早朝
自宅の寝床で微妙に疲れた肉体を休めるために仰向けで転がっていると枕元で充電中だった端末に緊急連絡が入り、真っ黒な画面が急に点灯して本部とだけ文字が表示されて受話器を取るマークと無視するマークが出てくる。
「こんな時間に...なんだ...」
眠気に争い身をよじって端末を手にとって耳元に当てる。
「こちら本部、当該地域のフィーアクラスに通達。大規模な銃取引を押さえるためにリコリス複数名が出動した。しかし、不手際により一人のリコリスが人質となってしまっている。現在は膠着状態にあり、早急な打開が必要とされる。任務内容や報酬金額については送信済みである。健闘を祈る」
言うだけ言ってこちらの意見や質問は全て無視。その代わりに多額の報酬と任務の受注判断を委ねられる。
通話画面を閉じ、送られてきた情報を専用のアプリで確認した。
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銃取引におけるリコリス人質案件に関する緊急任務
参加資格:フィーアクラス以上のハウンド
前金:20万
報酬金:条件A:300万 条件B:50万 条件:C:2万 (円)
状況
銃取引押収に出向いたリコリス複数名であったが1名人質に取られてしまっている。現在は膠着状態にあり、早急な現況打開が必要。銃取引の犯人を拘束、及びリコリスを救出せよ。
任務完了条件
A:犯人を拘束、リコリスの救助。
B:リコリスの救助、犯人は放置。
C:行動開始前にリコリスが人質から解放され、犯人が拘束又は射殺される。
失敗条件
人質のリコリスの死亡。
補足
失敗した場合ペナルティとして前金が15万円引かれる。残りの5万は迷惑料として受け取って欲しい。
現場付近のDA支部からファーストリコリスが出動したとの連絡があった。状況によってはそのリコリスと連携を行い任務に当たれ。
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(今すぐ出ないと...か。まぁ5万は確定で手に入るのであれば受注しない理由はないよな)
迷わず受注のボタンを押してベッドから起き上がる。
数時間前まで任務に当たっていたため、制服をそのまま着用していたので服装を少し整えてから、クローゼットの中にある補充用の弾薬が入ったマガジンを二つ手にとってリュックのサイドポケットに入れる。
机に置いてある自動拳銃とナイフを上着の内ポケットに仕舞って、リュックを背負うと自宅から出て現場へと急行する。
まだ早朝ということもあり、少し冷えているせいか体が涼しさに一瞬震えるが目的地に向けて走り始める。
短距離走のアスリートでさえ出せないであろうスピードで駆け抜けていく小柄な少女は時間帯が間違っていれば相当な注目が集まっていただろう。
時速50kmもの速さで道路を駆け抜けていくと数分も経たないうちに現場へと到着した。
建物を観察しながら外についた非常階段を数段抜かしで駆け上がりながら少しだけ考える。
(このビルはあまり使われてなさそうだな、非常階段の錆びつき具合から見ても古い建物であるということは明らか。突入する際に壁をぶち破って注目を引くのもありかもしれない)
内ポケットから拳銃を取り出して古いマガジンから新しいマガジンに装填し直す。古いマガジンをサイドポケットに放り込んで、右手に銃左手にナイフというスタンダートな構えで扉の前に立つ。
中の状況を知るために扉に耳をあてる。
中からは犯人と思わしき男性複数名の息遣いとリコリスと思わしき少女複数名の息遣いが聞こえた。膠着状態にあるというのは間違いなさそうだ。しかし全員ではないがリコリス側の何名かの息遣いが少し荒い。おそらく現況の打開ができないことに焦りを感じ始めているという理由だろう。
その中で異様に静かなリコリスがいることに気付く。何か考えている?
いや、DA本部所属のリコリスは命令以外の行動はしない筈だ。良からぬことを考えているということはないだろう。
そろそろ突入しようかと考えていると下の方から誰かが通信しながら駆け上がってくるのが聞こえる。現場付近のDA支部所属のファーストリコリスだろうな。
一瞬意識がそちらに持っていかれたが、重要なのはこっちだ。端末を取り出して一応本部に連絡を入れる。
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こちらゴースト1、現場へ到着。現在も膠着状態にあり、リコリス数名が焦りを感じ始めている。これ以上は間違った判断をする者が出る可能性が高いため、救援及び犯人拘束を行う
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メールを送信して端末をリュックに仕舞い込んで再び拳銃とナイフを握る。
(よし、いm)
「あれっ、見慣れない制服だね〜。あなたもリコリスなの?」
タイミングを崩されたので抗議の視線を向けるのを兼ねて声のした方向に顔を向ける。
「...何か?」
「機嫌悪いの?あっ、突入のタイミングで話しかけちゃった?だったらごめんっ」
何かフランクに話しかけてきているがここは戦場のはず、同胞が命の危機にあるというのに緊張感がないこの少女は一体何者なのか...。
相手をする必要がないとわかり、再び扉に顔を向けてドアノブを握ろうとした。その次の瞬間それは起こった。
中から機関銃を掃射する音が聞こえる。窓ガラスは割れ、硝煙の香りと血の匂いがしてくる。銃声がしなくなり耳を澄ますと男性の息遣いが無くなっているがリコリスの息遣いは人数分しっかりとあり、人質のリコリスが無事であるということを知る。
(この場合は条件Cか。邪魔さえ入らなければ計80万は入手できたな)
端末が短く三回震える、撤退命令だ。
拳銃にセーフティをかけてナイフと一緒に仕舞い込むと手すりに手をかけて身を乗り出す。そして時短のためそのまま飛び降りた。
「えぇっ!?ちょいちょいちょいちょい!ここ六階だって!」
後ろから何か聞こえた気がするがどうでもいい。
何事もなく両足で着地してその場から離れるため、今度は常識的速度で走っていった。
その様子を見ていた金髪の少女は唖然としていた。
「えぇ...何あれ、私でも真似できないよあんなの...」
『千束、どうした?何か問題でもあったのか?撤退だぞ』
彼女に装備されている通信機から男性の声が聞こえて金髪の少女はハッとして応答する。
「えっ!?あ、うん。大丈夫だよ、ミカ。今から帰るねっ!」
千束と呼ばれた少女も所属している場所に向かって移動し始めた。
場所は変わってゴースト1の自宅。
パソコンの点いたデスクの前に座っていたゴースト1、ルル・ファントムは先程馴れ馴れしく話しかけてきた金髪のファーストリコリスのことを考えていた。
(あのリコリスには色々の意味で要注意するべきだろう。なにか勘が騒ぐ...)
端末を操作して報酬の支払いを確認すると立ち上がった。
そしてベッドに倒れ込み
「おやすみ」
可愛らしい寝息をたてて睡眠を取り始めるのだった。