原作開始の時期まで1年を切り、CP9メンバーの鍛錬はかなり順調だ。やはり敗北を経験したことで非常に伸びがよく、そろそろ新世界の任務を回して実戦経験を積ませてもいいレベルになってきた。
ルッチは既に覇気を武装色、見聞色ともに習得しており、今後は覇気の練度を上げていくことになる。これに関してはリリスに、左右の腕の覇気の波長をズラす腕輪を複数作ってもらったので、それを使って鍛錬を行えばいい。
フィズも武装色は習得済み、見聞色がやや苦手のようで苦戦しているが、すぐにものにするだろう。次いでジャブラとカクも武装色は使えるようになったが、見聞色はさっぱり。カリファとフクロウは武装色より先に見聞色を掴みかけており、もう一歩といったところか。ブルーノとクマドリは苦戦していてやや遅れ気味だが、習得の速度イコール覇気の才能というわけでもない。
習得速度は本当に個人差が大きいので、なんなら一つ習得したらもうひとつもすぐに習得する可能性もあるので、この辺りは問題ない。
特にルッチは、天才と呼ばれて明確な敗北を俺やポチ以外から経験していなかったこともあり、マハとゲルニカに敵わなかったことは、かなり屈辱だった様子で瞳に籠った熱意が違う。
あの様子と持ち前の狂気があれば、以前ポチに行わせていた筋肉圧縮の肉体改造には耐えれそうな気がするので、時機を見て行わせてみようと思う。
そんなことを考えつつ時計を見ると、そろそろ定時だった。明日は休暇だし、今日の夜はいいウィスキーを開けて晩酌を楽しむのがいいか……。
どの世界であっても休日前の仕事終わりというのはいい気分だと、そう思った瞬間懐に入れていた通信機が着信を知らせる。
「……スパンダムだ」
『俺だ』
「……よほど死にたいらしいな親父。望みなら、10分以内にそちらに行って首と胴を切り離してやるが?」
『なんでお前は連絡する度に殺意が上がってるんだ!?』
連絡してきたのは親父だった。コイツは本当にいつも間の悪い奴である。よりにもよって定時直前にかけてくるとは、肉親でなければ物理的に平らになるまで叩き潰していたレベルである。
まぁ、親父の間の悪さはいまに始まったことではないかと、そう己に言い聞かせてため息を吐いたあとで口を開く。
「……それで、なんの用だ?」
『あ、ああ、実はちょっとお前の力を貸してほしくてな……』
「内容次第だな……お前が明日の朝日を拝めるかどうかは」
『内容次第って、力を貸すかどうかじゃなくて、そっちなのか!?』
親父のツッコミは無視しつつ、内容を話すように促す。
話を要約すると、親父は現在外交を主に行う部署に居て、政府の加盟国や非加盟国との交渉が主な業務なのだが、ある非加盟国と交渉を行った際に問題が発生した。
その国は大規模な反乱軍に頭を悩ませており、親父はその反乱軍を政府が対処するという条件で非加盟国に世界政府への加盟を求めた。
交渉の結果その国は親父の申し出に応じた訳なのだが、そこでさぁ反乱軍を始末しようと思ったタイミングで……その反乱軍が、親父が想定していた数倍の規模だったことが判明した。
「……それで、あまりの規模の大きさに海軍等にも渋られて、鎮圧できるぐらいの兵を確保できなかった。そもそもの話、あくまで加盟は鎮圧完了後の話なので、現時点では非加盟国であり大々的に兵を送るのは難しく、荒事専門のCP9に依頼したいと、そういうわけか? 相変わらず詰めが甘いな、反乱軍の規模も事前に精査しておけ」
『うぐっ、返す言葉もない』
「……はぁ、仕方ない。正式に上を通して書類を回せ、俺が直接行ってやる」
『ほ、本当か!? 助かる!』
なんだかんだで親父には借りも多いし、仕方がないだろう。それに加盟国が増えるというのは政府にとっても大きな利益となるだろうし、協力する許可自体はすぐに下りるだろう。
CP9メンバーは鍛錬を中心にしているので、あまり人員に空きはないが……俺が行けばいい話だ。規模にもよるが、一日あれば十分終わるだろう。
「……ただ、ひとつ言っておく」
『なんだ?』
「次に、定時直前にかけてきたら、本気で殺すぞ」
『……は、はい。すみません』
****
予想通りというべきか、俺が反乱軍に対して対応する許可はアッサリと下りた。政府としても加盟国が増えるのは歓迎なのだろう。
ただ、それはそれとして、正式に回ってきた指令には一ヶ所奇妙な点があり、『補佐として1名同行者を付ける』となっていた。
どういった意図かは現時点では測りかねるが、別に拒否する意味もないので留守をポチに任せて、目的の国がある島に剃刀で移動。
指定された場所で補佐とやらと落ち合うことになった。
目的の場所に着いてみると、そこに居たのは黒いスーツを着た女性だった。薄い青髪に金色の目、顔立ちは整っており身長や体形はスレンダーな印象。なにより特徴的だったのは、細く尖がった形状の耳……まるでエルフのような珍しい耳をしていた。
女性は俺の姿を見ると、綺麗な動作で敬礼をして口を開く。
「お疲れ様です、司令長官殿! 初めまして、私は今回の補佐を務めます。コードネームは、ブルーバードです!」
「……」
「……えっと……あの?」
自己紹介してくる女性に対して、俺は呆れたような目で応える。初めましてとは、いったいなんの冗談だ? ボケで、ツッコミ待ちなのか?
「……CP0の総監が、こんなところでなにをしている」
「……逆になんで分かるんですか? 顔も声も違うと思うんですけど……」
「背骨や脊髄、骨格も人それぞれ違う。ある程度訓練すれば、そういった部分で個人を判別できる。まぁ、コレはある程度知っている相手にしか使えないので、小技程度の技術だがな」
「スパンダムさん、ただでさえ異次元の戦闘力があるんですから、もうちょっと油断とか慢心してくださいよ……隙無さ過ぎです」
目の前の女性CP0総監はどこか呆れたような表情で苦笑を浮かべる。しかし、大した変装技術だ。顔も声もいつもの総監としてのものではなく完全に別人。諜報員向きの能力である。
「とりあえず……そうだな、まずはなんと呼べばいい? 顔や口調も変えているということは総監としての名を呼ぶべきではないのだろう?」
「変えてるというか顔も口調も、これが素なんですが……けど、そうですね。私名前って仕事の都度変わるので、本名とかも覚えてないんですよ。コードネームも呼びにくいでしょうし……せっかくですから、チェルシーちゃんみたいにスパンダムさんが適当に愛称を付けてくれてもいいですよ?」
「そうか、なら……『タマ』で」
「……おっかしいなぁ、私コードネームはブルーバードって名乗ったのに、青も鳥も関係ない猫っぽい愛称つけられちゃったぞ? まぁ、いいです。では、この姿の時はタマということで、以後よろしくお願いします」
本当に適当に付けたのだが、どうやらそれで構わないらしく、タマはどこか気の抜けた笑顔を浮かべた。
総監として話すときは丁寧で固い印象ではあったが、素はどこかのほほんとしている印象を受ける。だがまぁ、目は割と狂ってるので、いろいろありそうではあるが……。
「それで? 改めて、なぜお前がここに居る?」
「簡単に言うと上の指示で見学ですね。ほら、訓練の時と実戦の時じゃ、また戦い方も違うでしょ? スパンダムさんが異次元の強さってのは知ってますが、実際どのぐらいかみたいなのを私視点で見て上に報告するんですよ」
「なるほど、諜報機関の役人らしい仕事だ」
「ははは……まぁ、最低限邪魔にならない程度の腕はあると思いますので、スパンダムさんは好きなようにやってください」
まぁ、CP0総監を務めるほどなのだから特級エージェントなのは間違いないだろう。実際にパッと見た印象ではあるが、かなり鍛えているようで覇気の練度次第では海軍大将にも勝てそうな気がする。
とりあえず、タマと一緒に目的の場所に向かって歩きながら雑談をする。
「ところで、普段は顔と声を変えていると言ったな。それはそういう技術か? それとも特殊な能力か?」
「能力イコール悪魔の実って思考停止して断定しないところがスパンダムさんらしいですね。まぁ、私に関して言えば悪魔の実の力です。ヒトヒトの実幻獣種『モデル:ニンフ』。それが私の食べた実の名前です。あっ、部下には内緒にしといてくださいね。ミステリアスな女上司で通っているので……」
「ニンフ……神話に出てくる若い女性の姿をした妖精だったか?」
「ええ、おかげで悪魔の実を食べて変化してから、ず~とこの姿のままですよ。しかもこの実、形態変化しても耳の長さが変わるだけですしね」
「どんなことができるんだ?」
「いろいろできますけど……割と中途半端ですね。たとえば……
タマが小さな硬貨を取り出して一言告げると、その硬貨が離れた場所にあった石と入れ替わっていた。チェンジリング……本来は子供の入れ替えを意味する言葉だが、タマの能力としては単純に入れ替えの力のようだ。
「ほう、入れ替え能力か?」
「範囲とか重量とか制限があるので、なんでもってわけでは無いですが……あとは顔や声も変えれますけど、スパンダムさんが見破ったように体格は変えれません。姿を消したりもできますが、目を凝らすと輪郭が見えます。他にもいろいろできますがどれも制限がありますね……なんというか、小技は多いけど大技はないような能力ですよ」
「応用の幅は広そうだな」
「実際便利は便利ですね~」
ペラペラと説明するタマの話を聞く限り、器用貧乏な能力という印象を受けた。神話等において妖精が行うようなことはほぼできるが、どれも規模が小さかったり制限があったりで使いにくいようだ。
諜報員としてはいろいろ便利そうな能力が多いので、戦闘力に直結する能力こそ少ないものの、あらゆる状況に対応するという意味ではかなり強い能力だと感じた。
「……というか、そんなに能力をペラペラと話していいのか?」
「スパンダムさん相手ならいいんじゃないですかね? ほら、スパンダムさんって私の上司みたいなものですし」
「本来の立場はむしろ逆のはずなんだがな……」
どこか気楽な様子で話すタマは、なんというか浮雲のように掴みどころがないというか、本心をなかなか相手に悟らせないタイプに感じられた。
そういう意味では、ある意味猫っぽい愛称は合っているのかもしれない。
スパンダム:狂パンダ。なんだかんだで恩には報いるタイプなので、スパンダインの要請を受けて手助けすることになった。するとなぜかペット二号が出現した。
ルッチ:魔改造フラグON
スパンダイン:パンダに何度も殺害予告を出されながらも、生存しているというある意味では稀有な存在。相変わらずタイミングは悪いし、詰めも甘い。
タマ:長年政府に仕える自称元トップエージェント。ヒトヒトの実幻獣種モデル:ニンフの能力者。本心が読み取り辛くのほほんとしているが、狂パンダ曰く「目はなかなか狂っている」とのことなので、闇はありそう。
反乱軍:ファッ!? アイエエエ、パンダ!? パンダナンデ!? ナンデェェェ!!