闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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1%のひらめきこそが天才の境界である

 

 

 ベガパンクの(サテライト)のひとりであるリリスと関わりを持ち数ヶ月。アレ以後、リリスはなにかと理由を付けてグランドライン前半の海に来ており、3度ほど会っているが、どうも会うたびに面倒さが増している気がする。

 しかし、さすが世界最大の頭脳といわれるベガパンクのひとりだけあって、その面倒さを差し引いても大幅にプラスに傾くほどに有能だ。

 

 服の改良も提示した通り5日で3倍の強度に仕上げてみせたし、さらにそこから30日足らずでさらに改良し、以前の服の10倍を超える強度の服を作ってしまった。

 衝撃を吸収したりすることはできないことを除けば、防具としても極めて優秀だし、伸縮性も素晴らしく俺の動きにも付いてこられるという完璧な仕事にはケチのつけようもない。

 

 そんなわけで俺としてはリリスに対してかなり高評価なのだが、そんなリリスから名指しでの護衛依頼が届いた。

 正式に上を通じて届いたものであり、政府にとっても要人と言っていいリリスの警護を行うというのは、CPの管轄でもあるといえばその通りだ。

 まぁ、どちらかと言えば他のCPが担当すべき案件ではあるが、俺を指名してきて上がそれを了承しているのなら、出向くことは問題ない。

 

 そんなわけで、指定された場所に剃刀で辿り着くと、一隻の船がありそのデッキでリリスが手を振っていたので、目の前に着地する。

 

「来たな、パンダ。さすがに早い到着じゃ」

「仕事だからな。それで、グランドライン前半の海でなにをするんだ?」

 

 リリスはいつの間にか俺のことを「パンダ」と呼ぶようになったが、別に呼び方などどうでもいいので好きにさせている。

 俺の質問に対し、リリスは二ッと笑みを浮かべて告げる。

 

「簡単に言えば、お前に最初に会った時の研究の続きじゃな。いや、ここ数ヶ月お前の依頼の品を作成する以外、お前のデータを見てニヤニヤと過ごしていたら、いい加減にしろとしこたま怒られてな」

「……だろうな。むしろ、よく数ヶ月も見逃してもらえたものだ」

「それで、遅れまくっていた研究を再開することにしたのじゃが、研究に必要な品をいくつか収集しなければならん。さすがに、無から素材が湧いてくるわけでもなく、あちこち回って集めなければならないというわけじゃ」

「……それで?」

 

 ここまでの説明自体は問題ないが、わざわざ俺を指名してきた理由にはなっていない。そんなものは、海軍の護衛でも付けて回ればいいだけの話だ。

 

「じゃが、当たり前のことではあるが、あちこちの島を回ると時間がかかる。移動だけで何日も何日もかけるのは時間の浪費でしかないわけじゃ。ただでさえ、研究資金も時間も人手も足りないというのに……」

「数ヶ月サボっていた奴の台詞ではないな」

「それは、わしをそこまで夢中にさせたお前が悪い。それはともかくとして、わしはなんとか研究を効率よく進める方法を考え、思い付いたわけじゃ! 陸海空すべてに対応して超速移動できる高機動パンダが居るじゃないかと――あだだだだだ、痛い痛い!?」

 

 とりあえず、魂胆は読めたが、それ以上にドヤ顔がウザかったので絶妙に力加減したアイアンクローを決めて、リリスの体を軽く持ち上げる。

 

「待て待て!? 弾ける! 頭が熟れたトマトみたいに弾ける!! わしの頭がパーンってなったら、世界にとって大きな損失じゃぞ!?」

「……6体もいるんだからいいだろ」

「残機制じゃないから!? 6体居るから1体パーンしてもいいとか、そういうことじゃないから!!」

 

 そのまま適当に締め上げたあとで解放してやると、リリスは痛む頭を両手で押さえつつしゃがみ込みながら呟く。

 

「……お前が力加減を間違うとは思わんが、それでも0.1%でも間違ったら頭が物理的に弾けるかもしれないってのは、マジで怖い」

「というか、初めに会った時とずいぶん態度が変わったなお前……」

 

 呆れながら告げると、リリスは軽く頭を振りながら立ち上がると、至極当たり前のような表情で口を開く。

 

「最初は、お前の許容するラインが分からんかったからな。じゃが、いまはもうほぼ完璧に把握した。こうやっておふざけ交じりで絡もうが、パンダ呼びしようが、お前はわしを殺したりせず許容するじゃろ? 少なくとも、わしがお前にとって有益な存在であり続ける限りはな……」

 

 なんだかんだで、やっぱりコイツは天才であり、その頭脳は認めざるを得ない。たしかに、リリスは短期間でほぼ完全に俺のラインを把握しており、逆鱗に触れる……俺が、リリスを殺そうと判断する領域には絶対踏み込んでこない。

 時々ワザと逆鱗のすぐ近くを撫でることはあるが、逆鱗に触れることは無いと言い切れるレベルであり、まったくもって大したものだ。

 

「……それで、他に護衛は?」

「パンダがおるのに、足手まとい連れていく必要なんざないじゃろ。わしひとり連れて行ってくれればいいぞ」

「目的地は?」

「3ヶ所ほど、エターナルポースも用意してあるぞ」

 

 そう言って俺に三つのエターナルポースを渡してくるリリス……はぁ、仕方ない。まぁ、三つの島程度ならそれほど時間もかからず終わるだろう。

 

「なら、準備をして出発するぞ」

「ああ……おっと、そういえば、前にお前に頼まれた物も完成しているが、先に受け取るか?」

「もうできたのか?」

「元々わしらも似たようなものは使っておったしな……ほれ、これじゃ」

 

 リリスが取り出したのは片手で持てるぐらいのサイズの長方形の箱であり、それを開けてみると俺の注文通りの品が入っていた。

 

「それひとつで500体の電伝虫の電波を登録できるし、電波の範囲も電伝虫と同じぐらいはある。登録した番号を押せばかけることも出来るし、強度もちゃんとお前が扱うことを考慮して作っておるから、無茶をしなければ壊れんじゃろ」

「電源は?」

「内部で生成しているから、普通に使う分には充電のようなことは必要ないぞ。さすがに、連続通話していると3時間ほどで切れるが、1時間おけば再使用可能になる」

「……なるほど、注文以上だ」

 

 リリスに頼んでいたのは、いわゆる携帯電話のようなものを作れないかという内容だった。この世界では電伝虫が主流なのだが、持ち歩くのにはあまり適さない。

 子電伝虫はサイズこそ小さいが、電波の届く距離が短い。通常の電伝虫は電波は遠くまで届くが、持ち運ぶにはサイズがでかいし、生物なので高速移動するときなどに気を使う。

 なので、携帯電話のような通信機があれば普段の仕事が楽になると、前回会った時に告げたところ、「そのぐらいすぐ作れるぞ?」との返答だった。

 そして言葉通り、今回作って持って来たというわけか……マジで有能だなコイツ。

 

 俺も脳を改造しており、思考速度や計算速度であれば負けないのだろうが、積み重ねた知識量……そしてなにより発明のセンスとでもいうべきか、発想力は遠く及ばない。

 エジソンは「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」と語ったというが、その1%のひらめきを持ちうるからこその天才か……。

 

「うん? もうひとつあるな」

「ああ、それはチェルシーの分じゃ。アイツもお前の補佐なのじゃから、同じものを持ってた方がいいじゃろうと思うてな……そういえば今日はチェルシーがおらんな」

「今回は、留守を任せているからな。まぁ、あとで渡しておく」

 

 二度目に会った際に、ポチとリリスは会っており、かなり気が合っていたというか……俺の話でやたら盛り上がっており、すぐに仲良くなった感じだった。

 リリスはポチの筋肉繊維に興味津々で、ポチも基本人がいいのでいろいろ協力していたみたいなので、この通信機はその礼も兼ねてなのだろう。

 

「……ポチのデータは参考になったのか?」

「かなりな。チェルシーの方はかなり難しいが再現性があると言えるし、参考にすればいろいろな研究が進みそうじゃ」

「俺は?」

「お前の方はいまだにさっぱり分からん。データ見るたびに脳が破壊される思いじゃ。そんな異常変異しまくったお前を人間と区分していいかすら疑問じゃし……そもそも、お前、本当に少ししかデータ取らしてくれんじゃろ。まぁ、その少量のデータですら、数ヶ月駄目になったことを考えると、大量に取れたら年単位でサボってしまいそうじゃが……」

 

 そう言って苦笑するリリスを見て、俺も呆れつつ苦笑する。本当にマッドサイエンティストという言葉が似合う奴ではあるが、極めて優秀であり最初に会った時の言葉通り俺の注文は最優先で取り掛かってくれるので、俺にとっての利益は非常に大きい。

 それを思えば、こうしてタクシー代わりにされるのも許容範囲だ。まぁ、リリスもそれを分かった上で指名してきたんだろうがな……。

 

「それじゃあ、出発するか?」

「ああ……しかし、少し待て防護服を着る」

「防護服?」

「ゴリゴリのモンスターのお前と一緒にするな。わしは頭脳労働専門なんじゃから、生身で超速移動に耐えられるわけが無かろう。風圧とかもろもろに対する対策じゃ……」

「そうか、ならついでに耐久テストをしてやろう」

「……お前、マジで加減しろよ? 本当じゃぞ? 風圧で首がへし折れるとか嫌じゃからな……」

 

 そう呟きながら宇宙服のような防護服を着たリリスを片手で担ぎ上げ、エターナルポースをひとつ見て、俺は船のデッキを蹴って跳躍、剃刀で移動を開始した。

 

 

 




スパンダム:禁忌のパンダ。リリスに対して面倒なやつという感想はあるものの、とにかくそれを帳消してならプラスが多すぎるレベルで有能なので、許容している。己の利が非常に大きいので、かなり好評価。

リリス:最初の遭遇から月1ぐらいのペースで会いに来てる天才科学者の(サテライト)。狂パンダにすっかり脳をやられており、数ヶ月間データを見て恍惚とした表情を浮かべて研究をサボっていたが、周囲から叱られたので研究を再開。狂パンダのラインは完璧に把握しており、許容範囲を見極めたうえで気安く接している。

ポチ:珍しくお留守番。狂パンダの至高の肉体に魅了され、それを熱く語っていたリリスとは秒で仲良くなって、研究にも協力した。調理器具などを作ってもらう約束もしている。

五老星:のちにドラゴンとかの繋がりでベガパンクの始末を決めた際に、交流関係調べてエネル顔になりそう。
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