一作品目
ある建物の屋上で青空の下黄昏る少女...いや、青年が一人。
彼が見ているのは自分と似た制服に身を包んだ少女たち。
その視線は力が抜けているようで鋭い。
鞄を抱えた挙動不審の男が道を歩いている。
その後ろから近づいていく制服少女、ちょうどすぐそばを大型トラックが通り過ぎていくと怪しい男はおらず、制服少女だけが歩いていた。
要はあの男は制服少女に消されただけの話である。
それを見届けた青年はため息を吐き、手すりに体を預ける。
「今日もリコリスは順調そうで何よりだ...」
気怠げそうな声色で空を見上げていると、彼の端末に着信が入った。
素早くポケットから取り出して画面を見ると作戦司令部と表示されている。
受話器を取るボタンをタップして端末を耳に当てる。
「どうされましたか?橘司令官」
「リコリスの救援任務だ。行けるか?」
いつも通り情報量が少ない口調の司令官だが、彼はすぐに状況を理解したようで、もう一つの端末にはマップの一部に複数の反応が集まっているのを見ている。
「リコリスの反応を見るに、一人人質に取られてる...か。ファーストが一人では問題解決は不可能と見て良いですかね」
「あぁ、一応一人ファーストが援護に向かっているがもしもの事もある。頼めるか?」
「任務了解。現場に急行します」
「健闘を祈る」
通話を終えた彼は端末をポケットに仕舞って、建物の裏めがけて屋上から飛び降りた。
何事もなく着地してから止めてある自転車に乗り現場へと走らせる。
片手に端末を持ち、データベースから現場の詳しい情報を引っ張り出す。
(銃取引の現場か...。昔と比べて随分治安が悪くなったものだ。いつまでこれを隠しきれるのか)
救援に向かったファーストリコリスはその中でも指折りの実力を持っているようで、一瞬集中力が端末の方へ持ってかれかけた。
(圧倒的身体能力...リコリスでもこんなバケモノがいるのか。DAも侮れないな)
情報を一通り集め終わると同時に取引現場周辺に到着する。
建物の裏に回って腰についた機械のフックショットを駆使して該当する階層へ登っていく。
その途中で救援に来たと思われる例のファーストと途中で目が合ったが気にせず登る。
該当階に着いていざ現場へ突入しようと自動拳銃を取り出したところで中から機関銃を掃射するような騒音が発生した。
端末を見たところリコリスの一人が発砲したもののようだ。
「おいおい、マジかよ」
人質がいるのにもかかわらず機関銃を使うのは正気の沙汰では無い。
端末からの情報では問題はなさそうだが一応音が聞こえなくなってから突入しようとする。
連絡用端末にまた着信が入る。
突撃姿勢を解いて自動拳銃を片手に構えたまま通話に応じる。
「闇崎、状況終了だ。撤収せよ」
「了解、しかし人質は?」
「端末の情報の通りだ」
「そうですか、では帰還します」
「あぁ、ご苦労だった」
端末をポケットに仕舞って再び溜息。
来た道を戻るように階段を降りていく。
救援任務とは言えど偶にこういう時もある。
大抵は救援に向かったリコリスが片付けてしまう。優秀なことはいいことではあるし、我々『ジーク』の出番が無いことはいいことではあるのだが、不完全燃焼なこの気分はどうにかならないものか。
先程目があったリコリスとすれ違う。
(あの少女があの成績を...人は見た目によらないとはよく言ったものだ)
そのリコリスが話しかけようとしてきた気配を感じて足早にその場を離れた。