闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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平熱っ……圧倒的、平熱!


謎に包まれた恐ろしき怪物

 

 

 マリンフォードにある海軍本部の廊下をふたりの大柄の男が歩いていた。ひとりはピンクのファーコートとサングラスが特徴的な金髪の大男……天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 もうひとりはフォーマルスーツの上に黒いロングコートを羽織り、片腕の金色のフックが目を引く鋭い目をした黒髪の大男……砂漠の王サー・クロコダイル。

 共に王下七武海に属する名の知れた海賊であり、今回は招集を受けて海軍本部へやってきていた。

 

「フッフッフッ……なぁ、世の中行動が裏目に出るってのが、よくあるよな? 例えば、鬱陶しい連中と港で鉢合わせするのが嫌で早めに来たら、よりにもよって一番鬱陶しい奴と顔を合わせてしまうって感じになぁ」

「同感だな。初っ端から最悪の気分だ。おい、フラミンゴ野郎、離れて歩きやがれ、邪魔だ」

 

 ドフラミンゴとクロコダイル。このふたりはどこか似たもの同士であり、同時に七武海の中でも特にウマが合わないふたりだった。

 どちらも裏で狡猾に動くタイプであり、片や世界最大とも言われる闇のブローカー。片や秘密犯罪結社の社長。細かい衝突は数えきれないほどしてきた。

 

「おいおい、グランドライン前半の海に引きこもってる臆病者のワニが、ずいぶんと生意気な言葉を口にするじゃねぇか」

「ハッ、場所しか誇れるものがねぇのか? 程度が知れるな……重要なのはそれがどこにあるかじゃなく、どれだけの価値を持つかだ」

「ほぅ、じゃあ、テメェがご執心のあの国にはそれだけの価値があると?」

「それを俺が親切に教えてやると思ってるのか?」

 

 互いに鋭い目で睨み合い牽制をする。ここが海軍本部という場所でなければ、どちらかがすでに仕掛けていたであろう険悪な空気を纏いながら両者は足を進める。

 クロコダイルは現在アラバスタを手にするために、革命軍の思想を利用して反乱軍を焚きつける計画を慎重に進めており、今後のためにも革命軍の動き……そして海軍の対応は把握しておきたかったこともあり招集に応じてこの場に居る。

 

 ドフラミンゴもまたドレスローザを支配する王でもあり、同時に闇のブローカーである。彼にとっては、戦火が広がること……すなわち、あちこちの国で反乱や革命が起こることは利益につながるため、革命軍や海軍の動きは可能な限り詳細に把握しておきたかった。

 

 先に気付いたのはドフラミンゴとクロコダイルのどちらだったか……険悪な雰囲気で歩くふたりの前方、廊下の先から歩いてくる者が居た。

 黒いスーツに身を包んだ目の周りと鼻の黒い男……スパンダムだった。

 

 真っ直ぐに歩いてくるスパンダムを見て、ドフラミンゴもクロコダイルも明らかに不快そうな表情を浮かべた。単純に政府の役人を嫌っているというのもあるが、それ以上に自分たちを見ながら道を譲ることもなく堂々と歩いてくる余裕な姿が癪に障った。

 

「フッフッフッフッ……ずいぶん、態度のでけぇ犬が居るじゃねぇか」

 

 含むような笑い声を上げつつ、ドフラミンゴはスッと片手を上げ……歩いてくるスパンダムと目が合った。

 

「「……ッ」」

 

 ドフラミンゴもクロコダイルも、ほぼ同時に歩いていた足を止めて立ち尽くしていた。そんなふたりの間を、カツカツと規則正しい足音を響かせ、スパンダムが悠々と通過していった。

 それを止めるでもなく、しばし足を止めたまま誰もいない前方の廊下を見続けていた……そして、少しの時間が経ち、額に青筋を浮かべながらドフラミンゴが絞り出すように告げる。

 

「……ふざけるな……この、俺が……すれ違っただけで……」

「……なんだ……アイツは……」

 

 ドフラミンゴの呟きに、クロコダイルも信じられないと言いたげな様子で言葉を零す。その頬には汗が伝っていた。

 ただ目が合いすれ違っただけだった。本当にたったそれだけのことで、ドフラミンゴもクロコダイルも……己の死を幻視した。

 

「……おい、クソワニ。俺とテメェはウマが合わねぇ。だが、それでも協力できることはある……そう思わねぇか?」

「ああ、俺も同じことを考えていた。アイツは……ヤバすぎる。いまの野郎に関してのみ、互いに得た情報は共有するってことでいいな?」

「……ああ」

 

 互いにウマが合わないと自覚しながらも、それでも両者は一瞬で一部手を結ぶことを決めた。いや、決めるしかなかった。

 それほどまでに先ほどすれ違ったスパンダムの存在は強烈であり、両者の思考はあのバケモノの情報を早急に集めなければならないという考えで完全に一致した。

 

 

****

 

 

 海軍本部での会議からしばらく経ち、犯罪結社バロックワークスの拠点のひとつで、クロコダイルは副社長である女性に声をかける。

 

「ミス・オールサンデー……テメェは、長らく政府に追われてたんだろ? CP9にも追われたことはあるか?」

「突然なに? CP9……政府の誇る暗殺集団。知識として知ってはいるけど、さすがに追われたことは無いわ」

「そうか……なら、スパンダムって男を知っているか?」

「スパンダム? ……いいえ、知らないわ。スパンダインという男なら知っているけど……名前が似てるから関係者かしら?」

 

 クロコダイルの言葉にミス・オールサンデー……もとい、ニコ・ロビンが淡々と言葉を返す。だが、その内心は穏やかとは言えなかった。

 クロコダイルに答えた通りCP9に追われたことは無い。だが、己の故郷であるオハラを焼き払うバスターコールを発令した相手の名は、いまでも覚えているし、情報を探ったこともある。

 関係まではわからないが、その男に近い名前がクロコダイルの口から出たことに驚いていた。

 

「……現CP9の司令長官らしいが、政府がかなり情報を厳しく規制しているみたいでな、殆ど情報は得られなかった」

「その男がどうかしたの?」

「ミス・オールサンデー……いや、ニコ・ロビン。俺とお前はビジネスで結ばれた関係、そうだな?」

「ええ」

 

 ロビンと会話しつつクロコダイルは葉巻に火を付け、軽く煙を吐いてから真剣な表情で告げる。

 

「だからこそ、テメェにだけは伝えておく。仮にそのスパンダムってやつが、アラバスタの一件に関わってきたら……俺はこの国から手を引く」

「……え?」

 

 その言葉は心底意外なものだった。クロコダイルはアラバスタに眠るポーネグリフを解読し、古代兵器プルトンを手に入れ政府すら凌ぐ軍事国家を作り上げる野望を持っている。

 そのために入念に下準備を続けてきていたし、今後の計画でも年単位で時間をかけ、徹底した策を練り、じっくりと王家の信用を奪い己が国王の座に就くための計画をまもなく実行するという段階まで来ている。

 ロビンと協定を結んだのもそのためであり、犯罪結社バロックワークスを立ち上げたのもすべてはその野望のためだ。

 その野望を、クロコダイルは場合によっては捨てると宣言した。

 

「もしプルトンをすでに手に入れていたのなら別だが、その前であれば……たとえどんなにプルトンを手にする直前であっても、俺は全面的に手を引く」

「本気なの?」

「ああ、死んだら野望もなにもねぇからな。その時は引いて次の手段を考える。その際のお前との協定についてだが、スパンダムがお前を狙っているのだとしたら協定を破棄して、お前を切り捨てる。そうでないのなら協定は維持だ」

「……それほどの相手なの?」

 

 クロコダイルは取引に対しては誠実だ。故に協定を結んだ相手であるロビンに対し、その協定が破棄になる場合のパターンを予め伝えた。

 それはすなわち、スパンダムが現れればクロコダイルは全力で逃げの一手を打つと宣言しているようなものであり、スパンダムはクロコダイルがプライドも野望も捨てて逃げるしかない相手と認識する存在であるという証明だった。

 

「……協定を一方的に破棄する可能性があるからな、詫びとして話してやるが……誰かに漏らせば殺す。たまたま海軍本部に行った時にすれ違った。すれ違っただけだ……それだけで俺が死を覚悟した。そのレベルの相手だ」

「……」

 

 それ以上は話す気が無いのか、視線を外すクロコダイルに対し、ロビンは神妙な表情で沈黙していた。この時の会話は彼女の心の片隅に残っており、ここで聞いた名……スパンダムと彼女が対峙するのは、これより数年先のことだった。

 

 

 




スパンダム:狂パンダ。すれ違っただけ……別に威嚇したわけでもなんでもなく、本当にただ通り過ぎただけ。

ドフラミンゴ:実はパンダと同い年のフラミンゴ。狂パンダにちょっかいをかけようとしたが、直前で思い留まったおかげで生存。寄生糸放ってたらパンダに敵認定喰らってデットエンドだった。

クロコダイル:引き際の分かるワニ。狂パンダを見て、どうにもならない相手だと認識。出てきたら速攻かつ全力で逃げの一手を打つと決めた。本能的に長寿タイプか……。

ロビン:ウォーターセブン編できっとクロコダイルとの会話を思い出す。
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