補給のために立ち寄った島の街にあるカフェでコーヒーを飲みつつ新聞を読む。
そこには、ダグラス・バレットが捕らえられたことが書かれていた。バレットにバスターコールが発動された時期などを考えるに、いまは原作開始の23年前辺りか。
となると、俺がサイファーポールに入る前後あたりで、オハラの一件が起こるだろう。まぁ、正直関係がないわけではないが、俺がこの件に関してどうこうする気はない。
というより、もっと正確に言えばニコ・ロビンを救う気などは一切ない。
やってできないことはないと思う。ある程度の時期は親父の動向に注意していれば分かるし、その気になればロビンだろうがオルビアだろうが救出することはできるとは思う。
だが、それを行う理由がない。というより、ハッキリ言ってリスクとリターンが釣り合わない。
俺は自分が屑だという自覚はあるが、別に血も涙もない悪魔というわけではないと思っている。人助けをすることだってあるし、他者に同情することもある。
だが、俺は……『見返りを求める』。いや、別に見返りを求めない人助けを否定しているわけじゃない。原作のルフィたちのように、見返りなど無くても命を懸けて誰かを助けようとすることができる者も居るだろう。
それは立派だと思うし、尊敬もするが……自分がそうする気はない。
俺は人助けに見返りを求める。例えば感謝を受けることによる優越感や、助けた相手が美人であればそれによる好意などにも期待するし、もっと直接的な金銭による見返りも欲しい。
いうならば天秤のようなものだ。人助けに伴うリスクと、期待できるリターンの価値が釣り合うかリターンの方が大きいなら人助けをする。だが、リスクの方が大きいなら助ける気はない。
今回のオハラの件なんて、リスクとリターンが釣り合わない最たるものだ。世界政府と敵対する可能性、現場で後の三大将に遭遇する可能性、それどころか素性がバレれば俺が指名手配される可能性すらある。
それだけのリスクをかけて得られるものはなんだ? ロビンからの感謝や好意か? 美人だとは思うが、残念ながら俺にとっては将来設計が崩れるというリスクの方が遥かに大きい。
世界政府というのは間違いなく強大な……考えるまでもなく世界最大の規模と力を有する組織だ。よほどの理由がない限り敵に回すなんてのは馬鹿げている。
そういう意味では、原作のルフィたちは本当に大した度胸だと思う。元々海賊という犯罪者であるから成立するともいえるが……ともかく、そんなわけで、俺はオハラの件には関わるつもりはない。
そんなことを考えつつ、かなり少なくなった手配書の束を取り出す。武者修行にでて一年半……事前に目を付けていた海賊。
のちの四皇などの傘下ではなく、比較的に後始末がしやすく、かつそれなりの実力を持つ海賊もかなり狩り終わった。
結局全員換金などはせず、海の底に沈んでもらったが……情報隠蔽のために部下も含めて皆殺しにできる規模かつ、それなりの強者という海賊は少なくなった。
幸いこれまでは大海賊時代の幕開けであちこちで海賊同士の戦いが起こっていたこともあり、多くの海賊が行方不明になったとしてもあまりバレる心配はなかった。
だが一年半も経つと、ある程度後半の海……新世界の勢力図も固まってくる上、海軍の警備体制も割と整ってきたので、身バレのリスクが大きくなってきてしまう。
覇気も十分研ぎ澄ませることができたし、応用もほぼ習得した。俺は覇気に関して言えば、ルフィのような万能タイプというか、どれかが突出しているわけでは無いものの、すべての覇気にバランスよく適性があったみたいだ。
まぁ、万物の声が聞こえたりとか未来が見えたりとか、そういうレベルには到達できていないが、十分と言っていいレベルにはなった。
……となると正直もう、これ以上戦闘は必要ないかな? であれば残りの期間はなにをするか。鍛錬をするなら実家に戻った方が効率がよさそうだが、他にどこかいいところがあったか?
そう言えばグランドラインにはCP9のメンバーが幼少期に修行を行っていた島……グアンハオだったかがあったはずだが、場所が分からないな。
世界一の強国と言われる巨人族の国エルバフもいいかもしれない。あとはワノ国……は、既に百獣海賊団が居るだろうから、難しい。
う~ん、どうもピンとくる場所がないな……まぁ、仕方がない。とりあえずは環境の酷い海域を回って、自然相手に鍛錬でもすることにしよう。
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武者修行を終えて、十七歳の誕生日の一月前に家に戻ってきた。挨拶もそこそこに親父からは、俺がCP5に配属されることを告げられた。
なんでも、現在のCP5の主官が高齢であり、近々そのポストが空くため、そこに俺を座らせる予定とのことだ。
そういえば、原作でもスパンダムはウォーターセブンを訪れた際にはCP5だった気がする。
「ああそれと、以前お前が言っていた六式に関してだが、正式に政府所属となれば教官を手配することが可能だが、どうする?」
「必要な……いや、正式な指導は必要ないが一度本家本元の六式を見てみたいので、一日でかまわないから手配してもらえるか?」
「わかった、ではそうしよう」
反射的に必要ないと言いかけたが、俺の六式は我流なので一度本当の六式を見ておきたいと思い手配してもらうことにした。
それほど必要だとは思えないが、一度見て俺のものと違いがあるのなら調整すればいいだろう。
「そういえば、最近とある科学者の技術を用いて、無機物に悪魔の実を食べさせるというプロジェクトが動いているのは知っているか?」
「ああ、たしか血統因子だったか? それがどうかしたのか?」
この話が出るということはすでにベガパンクは政府に所属しているってことか?
「そのプロジェクトの上層部には付き合いの長い相手がいてな、完成品ができたら回してもらえるという話になったが……いるか?」
あ~なるほど象剣ファンクフリードか……原作でスパンダムがファンクフリードを持っていた時期を考えると、まだ完成までに時間はかかるだろうが、研究自体はすでに始まっている感じか。
「いや、必要ない。俺は徒手空拳で十分だ。使うなら親父が使え。部下の戦闘能力が高かったとしても護身の手段はあったほうがいいだろうしな」
正直俺としては、武器に悪魔の実を食べさせる利点がまったく思い浮かばない。武器が自我なんて持っても、扱い辛くなるだけだろうし、ペットとしても……象は邪魔だ。
というか、武器が壊れたらどうなるんだ? 死ぬのか? そう思うと使いにくいにもほどがある。
手早く親父との話を終わらせ、配属の日程などを確認した後で部屋を出ようとしたタイミングで、ふとあることを思いついて口を開く。
「……あぁ、そうだ、親父」
「なんだ?」
「最近運動不足じゃないのか? いざという時に走って逃げられるように、最低限の運動ぐらいしておけよ」
「うん?」
近々、ウエストブルーのとある島で必死に走る必要があるのだからと、その言葉は告げずに軽く手を振って部屋を後にした。
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部屋を出ていく息子の背を怪訝そうに見つめながら、スパンダインは今後の展開について思考を巡らせる。
(我が倅ながら、よくわからん奴だ。まぁ、年の割に大人びているし、本当かどうかは知らないが本人曰く独学で六式を使えるようになったとか……)
スパンダインは息子のスパンダムに対して、そこまで深い関心があるわけでもない。ただ、自分とはあまり似ていない性格だとは感じていた。
ストイックな気質なのか、ロクに贅沢もせずに地下訓練場で鍛錬ばかり……あれやこれやと強請ってこない分金がかからなくていいが、若干の不気味さは感じていた。
金はかからないものの、扱いにくさは感じていた。というより、スパンダインは早々にスパンダムを制御することは諦めた。
強請った地下訓練場で訓練をしているスパンダムを、一度見に行ったことがある……『狂っている』と、そう感じた。
当時の息子は七歳の子供だった。その子供が睡眠や食事の時間以外大人であっても根を上げそうな鍛錬を黙々と続けていた光景を見た時、スパンダインは背筋に寒気が走るのを感じた。
スパンダインは己の保身に関しての嗅覚は異常なほど鋭い。故に、彼は当時七歳の息子を見て確信した……『この存在は自分の手に余る怪物』であると……。
迂闊に制御しようとすれば、こちらが食い殺されると本能で感じた。故にその後は出来るだけ干渉しないように、スパンダムの自由にやらせてきた。
(……飛びぬけて優秀であるのは間違いない。のちにポストを譲ることを思えば、俺の老後は安泰と言っていいな。だがまぁ、怪物であるのは間違いないが……それでも、俺の息子であることも間違いないな)
互いに親子の情が無いとは言わない。いや、事実存在する。スパンダムもなんだかんだでスパンダインを親父と呼び、たまに気遣うような発言を零すこともある。
スパンダインの方も、スパンダムの様子を気にすることもあるし、ひとり旅の際に大海賊時代が幕を開けた際には、無事を確認するために連絡もした。
そう、ある程度の絆はあるのだが……だが、単純にスパンダムもスパンダインも『ソレよりも己の方が大事』というだけなのだ。
世間一般の親子とは少し異なる互いに利のある関係というのが一番しっくりくる関係だ。
(……さて、六式の教官を手配するか)
スパンダムが強くなるのはスパンダインにとっても利点だ。頼めば協力してくれる程度には良好な関係は維持しておきたい。
スパンダムは金や権力に興味が薄く、そちらで御すことは難しい。ただ、恩に報いてやろうという気持ちはあるため、いまのように小さな恩を積み重ねておくのが一番有効だと感じていた。
さすが、親というべきか……スパンダインは、息子のスパンダムに関してその内に秘める狂気も合わせて、非常によく理解していた。