闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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麦わらの一味との対面

 

 

 巨大海賊船スリラーバークにて、王下七武海のひとりゲッコー・モリアを激しい戦いの末に打ち破り、新たに音楽家ブルックを仲間に加えた麦わらの一味は、海底の楽園魚人島を目指して進んでいた。

 重傷を負っていたゾロもチョッパーの治療あってかすっかり回復し、ブルックの加入を改めて祝いながら楽しく海を進んでいた。

 

「げぇ、海王類だ!? でけぇぞ!」

「ほぅ、コイツはスーパーなサイズだ。昔俺が仕留めたのよりでけぇな、150mはありそうだ」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 逃げるのよ!!」

 

 航海の途中で現れた海王類を見てウソップが叫び、フランキーが感心した様子で呟き、ナミが叱りつけて逃げるように告げる。

 よくある流れではあった。だが、その時ばかりは少し様子が違っていた。いまにも船に襲い掛かりそうだった海王類が突如動きを止め、傍目にも分かるほど震え出した。

 

「なんだ、様子がおかしいぞ……震えて、そのまま海に潜って逃げやがった」

「……なんでしょう? なにかに怯えていたようにも見えましたが」

 

 突如震え出したかと思えば、海に潜って逃げていった海王類の様子にサンジが首を傾げ、ブルックも不思議そうな様子で呟いた。

 その直後、ストンとまるで意識の隙間を縫うように、船の甲板にひとつの影が着地した。

 

「邪魔するぞ」

『ッ!?』

 

 一瞬で一味の表情が驚愕に染まる。その存在が船に着地するまで誰も接近に気付けなかったこともそうだが、それ以上にその存在感が異質だった。

 白のシャツの上にこげ茶色のジャケットを羽織った鼻と目の周りが黒い男……私服姿のスパンダムの登場に、大半は戸惑いの表情を浮かべ、知り合いである2名だけ別の反応を見せた。

 

「てめぇ、スパンダム!? なにしに来やがった……」

「おぉ、パンダじゃねぇか! ウォーターセブン以来だなぁ~!」

 

 驚きつつ警戒したような表情のフランキーと、逆に嬉しそうに笑顔を浮かべるルフィ。

 

「少しお前たちに用があってな……ああ、初めて会う相手には自己紹介をしておこう。スパンダムだ。世界政府の役人ではあるが、服装を見て分かる通り休暇中だから、気にしなくていい」

 

 淡々と告げるスパンダムの言葉。普通の自己紹介ではあったが、一味の半数以上が思わず一歩後ずさった。

 

「……どうやら、青雉の野郎の言葉は吹かしじゃなかったみてぇだな」

「なんですか、この人……私が言えることじゃないですが、本当に人間ですか?」

 

 スパンダムの次元の違う力を感じ取り、サンジとブルックは思わず息を飲む。サンジはかつての青雉の忠告を思い出し、どこか納得していた。なるほど、大将があれほど真剣に忠告するだけあると……。

 

「やや、やべぇ、きっとモリアを倒した俺たちを消しに……」

「うう、嘘でしょ? こんなに早く!?」

「……安心しろ、ウソップ、ナミ……コイツがその気なら、俺たちはもう全員死んでる。まだ俺たちが生きてるってことは、別に俺たちを殺しに来たわけじゃないんだろうよ」

「「いや、なにも安心できないけど!?」」

 

 ゾロもまた動揺するウソップとナミに告げつつも、驚愕していたし心の中は穏やかではなかった。

 

(なんだ、コイツ……なにをどうしても、戦えばこっちが死ぬ未来しか見えねぇ。まるで生物としての格自体が違うような、信じられねぇほどの存在感だ)

 

 とにかく混乱している一味だが、中でも一番尋常ではないのはロビンだった。ロビンにとって世界政府は己を狙う敵と呼べる存在であり、特にクロコダイルから聞いた話もあってスパンダムのことは恐れていた。

 そして実際に会ったスパンダムの実力は、推定を遥かに上回っており、ゾロの言葉通りその気になれば一味を皆殺しにするなど一瞬というレベルだった。

 

「だ、大丈夫か、ロビン。顔が真っ青だぞ……」

「え、ええ、ありがとう、チョッパー」

「……ニコ・ロビンか」

「ひっ……」

 

 スパンダムが名前を呟いたことで、ロビンは思わず小さく悲鳴を上げてしまったが……続けられた言葉は予想とは違うものだった。

 

「オハラでは、俺の馬鹿親父が迷惑をかけたみたいだな……まぁ、それはいいとして、怯えなくとも俺はお前に興味などないし、捕らえる気もない。今回の用件にもお前はなんの関係もない」

「……え?」

「他の連中も警戒しなくていい。任務で来たわけじゃないし、戦闘の意思もない」

 

 スパンダムはそう言うが、だからと言ってすぐに警戒が解けるわけでもなく、船の甲板にはどうするべきかという困惑と警戒が入り混じったような空気が流れる。

 ただ、そういったものを一切気にしない者も存在する。

 

「パンダ、この前はありがとうな。肉もすげぇ美味かった!」

「ああ、無事に解決したようならなによりだ……それで、今回はお前に用があって来たんだ」

「俺に?」

「お前の幼馴染から手紙を預かってきている」

 

 ルフィにとってスパンダムは肉をくれて相談に乗ってくれたいい奴であり、警戒するような相手ではなくむしろ歓迎していた。

 笑顔で話しかけてくるルフィに軽く微笑んだあとで、スパンダムは懐から手紙とTDを取り出してルフィに渡す。

 

「そっちのTDは新曲らしい。タイトルは『麦わら帽子』だとか」

「……そっか……アイツ、元気だったか?」

「ああ、お前に会いたそうにしていた」

 

 手紙とTD、そして幼馴染という言葉で中を見なくともウタからのものだと察したルフィは、少し穏やかな笑みを浮かべていた。懐かしい幼馴染を思い出すように……。

 そして、ルフィが手紙を見ようと封を開け始めると、スパンダムは手紙を気にしている一味の面々の方を振り返る。

 

「……ああ、そうだ。ついでに、他の用件も済ませておこう。黒足のサンジ、お前にこれを……」

「……なんだ? この紙?」

 

 スパンダムがいきなり声をかけてきたことに警戒心を強くしつつ、サンジが差し出された紙を受け取って内容を見ると……そこには手紙の宛先らしきものが書かれていた。

 サンジが手に持つ紙を覗き込んで見ていた面々も、その意図が分からず首を傾げる。

 

「その宛先に、自分で写真を撮って送ってこい。あの手配書は哀れ過ぎる……今回のものはもう無理だが、次の更新の際にでも写真を差し替えるように俺から伝えておいてやる」

「なっ……お前……いい奴じゃねぇか……」

 

 スパンダムが告げた言葉に、サンジは感極まったような表情を浮かべた。なにせ相手は世界三大機関のひとつであるエニエスロビーのトップであり、実際にその通りに動いてくれる可能性は高い。

 次の更新の際ということなので、次回に額が上がった時に差し替えてくれると言ってるようなものであり、似顔絵の手配書に真剣に落ち込んでいたサンジにとっては救いの神のように見えた。

 

 なお、スパンダム側としては原作知識でサンジの額更新がまだ先……2年後になることを知っており、なおかつこのタイミングではシャボンディ諸島以外で撮影の機会はないため、すぐにくまに飛ばされて写真を送るのも難しいと分かった上で言っていた。もちろん、手配書を哀れんでいるのは事実だが……。

 

「はい! はい! だったら、俺も、俺も!!」

「うん?」

「俺も勇敢に戦ったんだぞ! なのにこれっ! 50ベリーって……」

「いや、別に俺が額を決めているわけでは無いのだが……」

 

 50ベリーと書かれた自分の手配書を掲げて何とかしてほしいと訴えるチョッパーに対して、スパンダムは少し考えるような表情を浮かべてから口を開く。

 

「……分かった。たしかに、俺もお前には2000万は付けるべきだと思うし、一応話はしておこう」

「本当か!? お前……いい奴だな!」

「だが、代わりといってはなんだが……ランブルボールというのをひとつ譲ってもらいたい」

「ランブルボールを? それはいいけど、アレは俺に合わせて作ってるから、他の人が使っても意味はないぞ?」

 

 ランブルボールが欲しいというスパンダムに対し、チョッパーは不思議そうに首を傾げつつ、自分以外の能力者が食べても効果は無いと説明する。

 それに対して、スパンダムは穏やかな笑みを浮かべる。

 

「ああ、かまわない。単純に興味本位だ。俺もこう見えてそれなりに薬学には精通していて、少し興味があったんだ」

「そうなのか? お前、医者なのか?」

「いや、医者ではないが、薬学に少し詳しいだけだ」

 

 嘘はついていない。スパンダムは肉体改造の際に様々な秘薬を使っており、それに伴い薬学の知識もかなり高い。そして、スパンダムとしても実は流れは別にして、チョッパーとはある程度親しくして、ランブルボールを手に入れたいと思っていた。なので、チョッパーの機嫌を取れる品を懐に忍ばせていたりもする。

 

「そうなのか……じゃあ、はい。これがランブルボールだ」

「ありがとう。ついでに、せっかくこうして知り合えたのだから……この本を贈ろう。珍しい薬などについて書かれている」

「え? す、すげぇ……俺の知らない薬がいっぱい載ってる。こ、これ、貰っていいのか!?」

「ああ、俺はもう内容は記憶しているから問題ない」

「ありがとう! お前、ルフィのいう通り本当にいい奴だな!!」

 

 珍しい薬学書を貰ったことで、チョッパーは完全にスパンダムを信頼したのか、最初の警戒はどこへ行ったのか、明るい笑顔を浮かべていた。

 すると、そのタイミングでルフィは手紙を読み終わったらしく、どこか楽し気な笑みを浮かべていた。

 

「……返事か伝言があるなら預かるが?」

「そうだな……じゃあ、『そのうち顔を見に行く』って言っといてくれ」

「分かった、そう伝えておこう。それじゃ、これで用件は全て済んだから、俺はそろそろ失礼しよう」

「え~もう行っちまうのか!? せっかくなんだしゆっくりしていきゃぁ、いいのに……」

「政府の役人が長々と海賊の船に居るわけにもいかないだろう。まぁ、また縁があれば会うこともあるさ……」

「そっか……分かった。本当に、いろいろありがとうな」

 

 用事は終わって帰るというスパンダムに対し、ルフィは残念そうな表情を浮かべたが、強く引き留めることはせずにお礼の言葉を口にした。

 それに軽く微笑んだあとで、軽い動作で跳躍して、そのまま剃刀で一瞬で視界から消え去った。

 

「うおっ、すげぇなパンダ。空も飛べるのか!」

「……う~ん、確かにとんでもない相手だったけど、ルフィの言う通り悪い人ではないのかしら?」

「いきなり襲い掛かってくるような奴じゃなくて、本当に良かったぜ」

 

 楽し気にスパンダムを見送ったルフィの後ろで、ナミとウソップがどこか安堵したような表情で呟いた。

 

「……おい、ロビン。大丈夫か? 信じられねぇとは思うが、アイツはマジで古代兵器には興味がねぇから、ある程度は安心していいと思うぜ」

「ええ、ありがとう、フランキー。流石にあそこまで眼中にないって態度を取られたら、気持ちも落ち着くわ。どうやら嘘や冗談ではなく、本当に興味がないという感じだったしね」

 

 最初こそ恐怖に青ざめていたロビンだったが、スパンダムは最初に宣言した通りロビンに一切興味は無いのか、気にする素振りすらなかった。

 それが逆にロビンにとっては安心できる態度であり、少なくとも最初に言った通り積極的にロビンを捕らえようとしたりとか、そう言うことは考えていないと理解することができた。

 

「……海は広いな、あんな化け物も居るとは……」

「なんだマリモ、ビビったのか?」

「はっ、いいように懐柔されてた面白眉毛がなに言ってやがる」

「……なんだとテメェ、下ろすぞ」

「……やってみろ」

 

 いつも通りの調子で喧嘩を始めるゾロとサンジを横目に、少し離れた場所ではブルックが呟くように告げる。

 

「いやはや、とんでもない方ですね。私、見ているだけで背筋が凍る思いでした……私、凍る筋無いんですけどね! ヨホホホ!」

「俺は、すげぇいい奴だと思うぞ。だって本くれたし!」

「確かに、少なくとも攻撃的な方という感じでは無かったですね」

 

 スパンダムから貰った本を両手で抱えながら喜ぶチョッパーに対し、ブルックも骨の顔で苦笑を浮かべた。

 

 

 




スパンダム:超速パンダ郵便。ウタの手紙を読む際に、さりげなく他の一味の注意を自分に向けて邪魔をさせないようにするなど、大人の気遣いもしつつ……ランブルボールをゲット、リリスに研究させるつもりである。

ルフィ:元々いい奴と思っており、来訪も歓迎していた。ウタからの手紙を受け取り、なんだかんだでかなり喜んでいた模様。

ゾロ:パンダの桁外れの強さを感じ、己の力不足を実感してさらに鍛えようと考える。

ウソップ:終始怯えていたが、とりあえずいきなり襲い掛かってくるような感じではなく一安心。

ナミ:ウソップ同様に怯えていたが、ある程度理性的な相手だと分かりホッとした。

サンジ:手配書の件で、高評価。この後シャボンディ諸島で写真を撮るのだが、どうせならカッコいい写真をと悩んだあげく、手紙を送る前にくまに飛ばされることになる。

チョッパー:ルフィと同じくいい奴と認識した。手配書の件も約束してくれたし、薬学の本をくれたし、とにかく上機嫌。

ロビン:最初こそビビりまくっていたが……マジで興味なしという感じで、最初の一言以降視線すら向けてこなかったので、心は落ち着いた。それはそれとして、あそこまでアウトオブ眼中って態度だと、それはそれでちょっと複雑……。

フランキー:相変わらずなにを考えてるのかサッパリ分からない奴ではあるが、過去の経験から嘘を付いたり自分で言ったことを違えたりするやつではないので、最初から襲い掛かってくるわけでは無いだろうとは思っていた……で、え? 結局アイツ、手紙配達に来ただけなの? ……なんで?

ブルック:前情報なしにいきなりどえらいのと遭遇して滅茶苦茶困惑していた。

スリラーバーク:……ゆ、許された……
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