闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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トナカイも歩けば魔犬に出会う

 

 

 偶然知り合ったフランキーの案内を受け、ウォーターセブンを行くルフィたち。船を完全に留守にするわけにもいかず、また最終的にはトムに船まで出向いてもらう予定なのでそれまでは一部を除き自由行動となった。

 黄金の換金のための荷物持ちとしてナミに同行し、フランキーと共にガレーラカンパニーに向かうルフィとウソップ。船番をするゾロ。食材や医療品などの物資を補充するサンジ、チョッパー、ロビンという形で分かれることになった。

 

「……ずいぶん賑やかね」

「あぁ、もうすぐアクア・ラグナだからな」

「アクア・ラグナ?」

「年に一度起こるとんでもねぇ高潮だ。時には市街地すら飲み込むほどの災害で、下町の一部は過去のアクア・ラグナで沈んだところもある。このウォーターセブンは元々地盤沈下やアクア・ラグナによる水害で大きな影響を受けるわけさ」

 

 街に詳しいフランキーによりブルを借りて水路を移動しつつ、街の賑やかな雰囲気を感じて尋ねるナミにフランキーが軽く答える。

 するとその話を聞いて、ナミは不思議そうに首を傾げる。

 

「……そんな化け物じみた高潮が来るのに、なんだってこんなお祭りみたいな雰囲気なの?」

「ここ数年は世界政府によって水害は防がれてるからな。アクア・ラグナが運んでくるこの辺じゃ獲れねぇ魚や、特別な塩なんかがあって、アクア・ラグナの直後はちょっとした祭り状態だ……いけすかねぇ野郎だが、約束はキッチリ守るんだよなぁ……」

「うん? なんか言ったか?」

「ああ、いや、なんでもねぇ。ほら、あの水門エレベーターで上にいけば中心街だ。まずは換金だったな」

 

 どこか苦虫を噛み潰したような表情で告げるフランキーに首を傾げる一同だが、その疑問に答えることは無くフランキーは案内を続ける。

 

「ええ、どうせ船を見てもらいに戻るわけだし、先に換金して予算とかも把握しておいた方がいいでしょ?」

「しかし、すげぇ黄金だな。お前らが略奪をするような奴じゃねぇってのは分かるが、どこでこんなもん見つけてきたんだ?」

「ああ、空島だ」

「ほぅ~そりゃまぁ、スーパーな場所で見つけたもんだ」

 

 気のいい性格のフランキーはルフィたちと相性が良いようで、短い期間に親しくなり会話も弾むようになっていた。

 そのまま一同はフランキーの案内で換金を行い3億ベリーという大金を手にした上でガレーラカンパニーへと向かった。

 

 ブルから降りて、ガレーラカンパニーの1番ドック付近にある本社の方向に向かっていると、そこに1番ドックの職長のパウリーが通りがかった。

 

「フランキーじゃねぇか、なにしに来やがった?」

「あん? パウリーか、なんでテメェがここに……さては、大方また借金取りから逃げてたのか」

「……うるせぇ」

「テメェら、紹介しとくぜ。コイツは1番ドックの職長のひとりであるパウリーつって、腕は確かだがギャンブル狂いで借金まみれの馬鹿だ。コイツに金を見せんじゃねぇぞ、盗られるからな」

「盗らねぇよ!!」

 

 どこか呆れた様子でフランキーがパウリーを紹介し、モズやキウイがパウリーのギャンブル狂いっぷりをルフィたちに説明したりと、少し賑やかになる。

 すると、規則正しい足音が聞こえ、続いてどこか呆れたような声が聞こえてきた。

 

「ンマー……騒がしいと思えば、やっぱりお前か馬鹿ンキー。相も変わらず珍プレーな恰好しやがって」

「馬鹿バーグじゃねぇか、俺の一張羅にケチ付けてんじゃねぇよ。これが俺の正装だ」

「ンマー! テメェのところにはウチからも仕事回してるんだぞ! そこの棟梁のお前が、海パン姿でチョロチョロしてたら、ウチの品位にも関わるだろうが!!」

「なにが品位だ、そんなお上品な商売なんざしてねぇだろうが! だいたいなんだそのネズミは?」

「さっき拾った。名前は……ティラノサウルスだ」

「恐竜じゃねぇか!?」

 

 いきなり喧嘩を始めるふたりにルフィたちが唖然としているが、声を聞いて寄ってきた他の職人やパウリーは、「またか」というような表情を浮かべており、このやり取りはいつものことのようだった。

 その後落ち着いたアイスバーグは、ルフィたちと軽く自己紹介を行ったあとで尋ねる。

 

「それで、今日はどうした?」

「お前には用はねぇよ。トムさんにちょっとコイツ等の船を見てもらおうと思ってな」

「トムさんに?」

「ああ、コイツ等の船はかなり古い型……キャラベルなんだが、いい面構えの船なんだよ」

「ほぅ、お前がそこまで言うほどか……」

「ああ、だが、竜骨に大きな亀裂がある。俺の見立てでは修理は不可能だが、トムさんならなんか方法を知ってるかもしれねぇと思ってな」

 

 そう言って説明するフランキーの言葉を聞き、アイスバーグは胸ポケットに入れたネズミを撫でながら少し考えてから口を開く。

 

「……ンマー……お前が見て駄目だと判断したなら、誰が見ても同じだとは思うが」

「そう簡単に割り切れるもんでもねぇんだよ。一度見りゃ分かるが、コイツらにとってあの船は、ただの船じゃなくて共に旅をしてきた仲間なんだよ。僅かな可能性でも縋りてぇって、思っちまうぐらいに大切な……」

「……そんな船なら俺も一目見てみてぇもんだな。話は分かった。トムさんなら、3番ドックで若い連中を指導してる」

「そうか、分かったぜ。それじゃ、邪魔したな。よし行くぞ」

 

 アイスバーグからトムの居場所を聞いて、そちらに向かって移動を始めるフランキー。その背に向かって、アイスバーグは、静かに問いかけた。

 

「……お前は、まだ、船は作らねぇのか、フランキー」

「……」

「お前のところの連中にも造船技術は教えたりしてるんだろ?」

「まぁ、解体するにしても技術があるにこしたことはねぇからな。テメェが余計なお節介するせいで、仕事も多くて雑な作業も出来ねぇしな」

「だが、自分で船は作らないと……いい加減、自分を許してやってもいいんじゃねぇ?」

「トムさんもそう言ってくれてるがな……だが、まだ、そういう気にはなれねぇよ」

「……そうか」

 

 ルフィたちを連れて立ち去るフランキーの背中を、アイスバーグは少し寂し気な表情で見つめていた。

 

 

****

 

 

 一方その頃、食材の買い出しに出たサンジ、チョッパー、ロビンの3人は様々な食材を吟味しつつ、店員に話を聞いていた。

 

「……アクア・ラグナ? なんだそりゃ、それと食材が関係あるのか?」

「間接的にな。この島は以前までアクア・ラグナって高潮の水害に悩まされていたんだが、世界政府の新技術とやらで対策してくれたみたいで、去年も一昨年もこの街にアクア・ラグナは届いてねぇ」

「街に届くような高潮をなんとかしちまうのか? すげぇな!」

「……けど、いったいどうやって? 高潮なんてどうこうできるものなのかしら?」

 

 訪れた店の店員に珍しい食材や、この島独自のものが無いか尋ねてみたところ、アクアラグナの話になり3人は不思議そうに首を傾げる。

 

「いや、俺も聞いた程度の話だが……『海の大穴』が出来るらしい」

「海の大穴?」

「ああ、海に馬鹿でかい穴が開いてな。そこにアクア・ラグナの海水が流れ込むことで、ここまで高潮が届かねぇらしいんだ。その海の大穴がいくつも出来るってんで、アクア・ラグナの来る夜は海に出ることが禁じられてる」

「海に穴をあける? いったいどうすりゃそんなことができるんだ」

「さぁ? そいつは俺にも分からねぇが、とにかくおかげでこの街は水害の影響を受けずに済んで助かってるわけだ……それで、どうしてそれが食材に繋がるかって言うと、その海の大穴がアクア・ラグナの海水で塞がった後、一時その海域では普段は見たこともねぇような魚が獲れるようになる。アクア・ラグナが遠い海の魚たちを運んできてるんじゃないかって噂だ。それと特別な塩だな」

 

 高潮を防ぐような大穴を開ける方法など分からないと、早々に店員は海の大穴に関する説明を終え、続けて最初の質問である珍しい食材についての話に移行した。

 サンジたちも気にはなるものの、尋ねたところで答えが得られるとも思えないので、そのまま店主の話を聞くことにした。

 

「……珍しい魚に、特別な塩?」

「ああ、塩に関してはバンバン爺って、料理屋をやってるじいさんが広めたらしいが、アクア・ラグナで運ばれてくる海水から作った塩は、他の塩とは旨味が全然違うのさ。おかげでアクア・ラグナ後に採れる塩はこの島の特産品のひとつになった」

「へぇ、そのバンバン爺ってのは腕のいい料理人なのか?」

「ああ、酔いどれ爺さんに見えるが、腕は確かさ……興味があるなら店の場所を教えてやるから、一度行ってみるといい。アクア・ラグナの塩に関しては、ここじゃなくて調味料を取り扱ってる店に行きな」

 

 その後もいくつかの食材に関して話を聞いたが、やはりアクア・ラグナの後の方が珍しい食材は手に入りやすいとのことで、いまは最低限の食材の買い出しだけをして、本格的に買い込むのはアクア・ラグナ後にしようということに決まった。

 いろいろ教えてくれた店員に礼を言ったあと、サンジたちは再び街を歩きだす。

 

「教えてもらった店には、またあとで行くとして……食材に関しては大量に買う必要は無くなったから、ロビンちゃんやチョッパーが買いたいものがあるなら、そっちも見てみるか?」

「それなら俺、医学書が買いたいぞ!」

「いいんじゃないかしら、私もよい本があれば買いたいし、本屋に行ってみましょうか」

 

 結果的に本格的な食材の調達が後日となったことで少し余裕ができたため、3人は本屋を目指すことに決めた。新しい医学書を読むのが楽しみ中の、チョッパーははしゃいだ様子でトナカイの姿で早足で進む。

 

「おいおい、チョッパーあんまり急ぐとあぶねぇぞ」

「ふふ……船医さんは、元気ね」

「ああ、ロビンちゃん。あの大将の言葉なんざ気にすることはねぇって、呼び方なんて自由で構やしねぇんだ」

「……ええ、ありがとう」

 

 はしゃぐチョッパーに微笑みつつ、船医さんと呼ぶ際に少し迷うような表情を浮かべたロビンに気付き、サンジがさりげなくフォローを入れる。

 その気遣いに嬉しそうに笑みを浮かべながら、ロビンが前方を行くチョッパーに視線を向けると……。

 

「早く! 早く本屋に行こう!」

「ッ!? 船医さん! 前っ! 水路が!!」

「えっ、あっ……」

 

 チョッパーの進む先は水路の影響か、少し道が狭くなっていたのだが、後ろを振り返りながら早足で進んでいたチョッパーは気付かず、足を滑らせる。

 チョッパーは悪魔の実の能力者であり、そのまま水路に落ちてしまっては大変だ。ロビンが咄嗟に悪魔の実の能力で助けようと構えたが、それより早くスッと伸びてきた手が水路に落ちかけていたチョッパーを掴み、その体を引き上げた。

 

「……大丈夫ですか、喋るトナカイさん。前を見て歩いてないと危ないですよ」

「あ、ああ、ありがとう……助かった」

「怪我がなかったようなら、なによりです」

「チョッパー! 大丈夫か……悪いな、チョッパーを助けてくれて礼を言うよ、お嬢さん」

「いえいえ、どうぞお気になさらず」

 

 チョッパーを助けてくれた女性は優し気に微笑みながら気にするなと告げて、チラリとロビンの方に視線を向ける。

 サンジとチョッパーも釣られてロビンの方を振り返ると、ロビンは目を見開き明らかに動揺した表情を浮かべていた。

 

「……ロビンちゃん、どうした?」

「……その恰好……貴女……世界政府の……」

「ええ、確かに私は世界政府の役人ですが、別に貴女を捕える気はありませんのでご心配なく……隊長からは特に指示を受けていませんので」

 

 そう言ってロビンに微笑む女性……チェルシーから感じるただならぬ気配に、サンジも表情を硬くするが、本当に戦闘などをする気は無いようで、戦意等は感じなかった。

 だが、その身から感じる力は凄まじく、先ほどまではチョッパーのことが気がかりですぐには気付かなかったサンジも思わず息を飲む。

 

「……麗しのレディ。アンタ、いったい何者だ……」

「私ですか、私はポーラ・チェルシー……司法の島エニエスロビーの長官補佐を務めているものです。さて、それでは隊長を待たせてありますので、私はこれで失礼します。縁があれば、またどこかで……」

 

 そう言って優し気な笑みを浮かべたあと、チェルシーは悠然と歩いて3人の前から去っていった。そしてその背が完全に見えなくなった後で、サンジは深く息を吐いた。

 

「……おいおい、マジかよ。あんなに可愛らしいレディだってのに……とんでもねぇ気配だ。もしかして、あの大将より強いんじゃねぇか……」

「そ、そんなになのか……確かに、なんか凄い感じがしたぞ」

「……まさか……彼女は……噂に聞く……魔犬(ヘルハウンド)……だとしたら……来ているの? この街に……」

「お、おい、ロビン!? 大丈夫か、顔が真っ青だぞ!」

「え、ええ、ごめんなさい。大丈夫よ」

 

 青ざめた表情を浮かべていたロビンだったが、心配そうにチョッパーが話しかけてきたことで、安心させるように微笑みを浮かべた。

 

 

 




フランキー:原作より丸くなっており、部下たちにもいろいろ教えているため、ガレーラや住民にも変態とは認識されつつも普通に受け入れられている。ただ、船作りに関してはまだトラウマがあり消極的……本来ならこの辺りも含めて、ルフィたちとの友情ドラマが展開されるかもしれないが、その辺はダイジェストである。

アイスバーグ:トムが生存している影響もあって、フランキーとの関係が原作よりかなりよく、フランキー一家に仕事を回していたりする。現在も顔を合わせるたびに喧嘩をしているが、なんだかんだで弟弟子のフランキーを心配している。

ポチ:マジでパンダのお使い中に普通に通りがかっただけだが、ロビンの精神に結構なダメージを与えた。

ロビン:……まさか、不夜の怪物か……この島に来ているというの……な、なぜ……まさか……私を狙って……(野次馬しにきただけ)

海の大穴:どうやって穴開けてるんだろうなぁ……不思議だなぁ……。
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