闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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今回はFILM REDのネタバレがありますので、見てない方はご注意を……まだならとても面白いのでオススメです。作者もこの話を書くにあたって、2回目を見に行ってきました。


朝焼けの間奏曲(インタリュード)

 

 

 暗い空、炎に照らされる夜のエレジア。響く大砲の音、宝を積み、笑いながら去っていく赤髪海賊団の背。

 

――シャンクス!! 置いていかないで! なんで……なんでだよぉぉぉ!!

 

 ハッと目を覚ませば、もうすっかり見慣れた部屋の天井がある。ああ、またあの夢、もう何度も見ている8年前の……本当の父親のように思っていたシャンクスに捨てられ、赤髪海賊団の皆に置いて行かれ、私がすべてを失ったあの日の夢。

 信じていたのに裏切られた。恨んでる。シャンクスのことなんて嫌いに……嫌いに……本当に嫌いになれたら、私の気持ちも少しは楽になるのかな?

 

 鬱屈とした気持ちでベッドから起きて、洗面所で顔を洗う。毎日見てるけど、酷い顔だ。まるで魂が抜け落ちちゃったみたい……もう、笑い方も忘れちゃったよ。

 

 軽く身だしなみを整えてから食堂に向かうと、ゴードンがテーブルに料理を並べていた。ゴードンは私に気付くと手を止め、軽く微笑みを浮かべて口を開く。

 

「おはよう、ウタ。丁度朝食の用意ができたところだよ」

「……おはよう、ゴードン」

 

 8年前のあの日から、私はゴードンとふたりでこの国、滅んだエレジアに住んでいる。ゴードンは私のためにいろいろなことをしてくれた。立派な歌手になれるようにと、音楽のこともいっぱい教えてくれた。

 苦手だって言ってた料理もいっぱい練習して、凄い料理だって作れるようになった。本当に私のためにたくさんのことをしてくれている。

 だから、そんなゴードンが作ってくれた朝食、いっぱいいっぱい練習して腕を上げたその料理が美味しくないはずがないのに……あんまり味は感じなくて、いつも半分ぐらいは残してしまう。

 

「……ごめん、ゴードン。もうお腹いっぱい……私、少し……風に当たってくるね」

「ああ、気を付けていってらっしゃい」

 

 少し悲しそうな表情を浮かべながら私を見送ってくれるゴードンに背を向け、私は外に出て廃墟となった町並みを眺めながら歩く。

 朝の日差しが差し込む道を歩き……海岸に辿り着く。これは私の日課と言っていい。毎朝海岸に来て、シャンクスたちとの思い出の歌を小さく口ずさむ。

 そういえば、エレジアに残ってもいいんだぞって言った時、シャンクスは「世界一の歌姫になったら迎えに来る」って言ってた。私が世界一の歌手になったら、シャンクスは会いに来てくれるのかな?

 

 シャンクス……どうして、私を置いていったの? 一緒に出航しようって約束したのに、本当に私を騙して利用してたの? 分からない。もうなにも分からない。嫌いになりたくて、でもなれなくて。会いたくなくて、それでも凄く会いたくて……自分の気持ちさえ、分からなくなってきてる。

 

 歌い終わって海を見ても、そこに望んだ船の姿は見えない。視線を空に向ける。朝日に照らされる空は、明るいはずなのになんだか暗くて、黒い人が飛んで――え?

 急に空を飛ぶ人影が見えたかと思うと、大きな箱のような物を持ったその人は、私の少し前に降りてきた。真っ黒な服を着た男の人で、鼻と目元が黒いちょっとパンダっぽい色合いの顔だけど、鋭い目をしていた。

 な、なんだろう、この人……ていうか、いま空飛んでた? 人って、空飛ぶんだったっけ?

 戸惑っている私の前でその人は、穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「初めまして、俺はスパンダムという者だ。君は、ウタという子で間違いないかな?」

「……どうして、私の名前を?」

「まぁ、いろいろと事情があってね。俺は君とゴードンという人に用があってきたんだが、可能なら3人で話をさせてもらえないだろうか?」

 

 そう告げるスパンダムさんの声は優し気で、悪い人って感じには思えなかった。ゴードン以外の人と会ったのが8年ぶりでかなり戸惑ったけど、スパンダムさんの言葉に頷いてゴードンの居る場所に一緒に向かう。

 スパンダムさんは大きな箱を軽々と持ち上げながら規則正しい歩幅で歩いている。海賊って感じの人じゃない。けど、海軍ともなんか違う感じで、どういう人なのかよく分からないというのが私の印象だった。

 

 スパンダムさんを連れて帰ると、ゴードンは凄く驚いたような表情を浮かべていた。

 

「……貴方は、世界政府の……」

「確かに、世界政府に属する者ではあるが、今回はプライベートで来ているので、政府はなにも関係ない。この服装は、一種の身元の保証になるかとも思って着て来ただけだ。無論貴方やウタに危害を加えるつもりも一切ないので、安心してほしい」

「……分かった。どちらにせよ、いまは貴方の言葉を信じるしか無いようだ。それで、今日はいったい何の用だろうか?」

 

 スパンダムさんとゴードンが簡単に自己紹介を終えたあと、私を合わせて三人で話をすることになった。私とゴードンが隣同士に座って、机を挟んでスパンダムさんが座る。

 話があるって言ってたけど、いったい何なのだろうと……そんな風にぼんやり考えていた。スパンダムさんの次の言葉を聞くまでは……。

 

「単刀直入に言おう。いまから、お前たちふたりを『赤髪のシャンクスの下へ連れていく』」

「「ッ!?」」

 

 なんて言った? シャンクスの下へ……連れていく? 会える……シャンクスに、会える。あっ、でも、シャンクスは私を捨てて、私を騙していて……。

 

「な、なにを馬鹿な……」

「お前やシャンクスがなにを考えて、その選択を選んだのかは理解している。だが、いまのその子の姿が……生気が抜け落ちたかのようなその姿が、お前たちが望んでいたものなのか?」

「そ、それは……だが……しかしっ……」

「真実を隠し続けることが、必ずしもその者のためになるわけではない」

 

 スパンダムさんの言葉にゴードンが凄く狼狽えている。真実を隠すってなに? スパンダムさんは、なにを知ってるの? 私は、なにを知らないの?

 

「……ゴードン……し、真実ってなに? なにを、隠してるの?」

「……ウタ……私は……」

 

 私の問いかけにゴードンは苦しむような表情を浮かべ、なにかを言い淀む。スパンダムさんの言う通り、なにかを隠していると感じた。それも、私に関わるなにか、すごく重大なことを……。

 そんな中で、スパンダムさんが淡々と告げた言葉に、私は再び大きな衝撃を受けることになった。

 

「8年前エレジアを壊滅させたのは、赤髪海賊団ではない」

「……うそっ……だって……」

「その先は、本人に直接聞くんだな。さぁ、ウタ。選択権は他の誰でもない、お前にある。だから……シャンクスの下に行き、真実を知るかどうか、決めるのは……お前だ」

 

 スパンダムさんの言葉を受け、私はチラリとゴードンを見る。ゴードンは全てを諦めたかのような、それでいて重いなにかが外れたような表情で軽く頷いた。私の選択に全てを委ねると言いたげに……。

 スパンダムさんに視線を向ければ、こちらも静かに私の言葉を待っていた。決めるのは私だと、そう告げた通りに……私の答えは……決まっていた。

 

「……知りたい。真実を……スパンダムさん! 私を、シャンクスの下にっ、連れて行って!!」

「……分かった」

 

 叫ぶように告げた私の言葉を聞いて、スパンダムさんは静かに頷いたあとで置いてあった大きな箱を開け、中から……えっと、なんか変な服? を取り出して、私とゴードンの前に置いた。

 

「その防護服を着ろ」

「……え? う、うん」

 

 なんか予想してたのとちょっと違うんだけど……これ、船とかで行くんじゃない感じなのかな?

 

 

****

 

 

 スパンダムさんは凄かった。防護服を着た私とゴードンを軽々と抱えて、空を飛んで移動しはじめた。しかも、もの凄く早くて景色が吹き飛ぶように流れていく。

 そのまましばらく流れる景色を見ていると、速度が落ちてきて……見間違えるはずもないレッドフォース号が、シャンクスの船が見えてきた。

 

「……さて、本人に出てきてもらうために少し威圧するか」

 

 スパンダムさんがそう呟いた直後、強風が吹いたようにレッドフォース号が揺れ甲板に慌ただしく船員たちが出てくるのが見えた。

 そこには見覚えのある顔も多くて、顔も全部覆っている防護服の中で懐かしさで目の奥が熱くなった。

 

 そしてスパンダムさんが甲板に着地すると、警戒する船員たちを割ってシャンクスがゆっくりと歩いてきた。

 

「……おいおい、ずいぶんふざけた挨拶じゃないか。政府の役人が、俺たちに戦争を仕掛けようってのか?」

「いや、配達にきただけだ。お前の娘をな……」

「……なに?」

 

 シャンクスだ! 本物のシャンクスだ!! 

 いろいろ考えていたはずだった。ここに辿り着くまでシャンクスに会ったら最初になにを言おうとか、どうしようとか、いっぱい考えていたはずだった。

 私を置いていったこととかいろいろ言いたいことはあった。でも、本人を目の前にしたらそんな感情は全部吹き飛んでしまった。

 気付いた時には、私は防護服のヘルメットを投げ捨てるように脱いで、シャンクスに向かって駆けだしていた。

 

「シャンクス!!」

「……ウ……タ……」

 

 驚愕に目を見開いたシャンクスは、それでも飛びついた私を右手で抱き留めてくれた。頭の中がぐちゃぐちゃで、自分がなにを考えているのか分からなくて、それでもシャンクスに会えて嬉しいって気持ちだけは確かで、私の目からは大量の涙が流れる。

 

「シャンクス! シャンクスゥゥゥ! うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「……どうして……ウタが……それに……ゴードンも……なぜ、ここに?」

 

 胸にしがみついて泣きじゃくる私に対し、信じられないといった様子で呟くシャンクス。それでもシャンクスは、私を突き放したりすることは無く、私の涙が止まるまでずっと抱きしめ続けてくれた。

 どのぐらい泣いていたかは分からないが、爆発していた感情が収まってくると、甲板に少しの静けさが訪れていた。

 シャンクスだけじゃなくて、他の赤髪海賊団の皆も状況が分からないといいたげな表情で、いつも落ち着いてるベックマンさんやホンゴウさんも戸惑っているのが見て分かった。

 そんな戸惑いが強い空気の中で、スパンダムさんの声が鋭く響く。

 

「赤髪のシャンクス、そしてゴードン……お前たちに言っておいてやる。大きな悲劇というのは得てして善意のすれ違いから生まれるものだ。そういった連中は、取り返しが付かなくなってからこう言うんだ。『そんなつもりじゃなかった』とな……泥を被り、真実を隠し続けることが必ずしも相手を幸せにするわけでは無い。いまのその子の涙を見てもなお、なにも知らせないことがその子のためだと、本当に言えるのか?」

『……』

 

 シャンクスとゴードンだけじゃなくて、私の知る赤髪海賊団の皆もスパンダムさんの言葉になにか思うところがあるような表情を浮かべていて、それがスパンダムさんの言う真実に関わることだって理解できた。

 

「本当にその子を想い、愛しているのなら……明らかにしてやることだ。8年前の真実と、トットムジカについてをな……あとは、お前たちで決めろ」

 

 そう告げると、スパンダムさんはレッドフォース号のマストにもたれ掛かり、ポケットから取り出した飴を咥えて腕を組む。それ以上話すことは無いと言いたげに……。

 シャンクスの顔を見上げれば、シャンクスは苦しそうに……なにかを悩む表情を浮かべていた。

 

「……シャンクス……教えて」

「ウタ……」

「本当のことを……あの日の真実を……」

 

 私は覚悟を決めた。スパンダムさんの言う真実、それはきっと私にとって辛いものなんだと思う。だからこそ、シャンクスもゴードンも苦しそうな表情を浮かべているんだ。

 

「分かるんだ。たぶん、それは、私にとって辛いことなんだよね? シャンクスやゴードンの顔を見れば分かるよ。だけど……知りたいんだ。シャンクスたちのこと……好きでいたいから」

 

 8年間たくさん考えた。何度も、何度も、海賊をシャンクスたちを嫌いになろうとした。だけど、やっぱり嫌いになんてなれなくて、毎日毎日海岸まで足を運んだ。

 いつも、皆との思い出の歌を口ずさんだ。そしてこうして再会して、やっぱり私はシャンクスが大好きなんだって、改めて分かった。だからこそ、全てを知りたかった。

 

「…………大きくなったな、ウタ」

 

 私の思いが伝わったのか、シャンクスはフッと優し気な表情を浮かべて、そのあとでゴードンと共にあの日の真実を話してくれた。

 あの日、エレジアが滅んでしまった日……ゴードンやエレジアの皆が開いてくれたパーティで、私の歌が太古に封印されていた呪われた楽譜を呼び覚ましてしまったこと。

 ウタウタの力を持つ私がその楽譜『TotMusica(トットムジカ)』を歌ってしまったことで、魔王トットムジカがエレジアに顕現してしまったこと。

 シャンクスたちが立ち向かったにも関わらず、トットムジカは倒せず、エレジアの国民はゴードンを除いて皆殺しとなり、国が滅亡したことを。

 

 そして、私にその罪を背負わせないためにシャンクスとゴードンが話し合い。ゴードンに私を託して、シャンクスがエレジアを崩壊させた罪を背負った。

 私を利用してエレジアに潜り込み私利私欲のままに滅ぼしたなんて、そんな大嘘を吐いて……私を守ろうとしてくれていた。

 

「……そう……だったんだ。エレジアは……私のせいで」

「違う! お前のせいじゃない!! 俺が、俺たちがあの時にエレジアを守れていれば……」

「いや、そもそも、エレジアの国王だった私は、太古から国に伝わる『TotMusica(トットムジカ)』の存在を知りながら、なんの対処もせずに放置していた。罪があるというならウタではなく私だ」

 

 私も、シャンクスも、ゴードンも皆自分のせいだと、そう告げる中……呆れたような声が聞こえてきた。

 

「揃いも揃って馬鹿か? エレジアを滅ぼしたのも、国民を皆殺しにしたのもトットムジカであって、お前らではない。ウタがトットムジカを知った上で顕現させたならともかく、そうでないなら、罪なんてあるわけがないだろうが。太古の怨念を庇って罪を被るなんて酔狂は止めておくんだな」

 

 思わずポカンとしてしまった。あんまりにもあんまりな言い方ではあったが、スパンダムさんは罪はあくまでトットムジカにあって、私たちの誰にも罪なんて無いって、そう言ってくれてるのは理解できた。

 そのぶっきらぼうな優しさが、なんだか嬉しくてまた少し涙がこぼれた。

 

「……すまなかった、ウタ。お前のためを思って行動したはずが、逆にお前を苦しめてしまっていた」

「ううん。ありがとう……ねぇ、シャンクス? いまでも、私のこと……その……」

「ああ、何年離れていようが変わるわけがない。お前は俺の娘だ……ウタ」

「っ……シャンクス!!」

 

 嬉しかった。どうしようもないほど嬉しくて、止まったはずの涙が再び流れ出した。暗く曇っていたような心が晴れていくみたいで、泣きながら……それでも、口元には笑みが浮かぶ。

 ああ、そうだ。思い出した……笑うって、笑顔って、こうするんだった。やっと、やっと……思い出せたよ。涙でよく見えない視界で見上げたシャンクスの目にも……涙が浮かんでいるのがハッキリと見えた。

 

 

****

 

 

 いままでの8年間を取り戻すようにシャンクスや皆と言葉を交わした。シャンクスの片腕が無くなってることや、麦わら帽子を被ってないことなど、私が居ない間の話を一杯聞いた。すごく幸せな気分を感じながら、私は静かに腕を組んで沈黙している恩人に声をかける。

 

「スパンダムさん! 本当にありがとう!! 私をシャンクスの下に連れてきてくれて……」

「……無事に和解できたようならなによりだ。ところで、俺に感謝する気があるのならひとつ、頼みを聞いてくれないだろうか?」

「頼み? うん、私にできることなら」

「歌を聞かせて欲しい。ウタウタの実の力を使った……歌い手と観客が夢を共有できる世界一の歌を……」

 

 本当にスパンダムさんには感謝してもしきれないぐらいだったんだけど、スパンダムさんが私に頼んできたのは、歌を一曲歌ってほしいというものだった。

 そんな事でいいのだろうかと首を傾げつつシャンクスの方に視線を向けると、シャンクスも微笑みながら頷く。

 

「……そうだな。俺も久しぶりにお前の歌を聞きたい」

「うん! 任せて!」

 

 パァっと心が温かくなるような感覚と共に、どこか懐かしさを覚える。レッドフォース号に乗っていた頃、樽を簡易的なステージに見立てたりして、よく歌っていた。

 いまは流石に樽をステージにはできないけど、赤髪海賊団の皆が居るこの甲板は最高のステージだ。

 

 ウタウタの力でウタワールドを創り出すのはかなり体力がいるから、昔は一曲歌いきる前に眠ってしまっていたし、いまも成長したとはいえ普通に歌えば三曲ぐらいが限界。

 いまは沢山泣いて結構疲れてるから、感覚的に一曲歌えば眠っちゃうと思う。だけど、一曲歌えるなら十分だ。

 8年ぶりに再会できたシャンクスや赤髪海賊団の皆、8年間ずっと私を守りながら育ててくれたゴードン、シャンクスと再会させてくれたスパンダムさん……皆に向けて、全身全霊でいまの私に歌える最高の歌を贈る。

 

 スゥっと息を吸い込み、私は歌い始めた。歌うのはもちろん、赤髪海賊団の皆との思い出の歌、『風のゆくえ』だ。

 

 私の想い、私の夢……ウタウタの実の力を乗せて紡ぐ歌は、現実世界の皆の心を一時的にウタワールドに連れていく。

 そこは、私にとって本当に幸せな思い出の空間……8年前のフーシャ村、マキノさんの酒場の前に皆が並んでいる。

 シャンクス、ベックマンさん、ルゥさん、ヤソップさん、ガブさん、スネイクさん、ライムジュースさん、ホンゴウさん、ボンクパンチとモンスター。

 ルフィやマキノさんは居ないけど、代わりにゴードンが居て……また涙が出そうな幸せな世界で歌い続ける。

 

 そして歌が終盤に差し掛かると、私は体力が限界に近いことを感じていた。ああ、悔しいなぁ。もっとずっと、いつまでも歌っていたいのに……そろそろ夢の世界は閉幕になってしまう。

 歌が終わると瞼が重くなってくる。まだまだ、シャンクスに成長した私の歌を聞いて欲しかったのに……寂しいな。

 そんな風に考えていると、シャンクスがフッと優しい笑みを浮かべながら口を開く。

 

「……やっぱり、お前の歌は世界一だな。また、聞かせてくれ」

「……っ、うん! 任せて……だって私は、赤髪海賊団の……音楽家だから……」

 

 そうだ。これで終わりじゃないんだ。また、これから先もあるんだ。ああ、嬉しいなぁ、本当に幸せだなぁ……ありがとう、スパンダムさん。私とシャンクスを仲直りさせてくれて……。

 

 …………………………あれ? 

 

 なんで……スパンダムさんが……ウタワールドに居ないの? どこか、建物の陰に隠れているの?

 

 まどろみに沈んでいく意識の中で、現実世界の方のスパンダムさんを見る。スパンダムさんはマストにもたれかかった姿勢のままで笑っていた。

 

 あれ? おかしいな……? スパンダムさんは、私の大恩人だよ? その大恩人が私の歌を聞いて笑ってくれてるんだよ?

 なのになんで、いま一瞬……その笑顔が凄く怖くて……『底知れない闇』のように見えたのかな?

 

 答えは出ないまま、私は眠りに落ちた。

 

 

****

 

 

 目覚めると、スパンダムさんは居なくなっていて、シャンクスが言うには「3日後にまた来るから、その時までに今後どうするかを決めておけ」って言い残して去っていったみたい。

 眠る前になんか変な感じがしたような気がしたけど、気のせいだよね。それより、私とゴードンは3日間レッドフォース号でお世話になることになって、その間に今後どうするかを話し合うことに決まった。

 

 少なくともこれから3日はシャンクスたちと一緒に居られる嬉しさでいっぱいで、いつの間にか微かに感じていた疑問は忘れてしまっていた。

 

 

 




スパンダム:暗黒微笑狂パンダ。当たり前ではあるが、ウタちゃんを守護らねばとか、そんな動機で行動したわけがなく、あくまで自分のため。今回の一件で、己の仮説が全て正しいことを確信し闇のアルカイックスマイルを決めていた。なぜウタウタの能力が効かなかったのかは、次回。

ウタ:FILM REDなんて無かった、いいね? というわけで、シャンクスと無事和解。映画本編では世界人口の7割道連れに自殺みたいな、規模だけなら歴代トップクラスの事件を起こしていた子。ただ現在はFILM REDより4年前であり、そもそも映像電伝虫を拾う前なので、この時点でシャンクスと会えていれば拗れることなく解決する。

ゴードン:多くの人が最初はFILM REDの悪役ポジだと勘違いしたであろう見た目。だけど普通に善人……ただ優柔不断さはあり、映画で本人も言っていたが行動次第で悲劇は防げたはずではある。

シャンクス:無事にウタと和解して漢泣き。今後ウタが赤髪海賊団の船に残るか、エレジアに戻って歌手になるかは不明だが、この時点で和解しているのでFILM REDのようなことは起こりえない。
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