エニエスロビーの建て替えは順調に進んでおり、既に半分近くは終了している。ついでにちゃっかり俺に許可を取り、俺の家の地下に作ったリリス用研究所も、最近さらに拡張したみたいで広くなっている。
「……しかし、お前は本当にいい性格をしているな。毎度毎度人に運搬させるとは……」
「いや、だって、普通にエッグヘッドからここまで来たらだいぶかかるし、パンダ運搬ならすぐじゃし、効率的に考えたら一択じゃろ」
「一度剃刀中に海に叩き落としてみるか……」
「やめろ、あのスピードで落ちたら普通に死ぬ。人類はお前みたいな異常な耐久しておらんのじゃ」
リリス及びベガパンクと
まぁ、俺にしてみればパンクハザードもエッグヘッドも移動時間的にさして違いはないので、問題は無いが……。
「それで、パンダ? 今回はなんで呼び出したんじゃ?」
「ああ、お前に俺と……最近はポチも行っている肉体改造の詳細について教えておこうと思ってな」
「なるほど、それは……えぇぇぇぇ!?」
俺のリリスに対する評価は極めて高い。これまでの付き合いの長さだとか、いろいろと要因はあるが……一番大きいのは、以前に己の死に直結するような情報をこちらに対して話してきたことだ。
遠回しでぼかしつつとはいえ、禁忌の国に関する研究についてほのめかすような台詞。すべてではないにせよリリスは俺に対して、腹の内を見せた。
だからこそ、こちらとしても以前よりリリスを信頼しており、肉体改造についていい加減教えてやろうと思った。
「な、ま、マジで!? ついにパンダ好感度が溜まったのか!! いや~コツコツ積み上げた結果があったというものじゃな……そ、それで!? どんな秘密が!! 早く、早く教えてくれ!!」
「……分かったから落ち着け、この紙に詳細や使った品を記載しているから確認してみろ」
目が完全に血走っており少し鼻血が出るほどに興奮しているリリスに呆れつつ、手に持っていた紙を渡してやると、それはもう物凄い勢いで読みはじめた。
まぁ、紙に書いてあるのは秘薬の種類や効果、気功術の種類や効果などといったものなので、読むのにはそれほど時間もかからないだろう。
少しすると、リリスは満面の笑みを浮かべて顔を上げた。
「……いや~なるほど、パンダはこうやって自己進化を……いや……お前……なんでこれやって……生きてるんじゃ? これただの『豪快な自殺プラン』じゃろ?」
「俺に関しては概ね年2回、ポチは現在年1回行っている」
「いやいや、死ぬって!! 天才のわしの目から見てこれ、100%死ぬからな!! 99%じゃなくて100%死ぬから……え? 逆になんでお前ら生きてるんじゃ……怖いわ」
実際普通なら確実に死ぬだろう。俺に関しては前世が存在するが故だろうが魂が特別強固であり、それが耐えられた要因。ポチに関してはトットムジカの魔力による負荷軽減のおかげだから、それらが無ければ死んでいるだろう。
当たり前ではあるがこの肉体改造は最初の1回目がリスクは一番大きい。だから俺もポチの改造にはかなり慎重になったし、俺自身が1回目を乗り越えられたのは本当に奇跡か神や悪魔の仕業と言ってもいいかもしれないレベルだ。
ただ1回目さえ乗り越えてしまえば、2回目以降はある程度安定する。それでも常人は普通に死ぬだろうが……。
「無理やり納得は……できる。無理やり言語化するのであれば……つまるところ、生命の危機による本能的な自己進化を、それこそ細胞単位で強制的に引き起こすことで、生物としてのステージを力尽くで一段登るようなもの……じゃが、これは、精神力などでどうこうなるようなものでは……いや、本当に訳が分からん!! 脳が爆発しそうじゃ!?」
「まぁ、それはいいとして次はこれだ。コレは、以前までポチにやらせていた、負荷を落として筋力の強化のみに絞ったものだ」
「……なるほど~これなら負荷は落ちて生存率が――いや、100%死ぬのが90%死ぬになったところで異常なのは変わらないんじゃけど!? これは、実物を見んことには……チェルシー……お願いじゃから、ほんの一滴でいいから、血液採取させてくれんか?」
珍しく本当に思考が追い付いていない様子で頭を抱えながら俺の後方に居たポチに尋ねるリリス。その言葉を聞いてポチは俺の方に確認するように視線を動かしてきた。
「……まぁ、いいだろう。ただし、クローン等を作った場合は殺す。いいな?」
「いいのか!? ああ、絶対にせんと約束する!」
「ポチ、協力してやれ」
「了解です」
リリスはマッドサイエンティストではあるが、信用できる相手でもある。少なくともコイツは、最初に会った時に己で宣言した俺の要望を最優先にすることや、実験などに付き合う際に最初に詳細を全て説明して一切無理強いをしないなどの条件に関して、いままでずっと守り続けている。
俺の指示を受けたポチから血液を採取し、研究用の設備で確認したリリスの顔は……まぁ、大分イカれた顔をしていた。
「……はぁぁぁぁ、しゅ、しゅごい……もう細胞が、人間のそれとは完全に違う」
心底興奮した様子で告げたあと、リリスは俺の方を見て媚びるような目を向けてきた。
「……パンダの細胞も……ちょっと……ほんのちょっとだけ、見たいなぁって……駄目?」
「……はぁ……一滴だけだぞ」
「マジで!? パンダ、愛してる!!」
「その状態で飛びつくな、鼻血が付く」
この流れになることはあらかじめ予想できたし、少しだけ要望に応えてやるつもりではあった。そういう心境になったのは、やはりトットムジカの存在が大きい。少なくとも仮に現時点で俺とまったく同じ力を持ったクローンを作り出せたとしても、そちらにトットムジカが居ない以上実際の俺に比べれば数段劣る。
それに俺は現在も半年周期で肉体改造を行っており、明日にも行う予定なので、細胞に関してはまた明日にも変化している。
いちおう見た目は女性のはずなのだが、尊厳などはどこに捨てたのかと思うほど大量の涎と鼻血を垂らすリリスの用意した検査用のガラス皿に血を一滴落としてやる。
するとリリスは、過去一番俊敏な動きで即座に顕微鏡のような機械に向かった。
「……な、なな、なんじゃこれ、あわわわ……チェルシーの方は、まだかろうじて人間の細胞が進化したものじゃと理解できたし、名残もあった。じゃがこれは……なんじゃ? まるで意味が分からん。これ本当に細胞か……こんなのが存在してもいいのか……あらゆる生命に対する冒涜じゃろ……はわわわ……しゅ、しゅごすぎ……駄目これ、もう脳蕩ける……もう当分パンダのこと以外考えられにゃい……」
ヤバい顔してるなコイツ……仮にも見た目が女の奴がしていい顔じゃないぞ。いちおう今回の要件としては、筋肉の圧縮による肉体改造の負荷をもっと落として現実的に行えるレベルにできないかという相談も兼ねていたのだが、これはそれを話すのは相当後になりそうだ。
「まぁ、分かっているとは思うが、クローンなどを作ったら殺す」
「いや、そもそも作れんと思う。この細胞? 本当に細胞かこれ? なんでこの細胞で、人の形保ててるんじゃお前……まぁ、ともかくこれを培養するのがそもそも出来る気がせんし、仮に血統因子を使ってクローンを作ったとしても、出来るのは肉体改造前のパンダじゃろうしな」
「ふむ」
「生まれたクローンに同じ肉体改造をさせても100%死ぬ。いや、本当に、サッパリ分からん! 血を一滴貰って細胞を見て、これまでより遥かに多く情報を得たはずなのに、より分からなくなったんじゃが……本当に、お前どうなってんの? 魔王かなにかか?」
まぁ、魔王というのに関しては後付けではあるが間違いではない気もする。トットムジカと融合しているわけだし……。
「はぁぁぁ、本当にお前と居ると退屈せんわ。脳が滅茶苦茶になりそうじゃけど、これほどの存在と巡り合えるのも幸せじゃな……パンダ、お前本当に未知過ぎる。マジで好き、愛してる!!!」
そう言って恍惚とした笑みを浮かべるリリスはなかなかの狂人っぷりだった。というか、なんでコイツが肉体改造終えたあとみたいに血まみれになっているのやら。
そう思って呆れていると、リリスは俺とポチの血液が入ったガラス皿を厳重に保管したあとで、なにやら棚から取り出した。
「……リリスさん、なんですかそれ?」
「輸血用の機械じゃな、こうしてセットして……」
「なんでベッドに横になってるんですか?」
「……ああ、もう無理、脳の処理限界超える。これでよしっ、じゃ、しばらく気絶するから、またあとで――」
そう言って宣言したあと、リリスは自己申告通りに気絶した。やっぱコイツはコイツで相当狂ってるな……。しかも結局本題は言えなかった。
まぁ、仕方がない。それは後にするか……。
「……ポチ、とりあえず鼻血だけは拭いておいてやれ」
「はい。リリスさん、これ大丈夫なんですかね?」
「頭がイカレてるのは元からだ」
「……それもそうですね。けど、この感じだと、今回は相当長く居そうですね」
「……そうだな」
ちなみに本人の自己申告通りなら、俺の細胞を見たら年単位で他のことは考えられなくなるらしい。
スパンダム:狂パンダ。トットムジカのおかげで、仮に量産型パンダが生まれてもどうとでもできる確信があり、さらにリリスをポチの次に信頼していることもあって、肉体改造についての詳細を教えた。
ポチ:なんだかんだでリリスとの付き合いも長く、仲もいいのだが、今回のリリスの様子にはさすがに若干引いていた。
リリス:ついに長年をかけてPPが一定に溜まり、パンダの血を1滴だけ研究させてもらえることになって、体中から血やら体液を溢れさせていたし、処理限界で気絶した。本人の宣言したとおり、当分パンダのことしか頭になく、エッグヘッドにも1年ぐらい帰らずエニエスロビーに居座ることになる。
トットムジカ:(`・ω×)+パンダとふたりなら無敵(ガチ)