闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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歌姫の幻想曲(ファンタジア)

 

 

 エレジアの一角に新設されたコンサートエリア。劇場版のFILM REDでウタがライブを行った会場と同じ場所ではあるが、映画に比べ俺やリリスの支援があった影響か、観客席なども含めて映画よりしっかり作り込まれている。

 俺が居る特別招待席も、映画では小舟で席に移動していた様子だったが、専用の橋が作られているのでそこを通って移動できるようになっている。

 観客席も芝生の坂に座る形ではなく、ちゃんと席になっているが、その影響で映画よりは観客を抑えめにしている……それでも十分多いが。

 

「いや~最高の席だな、ステージがよく見えるし」

「ああ、長官に感謝だな」

 

 明るく話すジャブラとフィズは、背中にウタのマークが入った半被を着ており、手にはサイリウムを握っていて準備万端という様子だ。このふたりだけ、他と比べてミーハー度が高いな。

 今日にいたってはフクロウより騒いでるので、よっぽどである。あと、なんだかんだでやっぱりこのふたりは趣味などの気が合うようで、かなり仲がいい。

 

「……大した人数だな。そのウタという歌手は、お前らの言うようによほど人気のようだ」

「TDの普及でかなりの歌手が台頭してきたが、その中でも一番勢いがあると言っていい歌手じゃからな」

 

 ルッチはそもそもウタに関してあまり知らない上に、こういったライブ会場に来るの自体初めての経験なのだろう、なにやら物珍し気にしており、なんだかんだで楽しんでいるように見えた。

 ガレーラでの潜伏任務の経験のおかげで、ある程度こういったイベントをつまらないと切り捨てたりはせず楽しめるようになっているのはいい傾向だ。

 

 他のCPメンバーたちもライブ開始が楽しみという様子でワイワイと話をしており、それを横目に見ながら視線を動かして……こことは別の特別招待席を見て、思わずため息が出た。

 

 ……もう少しマシな変装をしろ、親バカ海賊団。

 

 視線の先には変装こそしているが、明らかに赤髪海賊団と思わしき集団が居た。シャンクスはいい、特徴的な赤髪をバンダナで隠しているので、最低限のところは抑えている。

 だが、ラッキールゥに変装は無理だろう。体形で丸わかりなのだが……いや、だが、まぁ、ワンピースの世界はこういうガバガバな変装に周囲が気付かないパターンも多い。というか、実際騒ぎになってないので気づかれてないのだろう。

 まぁ、偽麦わらの一味を海軍や政府まで本物と勘違いするような節穴具合だからな……。

 

「ポチ、ウタとゴードンに軽く挨拶をしてくる。ここは任せた……ジャブラとフィズがあまりに五月蠅いようなら、海に投げ込んでもいいぞ」

「了解です!」

「おいおい、ちょっと待て長官!? 最後の余計な指示!!」

「ははは、いいじゃないか……チェルシー、もう投げ込んでもいいぞ」

「おいこら、ルッチてめぇ……」

 

 騒ぐCPメンバーの声を聞きながら移動し、ライブ会場の裏手にある控室に移動する。今回のライブの警備は俺が紹介したとはいえ民間会社なので、顔パスというわけにはいかず取り次いでもらって通行の許可を得てから控室のある建物に入る。

 しばらく移動して、控室に辿り着き、ノックして入室の許可を得てから中に入ると、室内にはウタとゴードンの姿があった。

 

「スパンダムさん! 来てくれたんだ!」

「ああ、開催前に顔見せにな……なんだその服は?」

「えへへ、いいでしょ? 今日のために新調したんだ」

「……なかなか、個性的で目立つデザインだな」

 

 そう言ってウタが嬉しそうに見せてきたのはFILM REDでも来ていたパーカー……なのだが、映画と微妙にデザインが違う。

 まず、全体的な色合いがピンク主体ではなく、赤色をふんだんに使ったデザインになっており、さらには映画では熊を模したフードだったはずだが、目元が黒い……パンダモチーフになってる。

 赤色が多いのは、シャンクスと和解した影響だろうが、デザインがパンダなのは……俺か? いや俺は動物のパンダとは関係な――配色的にあまり否定もできないな。

 

「さっき、シャンクスたちも会いに来てくれてね。今日のライブを楽しみにしてくれてるんだって……私もしっかり頑張らないとね」

「意気込みがあるのはいいが、空回りをしないようにな。これが終わりではなく、むしろスタートのようなものだろ? 気楽に楽しむぐらいのつもりでやれ」

「うん! あっ、ありがとう!」

 

 気合十分といった様子のウタに苦笑しつつ、ポケットから棒付きのキャンディーをひとつ取り出して渡してやる。

 簡単な挨拶は済んだので、あまりライブ前に長居するものでもない。

 

「それでは、俺は客席で楽しませてもらう。ゴードン……いくら才能があるからとはいえ、ウタにとっては初めての大規模なライブだからな。お前がしっかり支えてやれ」

「ああ、任せてくれ」

「頑張れよ」

「うん! ありがとう、スパンダムさん!」

 

 手を振るウタに軽く手を振り返してから控室を後にする。建物から出てライブ会場に向かいながら棒付きキャンディーを咥える。

 そういえば、映画ではウタを誘拐しようとしていた海賊崩れのような者も居たな。まぁ、今回は映画と違ってしっかり警備もあるし、なんなら先日エレジア復興に世界政府が全面的に協力すると声明も出した。

 ウタ個人を支援と言っているわけでは無いが、遠回しにその行動を支持していると言っているようなものなので、そんな状態で喧嘩を売るような真似をする馬鹿が居るとも思えないが……。

 

 そう思いつつ、俺は見聞色で感じた気配の場所に剃で移動する。そこはエレジアの町の廃墟のひとつであり、そこにはなんともガラの悪そうな連中が集まっていた。

 

「……いいか、狙いはライブが終わった後、建物から出てきたタイミングだ」

 

 ……居るんだなぁ、馬鹿って……赤髪海賊団や俺たち、さらに休暇と思わしき名の知れた海兵もそこそこ来ているライブで事を起こそうというのは、自殺みたいなものだ。

 

 

****

 

 

 特別招待席に戻ってくると、ジャブラたちが声をかけてきた。

 

「なんだ、長官。結構遅かったな? もうそろそろ始まるぜ」

「ああ、生ゴミは海に捨てると臭いなどの問題もあるし、埋めて処理することにしたせいで、少々時間がかかった」

「うん?」

「まぁ、それはいいとして、ジャブラとフィズは投げ込まれていないみたいだな」

「……残念ながらな」

「おい、ルッチ」

 

 どうやらタイミング的には丁度よかったみたいで、まもなくライブが開始する様子だった。そのままステージのほうに視線を向ける。

 それから数分の後、ウタのファーストライブは開始された。ウタウタの実の力は使っていないが、それでもリリスが協力していることもあって、ライブの演出はかなり見事なものだ。大型のモニターや音響などかなりレベルが高い。

 

 ウタもライブを楽しんでいる様子で、大きなトラブルもなくライブは進行していく。途中でウタはTotMusicaも歌っており、俺の魂の中に居るトットムジカが喜んでいるのを感じた。

 というより元が元だからか、トットムジカは音楽好きであり、ライブも楽しんでいるのだろう。

 

 あっと言う間に時間は過ぎていき、いよいよ次がラストの曲となるタイミングでウタは観客たちに向けて口を開く。

 

『皆~楽しんでくれてるかな? 名残惜しいけど、次が最後の曲になる。今日会場に来てくれた人たちも、映像電伝虫で見てくれている人たちも、それぞれがいろんな事情を抱えてると思うんだ。毎日が苦しいって思ってる人もいるんじゃないかって、そう思う。なんて言えばいいのかな、私の歌を聞いている間は、そういう辛さとか苦しさとかを忘れてくれたら嬉しいな』

 

 そこまで話したところで、ウタは一度言葉を区切り、強い想いの籠った目で言葉を続ける。

 

『……でも、それは決して辛い現実から逃げるためじゃない。一時の休憩のあとで、また前を向いて歩くため。ずっと止まることなく前に歩き続けられる人は、本当に少ないと思う。辛くて、苦しくて、歩けなくなることだってある。私自身そういう経験があって、いろんな人に助けてもらえて、背中を押してもらえたからいまこの場所に立ててるんだ』

 

 ウタの表情を見て、俺は少し感心した。映画においてはファンの想いや願いに若干振り回されている部分もあった彼女だが、シャンクスとの和解で前向きになったことや、世間の常識などを学んだことでしっかりとした己の意思を持てているように感じた。

 

『だから、私は、私の歌でファンの皆の背中を押せたらいいなって思う。何度立ち止まっても、また前を向いて歩けるように、何度でも皆を力いっぱい応援するよ! 歩く先に世界は続いていくから!』

 

 そう宣言したあとで、ウタは最後の曲となる『世界のつづき』を歌い始めた。映画においてはいわば民衆たちの偶像であろうとして、それに振り回されて苦しんでいた彼女だが……いまは、己の心に確かな芯を得て、その生き方で人を導けるように成長した。

 

「……なるほど、多くの者を惹き付けるだけのことはある。堂々としたいい歌手だ」

「そうだな」

 

 呟くように話すルッチの言葉に同意する。これなら、彼女が目標とするエレジアの復興にも、それほど長い年月は必要ではないかもしれないと、そう思うほど彼女のファーストライブは大成功だった。

 

 

 




スパンダム:オフでまったり狂パンダ。やはりトットムジカの件の影響でウタに対してはかなり優しい。ライブもそれなりに楽しんでた。

ウタ:FILM REDに比べて己の意思をハッキリと持っており、ファンとシャンクスの間に板挟みになったりもしていないため、精神的に大きく成長している。シャンクスと和解したことで、服やマークなどにはピンクではなく赤色の割合が多い。フードはパンダモチーフ。

赤髪海賊団:怒ると怖いパンダも居るので、ちゃんと変装して会場にきた。

ルッチ:ガレーラでの日々を経て、以前は興味が無かったものにもかなり寛容になっており、今回の件で音楽も悪くないものだと、そんな風に感じている。

トットムジカ:☆٩(。•ω×。)وU.T.A! なんだかんだで音楽は好きだし、TotMusicaも歌ってくれたので、パンダの中でライブを凄く楽しんでご機嫌。
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