闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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夕暮れの後奏曲(ポストリュード)

 

 

 モノクロの世界。果てなく続く灰色の大地で、俺とトットムジカの戦いはようやく終わりを迎えた。魂の中の疑似ウタワールドでなければ、世界が10度は滅んでいそうな、そんな規模の戦いだった。

 トットムジカは本当に強かった。本気を出した俺を相手にしても一歩も引かず、相当の時間戦い続けていた。

 だが最終的に、勝利を掴んだのは俺であり、仮面も体もヒビだらけになり宙に浮いていた骸骨もすべて地に落ちぐったりとするトットムジカの首を掴む。

 

「……すべてを吐き出して、ぶつけて、スッキリしたか、トットムジカ……俺もだ。こんなに、全力を出し尽くしたのは初めての経験だったよ」

「……」

 

 首を掴む俺に対して、トットムジカは抵抗する様子を見せない。もうトットムジカに戦う力は残っておらず、俺がもう少し首を持つ手に力を加えれば、トットムジカの体は砕け散るだろう。

 ひび割れた仮面でこちらを見るトットムジカは、敗北を受け入れているかのように感じられた。

 

「このままお前を破壊して、俺の魂に取り込み、お前の力を俺のものにする……つもりだった。だが、なんだろうな? 少し、惜しくなったよ」

 

 全ての感情をぶつけ合って戦ったトットムジカに対し、情のようなものを抱いているとでも表現すべきだろうか、このまま消してしまうのは惜しいような気がした。

 だから、当初の予定とは少し変わるが……俺はトットムジカに告げる。

 

「トットムジカ……俺と共にこい。お前は、長らく封印されていて、世界を知らないだろう? どうしても、世界を滅ぼしたいというのであれば話は別だが、そうでないのなら……一緒に行こう。俺がお前に世界を見せてやる」

「……」

「例えるなら、俺とお前の魂が混ざり合うようなものか……お前は俺を通して世界を見る。俺は、お前の力を得る……悪くない提案だと思うが、どうだ?」

 

 静かに告げる俺の言葉を聞き、トットムジカはしばしの思考の後で頷いた。そして直後にトットムジカの仮面が縦に割れ、中から禍々しい気配を放つ漆黒の球体が姿を現した。

 いわばそれは、トットムジカのコア……魂というべきものであり、それを差し出すということは、トットムジカにとって俺の提案を了承した証でもあるのだろう。

 深い怨念を感じるその球体に手を伸ばして触れると、急激に意識が浮上していく感覚があった。

 

 

****

 

 

 気が付くと、空は茜色に染まっており、瓦礫に座っている俺の眼前に広がる海も夕焼けに染まっていた。

 俺がエレジアに来た時間を考えると、数時間が経過……いや、待てよ? 疑似世界での戦いはもっと長くやってた気がする。

 ポケットから日付も確認できる時計を取り出すと……丸一日が経過していた。どうやらトットムジカとの戦いが楽しくて、丸一日以上全力で戦っていたみたいだ。

 

 苦笑しつつ右手を見る。トットムジカの楽譜を握っていたはずのその手に楽譜は無く、代わりに仮面が握られていた。

 トットムジカの顔を模したような……口元だけ、微笑みの形に変わった仮面。そういえば、CPのエージェントは仮面を付けて活動することもあったが、俺は自分の仮面は持ってなかったな。

 

 ゆっくりとその仮面を被り、仮面越しに夕日を見つめる。

 

「……なぁ、トットムジカ。たぶんなんだが、俺に訪れる結末は二通りだと思うんだ。ひとつはどれだけ足掻いても、どれだけ可能性の果てに辿り着いても望むものは得られず、世界に絶望して……この世界を滅ぼす未来」

 

 頭では理解しているんだ。本当にあらゆる可能性に辿り着いたとしても、俺が望むかつての平凡な幸せがこの手に戻ってくることはないと……だが、それでもまだ、いまは夢を見ていられる。

 微かな可能性があるかもしれないと、そう思っていられる。だが、そう思えなくなった時……世界に絶望したなら、俺は八つ当たりのように世界を滅ぼすだろう。

 

「もうひとつは……失ったことと思い出による補正で、神聖視すらしている前世の幸せ……それを、この世界で得たものが上回り、かつての世界よりこの世界が大切になり……ようやく渇きが癒える未来。俺に待つのはおそらく、そのどちらかの未来だろう」

 

 こちらにも可能性は感じている。最初は自分以外のなにかを大切に思うつもりは無かった。だが、それでも、少しずつ情が移っている存在は居る。少しずつこの世界で得たものが、占める心の割合が大きくなりつつあるようにも感じている。

 だからもしかしたらいつか、渇きが癒える未来も……あるのかもしれない。

 

「……トットムジカ、俺が世界を滅ぼすと決めた時、お前も同じ気持ちなら一緒に世界を滅ぼそう。その時お前がこの世界になにかを感じていたなら、俺の前に立ちはだかってもいい。あるいは俺がこの世界を大切に思った時、お前もなにかを得ていたなら共に世界を見続けよう。逆にその時にお前が世界を滅ぼしたいと考えていたなら……俺が今度こそ、お前を終わらせてやる」

 

 そう呟きながら仮面を外し、夕日にかざしながら笑みを浮かべる。

 

「いま挙げただけでも、お前には4つの未来があるな。俺より多くていいじゃないか……まぁ、俺もお前も、まだまだ知らないものも、見たことが無いものも、体験したことが無いものもいくらでもある。世界に絶望するには早すぎる……だから、しばらく付き合え」

 

 俺の言葉に呼応するように仮面の左目が赤く点滅し、それを見てフッと笑みを溢したあとでその仮面を己の胸に当てる。

 すると仮面は吸い込まれるように俺の体に溶け込んでいき、俺はゆっくりと瓦礫から立ち上がる。

 

 感覚的に理解できる。イメージとしては地図に点を打つような感じか……。

 

 そう考えた直後、俺はエレジア城の屋根の上に立っていた。なるほど、コレがゼロ秒での移動か……感覚に早めに慣れる必要があるな。だが、それよりも……。

 

「……く、くくく、はははは! あっははは!!」

 

 笑い声が零れる。とても清々しい気分だ。こんな気分は初めて肉体改造により進化した時以来といっていい。

 果たしてトットムジカの魔力を手に入れたのが要因か、それともトットムジカと一種の融合をしたことで、俺の魂がスパンダムでもトットムジカでもない別のナニカに変貌したせいか……理由は定かではないが、確信できることがひとつ。

 

 俺の楔は――いま、外れた。

 

 頭に濁流のように思考が巡る。いままでは思い付かなかった考えが次々と……俺は、懐から通信機を取り出して連絡を行う。

 すると1コールでポチがでた……そういえばコイツ、いつかけても絶対1コールで出るな……。

 

『はい。どうしましたか、隊長?』

「ポチ、ルッチたちに連絡を入れておけ。お前たちや他のCPの情報でプルトンの設計図のありかが分かった。5日後に俺が直接現地に行ってこの一件は終わらせると……ああ、それとその前日に五老星にアポを取っておいてくれ、いくつか得ておきたい許可がある」

『分かりました……隊長、すごく上機嫌ですね』

「ああ、久しぶりに清々しい気分だ。自由だなんだと叫ぶ連中の気持ちも、分かる気がする」

 

 煩わしかった楔は抜け、望んでいた力も手に入れた。気分は最高と言っていい。別に声などはいつも通りのつもりではあったが、ポチは気付いたみたいだ。

 まぁ、ポチなら気付くか……。

 

「……ポチ、とりあえずいまから一度家に戻るつもりだ。食事の用意をしておいてくれ」

『はい! なにか希望はありますか?』

「任せ……いや、お前の得意な料理でいい」

『了解です』

「では、またあとでな」

 

 そう言って通信を切る。思わず口元に小さく笑みがこぼれる。そういえば、ポチが要因だったな……俺が己の結末が、ひとつではなくふたつあると思うようになったきっかけは……。

 たどり着く果てが絶望のみではなく、小さな希望を感じ始めたのは……まぁ、どう転ぶかはいまだ俺にもよく分からないが、期待はしておくとしよう。

 

 視界の先、夕日に染まる茜色の海は……いままで見たどんな夕日よりも、美しく見えた気がした。

 

 

 




スパンダム:解き放たれし魔王パンダ。トットムジカと融合したことで、魔力も自在に使えるようになった。トットムジカに出来ることは全てできる。あくまで、現時点で求めているのは前世の幸せではあるが……この世界にも多少の期待はしている模様。

トットムジカ:(๑•ᴗ×๑)パンダと一緒♪ 本当に宣言通りすべてを受け止めてくれたパンダにメロメロであり、ぶっちゃけもう世界とかどうでもいい。パンダの行く先を一緒に見たいので、狂パンダの魂に融合する形で喜んで力を譲渡。

ポチ:忠犬でパンダの愛犬。基本的に狂パンダが嬉しそうなら、ソレが一番の幸せ。この世界の存在の中で、パンダからの評価は一番高かったりする。
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