闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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閑話・胃に響く哀歌(エレジー)

 

 

 聖地マリージョアにあるパンゲア城内の権力の間。そこでは世界の頂点たる天竜人の最高位であり、世界政府最高権力者である五老星がおり、五老星たちの前には2名のCP0が居た。

 CP0のうちのひとり、CP0総監の報告を聞きながら、五老星は真剣な表情を浮かべる。

 

「……ウタウタの実の能力者にして、歌手か……危険な存在ではある」

「だが、ウタウタの力を使用している様子はない」

「それに赤髪の娘……フィガーランド家の血筋ともあれば、迂闊に手も出し辛い」

「魔王に関してはどうだ? スパンダムから処理したと報告があったが……」

「そもそもあれは、人の手で処分などできるものなのか?」

 

 話し合う五老星の前にある新聞には、いまや世界に知名度を広げているウタの姿があり、かつてのエレジアの一件を知る五老星にとっては警戒すべき相手という認識だった。

 なお魔王トットムジカに関しては、スパンダムから「楽譜を処理したので、今後TotMusicaを歌っても魔王が顕現することはない」と報告を受けている。

 

「……スパンダム殿でしたら出来ても驚きませんが」

「まぁ、確かにな……現状は、反政府的な思想などは持っているのか?」

 

 五老星の言葉に反応して呟くように告げた総監の言葉に、五老星も納得した様子で頷く。確かに彼らの知るスパンダムであれば、魔王の宿った楽譜を処理することも可能かもしれないと……。

 五老星からの質問を受け、総監は手元の資料を確認しながら告げる。

 

「いえ、そういった思想はないようです。海賊、海軍、政府、特定の団体を強く支持するようなこともなく、己の歌を聞いている間だけは、皆観客として平等であるというようなスタンスみたいですね」

「なるほど……しかし、世間的な影響力は侮れんぞ。今後なにかの影響を受けて意見が傾けば、民衆を大きく扇動する可能性もある。警戒はすべきだろう」

「そうですね。たしかに――うぇっ!?」

 

 手元の資料を何枚か捲った総監は驚愕したような声を出して硬直し、五老星は不思議そうに首を傾げる。その様子が気になったのか、控えていたもうひとりのCP0の男が資料を覗き込み、総監と同じく驚愕したようにビクッと体を動かした。そして少し沈黙したあとで、総監に声をかけた。

 

「……資料を作ったものを厳しく叱っておきます」

「そうしてくれ、順番を考えろと……この資料を一番頭に持ってくるべきだろうと、しっかり指導しておいてくれ」

「どうした?」

 

 奇妙なやり取りに五老星のひとりが問いかけると、総監はどこか諦めの籠った表情で告げる。

 

「えっと、ですね。資料によりますと、該当のウタに関してですが……スパンダム殿がかなり親しくしており、いろいろ積極的に支援をしているとか……」

『……』

 

 その一言を聞いて、五老星は全員遠い目をして天を仰いだ。そして、しばし権力の間の中に重い沈黙が流れたあとで、五老星のひとりが口を開く。

 

「……まぁ、最悪の事態を想定することは必要だが、だからと言って憶測ばかりを積み重ねても仕方ないな」

「左様。現時点で反政府的な思想はなく、民衆を扇動したりもしていないわけだ」

「ああ、むしろ民衆に活気が出るのはよいことといえる」

「それに、目的はエレジアの復興と聞く。政府にとっても有益な目的だ」

「そうだな。むしろ世界政府として、積極的にエレジア復興を支援すべきだろう」

 

 総監の一言を聞き、この件に関する方針は固まりつつあった。主にウタの目的であるエレジア復興を支援しつつ、様子を見るという方向に……。

 しばらくその方向で話し合ったあと、五老星はCP0総監に告げる。

 

「……念のため天竜人全員に通達しておけ。歌姫ウタは世界政府が認め、支援している歌手であり、いかな理由であっても手を出すことは許さないと……守らなければ、

場合によっては天竜人の地位の剥奪もあり得ると、年齢問わず必ずすべての天竜人が理解するまで通達せよ」

「分かりました。五老星からの最重要通達と銘打ってお伝えしても?」

「許す。とにかく、必ず全員に理解させろ。分かっていなかった、知らなかった、などという言い訳は聞かんと、伝えておけ」

「はっ!」

 

 珍しくかなり強い口調で指示を出したあと、五老星たちは少し疲れた様子で椅子に座る。

 

「……まぁ、とりあえずウタに関してはこれで終わりとしよう」

「そうだな。ほかにも議論すべきことは山のようにある」

「では、次は……」

 

 そうして、五老星たちは痛む胃を押さえながら世界についての会議を進めていった。

 

 

****

 

 

 権力の間から退出し、廊下を歩くCP0のふたり、十分に離れたことを確認してからCP0の男が総監に向けてボソリと呟くように告げる。

 

「……よっぽど、スパンダム殿の機嫌を損ねたくないようですね」

「そりゃそうだよ。私だって五老星と同じ判断をするよ」

「まぁ、確かに場合によってはマリージョアが消し飛びますからね」

「それどころか、世界が滅ぶかもしれないしね……なにが怖いって、スパンダムさんって仕事に対して真面目だから誤解されがちだけど、世界政府への忠誠心とか欠片もないからね」

 

 権力の間から離れたことで総監はある程度砕けた口調で答える。

 ふたりもまたCP9司令長官にして、実質的なCPの長とも言われているスパンダムとは関わりが深い。そのため、ある程度スパンダムについては理解していた。

 世界政府に忠誠心を持って仕えているわけでは無く、あくまで敵対する理由がないから従っているだけで、理由さえあればいつでも敵対する可能性がある人物だと理解していた。

 

「金や権力でもコントロールできない……けど、基本的に誠意に対しては誠意で応えてくれる方だから、コツコツと信頼を高めるのが有効だね。信頼関係さえしっかり結んでおけば、よほど無茶なこと言わない限りは指示に従ってくれるし、五老星としては変なところで機嫌は損ねたくはないだろうね」

「なるほど……実際とんでもない方ですからね」

「本当にね。戦闘力は異常の一言で、事務能力も異次元だし歩く資料室レベルに知識も深い。部下の育成も出来て、仕事も滅茶苦茶早い。あの人ひとりで何人分の仕事をこなしてるか、考えるのも馬鹿らしくなるレベルだよ」

「実質CPの長とか言われてますしね」

 

 本来CP内で一番立場が高いCP0総監に対しての言葉でもないが、総監は苦笑を浮かべつつ頷く。

 

「いや、事実トップだと思うよ。CP0総監の私がそう言うぐらいだから、あの人が名実ともにCPのトップでいいと思う。というか本当に新役職でも作って、トップに立ってくれないかなぁ……私は、あの人の下なら異議なしなんだけどね」

「本人がいま以上の立場は面倒だって拒否してますしね」

「本当に欲の無い方だねぇ。ちょっと前にもパンクハザードで英雄的な活躍したってのに、報酬全部科学班に譲ったみたいだしね」

「ははは、なんというか、相変わらずですよね」

 

 総監はスパンダムのことを明確に己より上の存在だと認めており、実際合同会議などの場でもスパンダムを積極的に中心に据えている。

 CP0の男も同意の様子で、苦笑を浮かべながら頷いていた。

 

「まぁ、ともかく五老星としてはいまのうちに慎重にスパンダムさんのご機嫌を取って、いい関係を築いておきたいんだよ。一番必要な時に、最強のジョーカーを切れるようにね」

「というと?」

「単純な話だよ。いま世界政府……ひいては五老星にとって一番邪魔なのは革命軍なわけだしね。革命軍の本拠地が判明した時に、スパンダムさんっていう最強のカードを切りたいんだよ。そうすれば勝ち確定だしね」

「……自分が革命軍なら、全力で逃げますね」

「私も全力で逃げるよ。なんなら、即刻革命軍辞めて転職するよ」

 

 苦笑しながら告げたあとで、総監はしみじみとした口調で言葉を続ける。

 

「まぁ、本当に凄い人だよ、スパンダムさんは……私は、心は男だけど惚れそうになっちゃうしね」

「……あ~なんでしたっけ? 悪魔の実を食べて女性になったんですっけ? たびたび言ってますけど、それって冗談なのか本気なのかどっちなんですか?」

「さぁ~どっちだろうね」

「というか食べると性転換する悪魔の実って、なんですか……?」

 

 胡散臭そうに聞き返すCP0の男に対し、総監はゆるい調子で曖昧な言葉を返す。

 

「う~ん、なんだろうね? いや、懐かしいね。そう、アレはまだ後の海賊王ゴールドロジャーがルーキーって呼ばれてた頃だったかな?」

「そこからスタートだとしたら、総監っていったい何歳なんですか?」

「女性に年齢を聞くものじゃないと思うね」

「結局男なのか女なのか……」

「その時に都合がいい方かな」

「無茶苦茶言ってますね」

 

 相変わらずどこまで真実で、どこまで嘘なのかよく分からない喋り方をする総監に対して、CP0の男は溜息を吐く。

 仕事をしている時は極めて丁重でまさに役人といった感じの総監だが、それ以外は浮雲のように掴みどころのない人物だった。

 

「まぁ、私はアレだよ。悪魔の実の影響で不老になってるから、見た目は若いままなんだよ」

「……若いまま不老ってわりには、それなりに見た目は……」

「どうやら、厳しい~任務がしたいみたいだね」

「す、すみません」

 

 若いまま不老というには、総監の顔はそれなりの年齢に見える。40代から50代ほどの、あまり特徴のない年齢相応の地味目な女性といった感じの顔立ちだ。

 

「アレだよ。普段は諜報機関のエージェントとして、悪魔の実の力で顔を変えてるからね」

「……へぇ……いろいろな効果がある悪魔の実なんですね」

「部下の目から信じる心が失われていってる気がするなぁ……自慢するわけじゃないけど、これでも昔はサイファーポールにその人ありって言われるぐらいのエージェントだったんだよ。海軍の拳骨のガープと仏のセンゴク、そしてサイファーポールは私って感じの世界政府の三本柱だったね」

 

 どこか懐かし気な様子で話す総監に対して、CP0の男はなんとも胡散臭そうな様子で聞き返す。

 

「ガープ中将やセンゴク元帥の武勇伝はよく聞きますが、総監のものは聞いたことが無いんですが……本当にそんな風に呼ばれてたんですか?」

「……ちょっと……気持ち……大袈裟に言ったかな? 割と見栄張ったね……うん」

「……やっぱり」

「あ~でも、ロジャーと戦ったこともあるよ」

 

 問い詰めると総監はあっさりと三本柱なんて呼ばれてはいなかったと自白した。苦笑しながらさして悪びれた様子もない総監にCP0の男が再びため息を吐くと、ふと思い出したように総監が告げた。

 

「海賊王と? それは本当ですか?」

「これは本当。ほら、ロジャーが鬼って呼ばれるようになった一件。一国の軍隊を叩き潰したって話は知ってる?」

「ええ、有名な一件ですね。仲間を侮辱されて怒った海賊王によって、国の軍が壊滅した事件」

「そう、その一件で世界政府としてもロジャーを野放しにはできなくてね。当時CPでバリバリのトップエージェントだった私にロジャー抹殺の指令が来て、戦ったわけなんだよ」

「なるほど、それで海賊王と激戦を繰り広げたと……」

 

 総監の言葉を聞きCP0の男は感心したように呟く。勝敗は海賊王が死んでいない時点で、引き分けないし総監の敗北となったのだろうが、数々の武勇を持つロジャーと渡り合ったとなると、見直すに足る偉業といえる。なんだかんだ胡散臭そうに見えても、やはりCP0のトップを任されるだけの実力はあるのだと……。

 

「……いや、ボッコボコにやられて半泣きで逃げたね」

「駄目じゃないですか!?」

「無理無理、アイツ強すぎ……」

「むしろよく逃げられましたね?」

「そこはほら、悪魔の実の力を使ってね」

「……性転換して、不老になって、顔を変えられて、海賊王から逃げられる悪魔の実ですか? 大丈夫ですか? だいぶ設定が山盛りになってきてますよ」

「本当だ。凄いね、私の悪魔の実」

 

 のほほんとした様子で話す総監を見て、真面目に聞いた自分が馬鹿だったと言いたげにCP0の男は頭を抱えた。

 そのまましばし頭痛を抑えるように頭に手を当てていたが、ふと思いついたように顔を上げて口を開く。

 

「……というか、そもそも、総監って本当に悪魔の実の能力者なんですか? 何度か任務をご一緒したこともありますが、一度も能力を使ってるのを見たことが無いんですが?」

「あ~ほら、私の能力は戦闘向きじゃないからね」

「また設定が増えた……じゃあ、悪魔の実の名前は?」

「さあ~スパンダムさんぐらい強くなったら教えてあげるよ」

「それ絶対教えないって言ってるのと同じですよね!?」

「ははは……まぁ、雑談はこの辺にしておいて、とりあえず役人らしく真面目に仕事をしようか」

「……了解」

 

 あまり納得していない様子のCP0の男に対し苦笑を浮かべつつ、結局総監は肝心なことはなにひとつ口にすることはなく、仕事モードに戻り真面目な顔で歩き始めた。

 相変わらず掴みどころのない上司に大きくため息を吐いたあとで、CP0の男は気持ちを切り替えて総監の後に続いた。

 

「……あの人は、私には眩しすぎるんだよなぁ。力不足に嘆いた経験があればあるほど、どうしようもなく強く惹き付けられる。私はもう、諦めることに慣れちゃったからなぁ……チェルシーちゃんが、ちょっと羨ましいよ」

「なにか言いました?」

「ううん。なにも……さて、天竜人への伝達を頑張ろうかね」

 

 

 




五老星:……お腹痛い。だがしかし、狂パンダの性格はしっかり把握しており、合わせた対応を行うあたりさすがに有能。最終的に革命軍に最終兵器パンダをぶつけたい。

CP0総監:仕事以外ではのほほんとしている浮雲のような女性。自称悪魔の実の能力者で、自称TSした男で、自称不老で、自称かつてのCPのエースで、模擬戦で、2000回で、スペシャルなてんこ盛りの人。それでもCP0総監を任されるだけあって、有能ではある。地味目な顔立ちの初老女性だが、本人曰く顔は変えているとのこと……。

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