闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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禁忌たる知恵と怪物の望み

 

 

 個人的に酒の楽しみ方は人それぞれだとは思うが、俺個人としては静かにゆっくりと飲むのが好きだ。俺が晩酌をするのは基本的に翌日が休みの日。時間などを気にせずゆっくりと楽しめるのが最高の贅沢だと思っている。

 ウィスキーは味、香りだけでなく色合いや氷とのコントラストによる視覚、氷がグラスに当たる澄んだ音による聴覚、グラスを持つ手に感じる温度の触覚など、五感全てで楽しむものだ。

 今回はグラスの中には丸氷を入れている。グランドラインのとある冬島で採れる透き通るような透明度の氷を入れたグラスに、好みのウィスキーを注ぐ一瞬は何物にも代えがたい……。

 

「こんな横暴があっていいわけないじゃろ! これは、権力による科学の弾圧に等しい行為じゃ――あだだだだだだ!?」

 

 至福のひと時を邪魔する奴の頭をアイアンクローで持ち上げて、テーブルを挟んで反対のソファーに放り投げる。人の晩酌タイムにいきなり押しかけてきて喚き散らしている相手に対しては、優しい対応である。

 

「……ほう、このハムの味はいいな」

「あっ、それはかなりうまく熟成できたんですよ。隊長に気に入ってもらえてよかったです」

「いや、スルーせずに少しは反応してくれ!?」

 

 ポチが用意したつまみを口に運びウィスキーを飲む。俺の好みに合わせた料理を作らせたらポチの右に出る者はいないので、つまみも最高の味わいだ。

 あとは対面の五月蠅いのさえどうにかなれば、文句は無いのだが……。

 

「……むしろ俺の晩酌を邪魔しておいて、頭を握り潰してないだけ、優しい対応をしている」

「……パンダァ……お土産も持ってきたから、話聞いてくれ」

「……ふむ」

 

 リリスが差し出してきた品を確認するとウィスキーだった。ほう、17年ものか……素晴らしいチョイスだ。当たり前の話ではあるが、ウィスキーもワインなどと同じく年代物というのは存在する。

 市場に出回るのは12年などが主流ではあるが、俺に言わせると12年は少々若い。ウィスキーのまろやかな味わい個性が出てくるのが17年ものぐらいからで、その辺りからウィスキーの深みがグッと増す。そしてこの17年というのは、かなり絶妙なタイミングで、20年ものなどにはないまろやかさと深みの繊細なバランスによる魅力が詰まっている。

 個人的には17年もののウィスキーこそが至高だと考えている。さすが、リリスは俺の好みをよく理解しているようだ。

 

「ポチ、リリスの分のグラスも用意してやれ」

「了解です」

 

 このウィスキーによってリリスの処遇は決まった。なんの愚痴かは知らないが、付き合ってやろう。とりあえずグラスを空けてさっそくこのウィスキーを飲むとしよう。

 さすが17年もの、いい香りだ。この銘柄は西の海のものか、ならやはりロックだな。ロックで飲む際のいいところは、氷の解け方で味が変化するので、それに合わせたつまみを楽しめるという点だ。

 最初のストレートに近い状態では、ドライフルーツやナッツ類の軽いつまみが合う。中盤以降は燻製などのややしっかりしたものがいい。終盤は水割りに近い味わいになってくるので、塩分が強めのつまみがベストだ。

 

 ウィスキーを楽しんでいると、ポチがグラスと自分用の酒を持ってきて、席に座る。基本的に晩酌する時にはポチも付き合う……まぁ、ポチは子供舌でカクテルしか飲めないので、ウィスキーではなく自分で作ったカクテルだ。

 リリスは別になんでも飲むが、毎回少量だけだ。なんでも酔って一時でも思考が鈍るのが嫌らしい。

 

「……それで、リリスさんはなにが不満なんですか?」

 

 俺が話を聞く姿勢になったのを察して、席に座ったポチが話を切り出す。その言葉を聞いたリリスはグッと拳を握り、悔し気な表情で口を開く。

 

「わしは、今回ほど上層部の無理解と横暴さを感じたことは無い!」

「……そういう前置きはいいから、内容を話せ」

「パンダが冷たい……まぁ、端的に言うととある絶滅した鳥を血統因子を用いて復活させるというプロジェクトがあったんじゃ。ただ元々かなり希少な鳥でな……完全な状態での血統因子は存在せず、何とか残っていた血統因子の欠片や、近縁種と思われる鳥類の血統因子を組み合わせて再現しようとした」

 

 感想的なものを聞いていると長くなりそうだったので、手早く本題に移らせる。

 物凄くざっくりとリリスの話を纏めると、化石から恐竜を再生させようとするようなプロジェクトがあったらしい。

 

「……7年かかったプロジェクトじゃったが、残念ながら結果は失敗じゃ。やはり、再現した血統因子では、同じ鳥を作り出すことはできず、出来たのは似て非なる別の生物じゃった」

 

 ああ、もう話が読めた気がする。リリスはいまハッキリとそのプロジェクトは失敗だったと口にした。その上で先ほどまで言っていた上層部の無理解や横暴という感想を当てはめると……まぁ、そういうことだろう。

 

「だが、上はその失敗作を『成功』としよった! いや、上だけではなく、化学班の者たちの大半も成功だといった。こんな屈辱があるか? 失敗作を成功などと……」

「う、う~ん。その本物と、再現した鳥では、実際にどのぐらい差があったんですか?」

「これを見てみよ! こっちがその本来の鳥の写真で、こっちの10羽映ってる方がプロジェクトによって生み出された鳥じゃ!!」

「……」

 

 興奮気味にリリスが取り出した写真を見て、ポチは明らかに困った表情で写真と写真に目を動かしていた。基本的に人のいいやつだから、なんとかリリスの怒りに同意したいとは思っているのだろうが、この感じだと……。

 

「……すみません、リリスさん。私には違いが分かりません」

「なっ!? そ、そんな……こ、こんなに違うんじゃぞ!?」

「同じ鳥のようにしか……」

「パ、パンダァ……」

 

 ポチの言葉にショックを受けたリリスは、半泣きになりながら俺の方に写真を見せてくる。俺はつまみを取っていた手を一瞬止めてチラリと写真を見る。

 

「羽根の生え方が微妙に違う。新しい方10羽は同じ生え方で、過去の写真だけ違う。確かに個体差ではなく、明らかに再生の過程でズレた血統因子によるものだ。そういう意味では似て非なる別種と言ってもいいかもしれない」

「……パンダ好き、愛してる。そうじゃよな! 違うじゃろ? これはもう完全に別種じゃよな! な!!」

「確かに違うが、その鳥の専門家ならともかく専門外のやつに気付けと言う方が無理な話だ」

「ぐ、ぐぬぬ……天才というのは、いつの世も理解されないものなのか……」

 

 リリスは……というかベガパンクは完璧主義者というか、常人であればどうでもいいようなことを失敗の要因ととらえる。

 今回の件だって、鳥は99%再現できている。だが、唯一羽根の生え方……その角度が数度違うというだけの話だ。よっぽどその鳥に詳しい専門家か、俺のように視力や思考力を改造してるような者でもなければまず分からない。

 上も別に悪気があったわけでは無く、普通に見て問題なく再現できてると判断したのだろう。だが、頑固な天才は1%の差異に納得できず愚痴りに来たわけだ……想像の10倍ぐらいくだらない理由だったな。

 

「くそぅ、いつだって世界は天才に厳しい。脳に溢れるアイディアを形にするのに資金も時間も足りなさすぎる。ひとつ形にするうちに新たに5つのアイディアが浮かぶ……はぁ、いろいろと歯がゆいのぅ」

「その無駄に細かい拘りを捨てればある程度やれる範囲も増えるとは思うが……まぁ、科学者なんてのはそんなものか」

 

 完全に愚痴モードに入ったのか、その後も研究などへの不満を口にするリリスに適当に言葉を返しつつ酒を飲む。

 律儀なポチは真面目にリリスの話を聞いているのだが、内容の半分も理解していないようで、頭には大量のハテナマークが浮かんでいるように感じられる。

 しばらく愚痴を続けたあと、リリスは不意に沈黙し……チラリと俺の方を見て口を開いた。

 

「……なぁ、パンダ。知ることが禁じられているものを知りたいと追い求めることは、罪じゃと思うか?」

「罪か否かを決めるのは好奇心ではなく法だ。法によって罪と定められているなら罪だろう。それを分かって追い求めるなら、相応の覚悟はしておくべきだな」

「追い求めるな……とは言わんのじゃな」

「それを言って止まるような奴はそもそも法を犯してまで追い求めたりしないだろう」

 

 遠回しではあるがリリスが言わんとしているのはオハラの一件だろう。クローバー博士とベガパンクには交流があったようだからな。

 そういえば、オハラの資料はエルバフにあるんだったか? ……いよいよワンピースを探すとなったら、最初はエルバフに行って古代文字を読めるようにするべきだな。

 

「……例えばじゃが、パンダ。お前がどうしても知りたいものがあり、それを知ろうとすることは世界に禁じられているとしたら、どうする?」

「どうする? 俺が止まる理由があるのか?」

「世界全てがお前を止めようとしてきたら?」

「世界が滅ぶだけだ」

「ふっ、ははは……確かに、お前ならそうなるな」

 

 リリスは楽しげに笑いながら、グラスの酒を飲む。そして空になったグラスを真剣な表情で見つめて沈黙する。そのまましばらくの時間が経ち、俺もいま飲んでいる一杯で晩酌を終わろうと考え始めたタイミングで、ポツリと呟くような声が聞こえた。

 

「……なぁ、パンダ。もし、もしじゃぞ……わしが法を犯して知識を追い求めていて、世界政府がわしを消すと決めることがあったとしたら……お前は……わしを殺すか?」

「それは俺の下にお前を抹殺する指令が来た場合の話か?」

「……ああ」

 

 まぁ、実際に原作においてはCP0に指令が出ていたな。しかし、少し意外だったのはそれを俺に対して口にした点だ。

 おそらく長く沈黙している間にいろいろ考えていたのだろう……ぼかしているとはいえ、この言い方では己がなにか禁忌となることをしていると、遠回しに告白しているようなものだ。

 場合によってはここで殺される覚悟すら決めたような目で真っ直ぐこちらを見るリリスを見て、俺は軽く笑みを浮かべてウィスキーを一口飲んで言葉を返す。

 

「……お前にジョーカーとなる言葉を教えておいてやろう。だが、これを仮に他に漏らせば殺す」

「う、うん?」

「……『いつか必ず別世界及び上位世界に渡航できる装置を作り出すことを誓う』……その一言を口にすれば、たとえ世界全てが敵に回ったとしても、お前は生存できる」

「ど、どういうことじゃ? 別世界? 上位世界? それが、お前の欲しいものなのか……」

「さぁな、それ以上を教えてやるつもりは無い……まぁ、記憶の片隅にでも置いておくことだ」

 

 例えばこの世界に願望機のような願いを叶える秘宝が存在しえない場合。俺が神の如き全能に至る以外の方法で、俺の最大の望みを叶えうるものを作り出す可能性があるとしたら、現存する存在ではリリス……ベガパンクだけだろう。ならそれは俺にとって大きな価値になり得る。

 

 そんなことを考えて軽く笑みを浮かべたあと、サッパリ話についていけず頭にハテナマークを大量に浮かべているポチの頭を軽く撫でた。

 

 

 

 




スパンダム:ウィスキーに拘るタイプのパンダ。ご機嫌を取るのにウィスキーを渡すのは効果的だが、銘柄や年代の好みもかなり細かいため、適切なものを選ぶのが大変。

ポチ:中盤以降ちんぷんかんぷでずっとハテナマークを頭に浮かべていた。世界で最大のPP(パンダポイント)保持者なので、仮にパンダに尋ねれば、現状ではパンダの真の目的を教えてもらえる可能性がある唯一の存在。

リリス:なんだかんだパンダとは長い付き合いであり、信頼関係もかなり築けている。ポチに次ぐほどPPは高く、スパンダインが同じことをしたら死ぬであろう、パンダの晩酌時に襲撃をかましても許してもらえるレベル。パンダから滅びの呪文を教えてもらった。

五老星:……ベガパンクの暗殺は止めておこう。そうしよう……知らない。我々は、彼が何を研究しているかはなにも知らない……知らないんだ!!
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