司法の塔にある長官室で、俺はポチが淹れたコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。そこには赤髪のシャンクスを加え、海の皇帝として四皇の記事が書かれていた。
シャンクスが四皇と呼ばれるようになったのは原作開始の3~4年前、時期としてはそろそろエースが旅に出てスペード海賊団を立ち上げるころか……。
ウォーターセブンに関しても、原作通りアイスバーグが市長となり……また、解体屋フランキー一家ができたという情報もブルーノからの報告で確認している。
原作知識とのズレは無い。ほぼ俺の知る通りの展開で進行していると考えていいだろう。
さて、そうなってくるといい加減原作開始も近くなってきたし、俺もそろそろウォーターセブン編の方針を決めるべきだろう。
すなわち、原作通りの形になるように麦わらの一味によるロビン奪還を見逃すか、連中の冒険をここで終わらせるか……。
まずそれぞれのメリットとデメリットを考えてみよう。麦わらの一味を全滅させる場合に関して、コレは大した手間は必要ない。少なくともウォーターセブン編時点の麦わらの一味のレベルであれば、10秒かからず全員殺せる。なんなら、ポチに任せてもすぐに終わるレベルだろう。
例えばなんらかの奇跡が起こり、ルフィの悪魔の実が覚醒、他の者たちも覇気に目覚めて使いこなせたとしても、全滅までの時間が10秒から15秒に変わる程度でしかない。
実行自体は問題ないわけだが……得られるメリットは、現状の維持。飛び切りいいわけでもないが、悪くもない無難な結果だ。
ただ、デメリットが大きい。ここで麦わらの一味が全滅ということは、俺の持つ原作知識はその先ほぼ意味をなさなくなる。未来の情報というアドバンテージを失うのは少々惜しく感じる。
次に原作通りにロビンを奪還し、エニエスロビーが崩壊した場合について……こちらも実行は問題ないだろう。ポチと俺が手出ししなければ概ね原作通りの展開になると想定できる。フィズに関しては、遠方の任務を割り当てておけば、エニエスロビー編の際に不在ということも可能だろう。
CP9のメンバーも原作と比べれば腕は上がっているが、それでも大きな要因があるのでおそらく戦えば原作通りに負ける可能性が高い。
というのも、若干どうするべきかと悩んではいたが……CP9メンバーには『驕り』が見える。まぁ、ある意味、必然かもしれない。CP9のメンバーはグアンハオから出て配属されてから、未だに無敗だ。ロクに苦戦したことすらないほどに勝ち続けている。
それが本人たちも気付かないうちに心の驕りを生んでおり、成長を妨げている。つまり心のどこかで現状でも十分だと思っており、強くなることへの貪欲さが欠けている。
ここで問題なのはCP9メンバーにとって、俺やポチは『負けて当然の相手』と認識されていることだ。だから訓練等で、いかに俺が叩き伏せたとしても悔しさ等を感じず当然の結果と受け入れてしまう。
敗北を知るというのはCP9にとって非常にいい経験になり、今後の飛躍が期待できる……が、普段の任務において敗北とはすなわち死に直結する可能性が高いので、通常の任務でそれを経験させるのは難しい。
そう考えるとエニエスロビーの一件は破格だ。同格レベルの相手と戦い敗北した上で生き残るなどというのは、極めて貴重な経験といえる。アイツらの今後を考えるなら、非常に価値の大きい戦いと言えるだろう。
ただ、例外も居る……フィズだ。フィズは、シャンクスに敗北してインペルダウンに囚われていたこともあり、強くなることに対するハングリーさを獲得している。
復帰当初では戦闘力はルッチに劣っていたが、他のメンバーと比べて明らかに伸びがいいので、原作のエニエスロビーのタイミングではルッチと互角ないし超えているだろう。
そして敗北を経験していることで、驕りや慢心もなく堅実に任務をこなすのも高評価だ。遠方での任務や難しい任務も安心して任せられるだけの安定感がある。
CP9メンバーで順を付けるなら、俺個人の評価としてはポチに次いで高い。
まぁ、メンバーの経験という意味では大きなメリットがある。それ以外だと……左遷コースに入れる可能性も、ほんの僅かにあるのではないかと思いたい。
……正直、かつてならともかくいまは本当にエニエスロビーを壊滅させても左遷にはなりそうにない気がするのだが、微かな希望は持っておきたいのでこれもメリットとして考える。
あとは……エニエスロビーの建て替えもできるか? 800年も前からある島ということもあって、正直建物の中には老朽化が酷いものや、いまはもう使っていない建物もそれなりにある。
個別に修繕手配したりしていたが、かなり壊れる頻度も高いので……いっそ全部壊してクラッシュ&ビルドした方がいいのではないだろうか?
ああ、それにエニエスロビーが崩壊したらしばらくCP9メンバーには時間ができるから、その時に覇気を教えるのもいいかもしれない。
今後必ず必要になってくる技術だし、習得に時間がかかるので長い期間を取って集中できるなら、全員に習得させるのも不可能ではない。
後は当然今後の展開が原作通りに進むというのもメリット……困ったな、メリットが多いぞエニエスロビー崩壊。
「うん? どうした、パンダ? なにか面白い記事でもあったか?」
「……お前はなんで、さも当然の権利のようにここに居るんだろうと、考えていたところだ」
「ちゃんと正規の滞在手続きとって遊びに来たんじゃから、別にいいじゃろ? ああ、今回は2泊ぐらいの予定じゃからよろしく。それと、チェルシーに頼まれていた調理器具も作ってきたぞ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
俺に話しかけてきたのは、スーツっぽい服の上に白衣を羽織った研究者スタイルのリリスであり、先ほどまでさも当然のように長官室のソファーに座って、ポチが淹れたカフェオレを飲んでいた。
リリスはたまに今回のように滞在許可を取って数日エニエスロビーに来ることがあり、その際は勝手に俺の家に泊まっている。
部屋は余っていたので好きにしろと言った結果、その部屋はリリスの簡易研究室みたいになっているのだが……便利は便利だから、好きにさせている。
「……リリス、お前に作ってもらいたいものがある」
「うん? なんじゃ?」
「別に急ぐ内容ではなく、『3年以内』に完成すればいい。作って欲しいのは――」
「……う~ん。いや、別に作るのはいいんじゃが……お前、エニエスロビーを吹き飛ばす気か?」
俺が依頼した品について、リリスは不思議そうに首を傾げる。まぁ、確かにそう取られてもおかしくない品ではあるし、実際その方向で進めるつもりでいる。
「……吹き飛ばしたら四方の海に左遷でもされないものか」
「無理じゃろ。わしが上でも絶対お前を切るなんて選択は取らんぞ」
「やっぱりそうか……まぁ、それはそれでいいさ、とにかく頼んだ」
「任せろ……それはそうと、パンダ。家に地下室つくってもええか?」
リリスが口にした要望……あたり前だが、自分の家でという意味ではなく、この場合は俺の家の地下にという意味である。
「俺の家にということか?」
「うむ。部屋のサイズじゃちょっと手狭でな、もう少し広い研究所が欲しいのじゃ」
「……好きにしろ」
「よしっ、さすがパンダじゃ! 話が分かる」
いちおう許可を取るだけマシではあるし、先ほど少々面倒な依頼をしたばかりということもあって、リリスの要望は聞いてやることにした。
まぁ、コイツがここで作れるものが増えるというのは利益にもなるし、問題は無い。
そう思っていると、リリスが椅子に座る俺の近くまで来て、しなだれかかるようにしながら、甘えた声で話しかけてきた。
「……なぁ、パンダ。十二真衝っての……見 せ て?」
「却下だ」
「えぇぇ、いいじゃないか減るもんじゃあるまいに! 凄いやつなんじゃろ? 話聞くだけで脳汁が出そうなほどに凄まじいやつなんじゃろ? わしも見たい! なっ、なっ? ほんのちょっと、先っちょだけで――あだだだだだだ!?」
ポチから十二真衝について聞いてから、ことあるごとにこうして強請ってくるようになったが……ホイホイ打てる威力の技ではないので却下した。
まぁ、それで諦めるようなリリスではなく、なおも強請ってきていたので、とりあえずアイアンクローを決めて黙らせる。
「ポチ、おかわりを頼む」
「はい!」
「いだだだだ!? ちょ、わ、わしが悪かったから、いい加減離し――いぎぃぃぃ!?」
俺は、やかましいBGMを聞きつつポケットから取り出した棒付きキャンディーの包装を片手で破って咥え、再び新聞を手に取った。
スパンダム:狂パンダ。さすがにそろそろ現実的に考えて左遷コースは無理かなぁと思いつつある。エニエスロビー編に関しては、ある程度の方針を決めて準備を始めた模様。
ポチ:忠犬にして狂犬。リリスが締め上げられている光景を見ても、平和だなぁ~と思いつつコーヒーを淹れる。狂パンダがエニエスロビーを吹っ飛ばす的なことを言ってても、狂パンダの決めたのならオールOKと気にしていない。
リリス:時々正規の滞在許可取って、狂パンダの家に泊まりに来る。研究が遅れないように、簡易研究所も作る徹底ぶり……仲のいいポチから、十二真衝という技について聞いて以降、狂パンダにウザ絡みしてアイアンクローされているが、まったく懲りない。
フィズ:何気に狂パンダからの評価が高く、戦闘能力も順調に伸びているので、エニエスロビー編では道力4000ぐらいになってそう。狂パンダ的にはフィズが居ると、麦わら一味が負けるぐらいには高く評価されている。