海軍本部にある大会議室。さすがに海軍という巨大組織の本部にある会議室だけあって相当の広さであり、中にはすでに大勢の将校などの姿が見えた。
今回の会議は海軍主導なので当然海軍側の出席者が大多数である。ただ、もちろん合同と冠して俺やマゼラン署長が呼ばれているように、海軍所属ではない者もそれなりに居る。
俺に軽く断りを入れたあと、マゼラン署長はインペルダウンとは別の監獄を預かる者や監獄関係の役人が居る席に向かい。俺もサイファーポール関係の者が集まっている席に移動する。
「ご苦労様です。スパンダム殿……どうぞ、こちらの席に」
「いや、そこはお前が座るべきじゃないのか?」
「ははは、スパンダム殿を差し置いて私が座るわけにはいきませんよ」
そこには各CPの主官とCP0の総監が居て、俺が近づくとCP0総監が席を勧めてきた……ど真ん中の席をだ。普通そこは、CPの代表的な位置の者が座るべき場所であり、最も立場が上のCP0総監が座るべきなのだが……CP0総監は、俺に席を勧めて自分はさっさと他の席に座ってしまった。
他のCP主官を見ても、俺がそこに座ることに異論は無い様子だったので、軽くため息を吐いて席に座り、ポチも当然の権利とばかりに俺の隣の席に座った。
元々2席空けてあったので、CP0総監あたりがあらかじめポチも込みで準備していたのだろう。
「スパンダムさん、いくつか相談したいことがあるんですが、会議後に時間って作れますか?」
「ああ、今日は他の仕事もない。ほかにも希望する者が居れば時間は用意する」
「では、ウチも」
「私も、少々任務の件で」
「こちらも……」
……多いな。まぁ、電伝虫による通信では盗聴等を警戒して相談しにくいこともある。盗聴防止が出来る白電伝虫は希少なので、すべての部署にあるわけではないしな。
「まぁ、CP内での意見のすり合わせも必要か……ポチ、合同会議が終わったあとで、別の会議室を借りられるように要請しておいてくれ」
「了解です」
う~む。しかしこれ、合同会議が終わったあとでCPの会議を行って……終わるタイミングが、七武海が来る時間にかち合いそうな気がするな。
あくまで七武海が時間を守って招集に出てきたらという話ではあるが……いちおう、本来は七武海が招集に応じるのは義務のはずなのだが、我が強い連中ばかりだからなにかと理由を付けて不参加も多いみたいだ。
そうこうしているうちに、センゴク元帥を始めとした海軍でも立場の高い者たちが入室してきた。こことは離れているが、三大将は……黄猿だけ参加みたいだ。
センゴク元帥たちが席に着くと、司会進行を行う者が正面にあるスクリーン前に立ち、合同会議が始まった。
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合同会議自体は、非常に退屈なものだった。新しい情報は殆どなく、基本的に革命軍やドラゴンに対してのおさらいといった感じの内容だった。
他部署も含めて認識の均一化というか、そういうものを目的とした会議なのだろうが、既知の情報ばかりなのは思いのほか退屈だった。
……まぁ、会議とは概ねどれも退屈なものだと言ってしまえばそれまでではあるが……。
合同会議が終わった後は、別室に移動してCPでの会議も行う。まぁ、これに関しては会議というよりは各CP主官の相談を聞く感じではあったが……。
やはり革命軍の動きが活発化していることもあって、CPも忙しくなっているので、それぞれなかなかに苦労しているらしい。
こちらの会議も終わり、CP主官などを先に帰らせる。ポチには船を手配しておくように伝え、俺は急遽会議室を貸してもらったことをセンゴク元帥に一言礼を言うために元帥の部屋に向かった。
七武海との会議が始まっていた場合は後日書面で礼を送るつもりだったが、まだ大丈夫なようだったので、直接会って礼を言うことにした。
快く部屋に迎え入れてくれたセンゴク元帥に、軽く頭を下げて礼を伝える。
「センゴク元帥、今回は急な申し出にも関わらず会議室を貸していただき、ありがとうございます」
「いえ、お力になれたようならなによりです。そういえば、スパンダム長官とはあまり話したことがありませんでしたな」
「そうですね。意外とCPと海軍が合同で事に当たる機会が少ないですからね」
「せっかくの機会ですし、時間があるようならお茶でも一杯いかがですかな?」
「そうですね……では、お言葉に甘えさせていただきます」
遠回しにこの機会に少し話をしないかと提案されたので了承する。こちらとしても断る理由は無いので、ポチに軽く連絡を入れてからセンゴク元帥を向かい合うようにして座る。
「……さて、スパンダム長官は革命軍についてどう対処すべきだと考えますか?」
茶を一口飲み静かに告げるセンゴク元帥……その瞳の奥には油断ならない光があり、こちらを試しているような空気を感じた。
センゴク元帥にしてみれば、俺は世界三大機関トップであり、先の会議の席でも実質CPの代表のような位置に座っていた存在ということもあり、どんな相手か量ろうとしているのだろう。
「……危険視するべきなのは、革命軍そのものよりも拡大する思想の方だと思いますね。果たして革命軍に参加ないし反乱軍として国と戦う者たちの中で、真に世界や国をよく知った上で加わっている者がどれだけいるか……組織でも国でも、管理する側の視点と現場の視点は同じでない。同じものを見ていたとしても見え方は変わってきます」
「我々のような管理側の立場としても、現場との認識の相違には気を使う必要がありますね」
「ええ、視点が違えば白いものでも黒く見えるでしょう。一部の者の思想に煽られているだけの者が大多数ですらある。我々が真に行うべきなのは、革命そのものを悪と断ずることではなく、熱に浮かされる者たちに冷や水をかけ、考える時間を与えることかもしれません」
「……消すべきは革命軍ではなく、扇動している者というわけですかな?」
「反乱や革命は、ある程度は起こりうるものでしょう。それを全て否定する意味は無い。問題は、本来各国という範囲で終わるはずのそれを、世界規模に広げている者がいる……まぁ、結果として私の意見は、海軍や世界政府の見解と変わりませんよ。討つべきは革命家ドラゴンと、そう言うことです」
俺個人として興味はほぼ無いが、革命軍を終わらせる方法がドラゴンを倒すことであるというのは分かりやすい。
結局のところドラゴンが居なければ、世界規模の革命軍という歪な組織は機能しえない。俺の知る限りで、ドラゴン以外に革命軍をまとめられるカリスマを持つ存在は居ない。
「……まぁ、シンプルながらそれが一番難しいのですけどね」
「そうですな」
「逆に問わせていただきますが、センゴク元帥にとって革命軍は……悪と呼ぶべき存在ですか?」
「……難しい質問ですな。すべてが悪であるとは、断言できないかもしれません」
多くのものが頭を悩ませているのはそこだろう。海賊のように明確な犯罪者というわけでもなく、革命軍という言葉で括るには事情も背景も違い過ぎる。
望んでそうなった者と、そうなるしかなかった者とではまた違ってくる。だが、戦場に立てばそれらは革命軍という同じ括りだ。
「立場が違えば正義も違う。いかな善政を敷いていたとしても、全ての人間を幸せにできるわけではない。結局のところ、どこにも真の意味での正義なんてものは存在しないのかもしれませんね」
「ははは、それは絶対正義を背負う者としては、耳の痛い言葉ですね」
「万人が納得する正解なんてないからこそ、正義なんてのは各々の基準でいいのでしょう。少なくとも私はそうしているつもりです」
「……闇の正義、ですか?」
「綺麗事だけで成立する世界など、おとぎ話でも果たして存在するのか……私は私の基準で進むだけです。通り道にある花を踏み潰したとしてもね」
そこまで告げたあと、俺は出されていた茶を飲み干して立ち上がる。互いに探り合うような哲学的な会話にはなってしまったが、ある程度の義理は通せただろう。
俺の言葉をどう受け取るかは、センゴク元帥次第……好きにすればいいし、特に興味もない。
「ごちそうさまでした。長居しても失礼ですし、私はこれで……」
「ええ、お時間をいただきありがとうございました。今後も互いに立場は違えど平和を願う者として、共に頑張りましょう」
「ええ、それでは……」
平和を願う者か……ある意味では間違ってはいない。もっとも俺が願うのは俺自身の平和ではあるが……そんなことをいちいち口にすることもない。
俺はセンゴク元帥に一礼して部屋から出た。
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スパンダムが退室して静寂が訪れた部屋の中で、センゴクは静かに呟いた。
「……アレが、『漆黒の太陽』や『不夜の怪物』と呼ばれるスパンダム長官か……」
それはいつからか政府や海軍内で囁かれ始めた噂話。夜の無い不夜島エニエスロビー……その島に夜が訪れないのは、すべての闇を、それ以上の闇をもって滅ぼす怪物が島に君臨しているからであり、夜の闇すらその怪物を恐れて島に寄り付かないと、そんな与太話だ。
冷静に考えてみれば、エニエスロビーができたのは800年前であり、その時から夜のない島であったことは調べればすぐにわかる。
だが、火のないところに煙は立たない……そういった噂が流れるからには、なにかしら、そうと思わせるような存在が居るのだと、センゴクは予てより考えていた。
ソレがおそらくCP9司令長官であるスパンダムだということも予想していた。海軍とCPでは異なるため、情報はそれほど多く手にできてはいなかったが……実質的にスパンダムがCPの頂点と呼べる存在であるというのは察していたし、今日の会議でも実際にCPの代表のような位置に座っていた。
「……凄まじいな」
だからこそ、この機会に少し見極めようと言葉を交わしてみた。対峙して見なければ分からないこともあると……結果は想像以上だった。
センゴクは静かに己の手を見る。その手は微かに震えていた。歴戦の猛者であるセンゴクが、僅かな時間対峙しただけで……いや、歴戦の猛者だからこそだろう。
だからこそ、スパンダムという怪物の力を短い会話から感じ取ることができた。
……まるで全てを破滅に誘うかのような、光も闇も根こそぎ喰らいつくす怪物と対峙しているような、そんな錯覚を覚えた。
「幸いなのは、理性無き怪物ではなく、理性を持つ怪物だったことか……だが、だからこそ、より恐ろしいとも言えるが……」
誰もいない部屋の中で、呟くような言葉が静かに響いていた。
スパンダム:狂パンダ。特にセンゴクに対して思うところは無く、立場的に友好な関係であった方がいいと考えている。付き合いを持つことが有益な相手とも認識しており、探るような会話も、まったく気にせず許容していた。
センゴク:狂パンダの底知れなさを感じ取った知将。それでも会話中は穏やかな笑顔を崩さなかったのは流石である。スパンダムという存在は心強いと同時に極めて危険でもあると、かなり正確に認識している。