白ノ宮作品にしては長め
扉を開けて店内に入る。
「いらっしゃいませー!喫茶リコリコへようこ...ん?」
随分と元気のいい店員だなと思い声のした方に目を向ける。
「あ...」
その店員は数日前の救援任務(無駄足)の際にすれ違って目があったファーストリコリスだった。
「どうした千束、知り合いか?」
店員の上司...おそらく店長と思わしき男性がファーストリコリスに話しかけるが当のリコリスはこちらに人差し指を向けてアワアワしている。
そろそろ再起動してくれてもいいと思うのだが...。
人を指さすのは失礼だと学ばなかったのだろうか。
「あのー...今って営業中ですよね?」
準備中とは書かれていなかったはずだ。
自分の言葉にチサトというリコリスが反応した。
「もっ、もっちろんです!さぁさぁ!こちらの席にどうぞー!」
案内された席に座り、お冷を受け取る。
水を一口飲んでメニュー表を開く。
「ご注文が決まりましたらまたお呼びください♪」
そう言ってチサトはカウンターの方にササササーッと擬音がついてもおかしくない動きで戻っていった。
店長と思わしき男性と厨房から出てきた女性に何かを話しているようだ。多分数日前の事だろう。
メニュー表の方に視線を戻して何を注文するかを思考する。
(...。ホットコーヒーとイチゴパフェで良いか。主食類はまた別のお店で)
メニュー表を閉じて元あった場所に戻す。
チサトはこちらの方を観察していたようで察して彼方から駆け寄ってきた。
「ご注文をお聞きしまーす!」
瞳からは警戒半分好奇心半分と言ったものが読み取れた。
「ホットコーヒーとイチゴパフェをお願いします」
「はい!ご注文を繰り返しますね!ホットコーヒーがお一つ、イチゴパフェがお一つ、でよろしいでしょうか!」
「はい、お願いします」
「かっしこまりましたー!ホットコーヒー一丁、イチゴパフェ一丁!!」
ホント元気な娘だ。
それにしても彼女が警戒心と同時に好奇心を向けるのは無理もない。
自分はジークだが制服がリコリスのものと似たデザインになっている。配色や細かい装飾品、上着も違うがワンピース型の制服を基本としている。
自分としては男なのにこのデザインであることに疑問を感じたりしたが、来てみると何も違和感がない事に驚いたものだ。それも自分自身がどう見ても男性に見えないことが原因にあると思うのだが。
華奢な体格、髪質の良い長い銀髪、アメジストのような輝きをしているが瞳、そして整った顔。低い身長に声までも高いと来た。正直こんな人間がいたら自分でも見分けるのは困難だと言える。
ただ他の隊員と違う制服に加えて、24にもなって趣味でもないのに女装させられる羽目になるとは思わなかったのだ。
今改めて考えても昔の自分では予想だにしない事だとしみじみ思う。
そう考えていると誰かが入り口から入ってきた。
「ただいま戻りました」
「あっ!おかえりたきな!ちょっとこっち来て!」
「えっ、何ですかいきなり」
「いいからいいから、早く!」
チサトが同僚のように接している青い割烹着を着た同年代の少女、今は平日の昼間...リコリスの可能性があるな。
別にリコリスだったとしても自分に何の害もないから構わないがな。
注文したものが届くまでプライベート用端末を取り出してネットサーフィンをする。調べるのは政治関連のニュース。
案外ニュースから入ってくる依頼の種類を予測して、司令部アクセス用端末を持って待機する隊員は数少なくない。
端末弄りに集中していると青い割烹着を着た黒髪長髪のリコリスと思わしき少女が注文の品を届けに来てくれた。
「こちら、ご注文のホットコーヒーとイチゴパフェです。ごゆっくりお楽しみ下さい」
「ありがとう」
会釈をして去っていく。
こちらは落ち着いた雰囲気の子だな。
ただ、少し人間らしさが欠けている...いや、押さえつけているのか?
まぁ、リコリスやリリベルはジークよりも明らかに重い過去を持ってる集団だからそうしている理由を探る気にはならんな。
先ずはホットコーヒーを一口。
うん、苦い。
自分はコーヒーの味がよくわからない。苦いだけだ。
ただ喫茶店に来たらコーヒーを頼むのはマナーか何かなのかと思ってつい頼んでしまった。
そしてシュガーやミルクが席にあるのにもかかわらず、ブラックのまま飲んでしまう始末。
少女に観察されながら食べるイチゴパフェも良いものだ...。そんな訳がない。
味わう事に集中出来ない。
溜息を吐いてスプーンを置く。
すると視線は強くなる。睨まれているわけではないのだが、こちらとしては芸能人でもないのにそんなにジロジロ見られるのは気になってしょうがない。
こちらを観察する方々に一言。
「私に何か?」
するとごまかし笑いをしながらチサトがこちらに近づいてコソコソっと
「私達どこかで会いませんでしたっけ?」
「...ナンパか何かですか?」
「いーやいやいやいや、違いますとも!」
まぁ、ここまで話題に出されたら誤魔化す方が面倒か。別にジークであればリコリスにバレても同業者だから問題ないしな。
「数日前、でしたよね」
「そうそう!やっぱり君で間違いなかったんだねー!」
「えぇ、そうですね」
「ということはリコリスで合ってるのかな?でもその制服は見たことないなぁ」
「私はリコリスではありませんよ」
「え!?でもあのとき何かでビューン!って上に上がっていったよね?」
「はい、フックショットです」
「何者なの?」
警戒度がぐんと上がったのが分かる。
ジークを知らないリコリスやリリベルは多い。
実際対面することなんて年に二、三回なのだ。ジークの人数鵜が少ないことも原因の一つだけど、
「ジークフリート、通称ジーク。主な活動としてリコリスを陰ながらサポートさせていただいております。運営組織はDAとは別の組織ですが怪しいものではございません」
「ちょっと待っててねー」
自分の話を聞いたチサトは店長と思わしき男性のところへ小走りで行く。
そしてジークフリートの事について話している。
お、顔が驚愕に染まったな。
そりゃそうだ、リコリスと比べて圧倒的に数が少ない少数精鋭だからレア度高いぞ〜。
お、戻ってきたか。ん?二人目も連れてきたな。
「ねぇねぇねぇねぇ!名前はなんていうのっ?」
近い!ちょっと顔近いよ!この娘距離感が急におかしくなったよ!?
「僕は闇崎尋。気軽にジンとでも呼んでほしい」
「お?僕っ娘!?いいねぇ!私は錦木千束、千束って呼んでね!」
「それで、そちらの方は?」
目線を青い割烹着のたきなと呼ばれていた少女に向ける。
「私は井ノ上たきなと申します。よろしくお願いします」
無表情というか無愛想...?
なんか年頃の子って感じで良いね。
「うん。よろしく、千束、井ノ上さん」
疑いの目が晴れたのでイチゴパフェを再開しようとスプーンを手にとる。
パフェをすくって口に入れようとすると
「それでそれで!ミカ...あそこにいる男性ね。ミカからジークって精鋭部隊って聞いたんだけどジンってどれくらい強いの?」
と、邪魔が入った。
それでもパフェを口に含んで咀嚼して飲み込む。
スプーンは置かずに口を開く。
「フィーアです」
「フィーアって事は...上から四番目?」
「そう、リコリスで言うところのファースト。でも母数はリコリスよりも圧倒的に少ないよ」
それを聞いた千束は目を輝かせる。
「じゃあじゃあっ、1番目から3番目はファーストよりも強いって事?」
「正解。1番目についてはフィーアやフュンフが束になっても勝てないよ、まさにバケモノって奴だ」
流石にパフェのアイスの部分が溶け始めてきたので少し急ぎ目に食べ始める。
「このあと時間が──」
これでもかと言うぐらいに喋り続ける千束に手をスッと出して、待てのジェスチャーをする。
「続きは頼んだものを胃に入れてからにしてくれないかな?」
「あっごめん!じゃあまた後で!」
千束が井ノ上さんを連れて奥の方へ入っていくのを見てコーヒーを飲む。
「ぬる...」
思ってたよりも時間が経っていたようで、熱々のコーヒーは中途半端に冷めて温くなっていた。