トットムジカとの戦いから2日経った日の夜。俺は再び新世界のレッドフォース号の甲板にいた。理由は宣言していた通りウタとゴードンの迎えだったのだが……そのふたりを盛大に見送るという名目の宴会に巻き込まれた形になる。
コイツら、俺が一応世界政府所属の人間だって分かってるのか? そう呆れつつも、いまの俺は過去最高に気分がいいこともあって参加していた。
まぁ、バカ騒ぎする趣味は無いのでウィスキーをゆっくり飲んでいるだけだが……。
「……ところで、本当にその選択でいいんだな?」
「うん。シャンクスもゴードンもスパンダムさんも、皆私のせいじゃないって言ってくれた。けど、エレジアをあのままにしたままで、シャンクスの船に戻るのは私自身が納得できない。だから、赤髪海賊団の音楽家は一旦休業! 私の歌で、もう一度エレジアを音楽の国として復活させて見せる!!」
3日間しっかりと話し合った結果。ウタはエレジアに戻ることを決めたらしい。8年生活してきたエレジアにも愛着があり、負い目もあるのだろう。だが、それ以上にやる気に満ち溢れているように感じた。
最初の魂が抜け落ちたかのような顔ではなく、目標を決めそこに進んでいこうという強い意志が宿っていた。
「そうか、まぁ、乗り掛かった舟だ。俺もある程度は協力しよう」
「本当っ!? ありがとう、凄く心強いよ!」
俺はウタとシャンクス、そしてゴードンには本当に感謝している。コイツらが居てくれたおかげで、俺はトットムジカという力を手に入れ、楔を抜くことができた。大きな恩があると言っていい。
当面のウタの目標はエレジアの復興になるわけだから、協力しやすいだろう。劇場版において、シャンクスがフィガーランド家に関係していると考えている五老星は、その娘であるウタに対しても対処を躊躇するような節もあったので、そちら方面も問題はない。
そしてウタウタの実に関しては、シャンクスやゴードンも含めて話し合った結果、眠ることによる強制解除ではなく、己の意思で解除できるようになるまでは、一般人相手には使わないという形で纏まったらしい。
とりあえず、近いうちにリリスをエレジアに引っ張っていくとしよう。歌手としてデビューするなら、必要になるだろう。
「……ああ、それと、ゴードン」
「うん?」
「トットムジカの楽譜については、俺が処理しておいた。お前では、たぶんできなかっただろう」
「……そうか……ああ、私は音楽を愛するものとして、楽譜を捨てるという選択がどうしても取れなかった。ありがとう、感謝する」
嘘は言っていない。処理したのは間違いない……処分したとは言ってない。まぁ、トットムジカに関しては既に俺の魂の中に居るので、いま仮にあの楽譜で「TotMusica」を歌ったとしても、トットムジカが顕現することはない。まぁ、それに関してはあるものを用意しているので、後で話すとしよう。
トットムジカは俺にとって一種の切り札といえる存在なので、俺と融合していることは出来るだけ隠しておくつもりだ。必要な時には使うが、そもそも説明が面倒だというのもある。
そんなことを考えつつ、軽く雑談をしていると……シャンクスがこちらに近づいてきた。
「……少し話せるか?」
「ああ、いいだろう」
どこかしらのタイミングで来るだろうとは思っていたので、すぐに了承し、賑わう甲板から離れて船の裏手に回る。
シャンクスはしばし沈黙したあと、俺に向かって頭を下げた。
「……まずは礼を言わせてくれ、ありがとう。おかげで、娘と仲直りすることができた」
「大海賊が世界政府の役人に頭を下げていいのか?」
「かまわないさ。海賊としてではなく、父親として下げているのだからな……」
「そうか」
少しして頭を上げたシャンクスは、真剣な表情で俺を見つめながら告げる。
「お前には感謝している。大きな恩ができたと思っている。だが、その上で聞きたい……ウタを、俺の娘をこれからなにかに利用するつもりは?」
「無いな」
利用という意味ならもう終わっているし、今後ウタになにかするつもりかと言われたら、特になにもない。むしろ、ウタには感謝しているので、場合によっては助けるつもりですらいる。
シャンクスは鋭い目のままでジッと俺を見つめている。その思惑を探ろうとするかのように……。
「……信じる信じないは好きにしろ」
「いや、信じるさ。だが、覚えておいてくれ、裏切った場合は……容赦はしない」
「お前が、俺に勝てると?」
「無理だろうな。お前は強すぎる……死力を尽くしてもかすり傷すら負わせられないかもしれない。だが、それでも、ウタを傷つけたなら俺はお前に刃を向ける」
「……そうか」
「まっ、あくまでもしものことだ。たしかに底知れなさはあるが、それでもお前が根っからの悪人とは思えないしな……そんな未来が来ないことを祈る」
なかなかいい覚悟だと、素直に感心した。シャンクスは俺を低く見ているわけでは無く、正確に俺の実力を理解した上で、それでも俺がウタを理不尽に利用することがあれば許さないと宣言した。
俺自身がシャンクスに感謝しているのも影響しているが、個人的にはいい印象だ。
「……まぁ、ウタのことを想うのであれば、たまには顔を見せてやることだ。少なくとも8年も置き去りだったのだからな」
「うっ、それを言われると痛いな……」
真剣な話は終わった様子で、シャンクスは苦笑しながら頭をかく。それを見て俺も微かに笑みを浮かべ、賑わう甲板に戻っていった。
甲板に戻り再びマストに寄りかかると、ウタが少し戸惑いがちに話しかけてきた。
「……スパンダムさん、シャンクスと何を話してたの?」
「ああ、どうも放任癖が酷いようだったからな。今後はもう少し定期的に娘に連絡を取れと、そう忠告しておいただけだ」
「ふふ、そうなんだ……けど、うん。それなら、私も嬉しいな」
「まぁ、お前が心配するような話はしていないさ。俺個人として赤髪海賊団をどうこうする気もないしな……それよりほら、ステージが歌姫を呼んでいるみたいだぞ」
俺の言葉を聞いてウタは安心したような表情を浮かべたあと、赤髪海賊団の船員たちに呼ばれて簡易ステージに向かって、楽し気に歌い始めた。
それをぼんやりと見つめながら、近くに居たゴードンに話しかける。
「それはそれとして、ゴードン……あの子に、音楽だけでなく一般常識もちゃんと教えてやれ、世間知らずにもほどがあるぞ。最低限の知識は無いと、偏った思想に流される可能性もある。せめて、新聞ぐらいは読ませてやれ」
「た、確かに音楽のことばかり教えてたな。しかし、エレジアにはニュースクーも来なくて、外の情報を得る機会が少ないんだ」
「それは俺の方で手配してやる。歌手としてデビューする前に、ある程度世界の常識は知っておくべきだ」
実際FILM REDにおいて、ウタは外の世界のことをほぼ知らない感じだった。ファンから聞かされる愚痴や不満を、外の世界の形と思い込み、新時代を作ろうとしたりと極端な思考に偏りがちだったので、その辺りは矯正しておくべきだ。恩返しも兼ねて、その辺りも多少世話を焼いてやることにしよう。
そう思いながら俺は懐から数枚の真新しい楽譜を取り出し、一曲歌い終わったウタに近づく。
「……ウタ、これを」
「スパンダムさん、これは?」
「『TotMusica』の楽譜だ」
『な、なにー!?』
俺の言葉を聞いて、ゴードンや赤髪海賊団の面々が驚愕したように叫ぶ。
「ああ、勘違いするな。コレは俺が書き写した楽譜で、トットムジカの怨念は宿っていない。仮にこれをウタウタの実の力を使って歌ったとしても、トットムジカが顕現することはない。歌に罪は無い、そうだろう?」
「……スパンダムさん……うん! そうだよね。曲に、音楽に罪は無いよね。この曲も、きっと……誰にも歌ってもらえなくて、寂しかったんだよね」
「そうかもしれないな……とりあえず、お前に渡しておく。好きにしろ」
「うん!」
俺から楽譜を受け取ったウタはしばらく真剣な表情で楽譜を見つめ、シャンクスとゴードンに視線を送る。
そしてふたりが頷いたのをみて、ゆっくりと「TotMusica」を歌い始めた。ウタウタの実の力は使わずに紡がれるその歌、当たり前だがトットムジカが顕現することは無い。
口元に笑みを浮かべながら再びマストにもたれ掛かりウタの歌を聞く。
いい歌だな……トットムジカ。
ようやく歌ってもらえたからだろうか? 俺の魂の中のトットムジカが喜んでいるように感じられた。
スパンダム:過去最高レベルに上機嫌なこともあり、かなり穏やか状態。トットムジカと手に入れられたのは、そもそもFILM REDのおかげということもあって、ウタやシャンクスには感謝しており、恩を感じている。
ウタ:狂パンダのことは恩人としてかなり慕っている感じ。本人に自覚は無いが、狂パンダの最大の悩みを解決する要因にもなったことで、大量のパンダポイントを獲得しているので、危なくなっても守ってもらえる可能性が極めて高い。
シャンクス:狂パンダには感謝しているし、なんだかんだでこうして宴会にも付き合ってくれているので、悪い奴ではないと感じている。狂パンダが圧倒的過ぎるほどの強者なのは察していたが、それでもウタの父親として覚悟を示した。パンダからは好印象。
リリス:なんか、パンダが無茶振りしてくる予感がした。
トットムジカ:ヾ(*^∀×)ノわ~い、TotMusica歌ってもらった~♪ パンダ、ありがとう! 大好き!