闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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エースの帰還と歌姫の手紙

 

 

 新世界の海、四皇白ひげの船として知られるモビー・ディック号。そこにいるニューゲートの下に、黒ひげを追って船を出ていたエースが帰還した。

 多くの船員たちに迎えられつつも、どこか浮かない表情のエースはニューゲートの前まで歩いてきた。

 

「……オヤジ、俺は――いっ!?」

 

 なにかを言いかけたエースだったが、ソレよりも早くニューゲートの拳がエースの頭に叩き下ろされた。その凄まじい衝撃にエースが頭を押さえて蹲る。

 殴られる理由に心当たりはあった。エースはニューゲートや他の船員が止めるのも無視して、強引にティーチを追った。そしてその結果は返り討ち……何者かの仕業によってティーチが死ななければ、ニューゲートたちが危惧していた通りの結果になっていたのは言うまでもない。

 勝手をしたことを自覚しているエースはニューゲートに謝罪しようと痛みをこらえて口を開きかけたが、その前に巨大な手によって抱き寄せられた。

 

「……心配させやがって、バカ息子が」

「オヤジ……すまねぇ、アンタたちが止めたのに俺は……」

「かまやしねぇ。無事に生きて帰ってきたなら、それで十分だ」

「っ……!?」

 

 心の底から安堵したような白ひげの言葉を聞いて、エースの目に涙が浮かぶ。彼はロジャーの、鬼の子として生まれ、長らく思い悩んでいた。己が生きていることを、望まれていないのではと……。

 だからこそ、他のなにでもなく「エースが生きて帰ってきたこと」を喜んでくれるニューゲートの言葉や仲間たちの温かな眼差しが、どうしようもなく嬉しくて……エースはしばし、声を押し殺して涙を流した。

 

 間を空けて落ち着いたことで、エースはことの経緯をニューゲートに説明した。ティーチにバナロ島にて追いつき戦ったこと、力及ばず敗れたが、目が覚めるとティーチが死んでいたことなどを詳しく話す。

 

「……どのぐらい気絶していたかは、分かるか?」

「いや、正確には……だが、日の感じからして、長い時間じゃねぇはずだ」

「つまりティーチを殺った奴は、お前と戦った後とはいえ、お前を倒すほどの実力を持つティーチとその部下を短時間で皆殺しにして、なんの痕跡も残さず消えたってことか……」

 

 ニューゲートも一度は追おうとするエースを直感的に止めるほどティーチの実力は危険視していた。事実ティーチは、2番隊隊長であるエースでも後れを取るほどの強さを得ていた。

 それを痕跡も残さず容易く殺すというのは、並の実力では不可能であり、ニューゲートの頭には一瞬先日シャンクスとの会話に出てきたスパンダムのことが思い浮かぶ。

 しかし、すぐにそれは無いだろうと結論付けた。

 

 まず、そもそも現時点ではさほど名が売れているわけでもないティーチを、わざわざ殺しに来る理由がなく、仮に殺しに来たとしてもエースを見逃す理由は無いはずだと、そう考えたからだった。

 さすがのニューゲートも、スパンダムが原作という未来の知識からティーチの企みを知っており、それを阻止するために殺害したという考えに辿り着くことはできない。

 結果として、それ以上考えても答えは出ず、警戒はしつつも気にし過ぎないという結論に落ち着いた。

 

 

****

 

 

 エースの帰還を祝って開催された宴、途中で賑わう甲板からひとり船の裏手に移動したエースは、手に持ったアクセサリー……ティーチの形見を複雑な表情で眺める。

 

「……主役がこんなところで、なにしてんだよい」

「……マルコ……いや、なんか、いろいろ考えちまってな」

「ティーチのことか?」

「ああ、アイツは鉄の掟を破った。サッチを殺したことは許せねぇし、俺自身アイツを殺すつもりだった。結果、俺が殺せたわけじゃねぇが、ひとつの形としてけじめは付いたと思ってる」

 

 そこまで呟いたあとで、エースは手に持ったアクセサリーを握り締めながら……絞り出すように告げた。

 

「……けど、だからって、ティーチが死んでスッキリしたとは……言えねぇよ」

「アイツは2番隊だったからな、お前は話すことが多かった相手だろうし、すぐには割り切れねぇだろうよい」

「古株だったからな、いろいろ教えてもらったこともあったし、助けられたこともあった……アイツは、言ってたんだ。運が無ければ諦めたって……考えてもしょうがねぇことかもしれねぇけど、どうしても思っちまうんだ。もしヤミヤミの実が見つからないままだったら……ってな」

「……そうだな。アイツが鉄の掟を破ってサッチを殺したのは事実だ。だけど、そこまでの時間、アイツが仲間だったってことも……たぶん、事実だよい」

「……アイツのうるせぇ笑い声も、嫌いじゃなかった」

 

 静かに告げるマルコの言葉に、エースも頷く。許すことはできない……だが、それでも心底嫌うことも出来ない。

 憎しみはあったが、死者をこれ以上貶める気もなく、せめて安らかに眠れとそんなことを考えて、エースは少しの間祈るように目を閉じた。

 

「……まぁ、湿っぽい話ばかりじゃなくて、明るい話もしようぜ」

「明るい話?」

「ああ、例えば……お前の弟の活躍なんて、どうだよい?」

「これは……ルフィか!? 懸賞金が上がったのか! 3億ベリー……ははっ、いっぱしの海賊顔になりやがって……」

 

 マルコが手渡した手配書を見て、エースはそこに写っていたルフィを見て顔をほころばせた。

 

「しかし、いっきに2億も上がるとは……アイツなにやったんだ?」

「海賊連合って大規模な海賊団とやりあったらしい。それを壊滅させた上で、途中で現れた海軍の艦隊も掻い潜って、見事逃げおおせたってちょっとしたニュースになってるよい」

「へぇ、派手にやるじゃねぇか……さすが俺の弟だ」

 

 実はマルコはあえてエースに伝えなかったことがあった。というのも今回の麦わらの一味と海賊連合の戦いにて、ルフィたちの懸賞金が大幅に上がったのはある要因もあるからだった。

 少数の海賊団が戦力差にして10倍以上の海賊連合を打ち破り、海軍艦隊まで現れて不利になるものの、突如発生した嵐を味方につけて逃走を成功する。

 それが昔を知る者たちにはある戦いを思い起こさせた。そう、いまも伝説として語られるロジャー海賊団と金獅子海賊団の「エッド・ウォーの海戦」である。

 そのせいもあってか、当時を知る古い海賊たちのごく一部では、ルフィは「ロジャーの再来」と噂され始めているが……実の父親を嫌うエースには、あまりいい情報ではないので伝えないことにした。

 

「……お前の弟も、そろそろ新世界が近くなってきたよい」

「ああ、そうか……確かにそろそろ……だが、早すぎる。いまのルフィじゃ、まだ……」

「うん? どうかしたか?」

「いや、なんでもねぇ……さて、甲板に戻ろうぜ! 腹減っちまった!」

 

 マルコの問いかけに明るい笑顔を浮かべたあとで、エースは賑やかな甲板に向かって移動していった。

 

 

****

 

 

 エレジアにあるウタとゴードンの住む家で、俺は出された紅茶を飲みながら先日の出来事を話す。今回訪れたのは、ウタに新しく発行されたルフィたちの手配書を持って来るついでに、様子を見に来たという感じだ。

 

「え!? スパンダムさん、ルフィと会ったの!?」

「ああ、偶然会って少し話をした」

 

 ルフィと偶然会ってバーベキューを食べながら話をしたことを伝えると、ウタは驚いたような表情を浮かべた。そして、少ししてもじもじと自分の髪を指でいじりながら、少し明後日の方向へ目線を逸らしつつ口を開く。

 

「……ち、ちなみに、ルフィは、私のことなにか言ってたりとか……そういうのは……」

「自分が183連勝中だと主張していたな」

「あっ、出た。ルフィの負け惜しみ」

 

 ウタはFILMREDとは大きく環境が違うこともあって、劇場版に比べて性格もかなり明るく、いまのように異性の幼馴染を意識するような言動も見て取れる。

 それはFILMREDに比べて、ウタに精神的に余裕があることの証明でもあり、彼女にトットムジカの件で恩を感じている俺にとっては喜ばしいことでもある。

 

「あとはそうだな。シャンクスやガープの名前を出した時とは違って、お前の名前を聞いた時は、少し会いたそうな顔をしていたな」

「え? ルフィが……へ、へぇ~そうなんだ。まぁ、ルフィってああ見えて寂しがりなところあるし……えへへ、そっかぁ……」

「あくまで俺が見た印象という話で、直接ルフィがなにかを言っていたわけでは無いがな」

「でも、スパンダムさん凄いしなぁ、きっと当たってるよね……ふふ……」

 

 どうやらウタの方も精神的に余裕があるせいか、劇場版よりもルフィに強い関心がある様子で、微かに頬を赤らめ嬉しそうな様子だった。なんともまぁ、分かりやすい反応だ。

 

「まぁ、あちこちの島を旅しながら航海しているわけだし、そのうちエレジアを訪れることもあるだろう」

「うん! 楽しみ……あっ、えっと……」

「どうした?」

「……いや、そのぉ……もし、もし、可能ならでいいんだけど……スパンダムさんにひとつお願いしちゃ……駄目かな?」

「なにをだ?」

「えっと、その……ルフィに……手紙を一通届けてもらうとか……」

 

 もしもじ遠慮気味に告げるウタの様子を見て、俺は軽く苦笑を浮かべた。

 

「政府の役人相手に頼む内容じゃないな」

「うっ、そうだよね……ごめんなさい」

「だが、まぁ、いいだろう。一通だけだぞ、次に来る時までに用意しておけ」

「ホント!? ありがとう、スパンダムさん!!」

 

 飛びあがるように喜ぶウタを見て再び苦笑したタイミングで、ゴードンがアップルパイを焼いて持ってきた。元国王がずいぶんと料理上手になったものである。

 

「……それにしても、エレジアの復興は順調そうだな」

「うん。まだまだ、時間はかかるけど少しずつでも確実に進んでる。なんていうか、人の力って凄いよね。私とゴードンだけじゃどうにもならなかったけど、いろんな人が手伝ってくれて、廃墟だった街がどんどん変わっていってる」

「コンサート会場も新しくしたんだったか?」

「私は後回しでいいって言ったんだけど、皆がここを真っ先にするべきだ~ってね」

「いやはや、街のあちこちから音楽が聞こえ始めて、私も感慨深い」

「うんうん。歩いてるだけでも楽しくなるよね!」

 

 エレジアは世界政府が正式に協力していることもあって、かなりのペースで復興が進んでいる。移住者もそれなりに増え、廃墟だった街にも活気が蘇ってきている。

 このペースなら5年から10年ほどあれば国としての機能を取り戻せるのではないかと、そんな風に感じながら、ウタとゴードンの会話に耳を傾けた。

 

 

 




スパンダム:相変わらずウタには優しい狂パンダ。時々エレジアにはウタの様子を見に訪れており、今回もルフィの手配書を持って来た。

白ひげ:不気味さはあるものの、エースが戻ってきて一安心。

エース:ティーチの死に複雑な思いを抱きつつも仲間たちのおかげで前向きに……今回死にかけたことで、実力不足を感じ……同時にルフィに対しても、なにかを考えている模様。

ウタ:劇場版と比べて、環境が良いため性格も明るく、幸せいっぱいに笑顔を浮かべている。後ろ盾がパンダというチート。さらに、パンダにとってはトットムジカ獲得の切っ掛けとなった存在であり、パンダがトットムジカの有用性を再確認する度に自動でPP(パンダポイント)が増えるという、親父や五老星が泣いて羨ましがりそうな、自動PP獲得システムを所持している。ルフィのことは結構気にしている模様。

麦わらの一味:逃げられると思った? 残念、ルフィ以外もパンダチェックの時間だ。さぁ、サイコロを持て。
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