間の癖に身長六百六十六cmもある白ひげとかも別の意味でバケモノではあるが……。

 

 訓練場から外に出て、一度汗を流してから自室に戻る。大き目の鏡の前で着替えつつ、やや癖のある薄紫の髪をオールバックに纏め、こげ茶色のスーツを着る。

 黒いスーツでもいいのだが、黒スーツはいずれ飽きるほど着るだろうし、いまはこれでいいだろう。

 う~ん……しかし、顔は原作のスパンダムよりかなり引き締まっているが、隈のように見える目の周囲と、黒っぽい鼻のせいでやっぱりちょっと間抜けに見える。

 バイオフィードバックでいじれば色は変えられそうな気もするが、自分の容姿にそこまで拘りは無いし親父や使用人への説明も面倒なので、別にいいか……。

 

 そう結論付けた俺は、黒いネクタイを巻きながら部屋から出て見かけた使用人に親父が居るかを尋ねる。どうやら親父は食堂にいるらしいので、そちらに移動する。

 食堂に辿り着くと、無駄にデカいテーブルで食事を行っている親父の姿を見つけたので、近づきながら声をかける。

 

「親父、少しいいか?」

「スパンダムか、どうした?」

「俺はいつ頃、政府の役人になる予定だ?」

「二年後を考えていたが、希望でもあるのか?」

 

 親父にとって俺は己の地位をさらに確たるものにするための存在であり、そのためにはなにかしら出世コースのレールを引いていて根回しもしているはずだ。

 大方二年後あたりにどこかのいいポストが空くから、そこに俺を就かせるような形にしたいのだろう。

 

 それは別にいい。俺はこれでも親父には感謝している。深い情などは感じていないが、好きにいろいろやらせてもらった恩はあるし、こちらの邪魔をしないのなら出世の道具としてだろうがなんだろうが、好きに使えばいいと思っている。

 互いに利用し利用されるぐらいの関係が丁度いい。

 

「いや、時期に関しては親父の意向に従うが、その前に見識を広げるために軽く世界を旅したい。二年後までには戻るし、電伝虫も携帯するから有事には連絡をくれれば戻ってくる」

「……ふむ。いくら必要だ?」

 

 こちらにさほど興味がない親父は、話がスムーズで助かる。親父にしてみれば、息子が漫遊旅行をしたいと言ってきた感覚なのだろう。

 高い金さえかからなければ好きにすればいいと、そんな思いが伝わってくるようだ。

 

「最低限でかまわない。必要なら現地で追加調達する」

「くだらない騒ぎは起こすなよ?」

「心得ているさ、問題ない」

「ならば好きにしろ」

 

 そう告げて親父は食事を再開する。それを確認してから食堂を出て自室に戻り、思考を巡らせる。

 実戦経験を積むにはここが最善のタイミングといっていい。というのも、俺は現在ある情報によりいまが原作の何年前かを知ることができた。

 もう少し遅くなると、グランドラインは異常なほど荒れるため、親父も忙しくなりこんな話どころではなくなるだろう。だから、このタイミングが最適だ。

 

 そう考えながら、俺は机の上に置いていた新聞を手に取り、その一面を見る。

 

『海賊王ゴールドロジャー逮捕!』

 

 ……そう、いまは原作の24年前。もう間もなく、ロジャーの処刑と共に大海賊時代が幕を開ける。ワンピースを求めて大量の海賊がグランドラインに飛び込み、世界が大きく荒れるからこそ……実戦経験を積むのに最適だ。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。