明るい日差しに照らされた廃墟を歩く。口元に浮かぶ笑みは抑えきれない。ウタをシャンクスと再会させ、ウタウタの実の能力を使ってもらったことで、俺は全ての準備が整ったことを確信した。
俺の仮説を検証するためにウタウタの実の力は必須だったが、本人が歌うという発動条件があるため、それを満たすには歌うことを了承してもらう必要があった。
それにこれからやることのために、一時ウタとゴードンにはエレジアから離れていて欲しかったこともあり、結果的にああいう形に落ち着いた。
それに気付けたのは、楔について考えていた時ではなく、ウタウタの実に対する対策を考えていた時の話だ。ウタウタの実は、作中でもかなり異質な能力であり、仮想世界を創り出すという反則級の能力ではある。
だが、そのなによりの脅威はおそらくウタウタの能力は、『覇気では防げない』という点だ。過剰な覇気で能力を無効化できるならFILM REDに於いて、ビッグマムや海軍大将といった存在が登場したのだしその誰かが行えていてもよかったはずだ。
だが、海軍がとったのは耳栓という対策であり、ビッグマムも映像電伝虫の音声を切っていた。つまりウタウタの実の能力は歌を聞かないという対策以外では、防ぎようが無いというわけだ。
では、なぜ防げないのか……それを考えた結果、ある仮説に辿り着いた。ウタウタの実の能力は肉体ではなく『魂』に対して効果を発揮する力なのではないかと。
ワンピースの世界に魂が存在するのは、ヨミヨミの実やソルソルの実によって証明されており、そこに関しては間違いない。
俺は細胞単位で肉体改造を行っても記憶などを保持している要因に魂の存在が関わっていると考えたこともある。だが、重要なのは同じタイミングで立てたもう一つの仮説……覇気は肉体に宿る力というものだ。
肉体改造によって成長する覇気は肉体に宿る能力であり、シクシクの実やオペオペの実といった肉体に干渉する能力は、過剰な覇気によって防ぐことができる。
だが、ウタウタの実の力が肉体ではなく魂に対して干渉する能力であるのなら……肉体の力である覇気で防ぐことができないのも道理だ。ウタウタの実の能力を防ぐには肉体ではなく『魂の力』が必要になってくるのだと考えた。
この魂の力に関して、ブルックが黄泉の冷気などといったヨミヨミの実の能力範囲で本当に行えるのか疑問な力を使っていたりした様子から、存在はすると確信はできた。
だが、その魂の輪郭とでもいうべきものを掴むまでが大変だった。なにせ完全に手探り状態だったので、魂らしきものの存在を己の中に感じ取れるようになるまででもかなりの年月がかかった。
そして魂の力を鍛えるというのにも、かなり苦労した。なにせ覇気と違ってどんなものか全く想像ができないので、全て手探りだった。
結論から言えばブルックのような特殊な冷気を扱ったりという現象を起こすことはできなかったが、魂を強く肉体に繋ぎ止めるようなことはできる気がするまでにはなった。
俺が魔王トットムジカの力を得るためには、この魂の力が重要であると思いかなり慎重に磨き続けてきたが、困ったことに検証の術が限られていた。
直接攻撃的なアクションを起こせないので、果たして本当に魂を鍛え、魂に干渉できる能力へ対抗できるのか不安は残っていたが……ウタウタの実の力によるウタワールドの誘いを把握して跳ね除けられた時点で、仮説が正しかったことを確信した。
さらにもうひとつ、いままで原作という大きな流れを変えることはできなかった。なにかをしようとしても直前で思い留まったり、やる気が急に無くなったり……だが、やはり劇場版に関しては未来が不確定ということもあり、大きく変えることが可能だったとウタとシャンクスのやり取りを見て確信できた。本当にウタには感謝しかない。
これで、すべての検証は終わり、準備は整った。あとは実行するだけだ。
廃墟となったエレジアを歩き、小高い丘の上にあるエレジア城まで辿り着くと、海がよく見える場所にあった瓦礫に腰かける。
さぁ、来たぞ。お前も俺を感じているだろう? トットムジカ……お前を求める俺の心を、そこに渦巻く狂気と闇を……。
トットムジカは禁忌の楽曲と言われているが、その本質は表現するなら『心の闇』『負の感情の集合体』のような存在だ。
寂しい、認められたい、誰かに見つけて欲しい、そんな太古から存在する怨念のような感情の集合体であり、ワンピースの世界では珍しく呪術的な力を持つ存在。
強いて上げるのなら、能力の規模こそ違うものの性質的には呪われし聖剣に出てきた七星剣に近いと言っていい。
だからこそトットムジカは、俺の感情……トットムジカを強烈に求める想いに反応するだろう。
ほどなくして、俺の目の前に浮遊する楽譜が現れた。見るだけで分かる。覇気とも悪魔の実とも違う異質で異様な気配。ああ、これこそが俺の求めていたものだ。
「……初めまして、トットムジカ。お前に会いたかった」
楽譜に話しかけるが、当然のことながら言葉が返ってくるわけがない。それでも楽譜はどこに行くわけでもなく、俺の眼前に浮遊し続けているので、トットムジカがこちらに対してなんらかの関心を持っているのは間違いない。
「いま、この島に他の邪魔者はいない。時間もたっぷりとある」
長かった。楔があると自覚してから、感じていた不快感。小さな流れは変えられる。だが、大きな流れを変えようとすると行動を起こすことができない。
後から思えば言い訳のような考えが頭に浮かび、なんだかんだでその時には納得して行動を止めてしまう。無理やりレールの上に戻され、全てが終わるまで己がおかしい行動をとっていたことにすら気付けない。
不快だ、どうしようもなく……だから、楔を、運命を、捻じ曲げる力が欲しい。
バリアという概念そのものを作り出すため、作中でも屈指の実力者であるおでんですら破れないバリバリの実のバリアという概念を破壊し、オペオペの実によって定められたルームという空間の指定をも破壊する力。
魔力とでも呼称すべきいまの俺にとっては完全に未知の力……それが欲しい。
「だから……じっくり
そう告げて手を差し出すと、楽譜はひとりでに俺の手に乗った。どうやらトットムジカも
心の中でトットムジカに感謝しつつ、俺は楽譜を握り締め、存在を理解した己の魂の中にトットムジカを招き入れる。
ウタウタの実を体感したおかげで、魂を引き寄せられるという感覚を理解することができた。だからその逆、魂の中に引き寄せるということも出来るはずだ。
禍々しい闇が俺の体に吸い込まれ、俺の意識は闇に溶けるように沈んでいった。
さぁ、始めよう――トットムジカ。
スパンダム:魂を理解した狂パンダ。準備を整え、トットムジカに熱烈なラブコール。殺し愛いが始まる。
トットムジカ:(; ・д+)なんだこのパンダ、肉食系か? 邪魔者を排除して海の見える丘でふたりっきりとか、時間はたっぷりあるとか、お前が欲しいとか……滅茶苦茶グイグイ来る。でも、こんなに求められたのは初めてなので、なんか嬉しい。