海軍とCPの合同訓練は多少のトラブルはあるものの問題なく進行していった。もちろんいきなり完璧な連携が取れるわけでは無いが、互いにそれなりに協力する姿勢ということもあって、意外と役割分担などもしっかり行えていた。
この訓練を通して、ある程度海軍とCPの間にあった壁は薄くなったと言っていい。
そしてスケジュール通りに進行して一通りの訓練が終わった後、それぞれ事前に決められた者以外は大規模意見交換会が行われる場所へ移動する。
会場に残ったのは大佐以上の海兵と、事前に決められたCPの役人のみであり、この大規模合同訓練のメインともいえる代表者による模擬戦が開始された。
初戦は海軍側がキャンサー中将、CP側がジャブラという対戦カードだった。互いに徒手空拳での戦いではあったが、最初にスパンダムが見立てた通り総合力ではジャブラが上回っており、鉄塊拳法を中心に終始有利に戦いを進行させた。
武装色と鉄塊を複合させたジャブラの鉄塊拳法は非常に堅牢で、悪魔の実の力も相まって放たれる重い攻撃は戦っていたキャンサー中将にかなりのプレッシャーとなったようで、食らい付こうとするキャンサー中将を圧倒する形で初戦はCP側の勝利となった。
2戦目は、海軍側がギオン中将、CP側がフィズ。この組み合わせは、スパンダムが事前に言った通りフィズが格上であるギオン中将に挑む形となった。総合力において明らかに上回っていたのはギオン中将であり、終始フィズを押している印象ではあった。
だが、フィズは相手を格上としっかり認めた上で、防御と回避を主軸に置いた戦いを繰り広げた。押されてはいたものの、決定打を貰うことは無くギオン中将の攻撃をしのぎ切り、時間切れまで粘って見せ、引き分けという結果を勝ち取った。
これはかつて赤髪のシャンクスという格上との戦い、そして日々のスパンダムの指導により、格上との戦いに慣れていたが故の大健闘と言っていい結果であり、想定以上のフィズの能力にスパンダムも満足気な表情を浮かべていた。
3戦目は海軍側がヤマカジ中将、CP側がカク……六式と四刀流を用いて嵐のように攻めたてるカクに対し、どっしりと構えたヤマカジ中将が迎え撃つという形で戦いは進行した。
手数では圧倒的にカクが上だったが、ヤマカジ中将もさすがは歴戦の海兵であり、見事にすべての攻撃を捌き、隙を突いて反撃も行った。
だが中盤にカクが悪魔の実の力を解放してからは形勢が一気にカクの側に傾く。キリンの膂力で放たれる攻撃はそれまでとは桁違いの火力であり、原作のエニエスロビーのように付け焼刃ではなくスパンダムの指導の下今日まで行った訓練で、しっかりと悪魔の実の能力を使いこなしたカクがヤマカジ中将を下しCPが勝利を勝ち取った。
そして4戦目は、海軍側のモモンガ中将と、海軍にも天才として名が知られるルッチがぶつかることとなる。
特別に設置された闘技場を模した特別会場の中央で、覇気を纏ったルッチの拳と、モモンガの剣がぶつかり合う。
「ぐっ……なるほど、相当の練度」
「そちらも、いい覇気だ」
軽く言葉を交わしながら、放たれたルッチの蹴りを軽く跳躍して回避しつつ、斬撃を放つモモンガ。その動きに派手さは無いが、数多の戦闘経験を感じる洗練された一撃だった。
だが、ルッチは軽く体を反らして、次々に放たれる斬撃を回避。開始から数分経過したが、数発攻撃を喰らっているモモンガに対し、ルッチはここまで一撃も攻撃を受けてはいなかった。
(武装色もかなりの練度だが、それ以上に見聞色が凄まじい……最小の動きでこちらの攻撃を回避し、的確に反撃を放ってくる)
ここまでのモモンガとルッチの戦闘を振り返ると、武装色の覇気に関しては互角、スピードやパワーといった基礎能力もほぼ互角と言っていい状態だった。
だが、戦闘は終始モモンガが押されている。その理由は単純であり、見聞色の覇気においてルッチが上回っており、その差が形勢に現れていた。
(これが、天才ロブ・ルッチ……なんという強さだ。しかも彼はまだ『六式すら使っていない』……)
戦いを繰り広げるモモンガの頬に一筋の汗が流れる。そう、ここまでの戦いにおいてルッチは悪魔の実の力はおろか、六式すら使っておらず覇気と純粋な体術のみでモモンガを上回っていた。
それだけでも驚きではあるが、それ以上にモモンガを驚愕させているのは、ルッチの才能だった。
「……なるほど、こうか」
「ぐおっ!?」
振り下ろされた斬撃を武装硬化した手の甲の上を滑らせるようにいなして放たれたカウンターの拳が、モモンガの腹部に突き刺さる。
ルッチはこの模擬戦の中でも加速度的に成長しており、少し前までは打ち合っていたモモンガの剣を見切り、カウンターを合わせ始めてきていた。
たまらず大きく距離を取って息を整えるモモンガ……致命的なダメージは受けていないが、それでも徐々にダメージは蓄積してきていた。
(天才の二つ名に偽りなし……。なんと、凄まじい戦闘センスだ。このままでは、決定打となる一撃を受けるのも時間の問題か……だが、こちらも海軍中将として、そうやすやすとやられてしまうつもりは無い)
徐々にルッチに圧倒されているということを自覚しながらも、モモンガの闘志は消えていなかった。戦闘力はルッチが上回り、戦いのセンスにおいても大きく負けている。だが、モモンガにはこれまでに数多の戦場を潜り抜けてきた経験がある。
剣を握る手に力を込め、モモンガは勇ましくルッチに向かって駆ける。
斬撃を放つ、回避される。追撃してカウンターを受ける。もはや完全に対応されていると言っていい状況であり、ルッチの手数が増え、モモンガは防戦一方となった。
激しい攻撃の合間になんとか反撃を試みようとするも、それにもカウンターを合され……そしてついに、武装硬化したルッチの蹴りが完璧にモモンガの顔を捉えた。
だが、その瞬間にモモンガの目に強い光が宿る。
(ここだっ!)
それは、まさに芸術と言えるような体捌きだった。蹴りを受けたモモンガは流れるように体を捻り、完璧に近い形で衝撃を受け流しつつ、その動きを使用してスルリと滑り込むようにルッチの後方に回り込んだ。
ルッチが勝負を決めに来る一撃……それまでよりは確実に大振りとなるであろう攻撃のみに狙いを絞り耐え続けたからこそ、ルッチが体勢を立て直すのが間に合わない速度で背後を取ることができた。
見聞色で察知しようと回避が間に合わないタイミングで放つ最速の刺突。それこそモモンガの起死回生の一撃だった。
「……なっ!? 馬鹿な――がっ!?」
だが、放たれた刺突をルッチは振り返ることなく背後に回した手……親指と人差し指で剣先を挟むようにして受け止めていた。まるでそこに刺突が来るというのが分かっていたかのように……。
逆転の一手を潰されて硬直するモモンガの体に、ルッチの回し蹴りが叩き込まれ、モモンガは地面に倒れた。そして同時に、勝負ありとの声が聞こえる。
今回はあくまで模擬戦であり、戦闘不能になるまでの戦いではない。決定的といえる一撃が入ればそこで勝負は終わりだ。
そして結果は言うまでもなく、ルッチが一撃も攻撃を受けることなく完勝するという形になった。
勝敗を告げる声を聞き、ルッチはゆっくりとモモンガに近づくとスッと手を差し出す。
「……いい戦いだった。勉強になった」
「……私の完敗だ。結局六式のひとつすら使わせることが叶わぬとは、己の未熟さが恨めしい」
悔しそうな表情を浮かべながら差し出された手を取るモモンガを起き上がらせつつ、ルッチは軽く苦笑を浮かべる。
「いや、六式を使わなかったのは、別にアンタを見くびったからじゃないさ。ウチの長官からの課題でね。悪魔の実も六式も使わず、覇気と体術だけで戦えと言われていたんだ。そうじゃなければ使っていた」
「なるほど……」
「長官はアンタを高く評価していた。派手さは無いが、経験と鍛錬に裏打ちされた優秀な覇気使いであり、基本に忠実ながら洗練された戦いは、学ぶことが多いだろうとな……実際、体捌きや覇気の運用などかなり学ばせてもらった」
「確かに戦いの最中でどんどん洗練されていくのを感じた……やれやれ、そのような感想を言われてしまえば、精神面においても完敗と言わざるをえない。また一から鍛えなおしだな」
実際ルッチの目から見てもモモンガはかなりの実力者だった。覇気を覚える前の己であれば敗北は確実だったと思えるほどに……。
強い向上心を感じさせるルッチの言葉を聞き、モモンガは頭をかきながら苦笑を浮かべてルッチと軽く握手を交わす。
そのあとで、ふと思いついたように尋ねた。
「……最後の一撃だが、アレは読んでいたのか?」
「いや、読めてなかった。あれほど上手く背後を取られるとは、ヒヤリとさせられた」
「では、どうして防げた?」
「本当にヒヤリとした……なにせ俺の『未来視』は、まだ1秒程度しか先が見えない上に、かなり集中しなければ使えないのでな。気を抜いていたら危なかった」
なんでも無いように語るルッチの言葉に、モモンガは驚愕した表情を浮かべた。未来視と言えば、見聞色を極めたと言えるような一種の奥義であり、そのレベルにまで至っていながら、まだまだ己は未熟であるとそんな表情を浮かべるルッチを見て、心底感嘆した。
(……この精神は見習わなければならないな。私にとっても、実りの多い戦いだった)
そしてそんなモモンガの前で、ルッチは今回の合同訓練の前にスパンダムと行った会話を思い出して、口元に深く笑みを浮かべた。
そもそもルッチは未来視が可能とはいえ、かなり集中して行わなければできず、普段は使用していない。モモンガの最後の一撃を未来視で読むことができたのは、そこを警戒すべきと事前に分かっていたからだった。
――いいか、ルッチ。勝負を決めに行くときこそ、最大の警戒をして備えておけ。
――どういうことだ?
――今回のカードはお前が格上側だ。だが、相手には経験があり格上との戦いも心得ているだろう。ならば、おのずと格下が格上を打ち破れる手というのは限られる。特に勝利を確信する攻撃を当てた時ほど、人は油断するものだ。
――なるほど。
――とある国には窮鼠猫を噛むという言葉もある。油断して足元を掬われないようにな。
まるでこうなることが分かっていたかのようなスパンダムとの会話を思い出し、ルッチは心底楽しそうな表情を浮かべつつ呟いた。
「……まったく恐ろしく面白い男だ。いったい、どこまで読んでいるのだろうな」
「うん?」
「ああ、いや、なんでもない」
首を傾げるモモンガに軽く答えたあと、ルッチはポケットに手を入れ悠然と歩いてCPメンバーたちが待機している場に移動していった。
ルッチの勝利により、ここまでの戦績はCP側が3勝、引き分けが1つ……海軍側はいまだ一戦も勝利することができていなかった。
あくまで今回は勝敗が目的ではないとはいえ、海軍にも面子があり、このままというわけにはいかない。故に見学する海兵たちの期待は次の大将青雉の戦いに注がれる。
迎え撃つのが、先ほど圧倒的な戦いを見せたルッチすら歯牙にもかけぬほどの力を持つ魔犬とは知らぬまま……。
スパンダム:見学中の狂パンダ。概ね想定通りの結果だが、フィズの健闘は想定以上だった。CPメンバーたちの成長具合に上機嫌。
ポチ:待て中……ステンバーイ、ステンバーイ……。
ルッチ:2年で滅茶苦茶成長した。特に見聞色に関しては天才的であり、すでに未来視の領域に足を踏み込んでいる。性格的にも原作よりかなり丸くなっており、戦ったモモンガを賞賛するようなセリフも口にしていた。
海軍:……3敗1分……このままでは、海軍の面子が……頼みます、大将!
クザン:……いや、無理では? いまからでも、他の大将と変われないかなぁ?
五老星:……なんかCP連中どちゃくそ強化されてない? え? なに、あのパンダ……育成能力まで凄いの?