闇の正義スパンダム   作:ぬこノ尻尾

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この世界で得たもの

 

 

 朝起きて自分の部屋から一階に降り、洗面所で顔を洗ってからリビングに向かうと、絶妙なタイミングでポチが朝食を用意していた。

 

「おはようございます、隊長」

「ああ、コーヒーも頼む」

「はい!」

 

 俺の好みにピッタリと合った朝食を食べつつ、コーヒーを飲んでいると、完全に住み着いているリリスがやってくる。こちらは結構眠そうである。

 

「相変わらず、眠そうな顔だな」

「ううむ、(ヨーク)と同期できんので、睡眠や食事が必要なのは若干不便じゃな。まぁ、美味い食事を食べられると思えば利点でもあるが……」

 

 リリスはすっかりこっちで生活して、月に一度同期のためにエッグヘッドに戻るという生活に慣れた感じだ。まぁ、もう1年も住み着いているので、それは慣れるだろう。

 おかげで、地下の研究所はどんどん拡大しているが……相変わらずの様子のリリスに若干呆れつつも、食事を終わらせ俺とポチは司法の塔へと向かう。

 

 司法の塔の長官室に辿り着くと、いつものように書類のタワーが迎えてくれる。最近は海軍の元帥が交代したりと、いろいろあったので書類の量も普段の1.5倍ほどあるように見える。

 まぁ、それでも大した時間がかかるわけでもないのでさっさと処理をしてしまうことにする。

 

 現在は原作においてはルフィたちが修業を始めて折り返しの1年付近であり、世界的な話で言えば割と平和と言ってもいい。

 もちろん新世界での最悪の世代の活動などもあるが、革命軍の行動は大人しくあまりCP9として介入するような件は少ない。まぁ、それでもちょくちょくと大き目の任務もあるので、諦めたりしたというわけでは無いのだろうが……。

 

 海軍に関しては、かねてからの予定通りセンゴクが元帥を辞して、後継にはクザンを推薦。赤犬……サカズキも多くの支持を得て、対抗候補として名乗りを上げた。

 両者の支持層は真っ二つと言っていい割合であり、話し合いだけでは新元帥は決まらず。最終的には原作と同じように両者の決闘にまで発展した。

 そしてその決闘において……『クザンが圧勝』したため、新元帥はクザンに決定した。

 

 しかし、だからと言って赤犬が海軍を抜けたりということもなく、まるでガープとセンゴクの関係のように元帥であるクザンを叱咤しつつもサポートしていたりしており、ダラけるクザンをサカズキが怒鳴りつけ、ボルサリーノが宥めるというのが定番になりつつある様子だった。

 そのことに関してクザンは「まぁ、合わない部分はあるけど、向いてる方向が同じなら協力はできるってことで」と語っており、なんだかんだでサカズキとの仲も悪くはない感じだった。

 

「ははは、まぁ、そう落ち込むなジャブラ」

「て、てめぇ、フィズ……嬉しそうなツラしやがって……」

「なんだアレは?」

「チャパパパ、ジャブラがギャサリンに告白して振られた話に関してだ」

 

 長官室に集まってきていたCP9メンバーたちが、なにやら楽しそうに話をしている。内容的には、原作からは少し時期がズレたが、ジャブラがギャサリンに告白して振られるという出来事があり、以前に既に振られているフィズはジャブラを慰めつつも、どこか仲間ができたといった感じの嬉しそうな顔をしている。

 それを見てブルーノが呆れた表情を浮かべており、エニエスロビー中に話を広げた犯人であるフクロウが笑っている。

 

「むしろ、まだ告白してなかったのかと驚いたぐらいじゃ」

「初めから勝算は皆無に等しかったとはいえ、本当に長く引っ張ったものよね」

「あ~よよいっ! たしかに~あぁ~予想されていた結果!!」

「うるせぇぞテメェら!!」

 

 カク、カリファ、クマドリも当然ジャブラの顛末はフクロウから聞いて知っており、こちらはどこか呆れた様子だった。

 まぁ、ギャサリンは普段から面食いでありルッチが好きだと公言しており、ジャブラに可能性が無いことは多くの者が知っていたわけだが……。

 

「……くそぅ、俺の一体なにが駄目なんだ」

「鏡を見ろ、そこにすべての答えが詰まっている」

「てめぇ、ルッチ……いまの俺に喧嘩を売るなんていい度胸じゃねぇか、ぶっ飛ばすぞ!」

「フッ、やれもしないことを口に出すなよ。滑稽だぞ」

「なんだと、ちょっと先に覚醒しやがったからって偉そうに……見てろよ、俺もすぐに覚醒してやるからな!」

 

 ルッチは少し前に悪魔の実の能力が覚醒しており、その戦闘力を大幅に上げている。他のCP9メンバーも、リリスの協力によって効果を下げつつもリスクを大幅に抑えることに成功した肉体改造によって、相当に強くはなっているのだが……やはりルッチは、頭ひとつ以上抜けている。

 

 しかしそれにしても、最近暇なせいで全員集合していることも多くなったな。定期的に行う合同訓練や情報交換によって海軍や政府の全体的なレベル自体が上がっていることもあり、あまりCP9メンバーが動くような事態になること自体も減っている。

 平和なのはいいことではあるが、暇すぎるのも考えものだと、そう思いながら書類を処理していると、ふと一枚の指令書が目に留まった。

 

「……お前ら、よかったな。久々に大きめの任務だ」

「それはいい。いい加減、退屈を持て余していたところだ」

 

 俺の言葉に、真っ先に反応したルッチがニヤリと笑みを浮かべる。久々に大きな国の反乱軍を潰す任務であり、話を聞いたCP9メンバーたちも嬉しそうな様子だった。

 まぁ、あと1年経って麦わらの一味が再稼働し始めれば、事件も増えてくるのではないかと思うが……。

 

「……とりあえず、夜間の任務になるからな。お前たちは12時から20時は休みとする。21時に集合して任務に向かう。しっかり体を休めておけ」

『了解』

 

 

****

 

 

 集合時間までまだ少しあるタイミングで、俺はなんとなく司法の塔の屋上に来ていた。ポケットから棒付きキャンディーを取り出し、ひとつを後方のポチに放り投げ、包装を破って咥える。

 エニエスロビーに夜は無いので、20時を過ぎていても空は明るい。エニエスロビーの改修も問題なく終わり、海列車も以前より遥かに多い本数が行き来している。少なくとも原作のエニエスロビーとは全く違う。

 

 なんというか、クザンが元帥になったこともそうだが、もう新世界編においては俺の原作知識は役に立たないと言っていいだろう。

 まぁ、そもそも俺はワンピースが完結する前に死んだので、最終的な結末がどうなるかを知らないので、仮に原作通りに進んだとしても、分からない部分も多いのだが……別に俺の目的が変わるわけでは無いので、そこまで重要ではない。

 

 以前トットムジカと融合した際にも考えたが、俺に訪れる結果は二通り……世界に絶望するか、この世界で希望を得るか……俺の願いが叶うという未来は、無い。

 ああ、分かっている。仮に別世界、上位世界……転生前に俺がいた世界に戻ることができたとしても、スパンダムの姿のまま戻っても、俺の欲しいものは手にはいらない。

 では、仮にかつての世界に戻り、姿なども以前のものに戻ったとしたらどうだろうか? この世界で何十年と生き、価値観や思考も大きく変わった状態でかつてのような生活に戻れるかといえば、不可能だろう。

 ならばもっと極端に、全てが巻き戻りあの時の場所に元の姿で戻り、この世界での記憶もすべて消えたとする。そうしたら俺は求めているものを得られるかといえば……答えは否だ。

 

 なぜなら、俺はそれがどれだけ大切で尊かったのかに気付いたのは、失ったからであり……すべてがあの頃に戻ったとしても、いまの俺が渇望している失ったことで大切だと気付いた、奪われたと感じている幸福を再び得る結末にはならない。

 それがどれだけ儚く大切なものであるかに気付かないまま、同じような日々を過ごすことだろう。

 

 そう……結局どのパターンであっても、俺が求めているものを得られることは無い。俺が進み続ける道の先にゴールはない。そんな事にはずっと前から気付いていた。ただそれでも、止まることができないだけだ。

 渇望が突き動かす。諦め切ることができない……我ながら、なんとも困ったものだ。

 

 そんなことを考えながらなんとなく後ろを振り返ると、ポチがなんとも緩い笑顔で飴を舐めているのが見えた。

 

 思い返してみれば、コイツとの付き合いも長くなったものだ。初めの感覚としては、扱いやすい駒が手に入ったといった感じだった。

 こちらに対して信仰を捧げている相手は扱いやすくて便利だった。育ててみれば、思った以上に優秀でありいい拾い物をしたと感じた。

 

 ただ、いつからか……コイツは俺の領域の内側に入っていた。自分さえよければどうでもいい、己が幸福なら他者がどうなろうと構わない。そう思い続けていたし、いまもそう思っている。

 だが、ポチはもう俺にとって必要な存在という認識であり、ポチを手放す気は無い。仮にポチに危害を加えようとする者が居たとするなら、俺はそれを俺への敵対と認識するだろう。

 

 ……得るつもりは無かった。自分以外の大切なものなど……どうせ、俺の目的はこの世界には無いのだ。この世界で、己以外に大切だと思うものを得ることなど枷にしかならないと……だが、思うようにはいかないものだ。そして、俺自身それを不快とは感じず、受け入れている。

 

「……分からないものだな」

「はえ?」

 

 呟くように告げた俺の言葉に、ポチはコテンと首を傾げる。昔から変わらないその様子に、思わず苦笑がこぼれたのを感じて……同時に、少し驚愕した。

 

 俺はいま……『振り返った』のか? 

 

 物理的な話ではない。精神的な話だ。俺はいまポチを見て、過去の思い出を振り返った。懐かしいと感じながら……自分でも止まることが出来ず、ただ暴走するように前だけを見て進み続けていたはずの俺が、一時的とはいえ立ち止まって己が歩いてきた過去を振り返った。

 一時的なものではあるだろう。俺の心の渇望は癒えていないし、まだ俺の中で一番の望みは変わっていない。だが、それでも……確かにいま、俺は自分が一時でも立ち止まったと、そう感じた。

 

「ふ、ふふふ……ははは」

「隊長?」

「いや、なんでもない」

「わ、わわっ!?」

 

 思わず笑みがこぼれて、ポチの頭を少し雑に撫でる。突然のことに驚きつつも、ポチは後ろ髪を振っており、嬉しそうな様子だった。

 なにかが変わったわけでは無い。俺に訪れる結末は二通りのままで、俺が求めているものも変わってはいない。

 

 ただ、そうだな……どうやら、ひとまず……世界に絶望するという心配はしなくても、よさそうだと……そう思えた。

 

「…‥さて、そろそろ集合時間だな。行くぞ、ポチ」

「はい!」

 

 俺の感情の変化を読み取ったのか、魂の中のトットムジカも喜んでいるのを感じた。どうやら俺の相棒も、ひとまずは俺と同じように、世界に絶望ではなく希望を感じ始めているようだ。

 これからどうなっていくのか分からないが……少し、楽しみではある。心境が変われば世界の見え方も変わる。これから先は、いままでよりもう少し……この世界を楽しむことが出来そうな気がした。

 

 ポチと共に移動して、CP9メンバーがいる待機室に到着すると、全員が綺麗に整列して俺の前に立った。先のことを……未来を考えるのは、なかなかどうして楽しいものではあるが、そういうのはウィスキーでも傾けながら行うべきだろう。

 とりあえずいまは、CPとしての仕事をしっかりこなすとするか……。

 

 再び歩き出す。渇望を胸に、失った過去を未来の先へ見据えて……現在は、この道の行きつく先は全て行き止まりではあるが、いつか目指す先が変わると……そんな確信を感じながら。

 

「集まっているな。それでは行くとするか――闇の正義を、執行する」

『了解』

 

 

 




元々、先の展開が分からない部分も多いので、新世界編開始前で終わる予定でした。予定していた大きなイベントも一通り消化しましたので、予定通りの終了です。

今後に関しましては、番外編としてその後の話を少し書くことはあると思います。ルフィとウタの再会とか、新世界編でのパンダとか不定期に書こうとは思っていますが、ひとまず本編はこれにて完結です。

なお、予約投稿なので、小説情報に関しては仕事から帰ってから完結済みに変更します。

最初の10/4の投稿より2ヶ月ちょっと、お付き合いくださりありがとうございました。なんとか、毎日更新を最後まで維持できてほっと胸を撫で下ろしました。

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