闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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化学反応とさらなる力への兆し

 

 

 ふたつの島でいくつかの素材を収集し、最後となる三つ目の島に辿り着いた。この島は無人島のようで、目的の品がある場所に向けてリリスと共に歩く。

 いちおう名目上は護衛であるので見聞色で警戒はしているが、多少猛獣が居る程度で大した問題ではない。

 

「なにか危険なのはおるか?」

「いや、10mほどの獅子のような動物がいる程度で大した猛獣は居ない。俺の気配を察して島の奥に逃げたし、周囲は安全だ」

「……物凄い猛獣が居るって聞こえるんじゃが、お前が護衛と思うと全く危険に感じんから感覚が狂いそうじゃな。それにしても、三つの島を回るのに半日もかからんとは……これを体験すると、船での移動が馬鹿らしくなるな」

 

 まぁ、あくまでリリスを風圧等で潰さないように加減した速度であり、俺ひとりならもっと早いのだが……。

 

「しかし、まだ目的の場所まで少し距離があるし、ここいらで休憩でもせんか?」

「今回の件の主導はお前なんだから、好きに決めればいい」

「じゃ、休憩で、ささ、パンダも座ってくれ。コーヒーを用意しているから、これでも飲むといい」

 

 俺が了承するとリリスは満面の笑顔でどこからともなく取り出した水筒を取り出し、俺の方に差し出してきた。なんとも胡散臭い笑顔を浮かべながら……まぁ、そもそも隠す気は無いんだろうが……。

 俺は水筒を受け取りつつ、リリスに尋ねる。

 

「それで、なにが入ってるんだ?」

「その量で海王類でも眠らせる、超強力な即効性睡眠薬じゃ。しかも、無味無臭で、飲んでもまったく気づかんレベルの自信作と言っていい」

「なるほど……確かに、飲んでも分からないな」

 

 ドヤ顔で語るリリスの言葉を聞きつつ、水筒の中のコーヒーを飲む。ポチの淹れた物には劣るが、なかなか悪くない味だ。

 そして感想を述べる俺に対して、リリスは明らかに不満そうな表情を浮かべる。

 

「……」

「なんだ? いちおう言っておくが、睡眠薬やしびれ薬、毒などといったものは俺には効かんぞ。特に毒はマゼラン署長にも協力してもらって検証したから、現存するあらゆる毒が効かないことは確認済みだ」

「……いや、わしもそんな簡単にいくとは思っておらんかったが、多少は効いてくれよ、人として……」

「いかに肉体が強固でも、毒などで死んでは意味がないからな。その辺りは徹底的に対策している」

 

 当たり前だが、肉体改造の際に毒や薬品に対する耐性は強化しまくっている。究極の肉体を得たとしても、そういった耐性の面で付け入る隙があっては意味がない。

 

「はぁぁぁ、上手くいかんのぅ」

「実際俺が眠ってたとして、どうする気だったんだ?」

「どうもせんが? 要望があるなら先に言っておいてくれれば、膝枕ぐらいしたぞ?」

「……」

「ああ……寝ている間にサンプル採ったりってことか? それやったら、お前わしを殺すじゃろ? 睡眠薬飲ませて眠らせるまでなら、『今後の課題が見えた』とかで見逃してくれるからセーフじゃが、そこより先に踏み込んだらライン越えるしな」

 

 本当にコイツは、正確に俺のラインを把握している。事前に睡眠薬であると告げたのもそうだ。俺が聞かなくても、飲む前に告げるつもりだったのだろう。

 その上で飲んで眠ったのなら、俺の感覚としては自身で了承して飲んだ睡眠薬が効いたのだから、俺自身の対策不足であり、そのことでリリスを始末したりはしない。

 だが、眠っている間に許可なくサンプルを採ったりというのは、俺にとっては極めて不快な行為だ。リリスはその辺りも完璧に理解している。

 

「しかし、予想はしていたが、薬品類は効かぬか……相変わらずふざけたやつじゃな」

「躊躇なく俺に対してそれを試そうとするお前も十分ふざけているがな……」

 

 折り畳み式の椅子を出して座るリリスの前で、俺は水筒のコーヒーをもう一口飲みながら呟く。それはそれとして、この睡眠薬が海王類にも効くレベルなら、任務とかでも使い道があるだろうから、覚えておいて必要になったらリリスに譲ってもらおう。

 そのまま休憩ということで他愛のない雑談を続けていると、ふと覇気についての話になった。

 

「……わしではなく他の(サテライト)が覇気について研究したのじゃが、覇気には指紋のように個人個人に微妙に波長の違いがある。まぁ、見聞色は個々の感覚によるものが大きく測定が難しいし、覇王色はそもそも所持者が少なすぎてデータが足りんので、武装色の話ではあるがな」

「ふむ、興味深いな……覇気と言えば最近若干伸び悩んでいるな。覇気は鍛錬では伸び辛く、実戦で磨かれるものだが、相手の覇気が大きいほど成長しやすい」

「お前の覇気を成長させられるレベルの使い手が少ないわけか……自分の覇気をぶつけるのでは駄目なのか? 右手と左手に覇気を纏わせて打ち合わせるとか……」

「試したことはあるが意味は無かったな。己の覇気同士をぶつけても成長するような感じはない」

 

 俺の覇気が大きくなりすぎており、身近で俺に次いで覇気が大きいポチ相手でもいまいち伸びが悪くなってきた。かといってかつてのように武者修行をするわけにもいかないし、そもそもいまの俺の覇気を成長させられるレベルとなれば、本当に世界に数えるほどしかいない。

 リリスは俺の話を聞いたあとで考えるような表情を浮かべ、右手の中指で己の眉間をコンコンと二度叩く。それはリリスがなにかを思考している時の癖のような動きであり、少しするとリリスは思考をまとめたのか口を開く。

 

「先の話を覚えているか? 覇気には波長が存在する。これはいまザッと考えただけの推測ではあるが、その波長の違い、ズレと言っていいものがぶつかり合うことで刃を砥石で研ぐように覇気が磨かれる。覇気の成長のメカニズムをそうと仮定するのであれば……右手と左手の波長をズラせれば、己の覇気だけで覇気を大きくすることができるのではないか?」

「面白い仮説だな。たしかにソレが出来るのなら……極論、常に同格の覇気で鍛えられるということになるか」

 

 リリスの仮説は面白い。同じように見えても覇気には個人の波長があり同じではないため、ぶつけ合うことで磨かれていく。自分の覇気を右手と左手でぶつけたところで、波長は同じであるため成長することはない。

 だからその波長をズラせれば、己の覇気同士をぶつけても覇気を磨くことができると……。

 

「……なんなら道具を作ってやるから試してみるか? 要は少しでも波長をズラせばいいんじゃろ……なら、別に複雑な仕組みは必要ない。動きを邪魔しない形状、そうじゃな手首に着けるリングのような形状で作れば、右手と左手の波長を意図してズラせる」

「出来るのか?」

「覇気の研究に関してのデータは共有しておるし、波長を乱すだけなら大して手間もいらん。いま設計図も思い付いたし、頭の中で仮組もしてみた。問題は強度じゃが、幸いお前用の服を作った時の素材を流用できるし……割と簡単に作れるな。わしは覇気が使えんし、自分では検証できんが、試作品を作って渡してやるから、それで試して覇気が成長するようなら、強度を上げた正式な物を作ればいい。成長しないのであれば、覇気の成長要因は波長のズレには無いことが判明するから、別アプローチを試すという形じゃな」

 

 もし、リリスの仮説が正解で、その道具を使うことで右手と左手の覇気をぶつけて磨くことができるなら、いままで伸びが悪く効率が良くなかった実戦以外での武装色の鍛錬が現実的になる。

 そうなれば見聞色以外は意図して鍛えることができるようになるわけか……素晴らしいな。

 

「頼めるか?」

「任せろ……その代わり、また今度実験に付き合ってくれ」

「内容次第だが、いいだろう」

「よしっ、約束じゃからな!」

 

 コイツと交流を持てたのは正解だったな。そういう意味では、親父にも感謝か……。

 

 

****

 

 

 リリスが求める素材は島の奥の洞窟にあったので、それを回収し終えて今回の収集は終わり……と、そう思ったタイミングでリリスが洞窟の壁を見て、首を傾げる。

 そして、壁をコンコンと手で叩いたりしてなにかを調べているような動きを始めた。

 

「……ふむ、音で分かるほど薄くは無いか……」

「どうした?」

「いや、ここの部分に補強したような跡があってな。奥に隠し部屋でもあるのかと思うたのじゃが、よく分からんな。いまは機材も持って来ておらんし……」

「ふむ、少し待て」

 

 リリスの言葉を聞いて、俺は見聞色を深く研ぎ澄ます。すると、周囲の形状、周辺の小さな石ころの形まで手に取るように分かり、壁の先になにがあるかも把握できた。

 

「空洞のようなものがあり、複数の箱などがあるな」

「レーダーみたいで便利じゃな……ふむふむ、興味があるな。よ~し、パンダ。やってくれ!」

「やれやれ、好奇心は猫を殺すと言うぞ?」

(サテライト)じゃからか? ははは、よい言葉じゃが好奇心が殺すと言っても解釈は様々じゃろ。果たして好奇心に身を委ねた結果に死ぬのか、好奇心から目を逸らした結果死ぬのか……科学者がどちらを選ぶかは分かり切った話じゃがな」

「ふっ……確かにな」

 

 ドヤ顔で語るリリスを見て苦笑しつつ、壁に軽くデコピンを当てる。すると大きな音と共に壁が割れ、その先にあったものが見えた。

 

「おおおお、財宝じゃないか! かなりの量じゃな……昔の海賊辺りが残したものか? くふふふ、コレはかなり研究費用の足しになりそうじゃ、運がいいのぅ……パンダ、分け前は?」

「いらん。お前の好きにしろ」

「さすが、パンダじゃ! そう言ってくれると思っておったわ!」

「……それは別にいいが、その量をどうやって運ぶつもりだ」

「スーパー運送パンダが居るから大丈夫――あだだだだだ!? や、やめろ、頭を攻撃するな、馬鹿になったらどうする……痛い痛い!?」

 

 ドヤ顔がウザかったので、もう一度アイアンクローをして持ち上げておいた。

 

 

 




スパンダム:状態異常無効能力持ち狂パンダ。なんだかんだでリリスが極めて有能なので、財宝の運送もやってやる。それはそれとして、ドヤ顔はウザかったのでアイアンクローはした。覇気をさらに成長させられそうで、少しウキウキしてテンションが微かに高い。

リリス:やはり天才。ただでさえバケモノな狂パンダにさらなる進化の道を提示するという暴挙……もう、五老星の胃のライフはゼロである。とりあえず、パンダ移動がクソ便利だし、パンダの常識外れの能力を間近で見られるので、今後もこういう収集の時は狂パンダを呼ぼうと決意。
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