フランキーの案内でトムの元を訪れ、事情を説明するとトムは快く応じてくれ、岬に移動してゴーイングメリー号の様子を見てくれることになった。
食材を買いに行っていたサンジたちも戻り、麦わらの一味全員が固唾をのんで見守る中、トムは難しい表情で首を横に振った。
「……残念だが、ワシもフランキーと同じ意見だ。この船の修理は不可能だ」
『……』
一同に重い沈黙が訪れる。覚悟はしていた。事前にフランキーもまず間違いなく同じ結論だと語っていたし、こういわれる可能性が高いことは理解していたつもりだった。
だが、理解していたからといって納得して受け入れられるかどうかは別問題だ。特にゴーイングメリー号に思い入れの強いウソップは、拳を握り締め唇を強く噛み、絞り出すように告げる。
「……そんなわけがねぇ、メリー号がこんなところで駄目になるはずがねぇ!」
「ウソップ……」
「信じるもんか! お前らが無理だっていうなら、俺が自分で直す。いままでだってそうやって……」
認められないと叫ぶウソップに対し、トムはどこか堂々とした表情で口を開く。
「……なぁ、お前さん。もっと前から、気付いてたんじゃねぇか? この船が限界だって」
「ッ!?」
トムの言葉を聞き、ウソップは驚愕したような表情で一歩後ずさる。そんなウソップを見て、トムはフッと微笑む。そしてゴーイングメリー号に軽く触れながら言葉を続けた。
「フランキーの言う通り、この船はドンといい船だ。造りや歴史の話じゃねぇ、誰を乗せてどんな旅をしてきたか……それが船の面構えを作る。ここまで立派な面のいい船はワシも数えるぐらいにしか目にしたことが無いほどだ。修理はたしかに素人仕事だが、船への愛情をドンと感じる。コレをやったのはお前さんだろ?」
「……ああ」
「お前さんたちはこの船を愛し、この船もお前さんたちを愛している。その中でも一番この船への思いが強いお前さんが、たとえ船大工じゃなくとも、船の限界に気付いてねぇわけがねぇ」
見透かすようなトムの言葉を聞き、ウソップはガックリと力を抜いたように項垂れて地面に座り込んだ。
「……ウソップ、アンタ……」
「……ああ、分かってた。分かってたんだ……もう、メリー号が限界だって……」
呟くナミや仲間たちに対し、ウソップはポツポツと語り始めた。空島にてウソップが見た謎の存在について、その時に聞いた声について……。
そして、トムやフランキーの口からそれがクラバウターマンと呼ばれる船の化身であり、本当に大切に乗られた船にのみ宿る存在であると教えられた。
「……船を見た上でのワシの推測だがな。この船はお前さんたちの手に渡るまでは、あまり航海に出ることも少なかったんじゃねぇかと思う。だからこそ、お前さんたちに全力で乗ってもらえて、いろんな航海を経験できて……一緒に冒険が出来て、この船は本当に幸せだったんだろうさ」
「……メリー」
「だがな、そんな幸せな船をお前さんたち、最後の最後に不幸にしちまうつもりか?」
「俺たちが、メリーを不幸に?」
「ああ、この船はもう航海には耐えられねぇ。奇跡が起きれば次の島にくらいはたどり着けるかもしれねぇが、それ以上は絶対に無理だ。クラバウターマンとして現れるほど、お前さんたちを愛しとるこの船がお前さんたちを次の岸まで運べなかった時……どれだけ無念か、考えてやれ」
優しく語り掛けるように話すトムの言葉を聞き、ウソップはしばらく俯いたままで沈黙した。そしてしばしの時のあとで目を開き、真剣な表情でトムに告げた。
「……トムさん、教えてくれ。この先、メリー号を……限界を迎えた俺たちの仲間を、どうしてやればいい?」
「そうだな、ワシが提示できるのは3つ……まず、保管。幸いこの街には船を保管するような場所はいくらでもある。金さえ積めばどうにでもなる。だが、これはオススメしねぇ。お前さんたちが旅を続けるなら、結局別れることには変わらねぇし、航海も出来ずただ閉じ込められると考えりゃ、船にとっても不憫だ」
覚悟を決めた目で尋ねてくるウソップに対し、トムは考え付く方法をいくつか提案する。
「次に解体。この方法の利点としては、無事な木材なんかは新しい船に利用できるってことだな。ここに居るフランキーは腕がいいし、頼めば綺麗に解体してくれるだろう。そして最後に、最近はあんまりやらなくなったが……昔の船乗りは、大事な船が寿命を迎えた時、海に帰し弔うってことをやったんだ。いままで世話になった船に感謝と別れを伝える儀式だな。それをやる方法もある」
そこで一度言葉を区切った後、トムは麦わらの一味の面々を見渡しながら口を開く。
「全員で話し合って決めるといい。幸いこの船も、次の航海には耐えられねぇが、浮かべてるだけで今日明日に壊れるってわけじゃねぇからな。話し合う時間はある。ただし、いまは話し合うんじゃねぇ」
「どうしてだ?」
「全員ワシの話を聞いて少なからずショックを受けている。思考が後ろ向きになっている状態で話し合ってもいい結果にはならん。街に出たり、無理やりにでも気分転換して気持ちを切り替えてから相談することだ」
いまのままの状態で話し合えば意見の違いで激しい喧嘩になったりする可能性もあり、トムは一度それぞれが思考を纏めるための時間を取るべきだと説明した。
一同もそれには納得して、最低でも1日は置いてから話し合いをするという方向で決まった。すると、そんな面々に対し、フランキーが努めて明るい声で告げる。
「まぁ、アクア・ラグナの対処のため、政府からの通達で今日明日は出航禁止になるしな。街は賑やかだから、気分転換もしやすいだろうさ」
「アクア・ラグナの対処……ああ、海に大穴が空くとか」
「大穴? 青い流星じゃなくて?」
アクア・ラグナと聞き、食材の調達の際にその話を聞いていたサンジが呟くが、それに対してナミが不思議そうに首を傾げながら告げた。
「うん? ナミさん、青い流星って何の話だ? 俺たちが聞いた話だと、海に大穴が空いて海水が流れ込むって話だったが……」
「換金所で少し聞いたんだけど、アクア・ラグナの来る日の夜には海から雲を貫いてのぼる青い流星が現れて、それを見られたら幸せになれるって話があるって聞いたけど?」
どうにもサンジたちとナミが聞いた話が違い首を傾げていたが、それでナミはふとトムとフランキーがなんとも言えない複雑な表情を浮かべているのを見た。
「……なんでふたりは、そんな複雑そうな顔を?」
「ああ、いや、ちょっと嫌なことを思い出してな……そっちの兄ちゃんが聞いた話も、お前が聞いた話もどっちもここ数年広まってる話だ。まぁ、実際に夜に海を見たら、運が良ければ流星が見えるかもしれねぇな……」
「たっはっはっ、まぁ、ウォーターセブンにはいろんなもんがあるから、楽しんでみるといい。海列車で繋がってる島で仮装パーティをしていたりと、なにかとこの時期は賑やかだからな」
ナミの質問にフランキーが少々曖昧に答えたあと、トムが話を締めくくる。
「それじゃ、ワシは造船所に戻るとする」
「ああ、トムさん、送ってくぜ……お前たちも、まずはトムさんの言う通りしっかり気分転換をしな。俺の家……フランキーハウスの場所を教えておいてやるから、なにか困ったら訪ねてこい」
「ああ、いろいろありがとうな、フランキー」
「なに、気にすんな。俺がお前らを気に入ったから世話を焼いただけさ……じゃあな!」
お礼をいうルフィにグッとサムズアップをしたあと、トムとフランキーは去っていき、残された麦わらの一味は今後の方針を少し決めることにした。
とりあえずトムの言うように気分転換をすることに決め、ナミが各自にお小遣いを渡し、一味はそれぞれ思い思いにウォーターセブンの街へ向かった。
そして、ゴーイングメリー号の停泊している岬からガレーラカンパニーに向けて移動しつつ、フランキーは頭をかきながら呟く。
「しっかし、青い流星ねぇ……」
「たっはっはっ! 豪快なことをするもんだ!」
「本当に聞くたびに複雑な気持ちになるぜ。誰が信じるってんだ……流星の正体が、あのバケモノが『ぶん投げた海水』だって……」
「ありゃ、魚人柔術や人魚柔術の技だな。規模はまるで違うが……なにせ、海に大穴が開くほどの海水を、雲を貫くほど遠方に投げてるわけだからな」
「アレだろ? 予め指定した周囲に島とかがない海域に投げてるんだろ? 何百キロあるんだよ……」
「ああ、事前にその周囲には政府によって立ち入り禁止の布告もされるらしいが……その場所にピンポイントで飛ばすんだから、とんでもねぇ」
フランキーの言葉にトムも同意する。以前トムが海列車を増やす見返りに要求したアクアラグナの対処に関して、スパンダムは超遠方に大量の海水を投げ飛ばすという凄まじい力技で解決してしまった。
原理としては魚人柔術の水心・海流一本背負いに近いのだが、とにかくスパンダムの能力が異常すぎるため規模が凄まじく、海には大穴が空き、空には青い流星が飛ぶといった光景になる。
「……マジであの野郎、古代兵器要らねぇじゃねぇか。あの量の海水をピンポイントで超遠距離に落とせるってだけで、十分兵器みたいなもんだぞ」
「たっはっは……確かに」
もちろんそれを住民たちは知らず、事実を知るふたりとアイスバーグも、相手が相手だけに迂闊に口外もできないので、その話を聞くと毎回なんとも言えない表情になるのだった。
****
開けたスペースに設置した金網の上でジャケットを脱いでエプロンを身に着けたポチが肉を焼いており、俺はジャケットを椅子にかけて肉が焼けるのを待っていた。
この場所はバーベキューを行う設備を提供してくれる場所で、食材を持ち込むことでバーベキューを楽しむことができる。せっかくなので水水肉以外にもいろいろな食材を買って、こうしてバーベキューを楽しんでいる最中というわけだ。
水の都だけあって景色がいいし、なかなかどうして悪くない。とりあえず明日にはアクアラグナへの対処があるが、今日に関しては休暇なので気楽なものである。
そんなことを考えていると……不意に見聞色の未来視が面白い光景を映した。なるほど、これはなかなか面白いことになりそうだ。
思わず口元に笑みが浮かぶのを実感しながら、俺はポチに声をかける。
「ポチ、悪いが肉を追加で大量に買ってきてくれ。金網の上はそのままでいい」
「了解しました」
そう指示を出して、ポチが追加の肉を買うためにエプロンを脱いで姿を消した直後、元気な声が聞こえてきた。
「すげぇいい匂いだ! ここが、飯屋か!!」
「……いや、残念ながらここは設備は提供してくれるが、食材は持ち込みだ」
「えぇ!? そ、そうなのか……」
俺の座っていた場所のすぐ近くに現れたその存在に対し、俺は椅子に座ったままで声をかける。
「だが、こうして会えたのもなにかの縁だ。よければ、食べていくか?」
まさかの遭遇ではあるが、これはこれで……楽しくなってきたものだ。
「なぁ……『モンキー・D・ルフィ』」
目の前に立つ麦わら帽子を被った男に向けて、俺は穏やかに微笑みかけた。
スパンダム:アルカイックスマイルの狂パンダ。ヤサシイパンダダヨ、コワクナイヨ。ホラ、オイシイオニクモアルヨ……なにかを企んでいる笑顔である。
ルフィ:サイコロは持ったな? パンダチェックの時間だ。
麦わらの一味:よりにもよって、一番巨人や青雉の忠告を覚えてなさそうな奴がソロで遭遇しやがった!?
ウソップ:原作とは違い査定の場にも居て、トムの説得の効果もあり仲違いするようなことは無かった。
アクアラグナへの対処:『超凄い海流一本背負い』