闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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モノクロの交響曲(シンフォニー)

 

 

 そこはモノクロの世界だった。灰色の地面と白い空だけが果てしなく続く空間。この空間に居るのは俺ともうひとつの存在だけ……。

 軽く手を握って具合を確かめる。問題なく現実と同じような動きが出来そうであると確認した俺は、前方に佇む存在シルクハットを被り左目が×の形の赤く道化の仮面のような顔、ピアノの鍵盤のように見える腕を持つ遠目に見れば案山子のようにも見える存在……トットムジカに視線を向ける。

 

 不気味な色合いの炎に包まれた三つのガイコツを首元に浮遊させながら、トットムジカはジッとこちらを見つめていた。まるで俺を品定めするかのように……。

 

「調子はどうだ、トットムジカ? 悪くはないだろう? 生憎俺はウタウタの実の能力者ではないのでな、お前を現世に顕現させてやることはできない。代わりに俺の魂にお前を招き入れることで、疑似的な……俺とお前ふたりだけのためのウタワールドを形成した。上手くいったようでなによりだ」

 

 トットムジカはこちらの言葉を理解しているのか、牙の生え揃った口を歪め笑みを浮かべる。俺の言わんとすることは大体伝わったようだ。

 

「……さて、本題に入ろう。ここでお前が俺に敗れればお前は俺の魂に取り込まれる。つまり、お前の力は俺のものになるわけだ……だが、お前も提案に応じた以上気付いているだろうが、ここでお前が俺を殺せば……お前は俺の魂を乗っ取れるわけだ。つまりお前は、俺の肉体を得て顕現できる。自分で言うのもなんだが、俺の肉体は十分に世界を滅ぼしうる力を持っている……どうだ? お前に提示するメリットとしては十分だろう?」

「……」

「異論は無さそうだな。では……始めようか」

 

 俺の誘いに応じた以上トットムジカもある程度は察していたのだろう、俺の言葉を聞いて静かに頷いた。その了承を見て笑みを浮かべつつ、俺はスーツのジャケットを脱いで放り投げる。

 それと同時に、トットムジカにも変化が起こる。顔が赤から青に変わり、首のガイコツが4つに増える。被っていた帽子に竜の顔のような意匠が現れ、鍵盤の脚が現れて巨大化する。

 見上げるようなサイズになったトットムジカ……確かトットムジカの形態変化は『楽章』という形で表現されていた。

 最初の赤い顔でガイコツが3つなのが第一楽章、そしていまの青い顔でガイコツが4つなのが第二楽章……。

 

「……おいおい、トットムジカ。教えておいてやる。小手調べなんてのは、訓練でやるものだ」

「っ……」

「六王覇銃」

 

 映画FILM REDにおいてはさらにもうひとつ上、第三楽章まであったはずだ。わざわざ始めようと宣言して準備の時間をやったにもかかわらず、第二楽章というのは舐め過ぎだ。

 俺が振るった拳から放たれた赤黒い衝撃がトットムジカに直撃し、その巨体を大きく吹き飛ばす。同時に剃刀で空に駆け上がり、吹き飛んでいるトットムジカの上空に移動し、再び拳を振るう。

 

「もう一発だ」

 

 再び放った六王覇銃がトットムジカを地面に叩きつける。そのまま少し離れた場所に着地し、トットムジカに対して告げる。

 

「……全力でこい、トットムジカ」

 

 その言葉に反応するようにガバッと体を起こしたトットムジカからどす黒いオーラが放たれる。顔は白色に変わり、首の骸骨は5つに、手は四本に増え背中に巨大な黒翼が現れる。

 トットムジカ第三楽章……映画において数多の強者たちの連合軍を相手に渡り合ったトットムジカの最強形態。

 

 トットムジカの左目が光り、赤い光線が放たれる。その攻撃に対し、正面から覇気を纏った拳を振る。現在のトットムジカの巨大な体躯から放たれる光線は優に俺の体を超える大きさではあるが、その光線が俺に届くことはない。

 

「……この程度なのか?」

 

 迫る四本の巨腕……月歩で空中に駆け上がり、足を振るう。

 

「嵐脚・天刃」

 

 放った斬撃が一本の腕を切り落とし、それによって生まれた隙を突いて、一気にトットムジカに肉薄して、その仮面のような顔を蹴り上げる。

 トットムジカの体が弾かれるように上空に吹き飛ぶのを視界に収めながら、両腕に覇気を込める。

 

「十二真衝」

 

 放たれたふたつの衝撃がトットムジカの眼前でぶつかり合い、巨大な衝撃となってその体を呑み込んだ。

 黒い衝撃波の球体が消えると、ボロボロになったトットムジカが落下し大きな音を響かせる。相当のダメージを受け起き上がれない様子のトットムジカの顔の前に立つ。

 

「……なぁ、トットムジカ? あまり失望させないでくれ。俺が求め続けた力が、この程度でしかないなんて思いたくないんだ。それともなにか? 所詮、ウタウタの実によるウタワールドと現実への同時顕現による防御が無ければ、お前はこの程度でしかないのか?」

 

 トットムジカはウタウタの能力者が歌うことで、ウタワールドと現実に同時に顕現し、両方に同時に攻撃しなければダメージが通らないという強固な防御能力がある。

 だが、現状はウタウタの力によって顕現したわけでは無く、俺が魂に取り込む形で疑似的に顕現させているだけ……現実の空間にトットムジカは顕現してない。故に、双方同時攻撃必須の防御能力はない。

 

「……違うだろ? トットムジカ……お前が太古から蓄えてきた怨念は、長らく封印されて表に出れなかったことによって高まった想いは……こんな程度じゃ、無いはずだろう? お前のすべてを絞り出せ、ウタウタの力など無くても魔王に相応しい力を有していると、俺に証明してくれ……」

 

 さて、果たしてこの言葉は届くのかと、そんな風に考えた瞬間――世界が大きく脈動した。そして、同時に歌が聞こえてきた。「TotMusica」の歌が……。

 どこからだと視線を動かしてみると、トットムジカの首にある青白い炎を纏った骸骨が歌っていた。そのただならぬ気配に少し後退して、様子を見る。

 

 首から離れた骸骨が6つに増えて宙に浮かび、紫色に変わった炎を纏いながら歌い続ける。そして、トットムジカ本体が禍々しさを感じる黒い霧に包まれていく。

 そうだ。見せてくれ、邪魔なんてしない。俺の求めた力……運命すら粉砕する力が、あんな程度のはずがない。魔王の真の力を……俺に見せてくれ。

 

 霧が晴れると、そこには異質な存在が居た。先ほどまでの巨体からは想像できない俺と変わらない程度の体躯。藁のようにボサボサだった髪は、膝辺りまでの長さの美しく輝く金のストレートヘアに変貌。

 鍵盤と音符の描かれたドレスを身に纏った人型の姿ではあったが、足は細長い三角錐を逆さにしたような形状で、肩に腕は付いておらず、空中に人形の手のようなものが浮遊している。

 左目が×の道化を模した仮面を被ったその姿は人形のようでありながら女性的で、プリマドンナという言葉が頭に浮かび上がった。

 

 例えるのならそう……ここまでのトットムジカは、ウタウタの実の能力者によって現れる一種の舞台装置であり、あくまで舞台の中心はウタウタの実の能力者だった。

 だがそれが、自ら歌いながらステージの中央に立ち『主役』へと変貌したかのような。

 

「……美しいな」

 

 空中に浮かぶ6つの骸骨が称えるかのように歌い続ける中で逆三角錐の足で立つその姿には、圧倒的な存在感があった。

 ああ、分かる。体躯こそ俺と変わらぬ程度に小さくなったが、その力は先ほどまでとは次元が違う。それこそ、気の弱い者であればいまのトットムジカを目にしただけで、その命を終わらせるだろう。それほどの次元に立つ姿は、まさに魔王と呼ぶに相応しい。

 『トットムジカ最終楽章』とでも称すべきだろう。舞台装置から主役(プリマドンナ)に変貌した力は、いったいどれほどなのか……。

 

 期待に笑みを浮かべた俺の視線の先からトットムジカが消え、俺は直後に腕に武装硬化を纏って反転、後方から横なぎに放たれた蹴りを受け止めた。

 だが、その蹴りは重たく、しっかりと防御したにもかかわらず勢いに押されて体が横に飛ぶ。とはいっても、ふんばりが利かなかっただけで、ダメージは無い。と、そう考えた瞬間トットムジカが眼前に居て、空中に浮かぶ人形の腕が振るわれる。

 

 腕を交差して受け止めるが、やはり完全には堪え切れず、体が浮く。三度トットムジカの姿が消える。直後に後頭部に逆三角錐の脚での刺突、頭を傾けてかわす。今度は前方から腹下への掌底、武装硬化と鉄塊の同時使用で防ぐ。右方向からの蹴り、片拳を当てて軌道を逸らす。後方からの拳、正面からのアッパー、左からの足払いと続けざまに攻撃が放たれる。

 

 凄いな……予備動作もタイムラグも一切ない瞬間移動か。移動速度において、理論上これ以上はあり得ない。エネルよりも黄猿よりも速いゼロ秒での移動。さらにそれだけではない。その攻撃の威力たるや、俺でさえもしっかりと防御しなければダメージを免れないほどだ。

 その上、止めとばかりに最終楽章になったトットムジカは……『見聞色が効かない存在』へと変わっていた。

 おそらくこれは、覇王色の覇気によって可能になる見聞殺しと同質のものだと予想できる。未来予知にトットムジカは映らず、その攻撃も見聞色で察知することができない。

 理論上最速の移動速度、圧倒的な攻撃力がステルスの如く察知できない。なんとも凶悪な組み合わせだ。

 

「……ふっ、ふふふ、ああ、そう来なくちゃな!」

 

 正面から、後方から、左右から、上下から、迫りくる攻撃を捌き続ける。なるほど、確かにゼロ秒移動は最速だ。確実に俺より速い上に、一切予兆が無く未来予知もできないので発動タイミングがわからない。だが……攻撃までもゼロ秒というわけでは無い。

 必ず出現して攻撃するという工程を踏む以上、移動の瞬間は分からずとも対処できる。

 

 見聞色が効かないことに関しても……俺はそもそも戦闘において、見聞色を当てにしたことなど一度もない。見聞殺しという技術が存在する以上、当然見聞色が通用しないという状況は想定していた。

 だから他のあらゆる感覚も極限まで研ぎ澄ませて鍛錬している。見聞色など使わなくても俺の体は、超高性能レーダーのようなものだ。

 

 しばらくそのまま攻撃を捌き続けていると、埒が明かないと判断したのかトットムジカは攻め手を変えてきた。瞬間移動するのではなく正面から、空中に浮かぶ人形の腕を同時に振り被る。

 するとその腕の数が左右10本ずつに増え、右腕は紫色の炎を、左腕は青白い冷気を纏う。ブルックの黄泉の冷気に近い技か、防御されても熱や冷気でダメージをというわけか……。

 

「……紙絵」

 

 俺の前で軽く跳躍し、振り下ろすように放たれる計20本の腕による乱打。それはまるで拳の豪雨……いや、迷路だった。降り注ぐ拳を回避する順番、回避する方向、そのひとつでも間違えてしまえば、一気に捕らえられ膨大な数の拳を叩き込まれるだろう。

 事実、その速度は俺の拳と比較しても差はほぼ無いほどに速い。先ほどまでよりは速度を重視しているとはいえ、威力も相応にあるだろう。迂闊に受けるわけにはいかない。

 紙絵で拳の雨を掻い潜っていると、不意に左右10ずつの手が融合し巨大な掌となって、俺を挟み込むように迫ってきた。

 回避されるならできない大きさで……合理的な上に、速い。回避は無理か……。

 

「金剛鉄塊」

 

 鉄塊と武装硬化を同時に使い、左右から迫る掌を受け止める。その瞬間、体に凄まじい電撃が走る。炎に冷気に電気までもか……だが。

 

「舐めるな。電撃に対する耐性ぐらい、持っている」

 

 当たり前だが、肉体の強度がいかに高かろうが熱や冷気、電気といったものを相手にするなら、強度だけでは意味がない。

 悪魔の実の能力がある以上、当然予想して対策しており、幾度となく行った肉体改造によりそういったものに対する耐性も十分に獲得している。

 力を込めて、掌を弾く――直後、トットムジカの左目が光るのが見え、咄嗟に顔を逸らすと、赤い閃光が頬をかすめた。

 

 第三楽章の時に放っていた光線を圧縮したものか? 大した速度と威力だ。

 頬を微かに指で触れてみると、ぬるりとした感触があった……いつ以来だろうか、戦いで血を流したのは……武者修行以来か?

 

 そんなことを考えていると、トットムジカは人形の腕を黒く染め、掴みかかるように手を伸ばしてきた。一見覇気のようにも見えるが、今度はなにをするつもりか……避けれないわけでは無いが、これはそういう戦いではない。受けて立つか……。

 こちらも手を伸ばし、トットムジカと手を掴み合い、力比べのような姿勢に移行する。瞬間、黒い人形の腕が膨張し凄まじい圧力が襲い掛かってくる。

 

「ぐっ……」

 

 ズルズルと、滑るように体が後退する……初めての経験、だな。俺が誰かに力負けするなんて……。

 しかし、こうして手を組んで触れ合うとよく分かる。トットムジカの持つ桁外れな負の感情が濁流のように流れ込んでくるようだ。凄まじい怨念、凄まじい負の感情……なるほど、さすがは魔王だ。

 骸骨たちの歌も勢いづく、俺という贄を舞台の主役が喰らう様を賞賛するかのように……。

 

「ふ、ふふ、ふふふ……」

 

 思わず口元から笑みがこぼれた。ああ、思っていた通り……いや、思っていた以上に凄まじい力だ。速度、膂力も次元が違う上、相手の出方に合わせて切り替える多彩な攻撃手段。

 いったいどれだけ引き出しがあるのか、もしかしたら底など無いのかもしれないほどだ。幾度となく行った肉体改造により、もはや世界すべてを敵に回しても問題なく勝てると確信できる程に力を付けていたはずの俺が、いまは確実に押されている。

 

「やっぱり思っていた通り、お前は最高だ……トットムジカ」

「ッ?」

 

 グッと更なる力を入れると、押されていた体が止まり、力が拮抗する。ここがもし現実世界であれば、俺とトットムジカの力比べの余波だけでエレジアの町は吹き飛んでいたかもしれない。それほどの力が俺たちの間には流れている。

 

「なぁ、トットムジカ……こうして魂の中に招き、お前がこれほどまでに抱えていた怨念を、負の感情を爆発させてくれているんだ。なら、俺も応えるのが礼儀というものだな」

 

 更なる力を籠める。少しずつトットムジカの手を俺の手が押し返す。

 ああ、せっかくの機会だ。この魂の中で互いのすべてを曝け出して、全霊で戦うことにしよう。

 

「だから、お前に教えよう。親父にもポチにも、誰にも話したことはない。俺の心の深奥……一番深い、狂気の根底ともいえる闇を……」

 

 ミシミシと黒い人形の腕にヒビが入り始める。

 

「……渇くんだ。心が、魂が――いまもなお、満たされることなく、渇き続けているんだ」

 

 直後に俺は黒い腕を握り潰す。トットムジカは一瞬驚愕したようにピクリと体を動かしたあと、バックステップで距離を取る。

 破壊した腕は即座に黒い霧に変わり、再び白い人形の腕としてトットムジカの肩の横に浮遊する。どうやら、再生能力も持ち合わせているらしい。

 だが、トットムジカは攻撃を仕掛けては来ず停止しており、歌っていたはずの骸骨たちもいつの間にか沈黙していた。

 どうやら、俺の話を聞いてくれるつもりらしい……ありがたいことだ。

 

「トットムジカ、俺はよくこう口にするんだ。平凡な幸せが欲しい。平凡でありきたりな幸せを手に入れるのが目的だと……ああ、もちろん嘘を言っているわけじゃない。心からの言葉だ。だがな、この言葉には……頭に付く文字が欠けているんだ」

 

 結局最初からそうなんだ。ずっと、ずっと、なにひとつ変わっていない。俺の心の一番奥、狂気の源となっているのは、その想いだ。

 

「……『前世の』とな。笑える話だろ? 俺が求めているのは、未来はおろかこの世界にすら存在しないもの……失ったことで初めて、どれだけ大切だったかに気付き、いつしか神聖視すらしてしまっているかつての日々……俺が奪われたもの……ああ、もちろん分かっている。それはこの世界のどこにもない、どれだけ手を伸ばそうとも手に入らないものなのだと……理解は、しているさ」

 

 そこで一度言葉を区切り、静かに心の奥……ずっと感情を抑え込んでいた蓋を外す。

 

「……だが、俺の心は、魂は! たしかにソレが『有った』と確信しているのに!! それが、この世界のどこにも存在しないなどと、どうして納得できる!!」

「……!?」

「何度も受け入れようとしたさ、この世界でも得たものは多い。大切と呼べるものだって存在する。それで妥協すればいい。もう無くしてしまったものを追い続ける必要なんてないと……だが、その度に心の奥底で叫ぶんだ! まだ『あらゆる可能性の果て』を見てなどいないのに、なぜ諦められるのかと……渇くんだ、心が……魂が……」

 

 ああ、そうだ。たしかに無理だ。どれほど考えても前世の幸せをこの手に取り戻す方法など思い付きはしなかった。

 だが、それでも思ってしまうんだ。いまはまだ俺が知らないだけで、なにか方法があるのではないのかと……諦めきれない心が叫び続けている。

 

「人は過去には戻れない。いや、仮に戻れたとしても、この世界の過去に俺の求めるものは無い……だから、進むしかないんだ。狂った心でブレーキを壊し、暴走するように力を求めて進み続ける。可能性の果てに行きつくまでな。その渇きこそが……俺の全ての根底だ」

 

 理解はしていても納得はできず、この世界には存在しない前世の幸福……決して手に入らないものに向けて手を伸ばし続け、力を求めて前に進み続ける。

 もちろん力を求めるのには他にもいろいろ理由はある。もう二度と奪われないためだとか、いろいろ……だが、結局俺の心の奥底を掘り下げれば、最後に到達するのは……失った前世への渇望。それが、俺の狂気の根底だ。

 

「……ふふ、やっぱり溜まっていたのもあるのか、感情を爆発させるとスッキリするな」

「……」

「聞いてくれてありがとう、トットムジカ……」

 

 そう呟くと共に、俺の体から膨大な覇気が溢れ出す。ああ、今日は初めての経験が多い一日だ……これも、いつ以来……いや、その時からさらに幾度もの改造を経ているので、初めてというべきだろう。

 

 初めて――『本気で戦う』。

 

 武装色と覇王色を……同時に纏う。俺の体が漆黒に染まり、それでもなお収まりきらない覇気は、俺の体の外に溢れ出し外殻を形成する。

 全身漆黒の鎧……いや、鎧なんて綺麗に整ったものではないか、もっと禍々しい甲殻のようなもので全身が覆われる。

 おそらくいまの俺は、漆黒の化け物のような姿をしているのだと思う。世界を滅ぼす怪物のような姿を……ああ、だから、この姿をこう呼ぼう。

 

「――『終末の獣(アポカリプス)』」

「っ……」

 

 トットムジカが一歩後ずさるのが見えた。俺のただならぬ気配を感じてのことだろう。だが、本当に一歩だけであり、それ以上下がることは無く堂々と立つ姿には風格と気品を感じた。

 本当に……魔王という名に相応しい姿だ。

 そんなトットムジカに対し、俺は膨大な覇気で覆われた両手を広げるようにして告げる。

 

「……再開しよう。トットムジカ……歌え、そして踊れ……お前のすべてを俺にぶつけてこい。俺がお前の全てを受け止めてやる。寂しさも憎しみも、怨念も……すべてを認め、すべてを受け止めてやる」

 

 手を合わせて感じたトットムジカの根源。数多の感情の中……認められたい、受け入れて欲しい、寂しいという強烈な感情。

 だから、俺は退かない。トットムジカのあらゆる攻撃を、あらゆる力を正面から受け止める。お前の負の感情を全て……だから、ああ、だから……。

 

「代わりにお前のすべてを、新たな可能性を――俺によこせ!!」

 

 

 

 




スパンダム:週末のパンダ(土曜日)。状態異常無効化に特殊攻撃も無効化する理不尽。もう二度と手に入らないもののために、可能性を求めて力を求め続ける怪物。本人すら手に入れるのは無理と悟っており、それでもあきらめられないが故に渇きが癒えない。想像以上のトットムジカの力にご満悦で、最初で最後のフルパワーモードに移行。

トットムジカ:((((;・д×))))くっそ強いんだけど、このパンダ。え? これ人類ってカウントでいいの? 私と同じ魔王じゃないの? あと、なんか急に前世とか言い始めたんだけど、どうリアクションすればいいか……その、ちょっと、困る。
(⸝⸝•ᴗ×⸝⸝)あっ、でもそれはそれとして、めっちゃ褒めてくれるし、攻撃も全部正面から受け止めてくれるし……そのうえ「お前のすべてを受け止めてやる」なんて、殺し文句過ぎてきゅんきゅんしちゃう……やだっ、このパンダ、包容力が凄い……。

最終楽章:捏造の最強形態。瞬間移動するし、見聞色無効化するし、ビーム撃つし、腕増やしたり巨大化したりするし、炎に氷に雷なんでもござれという、相手が狂パンダだからいいやの精神で盛られまくったチート形態。
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