闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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関わった以上見逃す理由は無い

 

 

 エニエスロビーがグランドライン前半の海に位置することもあって、俺が新世界に赴く機会はそれほど多くない。まぁ、基本的に司令長官なわけだし、エニエスロビーでの仕事が多いのが当然ではあるが、回される仕事の多さも相まって割と現場に出ている気もする。

 ともあれ現在俺は新世界の島のひとつ……パンクハザードに来ていた。

 

『パンダ、準備はいいか?』

「ああ、好きなタイミングで始めろ」

 

 通信を通して聞こえてきたリリスの言葉に頷く。俺が今回パンクハザードに来ているのは、言ってみればリリスの実験に付き合うためだ。

 まぁ、最近いろいろ動いてもらうことが多かったので、多少は実験にも付き合ってやろうと、そんな感じではある。

 今回の名目としては、新開発の兵器の実験……事前に概要は説明されているが、大将黄猿の能力を参考にして作られた兵器らしい。

 つまり、簡単に言えば、のちにパシフィスタに搭載されるレーザーである。

 

『ではいくぞ、かなり強力な改良型じゃからな……』

「ふむ」

 

 リリスの声と共にレーザーが飛んできたので、手で弾く。

 

『……お前ふざけるなよ。レーザーじゃぞ……あっ、こらペチンは止めろ、通じるとは思っておらんかったが、そんな飛んできた虫を払うように防ぐな。もうちょっと防御した感じを出してくれ、心が折れる。いいのか? 泣くぞ、ギャン泣きするぞ? 滅茶苦茶鬱陶しいぞ?』

「……どういう脅しだ。どうして欲しいかもっと具体的に言え」

『なら次は、防御じゃなくて回避してくれ……』

 

 その言葉と共に前方の壁がスライドし、大量のレーザー兵器が現れて、次々にレーザーを放ってくる。それをしばらく回避していると、再びリリスの声が聞こえてくる。

 

『……割と泣きそうじゃが、それで、感想的にはどうじゃ?』

「威力自体はそれなりだと思うが、やはり光という性質上軌道が直線だからな、発射のタイミングさえ分かれば俺でなくとも余裕でかわせる。見聞色が使える相手には通用しないレベルだろうな」

『う~ん、やはりそうか。さすがになんの準備もなく途中で軌道を変えるのは難しいな……最後にフルパワーで撃っていいか?』

「好きにしろ」

 

 俺がそう返答すると、大量のレーザー兵器の角度が変わり、光を収束させて極太のレーザーを放ってきた。実験に付き合っているわけだし、避けるよりは受けたほうがいいだろうと、手をパーにして前に出す。

 

「……それなりの熱量だが、質量が無いから物理的な圧が無い。高熱に耐えられる者なら、普通に受けれるレベルだろう」

『いや、お前、それだけの光量を束ねたレーザー……いったい何度あると思っとるんじゃ……理不尽の擬人化か、お前……』

 

 呆れたような声が聞こえてきたが、とりあえずはこれで一通りの実験には付き合ったので実験室を出て、リリスの下に移動する。

 そしてデータを纏める、リリスをチラリと見たあとで、用意してくれたコーヒーを飲みつつ窓の外を見る。様々な木々が見える緑豊かな島、原作のパンクハザードとは大違いだ。

 

「……こんなもんじゃろ。後は(ピタゴラス)に回してインプットじゃな」

「完全に分業しているというわけでは無いんだな」

「まぁ、ある程度は各々でやっておるな。共同で取り掛かってるようなものは別じゃが……それをいうと、わしのメインの仕事は研究費の調達じゃしな」

「なるほど……それで、参考になったか?」

「ああ、助かった。わしの脳はまた破壊されそうじゃが、いいデータが採れた」

 

 そう言うとリリスは自分用のコーヒーを淹れ、俺の向かいの席に座る。そして、一口コーヒーを飲んでから、ニヤッと笑みを浮かべて口を開く。

 

「ところで~パンダ。せっかく来たんじゃし、他の実験にも付き合ってくれたりせんか? ちょっと、ほんの少しでいいからっ……」

「はぁ……まぁ、いいだろう。今日は時間もあるしな」

「え? マジ!? 来たか、パンダのデレ期――いだっ!? お前やめろ、その空気弾いて飛ばすやつ……なんでそんな軽い動作で、仰け反るほどの威力なんじゃ……」

 

 相変わらず頭はいいはずなのに馬鹿みたいなことを言うリリスに呆れつつ、コーヒーを飲む。リリスはおでこを押さえながらも、俺に協力してほしい実験をピックアップしはじめた。すると、そのタイミングで微かな揺れを感じた。

 

「これは――おいっ、いまの揺れは? はぁ!? なんじゃと!! あの馬鹿がっ、だから、わしはあんな奴を研究に関わらせるなと……」

 

 通信機に怒鳴るリリスを横目に、見聞色の覇気を広げる。パンクハザードぐらいの島ならすべてを覆うことも可能だ。

 ……中央付近で爆発のような跡、広がる煙とそれから逃げる大勢……ああ、なるほど、シーザー・クラウンによる毒ガス兵器の爆発事故か……なんともまぁ、絶妙なタイミングだ。

 仕方ない。リリスにまでなんらかの被害が及ぶと大きな損失だ。

 

「リリス、状況を教えろ」

「馬鹿が毒ガス兵器を中央研究所で爆発させた。毒ガスはかなりの量で、島全体を覆えるほど、広がる速度はそれほど速くない」

「……職員たちを一時屋内に避難させろ、毒ガスを散らせてやる」

「っ、分かった!」

 

 俺の言葉を聞いたリリスは即座に通信機に向かって指示を飛ばしながら、屋外に向かう俺についてくる。

 俺が居た研究所は島の外周付近なので、中央まではそれなりに距離があるが、それはまぁ…‥大した問題じゃない。

 

「パンダ、屋内退避完了じゃ」

「わかった……風で散らしても問題ないな」

「あ、ああ、毒ガスの性質上ある程度の量があってこそ効果が出る。広域に風で拡散させるのは有効じゃが……島を覆うほどの量じゃぞ?」

「問題ない」

 

 リリスに軽く確認をしたあとで、島の中央方向に向けて掌底を放つ。もちろん建物などが倒壊しないように加減はしているが、押し出された空気が突風となって毒ガスを押す。

 見聞色で毒ガスの規模を確認しながら、何度か掌底を放つことで、毒ガスの大部分を遠ざけることに成功した。

 

「ある程度は散らした」

「……お前科学に喧嘩売り過ぎじゃろ……まぁ、いい」

 

 呆れたように告げたリリスだったが、直後に俺の背中におぶさるように飛び乗ってくる。

 

「全体を見たい。頼む、パンダ」

「しっかり掴まっていろ」

 

 リリスが求めていることは分かったので、リリスをおぶる形で月歩を行って島の全体が見える位置まで上昇する。

 リリスは懐から双眼鏡らしきものを取り出して、島の中央付近に視線を向ける。

 

「……中央研究所はもう駄目じゃな。第二研究所は半壊しているが、大半は爆発の熱によるもの、内部に毒ガスの残留は無い。毒ガス兵器の大本は中央研究所跡で未だ毒ガスを発生中……研究資料は惜しいが、島全体を死の世界にするわけにもいかんか……(シャカ)! 中央研究所跡から半径1km以内に人は? 全員避難済み……囚人も含めてか? 間違いないな?」

 

 たしかに広がっていた大部分のガスは飛ばしたが、中央研究所内に残っているガスも多く、毒ガスを発生させている兵器……見聞色で見ると、形状的にスマイリーっぽいな……この時点ではH2Sは、ただの毒ガス爆弾だったような気もするが、まぁどちらでもやることは変わらない。

 即座に考えをまとめたであろうリリスは、通信で確認したあとで俺に告げる。

 

「パンダ! 頼む、中央研究所から半径1kmほどを、どうにかしてくれ。研究所は破棄で構わんし、人は残っていない。あと、十二真衝見たい!!」

「……いい性格してるな、お前」

 

 こんな状況でも最後に己の要望を付け加えたリリスに呆れつつ、リリスを近場の建物に降ろしてから剃刀で中央研究所の上空に移動する。

 

「嵐脚・輪」

 

 上空から円状の嵐脚で地面に切れ目を入れてから着地、現地にはまだ毒ガスも残っており爆発の影響で周囲も高熱化しているが、俺には全く影響はない。そのまま切れ目に手を入れ、武器に武装色の覇気を纏わせる要領で俺の力でも砕けないように一時保護した上で、半径1kmの大地を中央研究所ごと持ち上げて、斜め上空に放り投げる。

 投げた大地が十分にパンクハザードから距離が離れたタイミングを見計らって、覇気を込めた拳を振るう。

 

「十二真衝」

 

 放たれたふたつの衝撃が空中でぶつかり、巨大な黒球の衝撃となって毒ガス兵器(スマイリー)ごと研究所のあった大地を消し飛ばした。

 多少のガスは残っているし、ある程度環境の調査は必要だろうが……とりあえず、パンクハザードが荒野になることはなさそうだ。

 

 それを確認して、リリスの元に戻ると……リリスは涎を垂らしながら口を開けて、呆けたように上空を見ていた。

 

「……おい、リリス。終わったぞ?」

「……お前……アレ、凄すぎるじゃろ……あんなの人間が単独で撃っていい威力じゃないぞ。はぁぁぁ……もう本当に脳が蕩けるぅぅぅ」

「蕩ける前に、事後確認とかをすませておけよ。俺はお前の実験室に戻っておく」

「ああ……助かった。お前が居てくれてよかったぞ、パンダ」

 

 リリスに軽く手を振って、実験室に向かって歩きながら考える。パンクハザード編に手を出すつもりではなかったのだが、タイミングが悪かったというべきか……まぁ、万が一リリスになにかあっても大変なので、問題なく解決できたのならそれでいいか。

 

 

****

 

 

 世界政府特殊化学班№2だった科学者シーザー・クラウンによって引き起こされたパンクハザード毒ガス兵器爆破事故は、たまたま現地に居合わせたCP9司令長官スパンダムの手によって最小限の被害に留められた。

 人体実験に用いられていた囚人たちも、毒ガスの対処が早かったこともあり後遺症等は無かった。一部混乱に乗じて逃げ出そうとした囚人もいたが、全てスパンダムの手で捕らえられた。

 だがそれでも、三つの大型研究所のうち二つがほぼ壊滅、大量の研究成果が無に帰すこととなり、パンクハザードの研究施設は一時閉鎖されることに決定した。

 

 その際の精神的なショックからかベガパンクの(サテライト)の一部が、一時呆けたように作業が手に付かなくなる事態も起こったが、一月ほどで立ち直った様子だった。

 なおその際に、(サテライト)のひとりである(リリス)は「だから脳を焼かれるから、見るなと言うたのに……」と呟いていたという。

 

 今回の事件を対応したスパンダムには世界政府からその功績に見合っただけの報酬が支払われる流れだったが、本人が「そんな金があるなら被害を受けた化学班に回してやれ」と拒否。報酬にする予定だった金は特殊化学班の再建に使われることとなり、スパンダムは化学班に英雄視されることになった。

 

 そんな流れの中で、事件の主犯であるシーザーは、海軍に捕らえられ連行されていたが、その途中で必死に脱走し、小さな島に逃げ延びていた。

 

「シュロロロ……お、俺が……こんなところでくたばってたまるか……ベガパンクなんかより、俺の方が多くの人間を殺せる。俺こそが世界一の科学者だ! 見てろ、いずれ世界が俺を必要とする。それまで、力を蓄えて……」

 

 誰よりも多くの相手を殺せる兵器を作ることこそが偉大であり、世界を兵器まみれにして死の国の王になるという野望をもつマッドサイエンティストであるシーザーは、己の再起を夢見て笑みを浮かべる。

 だが、人の夢と書いて儚いと読むように、彼の夢はここで儚く散ることになる。

 

「……運が悪かったな」

「な、なんだ……お、お前は……」

 

 誰もいない筈の海岸で突如聞こえてきた声の方向に視線を向けると、そこには道化を模した仮面を着け、竜の意匠が施された帽子を被り、黒いローブで体を隠した……まるで死神のような格好の存在が居た。

 

「最初は特にお前をどうするつもりは無かったんだが、タイミングが悪かった。結果として、関わって一部を変えてしまったからな……なら、最後まで処理しておいた方がいいだろう?」

「ッ……あっ……ぁぁ……」

 

 仮面の男から凄まじいプレッシャーが放たれる。それはシーザーが己の結末を理解するには十分すぎるほどだった。

 

「ま、待て……そ、そうだ! 手を組もう! 俺とアンタが手を結べば世界だって……」

 

 ガタガタと震えながら必死に言葉を紡ぐシーザーに対して、男が返した言葉は一言だけだった。

 

「――闇の正義を、執行する」

 

 

 

 




スパンダム:狂パンダ。パンクハザード編に関わる気は無かったのだが、たまたま現地に居たため対応。結果として原作の一部を改変することになったので、もう最後まで改変するかと行動した。

リリス:しょっちゅう脳を焼かれているせいか、ある程度パンダ耐性が付いてきたので立ち直りは早め。なんだかんだでパンダからの評価はかなり高く、こういった際に守ってもらえるぐらいのPP(パンダポイント)は獲得している。

一部の(サテライト):気になって、パンダによる中央研究所の処理を観測した結果、脳が焼かれてしばらく使い物にならなかった。

五老星:……またパンダがなんかやった。結果として政府所有の島が守られたので、いいのだが……心臓と胃に悪い。「事故が発生した研究所は狂パンダが半径一キロの大地ごと持ち上げて、空に放り投げたあと消し飛ばした」という報告を受けた時は、全員そろって天を仰いだ。

シーザー:タイミングが悪かったの一言に尽きる。シーザー? そんな科学者……元々いないではないか……。

トットムジカ:(๑•ω×๑)✧パンダ用に仮面だけでなくお揃いの帽子も作った! えっへん!
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