闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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閑話・海軍側の思惑

 

 

 マリンフォードにある海軍本部の廊下を歩いていた女性……CP0総監は、ふと進行方向の先に見知った顔を見つけて笑顔を浮かべた。

 

「やあ、つる。久しぶりだね~元気だった? 最近あんまり会えてなかったけど、こんなところで会えるなんて奇遇だね。それとも、なにか私に用があったのかな?」

「ああ、元気にやってるよ。アンタが海軍本部に来てるって聞いてね。ちょっと顔でも見てやろうと、足を運んだんだよ」

 

 海軍本部大参謀つるは、総監……マリアと軽く挨拶をしたあと、即本題だと言わんばかりの鋭い目を向ける。数多の修羅場を潜り抜け大参謀の地位まで上り詰めたつるの眼光は、並みの相手を怯ませるだけの凄みを帯びていたが、マリアはニコニコと笑顔を浮かべたままで怯む様子もない。

 

「……アンタの仕業だろ、バッドフェアリー」

「はて? さすがに主語がないとこまるなぁ」

「とある国でかなりの規模の反乱軍が一夜にして壊滅したらしいじゃないか、それも生存者はひとりもいないってレベルで……」

「それは痛ましいね。まぁでも、武器持って戦争しようとしたんだし、死ぬことも覚悟しておかないとね」

 

 変わらぬ笑顔のままで思ってもないようなことを口にするマリアを見て、つるは「相変わらず胡散臭い奴だ」とそんなことを考えつつ、言葉を続ける。

 

「推定で数万と言われるような規模の反乱軍が壊滅。相当の事件だよ……だけど、どんなに調べても情報がまったく出てこない。これでも伊達に大参謀なんて呼ばれちゃいないさ、あちこちに伝手は持ってる。それを全部使っても、欠片も情報が得られない。こんなこと出来るのは……アンタぐらいだろ?」

「そうだね。私が情報を隠蔽したよ。それで? なにか知りたいことでもあるのかな?」

「ああ、知りたいね。いったいどんなふざけた方法を使えば、一夜で数万人をひとりも逃がすことなく殺し尽くすことができるのかをね」

「正義感に溢れる目だね。うんうん、海軍らしくてカッコいいね」

 

 鋭い眼光のつるに対して、マリアはあくまで飄々とした様子で頷く。つるとしても、答えが得られるとは思っていなかった。CP0総監であるマリアが隠蔽を行っているのであれば、それが世界政府の意思だ。そこに異を唱えるほど愚かではない。

 だから、これは一種の探りのようなものだった。マリアの反応からなにか得られないかと……しかし、そんなつるに対してマリアは、真剣な表情で周囲を見渡し小声で告げる。

 

「……内緒だよ。機密だけど、昔馴染みのつる相手だから特別に教えるね……実は、Dr.ベガパンクの開発した新兵器の実験があったんだよ」

「……なんだって?」

「とある悪魔の実の能力を参考に科学的に再現したもので、量産体制もある程度整って半年から1年ほどで海軍に配備される予定の新兵器だよ。その最終調整って名の実験があったんだ。海賊に対しての強力なカードになりうることが期待されてて、規模の大きい相手との戦闘データが欲しかったみたいだね」

「なるほどね。まだ開発段階の兵器、そして人道的とは言えない実験……だからこそ、上からアンタに隠蔽の指示が出たってわけだね」

「そうそう、万が一にもモルガンズとかに嗅ぎつけられたら面倒だから、私が直接やることになったんだよ」

 

 そう告げるマリアの目を見て、つるはなんとも言えない表情を浮かべた。筋は通っているし、納得もできるが……いつも通りのことではあるが、どうにもマリアは胡散臭い。

 だがそれでも、こちらが質問し解答されてしまった以上。これ以上深く踏み込んで質問を続けるのも難しい。なにせ、機密と頭に付けられてしまえば根掘り葉掘り聞くわけにもいかない。

 

「……そうかい。アンタも忙しいね」

「まぁ、これでもCP0総監だからね。さてさて、このまま楽しいお喋りを続けたいところだけど、私も次の仕事があるからね」

「ああ、引き留めて悪かったね」

「気にしないで、それじゃ、ガープやセンゴクにもよろしくね~」

 

 軽く手を振って去っていくマリアを見送り軽くため息を吐いてからつるは移動する。しばらく歩いて目的の場所……元帥であるセンゴクの執務室に辿り着くと、中からセンゴクの怒鳴り声が聞こえた。

 そしてその内容から、他に誰が部屋の中にいるかも察したつるは呆れたような表情を浮かべながら部屋に入る。

 

「まったく、アンタたち、いつも飽きもせずによくやるね」

「おお、おつるちゃん! いや~センゴクがうるさくてのぅ」

「誰のせいだと思っとるんだ、ガープ!!」

 

 室内に居たのはガープとセンゴクのふたりであり、いつも通りのことではあるがガープがなにかをして、センゴクが叱っていた様子だった。

 それを見て苦笑しつつも、つるは少し疲れたようにため息を吐き、センゴクが軽く首を傾げる。

 

「どうした? 疲れた表情をしているが……」

「ああ、なに、さっきちょっとマリアと会って楽しくお喋りしてきたからね」

「……うげっ、わしアイツ嫌いじゃ……嘘ばっかり吐くからな」

「まぁ、馬鹿正直が服着てるようなアンタとは、正反対な奴だね」

 

 マリアの名前を聞いてガープは露骨に嫌そうな表情を浮かべ、センゴクはなにかを察したように頷いた。

 

「……あの件か?」

「ああ、アンタはどうだい? なにか情報は得られたかい?」

「いや、私の方もアレコレ探ってはみたが、情報はサッパリだ。完璧に隠蔽されている……やはり、彼女の仕業か、厄介だな」

「ふむ……で、おつるちゃん、なんか情報が手に入ったのか?」

 

 つるとセンゴクの会話を眺め、腕を組んで首を傾げつつガープが問う。マリアと話してみてなにか情報を得ることができたのかと……。

 すると、つるは微妙な表情を浮かべた。

 

「アイツの厄介なところはそこさ。ひた隠しにするなら探りようもあったんだが、アッサリと情報を渡してきたね。しかも、筋の通ったそれっぽい情報を……」

「ならそれが正解、とはならないか……」

「ああ、おそらく調べればそれなりに裏も取れるだろう。だけどね、最後の一押しが不明なままいくら調べても確信を得られないってのは、あの性悪のよくやるパターンさね」

 

 センゴクもマリアのことはそれなりによく知っており、こと情報戦においては極めて手強いということも理解していた。

 

「じゃ、いつもみたいに嘘ってことなんじゃないか?」

「そう思うだろ、ガープ。でもね、そう思って無視すると実は正解を言っていたり、半分だけ正解で半分間違いだったりって、巧みにこっちの心理を突いて煙に巻いてくるんだよ。だから裏取りをしないわけにもいかなくて、結局時間がかかる。バッドフェアリーなんて、よく言ったもんだね」

「おつるちゃんでも、情報戦では分が悪いか……」

「そりゃ、年季が違うからね。あっちはいつから世界政府に居るか分からないような妖怪だよ。この手の騙し合いは完全にアイツの土俵だよ」

 

 結局得られたようで本当に情報を得ているのかどうかも分からない現状に、つるは難しい表情を浮かべており、それに対してセンゴクが真剣な表情で口を開く。

 

「なぁ、おつるちゃん。最近というかここ10年ほどでCPって組織自体が変化しているように感じないか?」

「……そうかぁ?」

「アンタは黙ってな、ガープ。私もセンゴクと同じものを感じているね。前よりずっと厄介になったとでもいうべきか、情報が手に入りにくくなってる」

 

 イマイチピンときていないガープは別として、つるには思うところがあったようで、センゴクの言葉に頷く。

 

「そう、海軍も決して一枚岩ではないが、それ以上にCPは内部争いの多い組織だった」

「CP0~9まで、それぞれバラバラに動いていたイメージだね。そりゃ任務とあらば協力するだろうが、仲がいいとはお世辞にも言えないような感じだったね」

「ああ、だが、それが変化している。この10年ほどでCPは組織として連携が取れ強固に完成しつつある。そしてその中心にいるのは間違いなく……」

「……不夜の怪物ってわけかい。アタシは直接会ったことが無いんだけど、そんなにとんでもない相手なのかい?」

「わしも会ったことはないな。どうなんじゃ、センゴク?」

 

 つるもガープも不夜の怪物と呼ばれるスパンダムの存在自体は知っていた。だが、極めて優秀な人物とは聞いていても、その情報は驚くほどに少なく詳細は分からない。

 海軍とCPでは関わる機会も少ないため、少なくとも直接顔を合わせたことがあるのはこの中ではセンゴクだけだった。

 

「……あくまで、私の感想だということを念頭においてくれ。化け物としか、表現のしようがない。彼を見たあとでは、かのロックスやロジャーが可愛く思えたといえば、伝わるか?」

「それほど、なのか?」

 

 センゴクの言葉にガープも神妙な表情を浮かべた。彼もセンゴクと共に多くの修羅場をくぐっており、ロックスやロジャーといった伝説の海賊とも戦った経験がある。

 だからこそ、センゴクの言葉が冗談でも誇張でもないことは理解できた。

 

「戦闘能力という意味で言えば、全盛期の私でも果たして1分持つかどうかというレベル。知識や事務能力も極めて優秀……その上、私との会話中は常に丁重な口調を崩さず穏やかに対応していた。監獄署長であるマゼランも彼を高く評価して親しくしていると聞く」

「……そりゃ、とんでもないね」

「ああ、実際にそういう役職などがあるわけでは無いが、現在のCPは彼を長としてまとまっているような印象を受ける。実質的なCPのトップと考えていいだろう。だが、彼もCP9も本当に情報が少なくてな……なんとか少しでも情報が欲しいと、海軍とCPの合同訓練を計画しているところだ」

「合同訓練……なるほど有効だね。海軍とCPの連携を高めるのはメリットが強いし、その上で自然に情報を得られる。以前のCPであれば難しかったが、その男を中心に纏まっている今のCPならいい関係を築ける可能性もあるってわけだね」

 

 センゴクが口にした合同訓練に関してはメリットが多く、デメリットといえることも少ない。感心した様子で頷くつるに微笑みを浮かべたあとで、センゴクは話を続ける。

 

「さすがに、司令長官である彼が直接訓練に参加することはないだろうが、CP9メンバーについての情報も得られるし……大将もひとり参加させるつもりだから、運が良ければ、腹心である『魔犬(ヘルハウンド)』の戦闘を見れる可能性はある」

「そうでなくとも、訓練自体は今後の糧になる。いい考えだね。いつやるんだい?」

「近いうちに行えるように案をまとめているところだ。相手は諜報機関だから、情報漏洩などにも配慮する必要があるしな」

 

 そう告げるセンゴクを見て、ガープはニッと豪快な笑みを浮かべて頷く。

 

「なるほど! 面白そうじゃな!」

「お前は不参加だ」

「え~!? なんでじゃ!!」

「問題を起こしそうだからに決まってるだろうが! 海軍の内輪での訓練じゃなくて、他との合同だ。お前に好き勝手に動かれてはたまらん」

「え~ケチッ!」

「大体この前も、仕事ついでとか言って勝手に東の海に行きやがって!!」

「げぇっ、そこをまた蒸し返すんか……だから仕方ないじゃろ、孫の顔見たかったんだから、いい面構えになっとった。流石わしの孫じゃ!」

「なにも仕方なくないだろうが、この馬鹿がっ!!」

 

 ガープの胸倉を掴みながら叫ぶセンゴクと、イタズラがバレた子供のような表情を浮かべて開き直るガープ。そのふたりのやり取りを見て、つるは呆れたように深いため息を吐いた。

 

 

 

 




スパンダム:狂パンダ。基本的に海軍に対して思うところはなく、むしろCPと海軍の連携推奨派なので、センゴクの合同訓練の提案を断る理由はない。

ポチ:狂パンダの腹心中の腹心として、ある程度名は知られている。

タマ:つるに妖怪呼ばわりされるレベルの情報戦のエキスパート。

センゴク:なんだかんだでやはり知将、狂パンダの反感を買うことなくCPの情報を得やすいいい手を打つ。

五老星:合同訓練? ああ、いいんじゃないか、組織として連携が深まるのはいいことだ……えっと、確認だけどスパンダムは出ないよね? 司令長官だもんね? でない? ああ、よかった。それなら問題は……魔犬の方は出る? ……そうか(震え声)
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