空島から持ち帰ったTDはリリスがあっという間に養殖設備を整えて、大々的に世界中に広まるようになった。いままでも録音技術というものは存在したが、ある程度大掛かりな機械などが必要だったが、それが貝ひとつで可能になったのは大きな発展といえる。
実際リリスは
ともあれTDが広まったことで世界的に音楽ブームの波が来ており、ウタも正式に歌手としてデビューすることになった。
その歌は多くの歌手の中でも頭一つか二つは抜けている印象で、TDの売り上げもどんどん右肩上がりに増えていっており、ウタもかなり有名になってきている。
元々ブルックが別次元と称するほどウタには才能があり、劇場版とは違いシャンクスとの関係が修復されていることでかなり生き生きと歌っているため、すでに「歌の新時代」だとか「稀代の歌姫」だとかといった高い評価を得ている。
エレジアの復興を目指しているということも公言しており、それも含めて世間ではかなりの好印象といえる。
そろそろエレジアでのファーストライブも近くなっており、世間での注目度はナンバーワンと言えるだろう。実際、いま俺が読んでいる新聞でも大々的に特集を組まれてライブの宣伝がされており、抽選倍率も凄まじいことになっているらしい。
「長官、なんの記事読んでるんだ?」
「うん? ああ、ウタのファーストライブの特集だ」
「おっ! UTAか、あの子はいいよな!」
「なんだ、フィズ、知ってるのか?」
話しかけてきたフィズに答えると、長官室内に居た。CP9メンバーも俺とフィズの方を向く。この話題には興味のある者も多いみたいで、ジャブラもなにやら楽しそうに口を開く。
「俺もTD持ってるぜ。なんかこう、歌の新時代を作ってやろうって感じの熱意ある歌がいいよな」
「確かに、彼女は素晴らしい歌手だ。いまや人気爆発中と言っていい」
「滅んだエレジアの復興のために頑張ってるってのも、健気で応援したくなるわよね」
ジャブラだけでなく、ブルーノやカリファもウタのファンらしく、なにやら楽しげな様子で会話に参加してきた。
しかし、そんな中でひとり怪訝そうな表情を浮かべている者がいた……ルッチである。
「……知らん俺がおかしいのか?」
「お前は、もう少し世間に興味を持たんか、ルッチ。ここ半年ほどで一番注目度の高い人物じゃぞ」
まぁ、確かにルッチはあまり興味がなさそうなイメージではある。ジャブラは割とミーハー気質なところがあるので、この手の話題は好きそうだ。
そのままCP9メンバーたちはウタの話題で盛り上がっており、話は次第にファーストライブに移っていく。
「……抽選落ちたんだよなぁ、俺」
「俺もだ。倍率えげつないからな」
「大抵の者は落ちておるじゃろ。初開催で人数は控えめにするらしいしのう」
ファーストライブの抽選に落ちたらしいジャブラが肩を落として呟き、フィズも同じく落ちたらしい。そしてそれに同意するカクも……どうやら、応募して落ちたというわけか。
というより、表情を見る限りブルーノやカリファも落ちてるな。
「お前ら、ライブに行きたいんだったら、連れて行ってやろうか?」
『え?』
俺が呟いた言葉に驚きながら振り返るメンバーたちの前で、俺は引き出しから一枚のチケットを取り出してデスクの上に置いた。
「何人連れてきてもいいと言われているしな」
「え? ちょっ、長官!? おいおい、これ、特別招待席のチケット!?」
「な、なんでそんなもの持ってんだ……権力ってやつか?」
もの凄い食い付きである。目を大きく見開いてチケットを凝視するジャブラと、唖然とした様子で呟くフィズ。俺がそのチケットを持っているのが、不思議でたまらないらしい。
「いや、元々デビュー前から知り合いだからな。ついでに言えば、いろいろ支援している立場だ」
実際TD関連もそうだが、ファーストライブ開催に当たっての警備等の伝手を紹介したり、リリスに協力させたりと、割といろいろ支援はしている。
「休暇の調整も問題ないだろうし、なんなら全員で見に行くか?」
「……面白そうだな。俺だけよく知らないというのも、どうも収まりが悪いし、世界に注目される歌姫とやらを見てみたいな」
ここまで話についてこれていなかったルッチが俺の言葉に賛成し、他の者たちも異論は無さそうだったので、ウタのファーストライブに関しては休暇を調整して全員で見に行くことに決定した。
念のためにあとでウタには人数の連絡を入れておこう。
****
東の海にあるドーン島。ゴア王国が存在するその島の僻地にある小さな村……フーシャ村。その村唯一の酒場に麦わら帽子を被った青年……ルフィが訪れていた。
1年ほど前に兄であるエースが航海に出て、現在は山賊ダダンの下で自身も2年後の出発に向けて鍛錬を続けていた。
そんな中、酒場の店主であり昔から姉代わりのような存在であるマキノに呼ばれて、酒場にやってきた。
「マキノ~来たぞ」
「ああ、ルフィ。急に呼んでごめんね」
「いいぞ。けど、まだ宝は見つけてねぇから、宝払いは無理だぞ?」
「ふふふ、呼んだのはそのこととは関係ないわよ」
用件が分からず首を傾げるルフィに対し、マキノはどこか楽し気な様子でひとつの貝を取り出した。
「なんだそれ、貝か?」
「これは、最近流行り出したTDって言って、音を保存しておける貝なのよ」
「うん? ……不思議貝ってことか?」
「ええ、そんな感じね。まぁ、説明するより聞いてもらったほうが早いかしら……」
そう言ってマキノはTDをカウンターの上に置き、再生を始める。するとTDからは美しい歌声が聞こえてきて、最初は怪訝そうな表情を浮かべていたルフィだったが、ある程度聞いているとなにか思い当たる部分があったのか、驚いたような表情を浮かべた。
「……ウタの……歌だ」
「ええ、そうよ。ウタちゃんの歌。最近歌手としてデビューして、いま凄い人気なんだって」
「……そうか」
幼馴染であるウタの存在を思い出し、ルフィは少し複雑そうな表情を浮かべていた。彼はまだウタがシャンクスの船を降りたという話に完全には納得できていない。
シャンクスからそのことを聞かされた時は、ずいぶんと食って掛かったものだ。そんなルフィの複雑な心境を見抜いているかのように、マキノは一通の手紙を取り出してルフィに渡す。
「このTDはね。この手紙と一緒に送られてきたのよ。貴方に渡して欲しいって……ウタちゃんからね」
「ウタが?」
「ええ、それを読めば……ルフィの疑問も解決するかもね」
そう言って微笑むマキノの前で、ルフィは手紙を開けて読み始めた。
『ルフィへ。ちゃんと挨拶もなく居なくなってごめんね。ちょっといろいろあってさ……ああけど、勘違いしないように、私は赤髪海賊団の音楽家を辞めたわけじゃないからね。あくまで休業中だよ。先に世界一の歌姫になって、それからシャンクスの船に戻るつもりだよ』
手紙を呼んでいるとルフィの記憶に残るウタの姿が思い浮かび、確かにこんなことを言いそうだと、そんな風に感じられた。
『この前にシャンクスに会って、ルフィのこともいろいろ聞いたよ。悪魔の実を食べたとか、シャンクスから帽子を預かったとか……その帽子はシャンクスのなんだからね? 大事にしなきゃ駄目だよ。まぁ、いろいろ心配かけちゃったかもしれないけど、私はいま頑張ってるよ。ルフィがうかうかしてたら、私が先に新時代を作っちゃうからね。それじゃ、また、いつか会えるのを楽しみにしてる。その時には、シャンクスの麦わら帽子が似合うぐらいのカッコいい男になってるんだぞ! じゃ、またね! ウタより』
そうして締めくくられた手紙の最後には、見覚えのある絵が描かれていた。かつてルフィが描いたいびつな形の麦わら帽子の絵。ウタに「新時代のマークにしよう」とプレゼントした思い出の絵。
その歪な麦わら帽子に「UTA」と刻まれたマークの記された手紙を見て、ルフィはニヤリと笑みを浮かべた。
「ししし、そうか……アイツ、頑張ってるんだな。知れてよかった」
「ルフィも負けないようにしないとね」
「おう! 負けねぇ……海賊王に、俺はなる!」
優し気に微笑むマキノに力強く宣言したあと、ルフィはマキノからTDを手渡され、使い方を教えてもらった。マキノの方には別に手紙とTDが送られてきていたらしく、あくまでそのTDはウタからルフィに贈られたものだと……。
その説明を聞いてTDを受け取ったルフィは、酒場から出てすぐにダダンのアジトには帰らず、かつてウタとよく一緒に過ごしていた海岸に向かった。
懐かしむようにTDから流れる歌を聞きながら、軽く麦わら帽子を押さえつつ、ひとり小さく呟いた。
「……やっぱり、歌うめぇな……ウタ」
スパンダム:狂パンダ。ウタのことはいろいろと手助けしていることもあって、かなり懐かれており、ライブチケットも嬉しそうに手渡されたので聞きに行くつもり。
CPメンバー:ウタのファンも多い。特にジャブラやフィズが熱心なファンであり、ルッチはイマイチ興味が無かったが、周りに流される形で興味を持つ。
マキノ:心配していたウタから手紙が突然届いて、驚きつつも非常に喜んでいる。
ルフィ:フーシャ村でウタからの手紙を受け取った。幼馴染が夢に向かって頑張っているのを知って、どこか嬉しそうな様子。
ウタ:ルフィに手紙とTDを贈った。最初はシャンクスと和解した時点で手紙を送ろうかと思っていたが、ルフィ相手にはちょっとプライドがあり、歌手としてデビューしてから手紙を送ろうと考えたため、この時期まで手紙を送るのを待った。