エニエスロビーにある特別訓練場。エニエスロビーの建て替え計画の中で一番初めに建て替え、リリスの協力を得てかなり強固に作ったその場所で、俺は仰向けに倒れる人物に向かって口を開いた。
相手もそれなりの立場の存在ではあるが、本人から敬語は無くて構わないと言われているので、普通に話す。
「……お前に限った話ではないが、強力な能力を持った者は、どうしてもその能力に頼りがちになる。無論、能力は長所ではあるし、それを伸ばすのは間違っていないが……そういうタイプ程、いざ能力が通じない相手を前にすると攻め手が極端に狭くなるものだ」
「……あ~いや……まぁ、もの凄く自然に解説に入ってるみたいですが、その前に一言……アンタ、強すぎだろぉ。俺もいちおうその、アレだ、大将としてのプライドとかそういうのがあったわけなんですよ。強い強いとは分かっちゃいたけど、それでも多少は戦えるかもとか思ってたんだが……軽く親指弾いただけでこっちの攻撃全部吹き飛ばされるとか、絶望しかないんですが……」
仰向けに倒れたままで話すのは、大将青雉ことクザンである。以前の合同訓練のあとのポチの誘いに応じて己を鍛えなおすという意味で、特訓にきたらしいので軽く相手をした。
なるほど、大将というだけあって能力以外もそれなりに鍛えられていたし、様々な面が高水準に纏まってはいるが……それでも、その程度だ。
「まぁ、基本的な能力は一通り身についているし、悪魔の実の練度も高い。世界的に見れば上位の実力者で間違いないだろう。ただ、課題が無いわけでは無い。お前の場合は、悪魔の実の練度は十分だから、身体を鍛えるべきだな。ああそれと、俺に対して敬語は使わなくていいぞ、適切な場では使ってもらうが……」
「……そりゃどうも。しかしまぁ、確かにチェルシーの時もおたくの時も、能力が効かない相手かつ身体能力で上回られると、攻め手が殆どなくなっちまうな。覇気はもちろんだが、戦闘技術とかも磨き直しかぁ……」
俺としても訓練相手にバリエーションが増えるのはいい。クザンは間違いなく強者だし、何気に
能力範囲の大きい
「六式はある程度使えるんだったな……なら、話は早い。そちらの方面で鍛えてやろう」
「……えっと……その……お手柔らかに頼むわ」
「安心しろ、こう見えて殺さないように手加減をするのは得意なんだ」
「いやいや!? それ殺す寸前まで痛めつけるって言ってるようなもんなんですけどぉ!?」
「そう言っているが?」
「……あらら、俺、選択を間違えたんじゃねぇの? 前の敗北とかで、昔の熱い気持ちを思い出して少しやる気になって、テンションのままに行動して失敗だった……これめっちゃ扱かれるパターンじゃねぇか……」
「よし、立て。再開だ」
「……教官より容赦ねぇ」
クザンは絶望したような表情を浮かべていたが、それでも立ち上がって構える。なんだかんだでポチに完敗したことで、思うところがあったのだろう。口ではどうこう言いつつも、目には熱意が宿っている。
まぁ、とりあえず初日ということもある……優しく撫でてやるか……。
****
クザンがたまに特訓に来るようになり、訓練相手のバリエーションも増えたし、CP9メンバーの仕上がりも上々だ。
新世界の任務もいくつか回してみたが、どれも問題なくこなせている。そのこともあって、上からはかなり遠回しにではあるが「CP0に所属する意思がある者がいるか確認してほしい」という連絡が来て、全員に確認してみたが……満場一致で「一切ない」との返答だった。
原作ではルッチやカクといったメンバーはCP0に所属していた気がするが……まぁ、原作と違って……主にタマが俺を自分より上扱いする影響もあって、いつの間にかCPのトップはCP9という空気になりつつあるし、本人たちが希望しないなら現状のままでいいだろうとは思う。
そんなことを考えながら書類仕事をしていると、予てより申請していた品が届いたので、それを持ってエニエスロビーの門に向かった。
門に辿り着くと、門番であるオイモとカーシーが居たので声をかける。
「オイモ、カーシー、ちょっといいか?」
「長官じゃねぇか、オイたちになんか用か?」
「少し話があってな……お前たちは50年前に世界政府とかつての巨人海賊団の船長ふたりの解放と引き換えに100年門番を務める契約を結んだんだったな?」
用があったのはオイモとカーシーだった。このふたりは原作におけるリトルガーデン編に出てきたドリーとブロギーが船長を務めていた巨人海賊団の一員であり、100年前に決闘を始めたドリーとブロギーを迎えに行く途中で捕らえられ、世界政府にふたりが捕らえられインペルダウンに幽閉されているという嘘を教えられた。
そして、ドリーとブロギーを解放する条件として100年間政府に仕える契約を結んだわけだ。原作においてはウソップにより政府の嘘を教えられ、麦わら側に付いたという経緯があった。
「ああ、最初は信じられなかったが……」
「アンタみたいな、とんでもない強さの人間が存在するなら、あんなに強いお頭ふたりも捕まるかもしれねぇ」
「そのことなんだが、調べてみたところ……お前たちがお頭と呼ぶ、赤鬼のブロギーと青鬼のドリーがインペルダウンに収容されているという事実は確認できなかった」
「「なっ!?」」
寝返る可能性がある門番をそのまま置いておくのも問題だと、コイツらふたりに関しては真実を教えて解放してやるつもりだったのだが……他にも似たような条件で海軍等に雇われている巨人族が居ないか調べたり、あるものを手配していたりして今日までかかってしまった。
「……どうやら、50年前に交渉した者がお前たちという戦力欲しさに嘘をついたようだ。すまなかった」
「そうだったのか……ああ、だが、長官が謝ることじゃねぇ!」
「そうとも、悪いのは俺たちを騙した奴だ! 長官に恨みなんてねぇ。むしろ、いろいろ世話になったと思ってる」
ちなみに、コイツ等に関しては給料すらまともに支払われていなかったので、それに関しては着任して早々に変更して給料や休暇も正当に用意するように調整していたが、そのおかげかふたりは俺に対して憤ったりすることは無かった。
これなら話も早そうだと、俺は用意した品を取り出す。
「……そうか、そう言ってもらえると幸いだ。それで、現状のドリーとブロギーに関しても調べてみたが、リトルガーデンと呼ばれている島で目撃情報があった。お前たちが話していた決闘の舞台となった島とみて間違いないだろう。そしてこれがその島へのエターナルポースだ」
手配していたのはリトルガーデンへのエターナルポースだったのだが、人の手が殆ど入っていない上にログが溜まるまで1年もかかるあの島へのエターナルポースは少なく、探すのにそれなりに時間がかかってしまった。
「お前たち用の船も用意した。今後どうするというのを話し合う前に、一度ふたりで行ってみるといい」
「……いいのか?」
「ああ、そこにふたりが居たなら、今後について相談してこい。その後はそのままエルバフに帰ってもいいし、ここに門番として戻ってきてもいい。その際には正式に雇用という形で契約を結ぶ。なんにせよ、一度会って話してこい」
「いろいろすまねぇ、長官」
「いや、もとはと言えば世界政府の馬鹿な嘘が原因だ。このぐらいのフォローは当然だ」
というわけでふたりに対して、巨人族でも利用できる大型の船とエターナルポースを騙していた詫び代わりに渡し、ドリーとブロギーを訪ねるように提案した。
その後は戻ってきてもいいし、戻らなくても問題は無い。しかしまぁ、世界政府にも困ったもんだ。目的は分かるが、こういった騙すような手段はバレた時のリスクが大きい。
実際原作ではふたりが敵側に付いたことで敵側の大きな戦力になったわけだし……本当に時々呆れるような行動をとるので困ったものだ。
****
オイモとカーシーへの話を終えて、長官室に戻った後は書類仕事を手早く片付け、いつものようにポチの淹れたコーヒーを飲みながら新聞を読む。
ついでに新しく発行された手配書なども合わせて確認をしていると……一枚の手配書を見て手が止まった。
『モンキー・D・ルフィ 3000万ベリー』
そうか……ついに原作の開始時期になったのか。なんとも感慨深いものがあるな。手配書が出たタイミングはアーロン戦後のはずなので、まだグランドラインに入ってもいない状態ではある。
だが、ここからは怒涛のペースだ。ウォーターセブンに来るのは、アラバスタ、空島を経た後ではあるが、シャボンディ諸島まで1年以内と考えると、とんでもないペースでの進行である。
エニエスロビー編は起こりえないので、会う可能性は低いが……俺がエニエスロビー編を潰した結果、補填イベントのようなものが起こるかどうかは気になるところだ。
まぁ、なんにせよ。いろいろと……世間が賑やかになりそうだ。
スパンダム:狂パンダ。ついに原作開始かと感慨深い思い。とはいえ、特にルフィと関わる気は無い。ただ、黒ひげは……「居ないではないか」するつもりなので、少し注意を払っている。
クザン:ポチに誘われてホイホイ特訓に来て地獄を見た。ただ、少しかつての情熱を取り戻しているのか、ボロボロにされつつも何度も足を運んでいる模様。
オイモとカーシー:パンダによって門番としての給料なども支払われており、元々待遇は改善されていたこともあって、パンダに対して恨みはない。ドリーとブロギーとの会話後、どうするにせよ一度パンダには挨拶しに戻るつもり。