闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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ネタバレになりますが、もうあと数話(構想では4話)で分かることなので、先に言います。この作品では原作におけるエニエスロビー編は発生しません。


夜明け前の前奏曲(プレリュード)

 

 

 まだ夜が明ける前の暗闇の中で、俺は棒付きキャンディを咥える。普段の夜の無いエニエスロビーに居ると、どうも夜には少し新鮮さを感じるものだ。

 そんなことを考えつつ、近くで大岩にもたれ掛かっている相手に声をかける。

 

「……どうだ、ルッチ。潜伏任務は?」

「順調ではあるが……やはり、退屈さはあるな。それを表に出して任務に支障をきたすような真似はしないが……長官がこうして、息抜きの機会を作ってくれていて助かった」

 

 現在ルッチは里帰りという名目で一時ウォーターセブンを離れており、やはり殺しを行えない環境というのはフラストレーションが溜まるらしい。

 まぁ、ルッチ自身も言うようにプロのエージェントとしてそれを表に出すようなことはしないだろうが、それでもこの息抜きではテンションが少し高い気もする。

 

「カクは、かなり楽しそうにしているがな」

「ああ、そういえばカクは船が好きだったな。ある意味では適任だったかもしれないな」

 

 カクは船好きであり、ガレーラカンパニーへの潜入もなんだかんだで楽しくやれているようだ。

 

「……さて、今回の任務だが、殲滅だ。俺は基本的に取りこぼしのフォローだけをするから、お前は好きに暴れるといい」

「ふふ、それは楽しみだ」

 

 今回はルッチの息抜きも兼ねてということなので、暗殺ではなく殲滅任務を用意した。人員は俺とルッチのふたりだけ……以前の砦の時ほど大人数というわけでもないので、俺はフォローに回ってルッチに好きにやらせるつもりだ。

 久々に殺しが出来るとあってルッチも楽しそうだと、そう考えながら見聞色の覇気を広げる。

 

「事前に渡した資料の通りの数だ」

「……前々から思っていたんだが、長官のその気配を感じ取る技はなんなんだ?」

「うん? ああ、見聞色の覇気のことか?」

「覇気? ああ……噂程度では聞いたことがあるな。なんでも、高度な技術だとか……」

 

 ルッチの言葉通り覇気はかなり高度な技術といえる。原作でインフレが進んだ結果ホイホイ使うやつが多くて印象が低いが、たとえば元海軍大将のゼファーでも覇気を習得したのは30代と言われるほどに習得の難しい技術だ。

 世界規模で言うと使えるのは本当に限られた存在といえる。

 

「いずれお前にも必要になる技術だから、教えるつもりではあるが習得には時間がかかるからな……潜伏任務が終わった後だな」

「……どんなことができるんだ?」

「多岐にわたるが、例えば見聞色であれば周囲の気配を鋭敏に感じ取る。練度を高めることで未来を見ることも可能だ……まぁ、正しくは周囲の情報を得た結果の未来予測のようなものだがな。実演するなら……48秒後に右前方1300mの位置で、野犬が遠吠えを上げる」

 

 俺がそう告げると、ルッチは懐から時計を取り出して確認、きっちり48秒後に犬の遠吠えが聞こえてきた。

 

「……はは、なんだそれは、殆ど反則じゃないか」

「まぁ、未来予測なんて過信するものではない。様々な要因でズレることもあるから………………」

「どうした?」

「いや、なんでもない。見聞色に関してコツ程度は軽く教えておいてやる。以前の釣りの話を覚えているか? 野生の生物は微かな気配を鋭敏に感じ取ると……人間も同じものを感じ取れる。目だけで見るのではなく五感全てで見るというのを意識して見ろ……まぁ、それでも時間はかかるだろうから、詳しくは潜入任務が終わった後だ」

「ふふ、任務完了後の楽しみが、またひとつ増えたな」

 

 さわりだけ教えてやったが、ルッチなら数年かければ独学で見聞色に目覚めたとしても不思議ではない。元々諜報員なのだから、気配を読む術には長けている。

 ただまぁ、やはり強さに対する貪欲さは足りないので、ポチよりは時間がかかるだろうが……。

 

「さて、話はここまでだ。そろそろ動くぞ……全員殺すんだから、別にコソコソ行く必要はない。正面から乗り込んで皆殺しにしろ、逃げた相手はこちらで処理する」

「……長官に仕事は無いかもしれないがな」

「それならそれで構わないさ……せいぜい楽しめ」

「了解」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて剃で向かうルッチを見送り、俺は見聞色で拠点から逃げ出すものが居ないかを探りつつ持って来ていた箱から、リリスに作らせた機械を取り出して設置する。

 これはツノ電伝虫に似た機能を持つ機械で、電伝虫の念波を妨害し通信を不可能にするものだ。これで見聞色でひとりも逃がさなければ、情報が外に漏れることは無い。

 

 ポケットから新しく取り出した棒付きのキャンディーを咥えながら、俺は静かに思考を巡らせる。好みの味のはずなのだが、いまいち美味しく感じない。

 その原因は、抑えてはいるが、ずっと燻っているかのような……フツフツと腹の奥から沸き上がるような怒りのせいなのかもしれない……。

 この怒りにルッチは関係ない。俺自身の問題だし、仮にルッチに話したとしても理解できないだろう。だが、不快感は消えてなくならないまま、もう数年が経つ。いい加減我慢も限界に近い。

 

 初めに違和感を覚えたのは……そう、オハラの件の際だ。俺は自分で考え、あの結論を出した。すなわちオハラの一件には関わらないと……だが、後になって思えばそれは最善の一手ではない。

 あの時に俺がするべきだった。最も俺の利になる行動とは……古代文字の情報の獲得だったはずだ。ロビンは別にどうでもいい。問題は資料の方だ。

 ポーネグリフを始めとした空白の100年に関わる資料は、政府が厳しく規制しておりエニエスロビーにすらまともなものが存在しない。

 

 だが、オハラには少なくともロビンが天才であることを差し引いても、能力で覗き見て解読可能になれるだけの古代文字に関する情報があったはずだ。

 当時の俺にとっては、ポーネグリフを読むことができれば、古代兵器などのちに俺を脅かしかねない未知の物の情報を得る手段を獲得できる破格のチャンスだったはずだ。

 場所は分かっているのだし、オハラの一件よりもっと前……武者修行の際に余った半年。あそこでオハラに行き、夜にでも忍び込んで強化した記憶力で資料を記憶していれば、使う使わないは別にしても、俺は大きなアドバンテージを獲得できたはずだ。

 

 だが、あの時の俺はオハラに向かうという考えさえ思い浮かびはしなかった。後になってその考えに至った時は、少々後悔もしたが……後悔先に立たずという言葉もあるように、得てしてそういうのは過ぎてから思い至るのだと、納得していた。

 

 ……二度目に違和感を覚えたのはフィズの件が解決したあとだ。あの時、俺はなぜ詳しくフィズに与えられた任務を確認していなかった? 親父が割り振った。引き継いだばかりで忙しかった……言い訳がましい理由ならいくらでも思い浮かぶ。

 だが、たかだか重要品護送の任務のリストを確認するだけに、そこまで時間などかからない。俺は知っていたはずだ。あの年に赤髪のシャンクスによりゴムゴムの実……ヒトヒトの実・幻獣種「モデル・太陽神ニカ」が奪われるということを……つまり、阻止もできたはずだ。

 なのに、なぜか俺は、東の海での任務というこれ以上ないほどのヒントがありながら、それを見落とした? 原作知識によるアドバンテージを極めて重要視していたはずの俺が、実際に事が終わった後になってようやく思い至り、それまで忘れているかのように気付かなかった。

 

 ここで、疑惑は生まれていた。ほかにも細かい部分はいくつかあった。原作の主要人物を抹殺するような思考をした時なども、後になって違和感を覚えたりもしたが……疑惑が確信に変わったのは、ウォーターセブンでのトムの一件があった際だ。

 あの時もそうだ。わざわざ原作の強制力に関しての検証も兼ねて自分で行くと決めたにもかかわらず、あの一件の最中、俺はどうにも終始やる気が起こらなかった。

 プルトンの設計図自体にはたしかに興味は無かった。だが、それをトムが所持していることも知っていたし、弟子に受け継がれるタイミングも知っていた。

 

 事実、ウォーターセブンでも何度もそのことは頭に思い浮かんだ。だが、どうしても行動を起こす気にならなかった。

 これに関しても理由はいくらでも付けられる。設計図に興味が無かった。CP4主官の失脚を狙っていたなど、理由はあったし、あの時はそれが最善だと考えていた。

 

 だが、違う。あの時の最善手はそうじゃない。CP4主官を失脚させるのは司法船襲撃の失態だけで十分だった。だから、そのあとでならいくらでも行動を起こせたはずだ。

 たとえば、トムを連行。線路の先に現れることが分かっているフランキーを捕らえ、フランキーに……あるいは、そこにアイスバーグを加えてふたりに対して、トムの無罪と引き換えにプルトンの設計図を差し出すように言えばよかった。

 

 アイスバーグはそれでも突っ撥ねたかもしれないが、フランキーはトムの命の方を優先したはずだ。最悪そこで言質さえ取れれば押し入って奪ってもよかった。それどころか、俺はトムたちの懸念であるロビンに関しても事情を知っているし、プルトンがワノ国にあることも知っている。

 交渉次第ではあるが話を成立させられていた可能性は十分にあった。そうすれば、ウォーターセブンの件は全てそこで終わっていた。

 

 だが、その考えに至ったのは、全て終わってから……そう、オハラの件も、フィズの件も、トムの件も……真に打つべきだった最善手に気付けたのは、いつも『終わってから』だった。

 別にどれも思い付くのが難しい方法じゃない。なんなら、真っ先に思い浮かんでいてもいい筈の手だった。

 しかし、そのどれにも気付くことさえできなかった。

 

 だから、確信した……俺には一種の『楔』が打ち込まれていると……。

 

 そう考えた瞬間、つい力が入ったのか咥えていた飴を噛み砕いてしまった。飴は最後まで舐める派なんだが……怒りが表に出てしまったか。

 ルッチの前では出さないように気を付けないとな……。

 

 さて、思考を戻すとして、俺の行動を縛る楔。表現するなら、運命とでも呼ぶべきもの……それは確実に存在する。

 この先の展開についてもそうだ。俺は数年熟考した上で、俺にとって最も利になる形を選んだはずだ。他の考えが割り入ったりしていないし、ちゃんと俺自身が考えて出した結論だ。いまもそう思っているし、これ以上の最善手も思い浮かばないし、他の手段を取ろうという考えも浮かんでこない。

 だが、心に付き纏う不快感は消えない。これでいいと最善の道を選んだはずが、定められた枠組みを越えていないような、そんな感覚がある。

 

 だが、何度考え直しても同じ結論にしかならないし、他のことをしてみようという気にもならない。

 

 仮説は立てている。対策も考え、違和感が確信に変わった時から準備も進めてきた。そろそろ実行してもいい頃合いだとは思っている。

 いわばこれは呪いのようなものだろうか? 少なくともいままでの方法ではどうすることも出来ない。だから、楔を抜くにはいまは持ち得ていない、もっと別の要因が必要になる。

 

 例えるならそう、どれほど力を付けたとしてもいまの俺はあくまでスパンダムという登場人物(キャラクター)の延長でしかなく、楔を抜くにはその枠を踏み越えられるナニカが必要だと……そう表現すべきかもしれない。

 そのナニカに目星は付けているが……果たしてこの仮説が正解なのか……それとも間違っているのか……。

 

 なんとも言えない気持ちのまま、俺は三つ目のキャンディーを取り出して咥えた。

 

 

****

 

 

 朝焼けが差し込み始めた頃、満足げな表情を浮かべたルッチが戻ってきた。結局俺が動くことは無く、全てルッチひとりで殲滅は完了した。

 

「任務完了だ」

「そのようだな……取りこぼしもない。死体は放置でかまわないらしいからな、このまま帰還する」

「了解」

「どうだ、気分転換になったか?」

「ああ、久しぶりに思いっきり体を動かせて満足だ」

 

 どうやら無事息抜きはできたらしい。俺は妨害用の機械を箱にしまってからゆっくり歩きだす。後ろにはルッチが続き、朝の日差しが俺たちの背を照らす。

 後ろには死体だけとなった革命軍の拠点……なんともまぁ、静かで清々しい朝だ。

 

「……そういえば近くにある街は、土地柄なのか早朝から店などが開き夕方にはすべて閉まるらしい。いまの時間でも開いている店が多いだろう。せっかくだし、どこかで朝食でも食べて帰るか?」

「ふむ、そうだな。当然ここは上司が部下に奢ってくれる場面だろうから、ありがたくただ飯にありつくとしよう」

「ふっ、まぁ……好きに食え」

 

 ニヤリと笑って冗談っぽく話すルッチに対し、俺も軽く笑みを浮かべて言葉を返す。

 

「……そういえば、ルッチ。言った通り、アイスバーグはなかなか尻尾を出さないだろう?」

「うん? ああ、アンタが評価するだけあってなかなかの手強さだ。ボロも出さないし、厄介な限りだ」

「まぁ、そうだな。アドバイスをするなら、ガレーラだけでなくもっと広く調べてみることだな。意外なところにヒントが転がっているかもしれないからな」

 

 おそらくもうすでにアイスバーグからフランキーに設計図は渡っており、いくらアイスバーグを探ったところで設計図を見つけることはできない。

 フランキーが死んだと思われていたカティ・フラムであり、アイスバーグと共にトムズワーカーズにいたことを突き止めない限りは……。

 まぁ、いま突き止められてしまったら、それはそれで俺の予定から逸れてしまうので、それを教える気は無いが……ただ、俺の仮説が全て上手くいけば、割とすぐに教えることができるかもしれない。

 

「……それも見聞色の未来視ってやつなのか?」

「いや、これはただの予想だ。だが、時に直感は理屈を凌駕することもある。覚えておくといい」

 

 そう、現状の俺の仮説もほぼ直感で成り立っているようなものだ。

 さて、果たして俺の立てた仮説は当たっているのか……俺は楔を抜くことができるのか、全てはあの存在にかかっている。

 可能なはずなんだ。いまの楔がある状態で本編という大きな流れを変えるのは難しくとも……劇場版の物語であれば、起こるかどうか『未来が不安定』であるからこそ、干渉して大きく変えることも出来る筈だ。

 

 できればもっと早く実行したかった。だが、準備に時間がかかったし、検証できてないことも複数あるから、まずはそちらの検証を先に行う必要がある。

 それが全て上手くいったなら……いよいよ本命だ。悪魔の実とも覇気とも違う……概念すら破壊しうる魔力とでも呼ぶべき俺には無い力。この世界においても異質といえる力……。

 

 俺はそれが………………欲しい。

 

 もうすぐ、すべての準備を整えて会いに行ってやる。待っていろ――魔王トットムジカ。

 

 

 




スパンダム:鎖に繋がれた狂パンダ。苛立っているのか、過去最大の一話で飴3個食べ。間もなく、狂パンダにとってラスボスといえる存在との戦いが待ち受けている。それで物語が終わるという意味では無く、そこを越えるとパンダさんはマジでどうにもならないレベルの「最強」に到達してしまうので、戦いが成立する相手が居なくなるという意味でのラスボス。

ルッチ:息抜きが出来て満足。狂パンダの底知れない実力をまたひとつ感じ取れて、そちらもご満悦。ただ、未来と口にした時に狂パンダが、妙な表情になったことには首を傾げていた。

トットムジカ:なにやら、狂パンダからもうすぐ会いに行きます宣言を受けた。狂パンダから「お前が欲しい(意訳)」と熱烈なラブコールを捧げられており、ヒロインレースに電撃参戦?
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