闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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相手の強さを見抜けるのもまた強さである

 

 

 マハとゲルニカとの戦いは、予想通りCP9メンバーにとっては上を知るいい機会となったみたいだった。特に負けず嫌いなジャブラ辺りはかなり奮起している様子で、訓練にも力が入っている。

 少し驚いたのは、ルッチがすでに見聞色の感覚を掴みかけているということだ。どうやら俺がコツを教えたあと、独自に鍛錬していたようで、マハとの戦いで見聞色を使っているような動きを見せることが度々あった。

 まだ意識して使えるほどではないが、この辺りのセンスは流石というべきか……CP9メンバーで一番早く覇気を習得するのはルッチになりそうな気がする。

 

 まぁ、それはそれとして現在の俺は背中にリリスを背負って、天空に向けて飛んでいた。目的は空島……スカイピアに行くことだ。

 エネルを始末しに……とか、そういう話ではなく、ウタ関連である。ウタがデビューするにあたりTD……音貝(トーンダイアル)の存在は重要だ。

 だがTDは原作開始時期から2年後までの間に養殖方法が確立され流行したものなので、現時点では流通していない。

 ただ存在自体は知っている者は知っており、リリスから空島の(ダイアル)をいくつか仕入れたいという依頼を受けて向かっている途中だ。

 まぁ、ウタには出来るだけ力になると約束したので、このぐらいの手間はいいだろう。別に買い物をして帰るだけなので、問題ない。

 

「……だが、なんでお前が付いてくる?」

「ええじゃろ、わしも空島行きたいし……普通に行くには手間がかかり過ぎる。その点パンダはいいな、上空まで一直線じゃ」

 

 まったく、相変わらずいい性格をしている奴だと呆れながら雲をいくつか通り過ぎると、空に浮かぶ島……スカイピアが見えてきた。

 天国の門を経由せずにきたが……そもそも下の白海から順当に上がってきたわけでは無いので、どこに天国の門があるか分からない。

 

 とりあえずエンジェル島の人が少ない場所に降りて、背中からリリスを降ろす。エンジェル島には繁華街があるはずなので、そこで買えばいいだろう。

 空島の通貨であるエクストルを持っていないが、物々交換やベリーを両替もできるとのことなので問題は無いだろう。

 

「ほぅほぅ、ここが空島か……資料では見たが、実際に来るのは初めてじゃな。これが島雲……どれ、少し採取するか」

「まったく、本来の目的を忘れるなよ」

 

 科学者としての本能か、興味深そうにあちこちを見たりしているリリスに呆れていると、不意にこちらに近づいてくる気配を感じて振り返る。

 すると振り返った先に一瞬の雷光が見え、直後にエネルが姿を現した。わざわざ出向いてくるとは……。

 

「ヤハハハ、我が国に随分と大胆な侵入をする不届き者の顔を俺が直々に…………」

 

 笑みを浮かべてなにかを言いかけたエネルだったが、話の途中でなにやらルフィに電撃が効かなかった時のような顔になった。

 なんでいきなりそんな顔をしているんだと、疑問に感じつつ言葉を返そうと口を開く。別に俺はエネルに関心は無いので、穏便に済むならそれに越したことはない。

 

「ああ、すまない。天国の門の場所が分からなかった。入場料が必要なら、いまから払おうか?」

「……い、いい、いや、別に構わない。そ、そうだな。青海人となれば、スカイピアの地理に疎いのも必然。来訪を祝して、今回の入場料に関しては俺の判断で免除する」

「そうか、悪いな」

「と、ところで、貴さ――貴方たちは、スカイピアになにをしに来たのかな?」

 

 どうやらエネルの方も事を構える気は無いようで、原作で見たよりも穏やかな様子で微笑みを浮かべながら友好的に話しかけてきた。

 原作時期よりまだ2年前だからなのか、それとも俺の力を察して戦わないことを選んで丁重に対応しているのか……そういえば、優秀な見聞色使いだったな。それで、俺の実力をある程度読み取ったのかもしれない。

 その上で戦うべきでないと判断したのなら、思ったほど驕ってはおらず冷静な判断ができる奴なのかもしれない。

 

音貝(トーンダイアル)と、他にいくつか空島の(ダイアル)を仕入れたくてな。それが終わったらすぐ帰るつもりだ」

「え~パンダ、もっと探索せんのか?」

「お前だけ、置いて帰ろうか?」

「むぅ、それは困る……はぁ、探索は諦めるか」

 

 実際に俺たちの目的は音貝(トーンダイアル)であり、それさえ手に入ればすぐに帰るつもりではある。そのことを話すと、エネルは明るい表情に変わった。

 

「そ、そうか、では、しばし待たれよ!」

 

 そう言って雷になって姿を消したかと思うと、少しすると両手に大量の(ダイアル)を抱えて戻ってきた。

 

「では、せっかくの客人だ。この(ダイアル)を進呈しよう! 音貝(トーンダイアル)もある」

「おぉ、こんなに大量に、いいのか?」

 

 かなりの量の(ダイアル)を進呈するというエネルに、リリスが目を輝かせる。

 

「もちろんだ。ただ、その、代わりといってはなんだが……スカイピアの民は、青海人に慣れていない。騒ぎになってしまうのでその、出来れば……」

「ああ、分かった。それを受け取ったらすぐに帰ることにする」

「そ、そうか! すまないな……では、こちらは貴方たちに進呈しよう」

 

 俺の返答に目に見えて明るい顔になったエネルは大量の(ダイアル)を渡してきた。よっぽど俺たちに帰ってほしいようなので、素直に受け取りリリスが持っていたケースに収納したあとで宣言通り空島から帰ることにした。

 笑顔で手を振るエネルの視線を背中に受けながら、手っ取り早く飛び降りて青海に戻ることにした。

 

 

****

 

 

 スパンダムたちが去った後で、エネルは振っていた手を止め……青ざめた表情で呟いた。

 

「……な、なな、なんだあのバケモノは……確か、パンダと言っていたな? 聞いたことがあるぞ、たしか青海の……種族のひとつだったか? しかし、パンダとは、あれほどまでに恐ろしい生物なのか……」

 

 そもそもエネルは当初、暇を持て余していたこともあり無礼な侵入者と少し遊んでやるかと、そんなつもりでこの場に来ていた。

 だが、スパンダムを一目見て、そのあまりの強さを感じ取り、即座に戦うことは諦めた。むしろ自分を討伐するのが目的だったらどうしようと、冷や汗を流していたのだが……スパンダムの目的が(ダイアル)で、それさえ入手すれば帰ると聞いて、心の底から安堵した。

 

「神官たちにも厳命しておかねば……青海のパンダには決して手を出してはならぬと……」

 

 自らを全能なる神と自称し、己の力に絶対的な自信を持っていたエネルだったが……そのプライドが粉々に砕かれた思いだった。

 なにせ、神である己が必死に媚びて機嫌を損ねないようにしなければならないと、そう感じるほどにあまりにも圧倒的な強者であり、災害そのものである己すら容易く粉砕する怪物だと理解した。

 それはエネルの見聞色……空島では心網(マントラ)と呼ぶそれを高いレベルで習得しているからこそだったかもしれないが、ともかくエネルはスパンダムの強大さを即座に理解して心の底から恐れた。

 

 そしてその後、エネルは己の部下である神官たちに語った「青海には神をも喰らう恐ろしき怪物が生息している」「青海のパンダには決して手を出してはいけない」「パンダの怒りに触れればスカイピアは終焉を迎える」と、強く言い聞かせた。

 絶対の神であるエネルがそこまで語るほどの怪物の存在に、神官たちもおののき……その日より、空島には神を喰らい世界を滅ぼす魔獣……パンダの存在が、深い畏怖を込めて語り継がれていくこととなった。

 

 

 

 




スパンダム:魔獣パンダ。ウタには協力すると約束したので、ウタのためにTDを入手するために空島に行き、エネルにトラウマを植え付けた。

リリス:空島をじっくり見学できなかったのは残念だが、予定より大量の(ダイアル)が入手できたのでホクホク。中にはかなり希少なものも含まれていたので、大満足の結果である。

エネル:貫禄の元祖エネル顔。ちょっと侵入者と遊んでやるかと赴いたら、とんでもねぇ化け物でトラウマを植え付けられた。青海のパンダはマジで怖いと神官たちにも語った。なおその後麦わらの一味が空島を訪れた際に、必死の形相で「その中にパンダはいたか!?」と天国の門の監視官アマゾンに問い詰めていたとか……。
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